登山者情報1036号

【2006年08月12日/足ノ松尾根〜頼母木小屋/井上邦彦調査】

 まだ頼母木小屋の新しい管理人の顔を拝見していない、地神北峰の道標の向きがずれているらしい。日帰りで足ノ松尾根を登り地神北峰の道標を直し、ついでに杁差岳まで足を伸ばす計画を立てた。
 前日の予報では上空に寒気が入り午後から崩れて雷もあるとのことであったが、降水量は終日0mmなので、天候の心配はさほどしなかった。
 起床する時に何となく気分が優れないが、ザックに山道具を適当に詰め込み、04:25自宅を出発する。関川村のコンビニで食料を調達する。
 05:35-49奥胎内に着くと、沢山の車が止まっていた。椅子に座って優雅にコーヒーを楽しんでいる方の近くに車を止めた。虻はそれ程でもない。自転車を出して、公衆トイレで用を足し、ゲートの鎖を潜る。ゲートの先には既に06:00発のバスが待機していた。
 以前と比べるとダム橋まで舗装され、橋が架けられ曲がりが解消されているので随分と楽になった。それでも要所では自転車を押して歩く。バスに追い越される。
 06:08-13足ノ松尾根取り付きで登山者が1人、聞くと他には誰も乗らなかったとのことである。05:10発も5人で、今日は登山者が少ないとのことであった。
 彼が準備をしている間に登り始める。急登を過ぎると傾斜が緩くなり、暫く行くと男女2人パーティが休憩していた。05:10発のバスで来たとのことであった。
 06:41小ピークを過ぎ、06:49-56姫子ノ峰に到着。従来の標識の上に新しい標識が付けられていた。食事を取る。大石山は見えるが、右手の主稜線は雲に覆われている。
 07:11岩場を通り過ぎる。休憩していた女性2人パーティを追い越す。今回はアブを意識したので長ズボンにしたが、膝の動きがぎこちない。歩幅を小刻みにする。
 07:23滝見場の標識も姫子ノ峰と同じ標識が付けられていた。まだ葉が新鮮な刈り払い跡がある。今日刈ったものだろう。07:35旧水場跡は跡形もなくなっている。リョウブ・ホツツジが咲いている。
 07:48-57水場分岐には手作りの新しい標識が2枚付けられていた。ここで3人パーティに追いつく。汗を流しながら水を汲んで来た方によれば、梯子が整備されていたが、水場にはアブがいたとのことであった。
 分岐のすぐ先は鞍部を横切るような道モドキがあり十字路のようになっているが、これは道ではない。真っ直ぐに進み、ブナ根の急登になる。遠くから雷なのか飛行機なのか、それとも機械なのか判別のつかない音が聞こえてくる。雷にしては音が長すぎるし、飛行機にしては随分と頻繁である。
 08:13森林限界に出ると眺望が開ける。鉾立峰方面ははっきりしているが、新潟市方面がもやっている。先ほどの音はどうも雷らしい。少しずつ近づいてくるような気がする。
 鎌を持って道刈りをしていた中条山の会の長谷川さんに追いつく。今年だけで3回目、ボランティアで毎年道刈りをしているとのことであった。徐々に近づいてくる雷、長谷川さんはここから下るという。私はとりあえず頼母木小屋まで行って様子を見ることにした。
 08:49大石山分岐を通過する。ガスの中に入る。足元にはタカネナデシコ・ハクサンフウロ・エゾイブキトラノオ・タカネマツムシソウ・タカネツリガネニンジン・ハクサンニンジン・クルマユリ・イブキジャコウソウ・オトギリソウ等が咲き乱れる。何枚か写真を撮る。
 雷鳴が近くなってきたので、ゆっくりしている訳にはいかない。霧雨となってきた。突然目の前の笹薮に赤ら顔が出てきた。どうみても中型のニホンザル。束の間にらめっこ状態になる。稜線で猿と会うのは初めてかもしれない。周囲の気配からすると離れ猿だろう。
