登山者情報1,284号

【2009年09月26-27日/銀玉水保全事業(古寺鉱泉-大朝日岳)/井上邦彦調査】

 今回の合同保全事業は、銀玉水上部を施工箇所とし、古寺鉱泉から入山した。06:00過ぎに駐車場に着くと、既に準備が始まっていた。
 荷分けが終わると、朝日連峰保全協議会の渋谷代表(西川山岳会)と高取幹事(大江山岳会)から挨拶があった。渋谷会長は葬儀が入り入山できなくなったが、参加者の顔ぶれを見ると、西川山岳会・大江山岳会はもとより鶴岡山岳会の常世会長を始め、寒河江山岳会・小国山岳会といった朝日連峰を囲む山形県内の山岳団体、さらには遠く本荘山の会(秋田県)・つが桜山岳会(福島県)、アルパインクラブ25ji(宮城県)そして個人で参加してくれた多くの皆さんがいた。また途中からは朝日山岳会の花山さん、黒埼山の会(新潟県)も加わった大連合部隊となっていた。
 06:52高取さんを先頭に歩きだす。鳥原山へ行く道を左に分け、橋を渡って古寺鉱泉朝陽館の左脇を進む。進入禁止箇所から右折するといよいよ登りになる。ブナ林にジグザグに作られた登山道を進み、尾根上に上がって若干進んだ所で最初の休みとした。
 途中で前回(  )気になっていた葉の貧弱なブナについて、皆で検討してみたら落ち葉の表面に小さなウエツキブナハムシが抜け出した卵の殻がびっしりと着いていた。やはりブナ枯れがここまで来ているのだと実感した。
 さらに進むと湿地になっている登山道があったので、ここで登山道を乾燥させる技術の実習をしてみることにした。
 道刈りをする時、湿地には排水路を設けるが、同時に登山者の靴が汚れないように不要になった枝を湿地に敷くのが通常だが、少しでも長く使うために枝を縦に使用することが多い。これでは水脈を枝で切断することになり、水は排水されず、登山者は湿地の周囲を通るので湿地が拡大されることになるのだ。
 そこで、まず埋もれている枝を掘りだし、40cm程度の長さに切る。同時に水捌けのための水道(ミズミチ)を鍬で掘る。最後に水道を意識して枝を横にして並べれば完成である。これだけで排水は格段に向上する筈である。
 08:50-55一服清水で喉を潤す。誰かが、この上にある三沢清水の名前について尋ねたところ、高取さんから次のように説明があった。
 『地形図にも記載されているように、一服清水は「三ノ沢(サンノサワ)」の流域にある。三ノ沢の源頭は古寺山である。昔は古寺山と言わずに「三ノ沢の頭」と言っていた。三沢清水は三ノ沢にある水源からホースで登山道まで水を引いているので「三沢(サンザ)清水」と名付けられた』なるほど、沢は単純に「ザ」と発音することが多いので、これで納得がいった。
 09:00日暮沢から来る登山道と合流する。地元ではこの辺りを「ハナヌキ平(タイラ)」と呼んでいるようだ。
 次第に登山道は急になってくる。頻繁に排水路が設けられ、丁寧な維持管理がなされていた。また支障木を切って溝になった登山道に段を作っている。こまめな作業に頭が下がる思いであった。
 09:41-10:01三沢清水でひと息入れる。やがて紅葉登山の一行が追いついてきたので、また歩きだす。
 10:12急な坂を登り終えて平坦になると、紅葉が始まる。10:12-34古寺山々頂で大朝日岳を見ながら休憩。サラサドウダンの赤色が鮮やかである。
 10:54分岐で、まっすぐに小朝日岳に登るか、巻き道を通るか意見が分かれたが、元気なメンバーでそのまま直登することした。
 11:06-30小朝日岳山頂で何とNIYとばったり!NIYはKEBとハイジに囲まれ、照れながら記念撮影。小朝日組が全員揃ったところで、再度記念撮影とする。
 山頂からの下りはまさに錦の中!シャッターを切る回数が増える。11:43巻き道との分岐を通過する。
 熊越からも華麗な紅葉を楽しみながら進む。銀玉水に着くと、前回荷上げした緑化ネットは無事にダケカンバの疎林にあった。
 12:24-13:35銀玉水銀玉水の水場は下界の護岸工事と同じに固められ、風情がなくなった。水量も細く、水汲みの列ができた。標柱の後ろに敷かれた椰子繊維を示して、この繊維は保水力がないため、植物が生育できないことを説明した。ここで荷上げ品を再整理し、現場まで運び上げることとした。
 下界で加工され空輸した石で造られた階段を登りながら、空しい物を感じたのは私だけではあるまい。両側に敷き詰められた椰子繊維には植物が全く見られないのに、吹き飛ばされて緑化ネットが露出している場所の植生が元気良い。古寺山から奇異に見えた二つの人工的な直線は、丸太を使った排水路であった。
 今回の施工予定地に着くと、ちょうど良い窪みがあったので、担ぎあげたネット等をデポする。
 時間の余裕があったので、ここで石組の基本を研修する。力石は掘りこんで埋めること、上流から力が加わることを考えてアーチ型に組むこと、両側を高くして真中を低くすること、上流側にはノメリ石を配置し目潰しを行うこと。下流には水叩き石を配置することなどを説明した。
 そうしているうちに、川端さんや朝日山岳会の花山さんが迎えに来てくれた。川端さんは昨年施工した三方境のモニタリングをしてきたとのことであり、極度に風化した花崗岩地での石組の難しさを話してくれた。
 14:37大朝日小屋に到着、小屋の中はツアー客を始めとして超満員、さらにこれから登ってくるツアー一行もいるとのこと。三階までびっしりである。やむなくテントを張ることにした。
 ザックに水筒を入れ、何名かで金玉水に向かう。冷たい水をたっぷりと確保し、小屋に戻ると、番線の切断作業中であった。
 各自が寝床を確保し、カッパを着こんで外で乾杯!今日の紅葉に感謝し、明日の作業成功を期した。
 翌日も好天に恵まれた。08:30から作業を開始する。石を組み、放置されている丸太を再利用、さらには下から椰子繊維を搬送して目詰めに利用した。最後に緑化ネットを貼って完成。14:15に作業が終了した。
 16:08三沢清水の下部で、廃道に敷かれていた道刈りの支障木を短く切り、粗朶ダムを数箇所作ってみた。
 あとは順調に下って、ヘッドランプ間際の17:50駐車場に到着した。後続隊が遅くなりそうなので、高取さんの挨拶で解散し、数名がそのまま待機とした。
 20:00近く、後続隊が無事に下山し、今回の保全事業はつつがなく終了した。

出発前の打ち合わせ
澁谷さんの挨拶(朝日連峰保全連絡協議会々長:西川山の会)
高取さんの挨拶(大江山岳会々長)
古寺鉱泉
ブナ枯れ
皆で観察する
落ち葉を見てみると
ウエツキブナハムシの卵殻です
合体の木にて
途中で水捌けを意識した登山道整備方法の実技講習
ひと休み
一服清水にて
三沢清水に到着
元気いっぱいです
三沢清水は三(サン)の沢の意味で、サンザ清水と発音します
紅葉登山隊も登ってきました
急登を終えました
振り向くと登って来た尾根が見えました
先頭グループです
古寺山々頂(昔は「三の沢の頭」と言っていたそうです)
絶好の展望台です
大朝日岳が見えました
左が小朝日岳です
大朝日岳と大朝日小屋
中岳
登山者が下ってきました
紅葉の中の亮ちゃん
サラサドウダンの紅葉

続く⇒