登山者情報1,885号

【2015年06月08日/石転ビ沢遭難/井上邦彦調査】
 13:10携帯電話に、知人より事故発生の連絡があった。現場は石転ビ沢最上部、小屋から5分下った所で滑落した登山者がクレパスに転落。深さは約5m、腰が痛くて座れない、生命に異常はないが自力脱出は出来ないとのことであった。大まかな状況を聞き、現在地を携帯電話のGPSで確認し送ってくれるように依頼した。すぐに小国警察署に第一報を入れ署に向かうと、署では既に対応準備ができていた。
 知人から緯度経度が送られてくる。救助要請であることを確認する。登山者カードは湯沢ゲートの届出所に提出しているとのことなので、警察官が回収に向かった。
 生憎と県警ヘリ月山は別件の事案で県の北部に向かっていたので、防災ヘリの手続きもなされた。天気予報では今夜は雨、早急な救助が必要だ。地上隊の手配をすべく、隊員の携帯電話に一斉メールを行う。雨天時に深夜の石転ビ沢はリスクが高い。明朝2:00頃の出発になるかもしれない。
 西置賜広域消防は現場を直接視認でき、無線も携帯電話も使用できる樽口峠に現地本部を設営した。
 航空機による救助ができないと判断された場合、現場の2人は梅花皮小屋に戻ってもらうか、下げるか、それとも3人でのビバークになるか。ツエルトなど雨を防ぐ装備はないようである。落石の心配はないだろうか。最悪の場合、最小の犠牲を覚悟して2人を小屋に上げるのがベストかもしれない。2人がその場を離れたら、正確な場所の確定が困難になるかも知れない。さまざまな思いが頭の中を駆け回る。
 警察航空隊も別な事案が片付きしだいこちらに向かってくれると連絡があった、ありがたい。月山で県警山岳救助隊を梅花皮小屋まで搬送して、クレバスから人力で引きずり出すか。それにしてもせめて現場の正確な場所を取って欲しい。
 14:25防災ヘリが2人を確認した。防災ヘリ最上は、現地を確認後に機体の重量を減らすためいったん現場を離れ、再度突入。
 警察署の窓が揺れた。風が出てきた、現地の気流が心配だ。現場は稜線直下の風が渦を巻く場所だ。祈るような時間が流れる。隊員からは次々とメールの返信が届く。飯豊班は既に3名が出動待機体制に入ったと連絡が入った。
 14:58要救助者を吊り上げたとの無線を傍受した。直ちに一斉メールをして、要救助者の奥さんにも電話を入れた。
 残る2人は相当に疲れていることだろう。迎えに行くことにした。16:26上の砂防ダムから登山道に入る。15:17に電話で話した時に、これから下山を開始するとのことだった。最短で出合まで30分、砂防ダムまで1時間強、倍をみて16:20石転ビノ出合、18:20砂防ダム、おそらく梶川出合の下流で合流と見当をつけた。
 梶川出合は崩れかけている雪渓には上がらないようにして川岸を進み、梶川を若干遡って安定した雪渓に登った。彼らが巻き道を通っているとすれ違うので、大声を出しながら通過したが、反応はなかった。
 結局、彼らの姿を見たのは17:29赤滝のすぐ下流で、雪渓から夏道に移ろうとしている姿であった。精神的にも肉体的にも疲れているようだ。安全をきして梶川出合は巻き道を通ったが、彼らは不安定な雪渓を避けるために梶川を渡る場所に相当苦労をしたとのことであった。巻き道のロープは傷んでおり、道もかなり荒れ始めている。ここを見れば下つぶて石の登山道崩壊は可愛いものである。19:20頃、上の砂防ダムに到着する。かろうじてヘッドライトなしで済んだ。
 今回、要救助者は知人と3人パーティで石転ビ沢から日帰りで往復したが、体調は良かったらしい。下りも雪がさほど固くなかったので、持参していたピッケルを1人だけ使用せず、軽アイゼンで下降をしている時のスリップとのことである。
 翌日、腰の骨折と聞いた。現場を考えると運良く雪の上に着地したので生命は助かったがわずかでもズレれば岩に激突するか、岩と雪渓の間に転落した可能性が高い。
 また今回の救助作業は、気流が安定しない急斜面において、防災航空隊がワイヤーで吊り下げた隊員を決死の覚悟でクレパスの中へ投入した成果であり、深く敬意を表したい。
 知人が私に相談の電話を掛けたのが13:10、救助成功が14:58、2時間足らずの離れ業であった。しかし、現場で待つ彼にとってはとてつもなく長い時間であったと言う。特に機体の軽量化のためヘリが引き返した時は、駄目だと衝撃を受けたとも言う。
 私は彼の携帯番号を消防に伝えてあり、必要があれば消防から直接連絡をしてもらう手筈であった。彼は「爆音が凄く、ヘリがスピーカーで何を話しているのか分からなかった。携帯電話に着信があったが、知らない番号なので出なかった」と言う。バッテリーの残量を考えてSMSで送るかも知れないとは伝えたが、消防から直接電話が行くかも知れないと明確に伝えなかったかもしれない、またひとつの反省材料を得た。
2014年06月09日山形新聞より
上の砂防ダムより定点撮影
サンカヨウ
滝沢出合を眺める
北股岳
滝沢
出合の滝が露出している
梶川出合
拡大画像 雪渓は極めて薄く大変に危険、
土の上をトラバースして通過したが、微妙な状況
前日(7日)にUIYが撮影した画像
極めて危険なルート取りをしている団体、自殺行為そのものである
今回の画像撮影箇所の位置が多少違うが、雪渓が後退しているのが分かる
巻き道を見上げる
赤滝のすぐ下の大岩で2人と合流
門内小屋が見える
梶川を巻き道の入口から見下ろす
下つぶて石の崩壊地

おわり