登山者情報1051号 (投稿)

【2006年10月14-15日/ダイグラ尾根〜梶川尾根/山田亘調査】

【10月14日】
04:00起床、04:40発、06:02天狗平着、06:16天狗平発(410)。ブナ林に「せせらぎ」とか「鳥のさえずり」とかの看板がある。06:35温身平(450)。砂防ダムまで進むとダイグラ尾根下部が出てくる。落合の流量は大分少ない。06:58桧山沢の吊橋をトントンと渡ると(470)、煙草を吸って休んでいる人がいた。落合方向に少し戻り、一登りで白い丸石、先程の人が来たので、休まず行く。600m前後で斜度が緩み、岩の析出2カ所。青空に666ピークがくっきり。仕事のことを考えながら登ると、いつのまにか666ピークを過ぎていた。振り返ると倉手山の長いピーク。07:53畳のような石から、尾根を外れる(840)。日陰を通り尾根に戻ると、青空に枯れ木がそびえ08:08池ノ平(925)。
 種蒔の池を横目に緩やかなアップダウン。見覚えのある楢の根元に08:25長坂清水の標柱(960)。その少し先、倒木を過ぎた辺りから斜度が出る。滑りやすい赤土の斜面をストックを頼りに登る。09:01米栂の平(1170)で、斜度が緩み登路に光が射す。休場の峰が青空に黒々とそびえる。もう一回斜度が出て09:32〜49休場の峰(1320)。左に朝日が見えて、正面に峰々の連なり。ほっとする風景だ。ここは陽が当たるので、少し先の桧山沢側へ移動して、クサイグラ尾根を見ながらパンを食べる。この先、1499ピークの南まで一つ一つのピークが長く、地形図と実景を合わせにくい。休場の峰を降りて、1340ピークのモヒカン刈りのような道形を越え、1368ピークはわずかに西を巻く感じ。樹林帯を登り倒木を潜ると10:40千本峰の標柱(1430)、日向に出て10:45千本峰(1440)で朝日を振り返る。10:53千本峰の岩場を左に降りる(1440)。更に下り、光の射す登路をちょっと歩いて、大又沢側に出る。記憶ではこの先足場が悪いのだが、今日はあまり感じない。少し悪いところはあるが、雪も融け、道刈りがしっかりされ、歩きやすい。1499ピークの西を巻いて、1450鞍部から少し登り、11:31お気に入りのダケカンバで休む(1470)。
  ここから宝珠山の登りとなる。1677ピークの手前だと思うが登路が崩壊し、草付きを手がかりにする所がある。12:24ピーク(1677)は平坦部といった感じだ。12:43宝珠山の肩(1720)を過ぎ、13:18〜31宝珠山の岩稜(1830)で飯豊を拝む。ここは飯豊の主稜にオーディションを受けるような場所。自分の大好きな所だ。この時間でここまで青空なのも珍しい。揚げパンを食べながら暫し休む。西側に秋田ノゾミの平。東側に大丸森山の手前に伸びる尾根が見える。この尾根の1356ピークの西には小さな池がある。
  歩き出し、少し下る、そのすぐ下に熊のうろの様な空洞がある。その先は大又沢側を1812ピークの南の1780鞍部まで歩く。ここで飯豊山の地形図を持っている人は出して欲しい。宝珠山の岩稜の南側は、実景では独立した1820ピークのようになっている。その南の1820、1812を合わせると鞍部まで3つのピークがある。自分が最初の1820ピークを越えようとするとき、大又沢側の小尾根から「キッキ、キャーキャー」という猿の様な声がした。そして藪がガサガサといった。猿が出てくるだろうと思っていたら、熊が出てきた。標高差は20m位、距離は50〜100m位。藪をものともせずザザザザと泳ぐように稜線に近づいてくる。これは家族に二度と会えないかもしれないと思った。
 写真は撮れなかった。熊は自然界にないニオイを嫌うと聞いていたので、まず右のウェストベルトからハッカ油を出し、両手に盛大に振りかけた。その間に熊は1820ピークの東側をトラバースして尾根裏に行った。その間際にカメラを出したが、心拍数がドキドキ上がってくるのがわかった。撮った写真は熊が隠れた後で、ピンぼけのひどいものだった。写真の撮影時刻は13:41だった。カメラをしまいサイドポケットから熊スプレーを出し、安全装置を外した。これは意外と落ち着いて出来た。熊スプレーを出すと気持ちも落ち着いた。そしてストックと熊スプレーを手に持って歩き出した。二つ目の1820ピークを越えた所で、何かの威圧感を感じたと思うが、熊はどうしたろうと、立ち止まり後ろを振り返った。それから、2〜3秒後だと思うが、藪がガサガサといった。そして熊が顔を出した。