登山者情報348号

【1998年06月13日/朝日連峰相模尾根/井上邦彦調査】

04:57自宅発。昨年できたばかりの長沢橋を渡り、荒沢地内で小さな看板にしたがって右折、最終集落の入折戸にはこの先通行止めの標識が出ていた。蕨峠頂上にも時間規制の標識がある、行ける所まで行って駄目なら引き返すつもりで峠を降りていく。以前とは全く様相が一変しており、道も良く分からない。土曜日の早朝であるためか工事車両は動いて否。三面集落跡から右折すると、あちらこちらで埋蔵文化財発掘跡がある。
05:49 車道終点、ここまで32.6Km、駐車場は車9台分の広さがある{1995年版より12mm程度東側}。駐車している車は全て新潟県外ナンバー。標高220m。
登山者カードに記入し、歩き始めるとすぐに、車が通れないように敷板を外された橋となる{ミヨド沢}。676歩で車道は終わり、小沢{オソノ沢}を渡りブナの林に降りていく。道はほぼ水平で歩きやすい。河岸段丘になるとブナとナラは若くなる、右左に切り開き道がある。2,016歩で小沢{フカドメ沢}を越える。6:17,290m2,551歩高巻きのピーク。06:30、240m4,076歩、一本吊橋{平四郎沢}。短いが高度感が出るので緊張する。
行けども行けどもブナの林が続く。直陽があたらないので夏でも比較的楽だろう。これが飯豊朝日連峰の昔からの姿なのだ、むしろ今が便利すぎるのではないだろうか。山頭火の「分け入っても分け入っても青き山」は山の外から見た景観論の匂いがする。一方私は山の中に抱かれている。06:43小沢{中矢淵沢注01}を渡る。5,393歩。
太いブナに混じり、フタコブラクダのような座り心地の良い幹をしたブナや、向こう側を覗けるように穴の空いたナラがある。林床は幽霊茸の別名を持つギンリョウソウが霜柱のように覆っている。幽玄なブナの森の中に私は居る。
深沢橋の看板、06:50、立派な鉄橋である。周囲はヘリコプターのため刈り払われている。6,174歩。ばくされたナラタケがブナの倒木に生えていた。先ほどはツキヨダケが朽ちたブナにめめくっていた。当三面地区ではまだ若いツキヨダケを塩漬けにして毒を抜き食すると聞いたことがある。しかし清水氏によれば「よく塩漬けにすれば食べられるというが、塩に漬けても毒は消失しない(原色きのこ全科124頁ツキヨタケ清水大典著家の光協会発行)」。
06:58、7,107歩、小沢{下源十郎沢}を渡る。07:02、若干高度を下げて小沢{上源十郎沢}を渡る。7,439歩小沢で釣り人一名と会う。このコースは全体的にあまり上り下りのないなだらかなコースである。

07:07〜28、285m8,079歩、三面小屋到着。二階建て一階二階とも10畳程度の広さ、小屋の中間で水を引いてある。小屋の中に昨年末に亡くなった三面マタギ小池千秋さんの写真が飾ってあった。彼にはマタギサミット「ブナ林と狩人の会」で毎年酒を酌み交わさせていただいた。心からの冥福を祈る。便所は屋外に一穴、清潔だが暗いのには閉口する。昔からの三角小屋も残っていた。水は外にもあり非常に良い所だ。小屋前で食事を取り休む。

三面小屋

橋を渡り、標高250m。橋は高度感があり手摺が真ん中で低くなるので慣れない人はかなり厳しいだろう。足場を確認しながらへつると、雰囲気の良いブナ林に出る。

一本吊橋

尾根上に出ていよいよ急登の開始だ。いままで邪魔物扱いをされていた二本のストックが活躍を始める。さほど急ではない、07:53、10,691歩525m小ピークを越え始める。松が混じってくる。登りはたいしたことないが蒸し暑く汗が泉のように身体のあちこちから湧き出している。一つ一つ小ピークを越えていく。
08:10〜23、12,406歩700m菱形標識「横松・注02」「←藤下ケノ肩0.6km→フトデ峰0.6km」すぐ脇に遭難慰霊碑「毛利輝司・s46.08.08朝、新潟県立加茂農林高等学校山岳部の朝日連峰縦走訓練中に不慮の落雷のため引率教諭、一瞬にしてここに仆れる」。この辺り松ノ木以外あまり高木はなく日当たりが良い。無線機のスイッチを入れる。GZKが出る。VQOBCR滝切合付近におり今日は本山までとのこと。ODDも朝日鉱泉から登り始めた様子。ようやく花が咲き始める、ガクウラジロヨウラクオオコメツツジ。800m殆どまっ平ら。820mで主稜線が見えてきた。雲海の上に浮かんでいる。ここから若干の登りになる。

名前不明?

