登山者情報1,282号

【2009年09月19-21日/天狗ノ庭保全事業/井上邦彦調査】

 今回の事業は飯豊連峰保全連絡協議会主催による合同保全作業である。目的はこれまで2回実施した天狗ノ庭の完結編として、残っている裸地に緑化ネット17枚を貼ることである。
 天狗ノ庭はどの登山口から入山しても遠い、まさに飯豊連峰の最深部に存在する。そこで梅花皮小屋をベースに2泊3日の行程を組んだ。
 09月19日朝、前泊者を始め参加者が終結、ECBにより団体装備が分けられた。記念撮影を終え、06:37天狗平ロッジを出発する。
 梶川尾根は何時もの通り急ではあるが、心なしか涼しさがあり、07:13-31楢ノ木曲リで休憩。08:22-35湯沢峰と順調に登る。09:18-28滝見場はガスのなかであったが、微かに梅花皮大滝が見え、薄く稜線が見え始めた。
 10:03-36五郎清水では最奥の水場まで道刈りをし、冷たい水で喉を潤した。11:02三本カンバに着くとガスが晴れ石転ビ沢が良く見えた。反対方向を見下ろすと長者原の楢枯れが酷い。また倉手山の山頂に肉眼で登山者を確認できた。
 トットバノ頭(カッチ)で旧道の回復状況や現道の土壌状況を観察し、今後は南側の笹原に巻き道を開設し、現道を数年間休ませ、排出した笹(ネマガリダケ)で旧道や上部の登山道整備を行うことの可能性を検討した。
 11:22-12:21旧道と現道から若干登った場所で、現在浸食が急激に進行している場所の応急処置を行うこととした。
 観察するとガリー浸食は狭く深い。その南側の斜面が登山道になっており、土砂の供給地となっている。そこで登山道南側のネマガリダケを登山道沿いに刈り払い、露出している斜面には階段を作り、これ以上の拡幅防止策を行うこととした。
 ここで排出されたネマガリダケで笹ダムを作ることにしたが、何分に量が少ない。浸食部が狭いことから、ネマガリダケを二つ折りにし、持参した麻縄で固定し、これを深い浸食部に押し込めた。するとネマガリダケの復元力でしっかりとした笹ダムを作ることができた。みな眼から鱗が落ちた感じであった。
 誰かが指を指す方向を見ると一羽の大きな鳥が近づいてきた。イヌワシである!作業の手を休め見上げていると、もう一羽が現れて華麗な空中ディスプレイを見せてくれた。
 12:37梶川峰を通過し、12:40-13:07 9月6日に施工したフキアゲノ沢源頭の現場を確認した。すると僅か2週間で土砂が堆積し、期待通りの姿になっていた!全員が感激である。ここで昼食とする。
 13:23-48前回の施工地を確認する。水道(ミズミチ)のラインがはっきりと分かる。上部のネットが土砂の移動を抑えている様子がはっきりと分かった。来年が楽しみである。
 ここで先発隊と後発隊に分ける。先発隊は今日中に梅花皮小屋にある緑化ネットの一部を烏帽子岳まで搬送、後発隊は小屋で番線を切り夕食の準備をすることにした。
 以下は先発隊の記録となる。13:52扇ノ地紙通過、14:02-07門内小屋で確認すると胎内市から差し入れのビールは既に移動しているとのこと。14:41北股岳山頂で缶ビールの箱を背負った亀山さんを追い越し、14:51梅花皮小屋に到着する。ここでザックにネットを入れようとするが、なかなか入らない。面倒なので背負子に括りつけ15:07烏帽子岳に向かう。
 15:32梅花皮岳、15:52烏帽子岳山頂通過、15:57クサイグラ尾根分岐に到着。ここをデポ地点として、荷を下ろす。皆を待っていると寒さが身に染みる。耐えられずに烏帽子岳まで戻ると大きな荷物を背負ったメンバーが次々に登って来た。
 私達は17:14梅花皮小屋着。全員の到着を待って梅花皮小屋で乾杯!し、夜が更けたzzz。
 翌20日の行動記録は取っていない。本棟で朝食を摂り、クサイグラ分岐に向かう。昨日背負い切れなかった分は、koizumiさん達が小屋から背負ってくれた。
 クサイグラ分岐でブルーシートから、ビニール袋に入っていないネットを出して背負子に付けると、ずっしりと重い。多少は水分を含んでしまったようだ。
 途中はinabaさんから、熱水やマグマによる熱水変質などの話を聴きながら、天狗ノ庭に向かう。未知の世界は楽しい。
 先に天狗ノ庭に到着したkodamattiとkonnnoさんは、残ったネット搬送のため、クサイグラ分岐に戻り、残ったメンバーでネット貼りとする。
 最初に、全員で天狗ノ庭全体においてこれまで実施してきた結果を確認。ガリー浸食の激しい最上部では、斜面に貼ったネットの縦線状に植物の生育が見られた。これは水の流れる場所と一致し、水分の供給が生育を左右していると考えられる。
 また苔のついている箇所も多く、これも成果の一つと考えられる。さらにガリー浸食地の底には一面旺盛な生育で覆われていた。
 裸地に小ダムを連続させた所では、小ダムに土砂が堆積し、その前後に元気のよい植物が生えていた。これは今年種から発芽したにしては大きいので、上部から流出してきた株が止まって生育したものと思われた。
 観察の後、いよいよネット貼りが始まったが、誰も指示をしないのに、ひとりでにチームと役割分担ができている。
 ネットが敷かれ、既にある植物はネットの切り込みから顔を出し、ネットが番線で固定され、ネットの上に石が配置される。
 作業終了後は素晴らしい景観に包まれて戻った。その夜、梅花皮小屋が一段と盛り上がったのは言うまでもない。
 最終日の21日、08:03梅花皮小屋を出発。08:15-49北股岳でmizutaniさんファミリーと再会!
 09:30-45門内岳山頂で休憩。10:06扇ノ地紙を通過し、10:31-42地神山々頂で展望を楽しむ。
 10:56地神北峰で頼母木小屋・門内小屋管理人の目黒さんとスライドし、ここから降る。それにしても何という素晴らしい展望なのだろう!
 11:18-13:00丸森峰の上部が今日の施工現場である。登山道をよく観察すると、ある場所を境にして、水の流れが異なっていることに気付いた。そこで今回は下部の作業を行うこととした。
 残った土嚢袋は限られている。下から石を運んで、何箇所も小さな石ダムを作る。全体的に風化した花崗岩と言っても、程々の強度がある。登山道の随所に半分埋もれている石を力石にして、水の流れを調整する方式となった。
 丸森峰から下は灌木帯となる。頭が灌木に当たり、さらに足元は水流でえぐられ歩きにくい。次回はチェンソーを持参して灌木を整理し、その灌木を利用して灌木ダムを作ったらどうだろうか等と考えながら下った。
 13:55-14:11夫婦清水で休憩。思ったより冷たく水量もあり、満足。あとは何時もの通りに確実に下って、15:15天狗平ロッジに到着。橋会長と金副会長が出迎えてくれた。

