登山者情報292号

【遭難/1997年06月21日/井上邦彦調査】
6月21日16:20頃、石転び沢を登高中の4人パーテイの女性(54才)が稜線直下で滑落、中ノ島にぶつかり停止した。遭難パーテイが持参していた携帯電話は全く繋がらなかったので、居合わせた別パーテイの登山者がアマチュア無線で救援を求めた。
17:35小国警察署発、18:07上の砂防ダムから歩き始める。18:28地竹原慰霊碑通過、18:37梶川出合通過。梶川出合の雪渓はまだ充分に渡れる。すぐ上流左岸の大岩の間を抜けて再び雪渓に上がるが、亀裂が嫌らしい。赤滝付近の右岸近くを登っていると目の前に直径20cm程度の穴が開いており、ゴーゴーと音がする、あわててルートを右に取る。今後はこの付近も注意が必要になってくる。
18:54石転ビノ出合着、北股沢出合から上だけがガスっている。中ノ島は見えない。出合のすぐ上流の大岩にズックをデポ、スパイク地下足袋に履き替え食事を取り、19:03発。19:30ホン石転び沢出合通過。ヘッドライトはできるだけ点けずに登る、足の裏が次第に冷たくなる。19:48中ノ島にライトが瞬間点灯した、持参した笛を吹く。19:54北股沢通過、もはや雪渓上といえどライトなしでは動けない。20:07中ノ島に上がる、声とライトを確認する。
20:12現場着、遭難者は寝袋に入りさらにツエルトにくるまっていた。付き添っていた同行者からおおざっぱな状態を聞き、本人と会話。意識もはっきりしていて思った以上に元気そうだ。プラスチックブーツに履き替える。本人は立つことは可能とのことなので、立ってもらいレスキューハーネスを装着。私の荷物を付き添いの方に背負ってもらい、20:31下山を開始する。ガレ場のため、足下がはなはだ不安定である、慎重に下る。20:46中ノ島末端で、同行者2人の明日の下山が心配という付き添いの方に無線を持たせ開局しておくように指示。アイゼンを着け、20:50私のザックを雪渓に投げる、ザックは瞬く間に暗闇に消えた。
彼女を背負ったまま雪渓に踏み出す。気温の低下とともに雪が堅くなっている、アイゼンが小気味よい。これならいけると判断。ぐんぐんと高度を下げる。吐き気を訴えるが、まもなく収まったようだ。星が出てきたが、ザックのありかがよく分からない。通り過ぎないよう注意して拾っては放る。20:59北股沢通過。そろそろ肩に食い込み始める。ホン石転び沢出合でザックの上に座らせて休憩を取る。夜の石転び沢は神秘的だ。無線機は二次隊が登ってくる様子を知らせている。腹が空き始めた。GZKの励ましだけが救いだ。付き添い者が無事に梅花皮小屋に着いたと連絡が入る、一番の気がかりが消えた。ザックにタオルを結び、ずるずると引きずりながら下る。ペースが落ちてきたのが自分でも分かる。彼女は必死に寒さをこらえている様子が分かる、私に心配かけまいと頑張っているのだ。石転ビノ出合にライトの灯りが見えた。1個2個・・・5人である。先が見えてきた、最後の踏ん張りである。
22:04ついに二次隊と合流する。私のザックに彼女を座らせ、すかざず差し入れのおにぎりにほおばりつく。ズキンズキンと体にエネルギーが充填していく様が感じ取れる。背負いを交替し、出合の大岩で休憩。たちまち身体が冷えてくる、22:20これはたまらんと早々に出発する。梶川出合上流の大岩の部分は道がない、再び彼女を背負い梶川出合下の夏道に上がる、膝の調子がややおかしい。二次隊の皆が交替で担ぐが、疲れが見え始めた。23:00彦衛門の平で三次隊3名が合流する。00:32上の砂防ダムに到着。救急隊に引き継ぐ。