08:38、875m12,617歩、白い菱形標識「フトデ峰・注02」「←横松→??メータ」。この付近も平らなブナ道。チゴユリが盛りだ。08:24、900m12,944歩、雨量観測計(注02)。ヤマツツジ。上り下りもなくひたすらゆる〜い登りが続く。歩けど歩けど標高が上がらず、何時もと勝手が違う。
08:48、960m13,492歩、道陸神(ドロクジン)峰小屋に着くが、柱が残っているだけ、とても泊まれる状態ではない。小屋直前に右手に1張り分のスペースと、左に下る踏み跡がある、水場へ行くものだろう。団扇を出し08:55発。

道陸神峰小屋

ひと登りして08:57〜58道陸神峰山頂{990m}に立つ、標識も何もない。ここで視界が広がる。以東岳の小屋も確認できる。始めての下りらしい下りだ。下は雲海、ヤマツツジの咲く、日当たり良好の登山道{この付近が仙野平・注02}。09:09ブナ林の中を下ってきて935m最低鞍部。ここまで右側斜面をトラバースするように下ってきた{注05}が、ここで尾根上に戻る。09:10、940m15,117歩、左のブナ木に大きな菱形の鉄板{鶴ノ一声・注0306}が食い込んでいるが文字は何も読めない。ウラジロヨウラク。上り下りの連続。
09:35、1,110m17,261歩、腹が空いて動けなくなる。お握りを食べる。PWDと交信をする。気がつくと上泉山の上に飯豊連峰が浮かんでいた。白い所が多いので容易に見分けがつく。ぼんやりとしているが飯豊山から地神山まで確認できた。09:52発。
僅かな急登を越え、1,200mのピーク{中山峰・注02}で視界は一気に良くなる。ここで森林限界を越える。オオイワカガミアカモノが盛りだ。10:02、17,961歩、飯豊連峰も全て見えている。海も見えているようだ。写真を撮る。10:04、1,210m18,070歩、菱形標識{沼倉峰 1,233m・注02}があるが判読できない。潅木の中の平坦な道。マイヅルソウが盛り。今年始めてヒメサユリに出会う。
登山道は非常に良く手入れされている。タムシバコヨウラクツツジウゴツクバネウツギタニウツギガクウラジロヨウラクオオコメツツジウワミズザクラが咲いている。下って登り上げ、1,220mから少し急になる。ゴゼンタチバナが満開。ヒメサユリも次第に多くなってきた。
1,280m、20,356歩10:28、雪が遅くまで残る場所{大上戸泊場・注04}らしい、真っ白なヒナザクラが沢山咲いている。見慣れているハクサンコザクラと似ているが、花は一回り小さくて葉はとても小さい。イワカガミも多い。モウセンゴケを見つける。

ヒナザクラ

コケモモ・トキソウ(こんな乾いた尾根上に咲くのだろうか?)。10:37、1,350m愕然とする。稜線はまだまだ遥かである。竜門小屋が見えている。衣袋氏の地図で道陸神峰〜大上戸山の間のコースタイム2:30が記載漏れとなっていたのだ。登る前にこの区間(道陸神峰〜源蔵ノ池)が3:00とみて、間違っているなと直感はしていたのだが、ピーク記号と起点の丸が重なると見にくいのである。このことは以前にも昭文社編集部に改善策を要望していたのだが、シリーズ全てに共通項目なので受け付けてもらえなかった経緯がある。

トキソウ?

アズマシャクナゲ。10:45鎖場を越える。「大上戸岩場」「←大上戸泊り場→大上戸山」コケモモが盛りだ。胎内尾根の羊羚岩とイメージが重なってくる。サラサドウダンツマトリソウナナカマド。10:49〜52、左手の崖を下って雪を取り、缶ビールを包み手に持つ。

山頂より大上戸岩場を見下ろす

10:58、1,429m22,307歩、大上戸(オオジョウゴ)山三角点到着、疲れた。四畳半くらいの居心地の良いピークだ。朝日連峰主稜線の展望台としては申し分ない。写真を撮り、無線でGZKVQOと交信しひたすらビールが冷えるのを待つ。11:11とうとう缶ビールの栓を開ける。泡が吹き上がる、ぐうっと飲み込むが乾ききった喉が受け付けない、ぐい、ぐい、と徐々に染み込んでくる、声が出ない。

以東岳遠望

11:50下山開始。この辺りの登山道は登山者が殆どいないらしく植物が覆っている。この辺も胎内尾根と似ている。12:00大上戸岩場通過。撮影しながらのんびり下る。吾妻連峰を連想させる針葉樹群がある、クロベであろう。

ヒメサユリ 背景は相模山

12:16、24,391歩、2,830mヒナザクラの咲く草原に菱形標識があったが、判読できない。「??戸泊??」「→沼蔵山」であろうか。運動靴の紐をきつく締め12:25発。
下から登山者が登ってくるのかなと思ったらヤマツツジであった。この辺りのヤマツツジは慎みがなくごちゃごちゃと固まって咲いている。登山道の上でクワガタムシを見つけた、今一つ元気がなさそうだ。坂で見上げる形になると、イワカガミはイソギンチャクのようだ。ゴゼンタチバナの葉も面白い。

クワガタムシ?