出発前の記念撮影
急坂を登る
湯沢峰にて
梶川峰唯一の下り
ブナハリタケ
これは今晩のご馳走に なお右の茸はツキヨダケです
登山道が雪で壊れている
黙々と賑やかに?登る
滝見場、残念ながら石転ビ沢は見えなかった
リョウブの花
飯豊山が見えた!
ナラタケも食材に参加
相変わらずの急登
倉手山を見下ろす
倉手山の山頂に登山者が見えた
三本カンバに着くと石転ビ沢が姿を現した
今回の目的地のひとつトットバノ頭に到着
下の画像は9月5日に撮影したトットバノ頭の様子です
早速、作業を開始します
最初に登山者が歩く道を確保します
登山道を整備することよって生じたネマガリダケを二つに折ります
折り曲げたネマガリダケを麻紐で縛ります
このネマガリダケを掘れた溝に積んでいきます
最後に石を載せて完成です
これは、今回現場で思いついた方法です
少ない材料で細く深い溝を埋めるために発想しました
やってみると、ネマガリダケの復元力で溝に密着することが分かりました
登山道のステップを作る時に出た土を袋に詰めます
できた土嚢は笹ダムの重しになります
上部から流れてきた水はネマガリダケに邪魔をされ、土砂を残し、水だけ流れます
それにより、自然に砂防ダムが完成するのです

続く⇒