今度は目鼻立ちがわかる位、多分20〜30m位だったろう。昭和49年のカムエクでの福岡大ワンゲルの事件を聞いていたので、てっきり目をつけられて追い掛けて来たと思った。でもコースなりに進んだだけかもしれない。とにかく「ほうい」と声を掛けた。すると熊の動きがピタリと止まった。それはまるで「僕は何も知りません」ととぼける人のようだった。そして、「この先来ると戦わなければいけない」、といった気持ちを込めて、ストックを頭上で2回打ち鳴らした。その間も熊スプレーは指に持っていた。すると熊は後ろを振り返りヤブに消えた。その消え方が、怖くて消えたという感じでなく、「そんな強そうじゃないけど、ケガをしてもつまらないし」という感じだった。ガサガサいって、すぐ音がしなくなった。
 1780m鞍部までは30分位で着いた。がれた登りも苦にならなかった。桧山沢側に入れば熊は追い掛けてこない気がした。崩壊地を過ぎ、桧山沢側のハイマツ帯に入ったときはほっとした。ここなら近づけばわかる。ガサガサいって、突然出てくるのは御免だ。いつのまにかガスが出ていた。そしていつものように風が吹き出した。1969ピークの鼻先をかすめるようにトラバースし、南へ進むと右手に駒形山が見え始め、やがて正面に三角点ピークが見え、15:24三角点(2105)。ここで御西に行くか本山小屋に行くか、迷った。本山小屋へ行きかけたが、迷いの原因がクマが怖いということなので、クマを判断材料から外した。クマが来たらクマスプレーを撃てばいい。この先楽なコースだが時間がかかるので、今日のうちに御西に進んでおこうと決め、大日岳方面を拝んで歩き出した。15:58駒形山(2038)行く手に例の崩壊地が見える。玄山道分岐標柱の手前まで降り、左手の崩壊地に入る。少し降りると左手に踏み跡があり、10m程進み16:16〜23弘法清水(1950)。きれいで近くて本当に助かる。でも今日の日没は17:06だ。先に急ごう。17:12御西小屋(1850)。中に入りクマのことを話し、外に出て17:29ムーバでHZUさんに報告。2階に上がり、角の水割りとキムチ炒めで至福の時。荒川の単独行と話が弾む。19:00頃シュラフに入ると、ほっとしたのかすぐ、寝てしまった。
【10月15日】
 04:30起床、みそ味の雑煮を食べる。うまい。05:31御西小屋(1850)、06:16天狗の庭(1830)、06:48御手洗の池(1840)を過ぎ、烏帽子岳の最初のピークの登りでクマの糞を見る。次のピークは北側を巻く。08:00〜06烏帽子岳(2017)でバナナチップを食べ、08:29梅花皮岳(2000)、08:41治二の水(1850)は良く出ている。08:51〜09:21梅花皮小屋で雑煮を食べる(1850)。09:51〜57北股岳(2024)に上がると二人の男性が本山を見ながらコーヒーを飲んでいた。贅沢な時間の過ごし方が羨ましい。10:58門内小屋(1870)。夏の喧噪が嘘のようだ。11:24扇の地紙(1889)から下り始める。緩やかな下りだ。途中少し斜度が出るところの下で、HZUさん達の整備の跡がある。排水溝が切られ、マタイで補強されている。その少し先で植生保護のためかムシロが掛けられている。崩壊した登路の先端にマタイが詰められ、崩壊を防ぐと共に、脇に道が着けられている。11:55梶川峰(1700)から伐開された斜面を下り、12:14三本カンバ(1540)。12:39五郎清水(1360)、ここら辺は急な下りだ。1200m位から斜度が緩み13:04滝見場(1145)で、湯沢峰までの距離を測る。実景では遠く感じるが1030mピークの西側まで来るとその先は意外とかからない。林を抜け登り返し13:31〜36湯沢峰(1021)。長いピークを抜け、急な下りで14:14楢の木曲りから飯豊山荘を見下ろす。やっとここまで来た(690)。乾性の急な下りの先に平坦な白い道が見える。14:37岩場(470)はこの平坦部の直前にありロープに手を添えて下る。楢の木から尾根を外れて、舗装道路が見え14:47天狗平(410)。梅花皮荘で風呂に入り新潟へ戻った。
 しかし、今回は危なかった。なんとか無事済んだが、クマを撮れなかったのは残念、と思いながら写真を整理していると、13:20に大又沢側を撮った写真に黒い点が写っていた。それを拡大すると・・・クマらしきものが宝珠山の岩稜をトラバースしていた。

熊の画像

詳細は http://yasumi.web.infoseek.co.jp/