12:53、1,220m26,888歩、菱形標識読めず。12:54、1215mから下り始める。すぐ樹林帯となる。1,160m白い石楠花が咲いていた、葉の裏を確認するとハクサンシャクナゲであった。13:03、1,120m27,705歩、登りに休んだところである。時折ブナ高木も出てくるが、基本的には潅木である。

ハクサンシャクナゲ

1,050m樹林帯に入る。13:15〜23休憩。少なくとも3匹はいるだろうか春蝉の蛙のような啼き声に、時折ケラのドラミングが加わる。ブナ林の中で爽やかな風に身を任せている。13:28何も書かれていない鉄板、29,612歩940m。13:30、29,697歩945m「鶴ノ一声・注03」「←道陸神峰」と書かれた白い菱形標識があった。
13:45上り切ったピーク、31,157歩1,000m、ここから下る。この展望台から振り替えると大上戸山と稜線が繋がっているようにも見える。
13:47小屋到着、975m31,330歩。水場分岐970m31,364歩から水場に下る。40秒で到着31,444歩953mだから80歩17mとなる、水量は多くない、沢の源頭から染み出している。さらに5m下ってコップで1Lの水筒を満タンにする。13:53:50発、13:54:47着、1分で戻る。小屋や登山道から近いが、盛夏には涸れないか心配である。14:07発。
14:11、32,031歩915m雨量計通過。ジョギングにちょうど良いような傾斜である。放っておいても足は自動的に下っている。14:26、32,031歩760mから松峰になる。14:31、730m32,329歩「横松」を通過すると、いつしかまたブナ林となる。580m付近から松とブナの混交林。
14:43、33,733歩550m振り返った最奥の山が大上戸山であろう。松尾根を下り、500m三面小屋が見えた。
15:08〜10、35,822歩305m三面小屋前で福島から来たと言う4人の釣り人が酒宴をしていた。15:16、36,500歩、沢{上源十郎沢}を渡る、単独の釣り人とすれ違う、今朝の方である、結局丸一日であったのは5人だけであった。15:20、36,770沢{下源十郎沢}を渡る。15:29、37,659歩、深沢橋通過。15:37、38,493沢{中矢淵沢}を渡る。
15:49、39,786歩、一本吊橋{平四郎沢}を渡るが、途中で耳や目の中にブヨが入ってくる。まさか手を放すわけにも行かずひたすら我慢。16:09〜13、41,882歩、小沢{フカドメ沢}を渡る途中で食事。16:27、43,281歩、小沢{オソノ沢}を渡ると樹林帯から抜け出す。43,395車道の終点。16:35駐車場に到着、43,395歩であった。
16:42発。0.5km発電所取水口。3.8km三面の分岐。15.2km入折戸通過。まもなく町中に入ろうかと言うところで切合のVQOと蔵王のGZKの話に参加しているうちに、PWDからの無線をGZKが受信。梶川尾根でトラブル発生、PWDが向かっていると言う。小国警察署に直行する。ここでPWDが遭難者に付き添い飯豊山荘まであと100m、何とか自力で下降していると聞き、ほっとして自宅に向かう。17:39自宅着。34.3kmであった。

注01:遠山実氏(登山案内図:新潟県朝日村)によれば、「中矢淵沢」、衣袋賢二氏(朝日出羽三山)によれば「中矢打沢」とある。共に「ブチ」と発音すると想像される。淵は沢の形状を連想させるし、打は熊狩りの打ち手(ブッパ)を連想させる。藤島玄氏(越後の山旅)では打を採用している。
注02:遠山実氏に記載あり、衣袋賢二氏には記載なし。
注03:遠山実氏衣袋賢二氏ともに記載あり。
注04:衣袋賢二氏には「水」とある。遠山実氏には地名の他に「水・あまりあてにならない」と記載されていた。残雪がある時の融雪水利用なのだろう。
注05:国土地理院25千地形図昭和52年版では、尾根上を忠実に辿っている。航空写真で作図するので樹林帯ではよくある誤りである。
注06:藤島玄氏は鶴ノ一声の由来を「熊狩りの時にこの持場から号令の声がよくとおるからだそうだ」と書いている。