登山者情報1112号

【2007年09月15日/遭難:丸森尾根/井上邦彦調査】

 助手席に置いていた携帯電話が鳴った。車を道路端に寄せ携帯電話を開ける。発信者名はTH、嫌な予感。電話を掛けなおすと「飯豊連峰で遭難発生。場所は丸森尾根。夫婦2名のパーティ、奥さんが転倒し足首を負傷。奥さんを現場に置いて旦那さんが飯豊山荘に助けを求めた。旦那さんは現場から山荘まで30分を要している。」
 やはり遭難だ。状況からして今晩中に処理すべき案件だ。「私は今日、小国の反対側から飯豊に登り帰宅途中、現在地は阿賀町。帰るまで3時間程度かかる予定。ついては、副隊長のQVHに連絡すること。中央班ではLFDとODDに出動要請を行うこと。飯豊班長のOXKに飯豊班の出動要請を行うこと。」と指示し、そのまま車を出発させた。
 関川村のコンビニに車を停め、THに電話を掛ける。「5分前にODDと警察が署を出発して現場に向かった。飯豊班からはGCSとNBW、本間が出動する予定。」「私も腹ごしらえをして直接現場に向かう」と連絡する。
 着替えを忘れた、服は助手席で乾かしていたつもりだが、まだぐっしょりと濡れている。仕方ない、上半身裸、ボロボロの短パンのみでコンビニに入る。お握り2個とカップラーメンを購入し、ラーメンにお湯を入れ、車の中で食べる。お握り1個は現場用に残しておくこととした。
 飯豊山荘に到着すると、パトカーの脇にOXK班長が無線で現場と交信していた。ODDは登り20分間で現場に到着したとのことである。するとそれ程上部とは考えられない。
 ヘッドランプを点け、地下足袋を履き、濡れて冷たいシャツを着る。不要と考えられる物をザックから取り出す。
 今回使用したライトはLDで投射範囲が狭い。そのためか目の前の斜面がやけに急に感じられる。多少は御幣松尾根の疲れもあるのかも知れない。やがて声が聞こえ、上方に光が見えたが、なかなか着かない。
 合流して声を掛けると、負傷者をレスキューハーネスで背負い、ロープで確保しながら登山道を下降している。
 さっそく背負い手を交替する。むむ・・重さが太腿に来る。ナメ棒を借り、急な岩稜を慎重に降る。背負い役は、自然とGCS・NBW・MES・HZU4人のローテーションとなる。
 初陣の本間君は走り回って確保支点を取る。舟山さんが下からルートを指示してくれる。各々が自分の役割を素直に演じている。
 やがて救急車のサイレンが聞こえ、登山口が見えた。もうすぐという所で下からの強烈な光が眼を眩ます。「ライトを消せ!」誰かが叫んだ。車道からは私達が歩きやすいように足元を照らしてくれているつもりなのだろうが、急斜面の下降で真下から光が来たら、足元も何も見えなくなってしまうのだ。
 救急隊員に負傷者を引き渡す。隊員を集合させ、人員・装備の確認を行う。最後に私からねぎらいの言葉を発し、現地解散とした。
 その後、小国警察署に行き、署長や町民課長に状況報告をして帰宅。すぐに風呂に入って、ようやくビールにありついた。

岩稜の足場 遭難者の重さが肩に食い込む
ロープが伸びる 本間君のグリップビレイ
レスキューハーネスの後ろから確保を取る 負傷している足を岩に触れないように
急斜面なのでバランスが大変 後ろ向きになって下る