登山者情報280号

【梅花皮沢〜西の峰〜梅花皮岳〜梅花皮小屋〜石転び沢/1997年05月24〜25日井上邦彦・高貝喜久雄調査】
07:00天狗平をのんびりと出発。梅花皮沢を遡り梶川出合を過ぎたところで、08:30右岸のスラブから取り付く、山菜取りの要領で柴を掴んで登る。上部は階段状の岩場を難なく越え、尾根に飛び出ると、目の前に素晴らしい梅花皮大滝が飛び込んできた。梅花皮大滝はなかなか全景を見るビューポイントがない、しばし眺めを楽しむ。

痩せた尾根の両側は高度感が出る、恐る恐る慎重に進む。足下にはイワカガミが咲いている。なかなか岩稜が出てこないので高貝氏は不満気だ。
ナラが幹も枝も区別がつかずに蛇のようにのたうち回っている。正面にもろい岩稜が出てくると右手の階段状岩場にルートを取る。ここではキタゴヨウもまっすぐには生えない。ハイマツのように広げた枝の下を、ザックを背負ったまま這いつくばってすり抜ける。葉が体に触れるとチカチカして痛い。肩を見るとブヨがびっしりと張り付いており、口の中まで飛び込んでくる。上から見ていると高貝氏の姿が見えない、かすかに揺れる藪で彼の位置がそれと知れる。

雪が出てくると底のすり減ったズックを履いている私は途端にペースが落ち、替わりに皮の登山靴を履いている高貝氏が元気を取り戻す。姿が見えないと思うと、ひょいと私の前に姿を現す。高貝氏は可能な限り雪にルートを取っているようだ。尾根が広くなり辺りにはカタクリの花が密生している。
再び雪の上に出たところで昼食を取る。北股岳の羊岩の連なりがこんなに顕著だとはこれまで気がつかなかった。

私はここでプラブーツに履き替える。右手の急な残雪を詰めて、藪に入る。プラブーツの藪漕ぎはきつい。
藪漕ぎのコツは、眼前の柴をよく観察し、二つに分けやすい弱点を探し、両手で藪を押し開いて空間を作り、藪を押し分けるように体を潜り込ませ、両手で掴んだ柴で体を持ち上げる訳である。そのとき足は柴や土の上に爪先だけで立っている。フリークライミングのように、足を体に先行させることも多い。ところがプラブーツは柴をグリップできない。引き抜こうとすると大きいのですり抜けてこないのである。やはり藪は地下足袋か薄手のズックが一番である。
西の峰手前で残雪を左手に斜上する。なかなかの急斜面である。ピッケルを刺し、キックステップで慎重に登る。
ようやく山頂に出たと思ったら、フタコブラクダが聳えており、げっそり。ネマガリダケとハエマツが混じり始める。

13:25西の峰山頂は岩と芝の思いがけない快適な所であった。梅花皮小屋直下を蟻のように列をなしている登山者、展望を心ゆくまで楽しみ、食事を取りズックに履き替える。ここでポシェットのチャックが開きメモ帳が紛失していることに気がついた。よってこの記録は全て記憶によって書いている。
鞍部へ下り岩を右から巻く、左手に雪も残りビバークに最適なところだ。ODDと交信した直後、雨が降って視界もなくなってきた。ダケカンバの生育する右斜面には季節風により見事に刈り込まれた快適な部分が断続的に続き、ピッチが上がる。

ネマガリダケの藪の中で、プラブーツ+アイゼンに履き替え、左の残雪に出、雨が降る前に見当を付けていたとおり左斜面から直登に喘ぐと、傾斜が落ちて16:00梅花皮岳山頂に出た。アイゼンを外し、通い慣れた登山道を梅花皮小屋に向かう。途中には最近降ったと思われる新雪が点在していた。16:13梅花皮小屋着。
今回の登行中、コメツガを確認した。また人為的な痕跡は全く見あたらなかった。
翌朝、04:36梅花皮小屋発、まだ目が覚めていないのかグリセードの途中で転倒1回。約10分で北股沢出合、左岸から落ちてきた岩が転がっている、さらに下ると雪のブロックも転がっている、この時期雨天時の入渓は控えた方が無難だ。さらに10分でホン石転び沢出合、ホン石転び沢は上部まで雪渓が続いているが、左岸の枝沢は上部が切れている。05:15〜05:22石転び沢出合。

梶川はすぐ上流で雪渓が切れ、本流にも亀裂が入っている。このまま雪渓を下りたくなるが、黄緑の旗を目印に05:35夏道に上がる。サワハコベ・スミレサイシン・オオバキスミレが咲いている。僅かに雪を踏み足下に注意しながら梅花皮沢に下る。何時もある筈の落合トラバースに雪がないが足下注意。僅かな雪を踏んで軽く登り返すと地竹原である。ニリンソウやサンカヨウ・シラネアオイが咲いている。05:45慰霊碑、05:54彦衛門の平通過。キクザキイチリンソウ・エンレイソウ・ニリンソウ・カタクリ・エンゴサクが咲いている。06:16砂防ダム06:24温身平通過、ブナ林にタムシバとタニウツギが濡れていた。06:40湯沢遮断機着。