 雷鳴は大きくなってきたが、雷光が確認できない。雨が降ってきた。登山者が3名慌ててカッパに着替えている。聞けば杁差小屋に向かうとのことである。この程度の雨であれば小屋まで一気に行ってしまった方が早いだろうと先を急いだ。
 雷光が加わったが、光と音に時間差がある。なかなか小屋に着かない。一瞬ガスが薄くなり、小屋までもうひと登り必要だと分かった。笹薮の中の登山道を、腰を屈めて登るが馬力が出ない。
 カッパを着た男性2人とすれ違った、彼らも杁差小屋に向かうとのことである。焦る心と裏腹に足が動かない。今思うにシャリバテ状態だったのだろう。
 雷光と雷鳴が同時に爆発した。無意識のうちに吹き飛ばされないように登山道にうつ伏せでしがみ付いた。伏せた状態で心臓の鼓動が頭中で波打つ、まだ生きている。手足は・・・動く。進むしかない。腰を曲げた姿勢は苦しいが、そんなことはどうでも良い。
 立ち上がり登り始めた。夕方のように暗くなると、いきなり横殴りの雨が叩きつけてきた。風はそれ程強いわけではないが、何しろ雨粒の大きさが尋常ではない。唖然としている間に、ズボンがびっしょりと濡れていく様子を記憶している。
 濡れたズボンは肌に吸い付き、両足は鉛を貼り付けられたように重くなった。上から黄色いカッパを着た女性が殆ど空身の状態で降りて来た。何処に行くというのだろうか、声を掛ける間もなくすれ違った。
 トイレの屋根が見えた。何とか、小屋の本棟に入ることができた。小屋到着時刻は不明、とにかく安堵した。
 小屋の中には2人の登山者が休んでいた。梅花皮小屋から此処まで来て、雨が降り出したので停滞を決め込んだとのことである。管理人の高井さんも来てくれた。3人とも赤い火柱を見たとのことである。
 高井さんが「雷警報、大雨洪水注意報が出ている」とラジオを持ってきた。先ずはザックからストーブを取り出し、ラーメンを煮て缶ビールを飲む。
 やがて稜線ですれ違った男女2名が戻ってきて、さらに水場で追い越してきた3名も到着した。雷鳴は収まって来たような感じがするが、多少は残っている。
 10:35カッパを着込み、カメラ・GPS・無線機をこれ以上濡れないようにザックの中に入れ、頼母木小屋を出発した。あの強烈な雨は姿を消し、通常の雨である。
  テンポ良く下ると。笹薮の中に稜線ですれ違った2人の男性と1名の女性が身を屈めて隠れていた。雷鳴はまだ響いている。お花畑は走り、藪道は身を屈めて進むと、前方から女性2人が登って来た。岩場で追い越してきた方である。
 10:51大石山分岐を通過する。雨は小降りになってきたがまだ油断はできない。11:03藪に入るとひと安心であるが、尾根筋でも露出している所があるので、まだ油断はできない。姫子ノ峰下で追い抜いた男女が休んでいた。
 転ばないように、かつスピーディに下る。11:22-28水場を過ぎたピーク、嘘のように晴れる、カッパを脱いで食事を取る。
 11:49滝見場を通過する。男性2人とすれ違う。稜線を登って行った女性2人と同じパーティとのことである。
 さらに下ると男性1人が休んでいた。11:51岩場、12:12姫子ノ峰を通過し、12:37-55車道に出る。待っていてくれた長谷川さんから冷たいトマトと葡萄を頂く。13:04奥胎内着。
54.4km

今回のコース 「車道は改修整備されている。□は姫子ノ峰。」
車道に猿達がたたずんでいた 姫子ノ峰
姫子ノ峰から大石山を仰ぐ 鉾立山
滝見場の標識 滝見場にて
だらだらした尾根が続く 二ツ峰
水場手前の小ピークにて
コウゾリナ? 森林限界を越えて見下ろす
鉾立山 イブキジャコウソウ
下山途中で
地神山と頼母木山を振り返る
頼母木小屋遠景
リョウブ 二王子岳
ホツツジ
姫子ノ峰の下の岩場 尾根取り付きのブナ林
国道沿いのナラ枯れ 09:00の気象状況

当時の落雷状況