登山者情報1067号

【2007年03月04日/町境:柴倉山/井上邦彦調査】

 まだ暗いうち雨の音で目が覚めた。床の中で「雨か・・・予定を変更して倉手山にでもしようかな・・・」と思ったが、ままよと起きてパソコンを点けた。天気予報はなんと快晴!ともあれ山道具を整え、コンビニに向かう。
 時折弱い小雨の中、OTJ宅に着き、こっそり計画書を置いていこうとしたら、電灯が点いて彼が起きてきた。今回のコースは以前から危ないルートと指摘を受けている。今回も「雪崩があるし、割れているかもしれない。ザラメで雪の状態も悪い。決して進められないなあ」と言われたが、ともあれ途中で交信することにして分かれた。
 徳網先の交通止めに車を停めると、隣の車の脇にテントが張られていた。彼は一人でこのあたりの山を歩いているとのこと。2-3言葉を交わし、06:20歩き始める。
 ゲートを過ぎてすぐに丸カンジキを履いて荒川に向かう。今回は丸カンジキと芦倉カンジキの両方を準備し、スパイク長靴とした。実は数日前に針生平まで除雪がなされたと聞いていたので、山スキーを使用しないことにしたのである。
 06:25カンジキを履いたまま吊橋を渡ると、カンジキの跡があった。足跡を辿っていくと真直ぐに登っていく。これはまずいと思い、途中から左にトラバースをした。新しい雪崩跡を通る。 06:30-36長靴に雪が入るのでカッパ下をはいた。 記憶を辿って杉林を登っていく。杉林が途絶えた広場でGPSを出し、シルバーコンパスに方向を設定し、小沢を越えて登っていく。
 07:19-31町境に到着する。+4℃と暖かい。ここでお握りを頬張る。ここからは単純に尾根を登っていけば良い。快晴とは言えないが雨は降りそうもない。荒川を隔てて白太郎山が見えた。
 07:47尾根上に雪がなくなってきたのでカンジキを脱ぐ。ケラのドラミングが聞こえる。無線機からOTJの声が聞こえた。03-04日と五味沢では雪の学校が行われており、OTJはそちらにかり出されている。
 07:57に702m峰を通過する。祝瓶山から白太郎に山に至る峰々を眺めながら進む。柴に目があたり痛い、暫く右目だけで歩くがやはり距離感がつかめない。
 08:20にODDから無線が入る。確か新潟の白山に向かった筈だがやけに近い。聞くと、白太郎山にAQLと二人で登っているらしい。彼らも朝の雨に惑わされたらしい。
 08:26足元にささくれ立った木片が落ちていた。目を転ずると垂直な松に斜めに新しい傷がある。よく見ると上部に向かって何箇所も傷ついている。何者かの巨大な力で強引に松が捻られたのだ。風?それにしても不可思議な捻れ方である。 雪が硬くなってきたので芦倉ワカンを履く。
 08:34左から大きな尾根を合わせ、右へ曲がる。右手は断層崖となっている。飯豊連峰の下部と二王子岳が見えてきたが、踏み抜けば終りと思うと、ひとりでに左にルートを取ることになる。08:40山頂の一角に着くが、亀裂が入っている。何処が山頂か良くわからないまま先に進む。
 左に落ちている尾根を確認し、いよいよ核心部が近いと判断するが下降ルートの様子が分からない。 08:45-57山頂近くのブナの根本で食事をし気を落ち着ける。ハーネスを身に付け、ピッケルを持って坪足で先に進む。
 下降ルートの全貌がようやく見えた。確かに急ではあるが、雪がついており所々に潅木が顔を覗かせている。心配した亀裂もなく、このままピッケル1本で下れそうであるが、せっかく準備してきたシステムを実験してみることとした。
 エイトノットの先にカラビナをつけた9mmロープをブナの幹に回し、カラビナをロープにかける。これでテンションが加わってもロープは外れない。さらに6mmロープの先端をエイトノットでカラビナに掛けた。計画ではでは6mmロープを下から引けば全て回収できる筈である。
 ハーネスのATCに9mmロープをセットする。ロープを左手に持ちゆっくりと下降を開始する。トラブルが生じた時はATCで容易にストップを掛けることができる訳だ。
 20mでロープがなくなる。今度は潅木なので捨て縄をセットする。様々試してみると、捨て縄の場合は力の加わり方によって9mmロープの結び目が捨て縄に絡み付いて回収できなくなる可能性があるようだ。そうなったらもう一度登り返すしかなくなる。下降ラインの脇は崖が露出し、反対側は亀裂がないものの雪崩に適した斜面である。ともあれ、ロープに加重を加えないようにして、合計3ピッチで、安定した場所に着いた。
 09:35ロープを外し、09:41-44ハーネスを外しピッケルを仕舞った。さらに痩せ尾根を進んで、09:55-10:20大休憩とした。ラーメンを煮てビールで喉を潤す。天気も展望も良く、最大の難場を通過した安堵感にひたった。無線機からはODDの声が聞こえてきた。白太郎山の山頂直下らしい。
 痩せ尾根を進むと、古いトレースがあった。形状からしてスノーシューのようだ。こんな所を歩く物好きが居るものだと感心する。10:48丸カンジキを履く。気温は+10℃もある。
 11:20左から大きな尾根が合流する所、進行方向に雪庇が出ており進めそうもない。ロープを使おうかとも考えたが支点から距離があり、ロープが雪に潜りそうなので、南側から雪庇の下に潜り、柴を横切って町境に出た。そのうちにまた主稜に雪がなくなったのでワカンを外し、11:45ワカンを履く。ODDから無線があり、雪の学校は終了したらしい。針生沢真ん中の尾根を下る予定と言うと「そこはダシカケ(雪庇)が出るから危ないぞ」とのこと、状況を見て判断すると伝えた。スノーシューの足跡は何時しかなくなっていた。
 針生平を見ながら尾根を探す。予定の尾根は最上部が尾根になっていない。OTJの言うとおり雪庇があり、雪庇の崩壊した雪塊が幾つかルート上に転がっている。
 12:10-20松食い虫にやられたような大きな松の根本で食事を取る。遠く雪崩の音がしている。まるで春山の雰囲気である。ピッケルを出し坪足で雪庇を崩し下降を開始する。足元のザラメ雪が膨らんでゆっくりと落ちていく。表層雪崩だが、速度が遅いので恐怖感は感じない。むしろ先端の雪面が盛り上がる様子が面白い。
 12:25-29ブナのある尾根部まで下りワカンとストックを出す。対岸からザラメ雪の表層雪崩が起き、加速度をつけて派手な雪崩になっていく様子を見ながら、下る準備をする。
 選んだ尾根は想像よりも細く危ない。不安定につながっている雪の上を恐る恐る通過していく。途中からカンジキの跡が出てきた。相当古いものだろう、トレースが浮き上がっている。
 12:54尾根の末端に到着する。そのまま沢を渡り、平坦な雪原を行き、13:09除雪されたばかりの車道に出た。ここからは単調な林道歩きとなる。上部を見ると何時雪崩が来てもおかしくない。本日歩いた町境を右上に見ながら、13:47駐車場に到着した。

今回のコース

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