登山者情報1,938号

【2016年02月25-26日/山形県山岳遭難救助訓練/井上邦彦調査】
 今年も蔵王坊平で救助訓練が行われた。上級班であるA班を私、中級班であるB班を菅野君、山形県警救助隊を横山君が講師となった。A班の顔ぶれを見ると、鳥海山や朝日連峰、飯豊連峰で実際に救助作業を行っている方々であり、別に私がしゃしゃり出る必要もない。
 初日は、装備の確認をし、ロープ操作の基本を渡部政信班長に頼んだ。続いて私が「雪崩の基本」を講義して昼食。午後からは班別に分かれて野外訓練。A班はビーコン(アバランチトランシーバー)、プローブの操作法を確認の後、青い鳥コースで滑落停止と確保の訓練を行った。
 翌日は仙人沢に降り、ハンドテストとコンプレッションテストを確認。いよいよ吊り下げをしようとした時、なんとレスキューハーネスがない!それでもめげないのがこのメンバーである。ザックとカッパを使う小国方式ザック搬送法でやってみようということになった。私の記憶でもこの方法で吊り上げ吊り下げを行ったことはない。何はともあれ見守ることにした。私がアドバイスしたのは「二人分の荷重を考えれば、ザックで一番強度があるのは背負いバンドだろう」という程度。いろいろと試行錯誤しながら、一つの形が出来上がった。最後に私が安全確認、吊り下げシステムで何箇所か改善を指示し、実験開始!背負ったのは本間君、やはりレスキューハーネスに比べれば疲れると言いながら無事に終了した。
 阿曽君が雪崩埋没者を掘り出す時の留意点を披露。ブルーシートに体重程度の雪塊を詰めてパッキングし、滑車を使って斜面を引き上げて訓練は終了した。
 【山形県山岳遭難救助訓練講評(井上)】
 A班は、私が一方的に教えるのではなく、皆さんが身につけている技術の交流に重点を置いてみました。その結果、人間を担いだ吊り上げ吊り下げはレスキューハーネスを使わないで行うことができました。これは初めてのことで、素晴らしいと思います。
 私事になりますが、私は昨年6月に小国町の救助隊長を辞めました。後任としては本日参加している渡部政信君が隊長、吉田岳君と横山隆蔵君が副隊長に就任しました。よろしくお願いします。また今回の県救助訓練についても今回で最後にしたいと考えています。これまでありがとうございました。
 私が救助活動を始めた頃は、遺体搬送が中心でした。それが生還させることができるようになり、私は遭難された方の社会復帰を考えるようになりました。怪我の悪化を最小限に抑えて医療機関に引き渡すことはもちろんですが、再び山を訪れて欲しいと願ってきました。...
 遭難の原因を探ることは大切ですが、それは事故の再発を防ぐためであり、遭難者をいじめるためではありません。救助に携わる皆さんには、特にこのことをお願いします。
〜(中略)〜
今回の資料の最後に事務局が添付してくれた大城先生の「医療情報」は新しい知見に満ちていると思います。
今後とも、常に新しい技術や知識を身に付ける努力を怠らず、救助力の向上を図っていただきたいとお願いして、講評といたします。大変お疲れ様でした。
私が担当したA班の皆さん
野外訓練の前にロープ操作の確認
滑落停止
滑落停止(前転)
さらに上に向かうC班の方々
滑落停止(後転)
支点の取り方
宿舎に帰る
ハンドテスト
要救助者を背負っての吊り上げ吊り下げ
今回はレスキューハーネスを使わずに挑戦
声を掛け合いながら吊り下げます
続いて吊り上げ
レスキューハーネスのありがたみが分かります
雪崩埋没者の掘り出し方法
頚椎の確保をしっかりとして下さい
ブルーシートに雪塊を入れて引き上げます
滑車を使って素早く上げます
26日の山形新聞に掲載されました

おわり