登山者情報 1,467号

【2011年07月30日/石転ビ沢/井上邦彦調査】 

現在、飯豊連峰において行方が分らない方がいます。何らかの情報がありましたら、連絡を下さるようお願いします。
青森県在住、74歳の男性です。白髪まじりの少し長めの髪、慎重170cm位、やせ形、顔色は普通。
白色シャツ、黄土色ズボン。青色ザック、登山靴、黒にオレンジ色模様のストック、グリーンに近いグレーなヤッケ
【現在判明している事項並びにHZUの推測、捜索活動の一部を、以下に掲載します。】

 29日13:06携帯電話に「遭難の疑いがある」との連絡が入った。その後に出張、15:56の連絡で状況が少し分かってきた。18:00過ぎに帰町し、小国警察署で本人の登山者カードや、それまでの情報を聞かせていただく。
 遭難者は25日飯豊山荘に宿泊、29日の予約をし、車を置いて出かけた。登山者カードは丸森尾根取り付きから見つかった。カードには「26日梅花皮小屋、27日切合小屋、26日(28日ではない)梅花皮小屋」と書かれ、図には「石転ビ沢-梅花皮小屋-北股岳-飯豊山-切合小屋-飯豊山-ダイグラ尾根」に線が引かれていた。気になって拡大鏡で見ると、駒形山とダイグラ尾根に矢印状の線が引かれていた。もしこれが矢印のつもりなら方向性が明確になる。カードの投函は6時過ぎ、74歳という年齢を考慮すれば、石転ビ沢を登ったと考えるのが妥当であろう。丸森登山口に投函したのは、飯豊山荘に車を置けば最初に目に付くカード届け出所なので問題はない。
 門内小屋・梅花皮小屋・御西小屋・本山小屋・切合小屋ともに、26日以降彼が泊まった痕跡はない。装備はアイゼンがあるがピッケルはない。山荘同宿者に「28日に下るかもしれない」と話していた。最後の26日梅花皮小屋の意味は分からないが、28日を予備日的な位置づけをしていたのかも知れない。ともあれ、状況からは「飯豊山荘から石転ビ沢経由で梅花皮小屋に向かう途中で、何らかのアクシデントに巻き込まれた」と整理できるだろう。とすれば、「@登山道から梅花皮沢に転落した、A雪渓の崩壊に巻き込まれた、B転落や滑落によって雪渓の亀裂や隙間に落ち込んだ、C門内沢等に入り込んだ。」ことを列記できる。
 たまたま梅花皮小屋の管理人が翌日交替するので、上からと下から見てもらうことにした。さらに石転ビノ出合までの捜索班、門内沢班、黒滝班を編成し、念のためHZUと竹爺が石転ビ沢捜索の後、梅花皮小屋に泊まり稜線とダイグラ尾根を確認することにした。29日深夜HZUに支障ができたので、竹爺を黒滝班に編入した。その後、HZUは単独で予定の行動を行った。以下はその記録である。

 13:38湯沢ゲートで自転車にまたがる。途中で捜索から戻ってきたメンバーと情報を確認する。温身平十文字に自転車をデポして徒歩に切り替える。13:38ダムから登山道に入る。14:01うまい水、14:13近大慰霊碑を通過する。14:29梶川出合は河床を通過するが、上を見ると何時崩れるか分からない状態である。
 14:54石転ビノ出合はガスが出て雪渓の状況は判断しにくい。少なくとも沢の合流点には穴が開いていおり、その下流の雪渓は真ん中が流れに沿って窪んでいる。門内沢を横断した方が安全なのだろうが、その先が見えない。亀裂がまだないことを確認し、対岸に急ぎ足で渡り、雪渓が薄くなっている枝沢を避けて陸に上がる。14:57-15:06水場で食事を取る。
 再度雪渓に上がると、寒くて震えるが暫く歩けば暖かくなるだろうとそのまま登る。例年通り出合の上流左岸寄りに大きな穴が開いていた。視界は約15メートル程度である。小雨が降ってきたが構わず登っていると、無線で「梅花皮小屋は雨が屋根を叩いている」と連絡があったので、合羽を着る。しかし歩きにくいし、雨も霧雨程度なので下だけ脱ぐ。15:48ホン石転ビ沢出合を通過する。この直前左岸寄りに亀裂があり、河床が覗けた。
 16:21-36北股沢出合の水場で食事を取り、トレラン用のズックをスパイク地下足袋に履き替え、ピッケルを出す。この先は何が起きても不思議でない世界だ。視界が悪く、ルート状況がつかめないがので慎重に登る。
 黒滝は落ち口が全て露出していた。左岸から夏道に取り付くが、一部凍り付いた雪渓が急傾斜の登山道を覆っていた。枝沢に開いた穴から中を覗いてみるが、ヘッドランプの光が届かない。黒滝の上に出る。水量が激しく雪渓の中へ吸い込まれていく。数多い遭難事案の中で、どうしても忘れられない幾つかの事案がある。その一つがここ黒滝での遺体収容作業である。もうずいぶん昔の話なのに、つい最近のような気がする。
 黒滝から上の雪渓は左岸寄りが全て崩壊し、残っている雪渓も何時崩壊するか分からない。踏み跡もまだ露出していない所があり、恐る恐る雪渓を左手で押し、右手で岩角をつかみよじ登る。枝沢に着いた時点で迷ったが、雪渓を斜登し直接中ノ島(草付キ)に向かった。常識的には、枝沢から真上に登る踏み跡を辿り、途中で大岩から小沢を横切って中ノ島(草付キ)に出るべきだろうが、今回は上部の様子が見えないため、横断箇所が微妙に雪渓で覆われていると、かなり危ないので、斜上を選択した。ほんの微かな踏み跡を登って、右から来る尾根道の横断箇所に出ると、完全に雪渓はなくなっていたので、今後は直登コースを取るのが良いだろう。
 ミヤマキンポウゲ・ハクサンコザクラ・シナノキンバイ・ノウゴウイチゴ・モミジカラマツ等に励まされ、17:23梅花皮小屋に着いた。

砂防ダムから上流を眺める
梶川出合
梶川 飛び石で越えた
振り返る 何時落石があってもおかしくない
赤滝
【以下はコントラスト加工をして、実際は見えない景色も表現しています】
石転ビ沢を横断して振り返る
水場から画像中心にある踏み跡を登る
ホン石転ビ沢対岸の枝沢
北股沢出合
北股沢出合の清水
水場から黒滝方向 
黒滝左岸の踏み跡が嫌らしい雪渓に覆われていた
黒滝落ち口から滝を覗く
黒滝から上部を仰ぐ 右岸には雪渓がない 左岸の踏み跡も不確か
中ノ島(草付キ)のお花畑
ミヤマキンポウゲ
ここで直登コースと合流する
この黄旗がコースを示しますが、変化が激しいので参考に留めてください
小屋直下のオタカラコウ