登山者情報1153号

【2008年06月07日/日山協指導委員総会兼研修会/井上邦彦調査】

 日本山岳協会の指導委員総会兼研修会が茨城研修センター(つくば市)で行われ、全国から各都道府県の代表が集まりました。私は法事のため初日のみの参加でしたが、その概要を報告します。

 最初に城隆嗣日山協副会長から「ようやく指導基準や要綱が揃ってきた。まずはこの内容を各都道府県に伝えて欲しい。これから具体的な指導要領作ることになるが、ブロック毎に課題を検討してもらう。保険制度が変わり日山協の会員以外でも入れるようになったので、メリットがなくなり離脱する団体が出てきているとの報告がある。しかし日山協に入ると適切な指導を受けることが出来るということを確立していきたい。その時にこそ新しい日山協が誕生すると考えている」と挨拶がありました。

 切島良常任委員
 ダイニエマ(DYNEEMA)ロープの特徴は「@軽い(水に浮く)、A強い(ナイロンの4倍の強度)、B摩擦係数が少ない(結びにくく解けやすい)、C熱に弱い(融点150℃、ナイロンは230℃)、D伸びない」である。従って使用する時は幾つかの留意点が必要である。
 まずプルージック、マッシャー等のようにメインのロープに巻きつけて使用するフリクションヒッチに使用した場合、熱で融けてしまうことがあります。また懸垂下降時の残置支点に使用すると、同じく融点が低いので、融けて切れる場合があります。
 支点にかかる荷重を分散する時に、ナイロンロープとダイニエマロープを組み合わせて使用すると、伸び率が異なるので、ダイニエマロープにのみ荷重がかかることになります。
 スリング(輪)として使用する場合は、縫製されてスリングとして販売されているものは大丈夫ですが、自分で結んで作成すると摩擦係数が少ないので容易に解けてしまいます。
 2本のロープを結んで長くし懸垂下降をする時、ダブルフィッシャーマンだと回収時に岩角に引っ掛かりやすいので、結び目が外になるエイトノット(8の字結び)を使用した時、末端を結び目に折り返したために解けた重大事故が起きています。末端処理はしない方が良いでしょう。人によってはナインノットやダブルオーバーハンドノットを使っているようです。
⇒ひとつの結び方でも様々な呼称があり、私の頭は大混乱しました(井上)

小野寺斉常任委員
 指導員制度が新しくなっていますが、有効期限が切れている方が多数います。カード会社に入金しなかったために生じている例が多いようです。クレジットは嫌いだという考えもあるようですが、カード会社から配送された説明書を読むと、クレジット機能を省くことも可能なようです。詳しくは直接カード会社に問い合わせてください。
 有効期限が切れる方には2回、日本体育協会から連絡が行っている筈ですので、その手続きを行ってください。復活の手続きは各都道府県の体育協会が窓口になります。
 更新する時、過去4年間に1度も義務研修参加していない方は更新できません。義務研修は日本山岳協会で行うものと、各都道府県岳連で行うものがあります。各岳連では年度始めに日本山岳協会に義務研修と認定する申請書を提出し、それらの結果を報告して下さい。過去の記録に記載漏れがあった場合は、追加してください。
 4年以内に有効期限が切れた方で、復活を望む方は様式44頁46頁に基づいて手続きを行ってください。
 既に死亡なされた方については、スポーツジャーナルの様式を参考にして県岳連から日山協に連絡してください。
⇒新指導員制度はまだ過渡期にあるようで、変更内容を理解していない指導員が多数いるのが現状です。なんとかして軌道に乗せるために、先ずは自分が行動しなければならないと痛切に感じました(井上)

笹原芳樹常任委員
 昔の登攀はシングルロープとダブルロープ(人工登攀でよく使用)の方法が行われていたが、現在はツィンロープという方法も行われている。ロープの性能が進化するにつれて使用されるロープの太さが変化してきた。
 昔はシングルは11mm、ダブルは9mmであったが、現在はシングル8.9〜10.5mm、ハーフ8〜9mm、ツィン7.5〜9mmが使用されている。
 ロープの太さにあわせてビレデバイス(確保器)の適応ロープ径も変化してきている。例えばPetzl社製品ではルベルソが8〜11mm、ルベルシーノが7.5〜8.2と細くなっている。実際の登攀で事故が起きた時を考慮すると、様々なパーティのロープを使用することになるので、適用範囲は広いに越したことはない。
 BlackDiamond社製品で変化を見てみる。最も普及しているバケツ型のATCは均等な形なので制動力を調整できない。これがATC-XPになると、より深く食い込ませることにより制動力を調整できるようになった。さらにATCガイドになると、セカンドが墜ちてロープが確保器に食い込んで動かなくなった時、このロック状態を解除できる機能がついた。ただしATCスポーツはスポーツクライミング専用のためシングルでしか使用できず、ダブルロープでの懸垂下降ができない。
 ルベルソとルベルシーノは既に廃盤となり入手できなくなった。その後継器が今夏に発売されるルベルソキューブである。ATCガイドがロック解除時にスリングを上に通し体重を掛ける必要があるのに対し、これはカラビナを使い簡単に解除できる。特にカラビナの先端の太さが変化しているPetzl社のカラビナを使うと、微妙なコントロールが容易にできる優れ物である。
 この他にsimond社のトゥーキャンは足で解除できるし、ゴーストはシングルの場合のみ解除が可能である。なおマムート社のヒューズは44gと最も軽いのが特徴である。自動停止機能があるグリグリは10mm以上でないと使用できないし、スポーツクライミング限定である。
 エイト環でも小さい方の穴を使えばシングルは可能である。器具は使用できなくなることもあるので、基本のムンターヒッチ(のの字)は、固定方法も合わせて覚えておきたい。
 結論としてお勧めは、ATCガイドかルベルソキューブに落ち着くだろう。
⇒ATCガイドは103g、ルベルソキューブは77g、実際に試してみるとルベルソキューブの方がロック解除は格段に優れていたので、出席者の殆どはルベルソキューブに注目していた。また解除機能がなくても、セカンド側のロープをフリクションヒッチで持ち上げれば解除できるとの指摘も出席者からあった。勿論、解除機能がなくても引き上げは可能である。(井上)

城副会長の挨拶 ダイニエマロープの特徴ですが
懸垂下降時にフリクションヒッチで使うと融けます 支点として使う時も融けます
ナイロンロープと一緒に使ってもいけません 懸垂下降時にエイトノットを使って事故が
ナインノットという方法もあります ガースヒッチは折り返す場所によって強度が変化
指導員制度を説明する小野寺委員 ビレイディバイスを説明する笹原委員
様々なビディバイス
@シングルロープ Aハーフロープ (∞)ツインロープ
ロック解除の説明 セカンドが墜ちてロックしたと設定
ATCガイドではシュリンゲを使って上に引く
力が必要なので自分の体重を利用する
今夏発売予定のルベルソキューブ
ペッツルのカラビナで容易に解除
トゥーキャンの場合
ゴーストはシングルの時のみ解除が可能
環付カラビナも2枚でないとメーカーは保障しない 懇親会