登山者情報390号

【1999年04月10日/西俣尾根〜頼母木山/井上邦彦調査】

久々の山行であり体力的に不安があるが、単独なので12時をタイムリミットとセットし、05:39梅花皮荘駐車場から歩き始める。05:45民宿奥川入を通過、ここから雪道となる。堅雪であるが杉林に入ると多少抜かる。側に咲く水芭蕉群は小ぶりである。05:56〜06:02(標高325m)取り付きでスパッツをつける。誰かが下山してきたような足跡があったが、結局は取り付きだけで以後は形跡が全く見当たらなかった。マンサクが咲き始めていた。イワウチワは数株が綻び始めた程度である。カモシカ・ニホンリス・テンの足跡がやたらに多い。部分的に雪道もあるが、基本的には夏道である。尾根を詰め530mで左にトラバースして主尾根にでる。06:30(530m)まもなく雪道となる。07:01〜07:11(715m)十文字池、握り飯を頬張りワカンをつける。雪質がめまぐるしく変化する。急斜面はワカンの爪が小気味良く効いている。

西俣ノ峰山頂より杁差岳
西俣ノ峰山頂から頼母木山

08:00〜08:12(1,023m)西俣ノ峰、杁差岳が翼を広げて迎えてくれた。握り飯を頬張る。下を見下ろすと、大渕(梅花皮荘手前の分岐)から天狗平(飯豊山荘)に至る車道は、オオフタガリ沢(通称オフタガリ、吹き付け手前)まで既に除雪が終わっている。ただし雪崩の危険性が高いので一般車は進入できない。
ここからは単調な登り下りが延々と続く。雪道で迷わないように着けられた目印にナイロンテープを使ったパーテイがおり、ボサボサに解れ蜘蛛の巣のように枝に絡み付いている。その数がおびただしく、また目立つ所を選んで付けているので、川岸のゴミ林を歩いているようだ(帰途回収を始めたが追いつくような量ではない)。目印の布をセットすることは否定しないが、素材には十分留意して欲しい。

ナイロンテープの蜘蛛の巣

右側の尾根上の雪はかなり少ない、確認しながら雪庇の上を歩く部分もある。08:55枯松峰手前1,100m付近一帯は雪洞や幕営に最適な場所だ。枯松峰かrの下りは緊張感が強いられる。雪庇が嫌らしく立ち、夏道跡(藪化している)が露出している。今回はだまして通過したが、まもなく藪漕ぎとなるだろう。ようやくODDと無線が通じる。会話の途中で「ピシッ!」と雪庇が動き飛び跳ねる09:25〜09:31(1,165m)休憩。1,305mからダケカンバが現われてくる。

飯豊山を望む

10:16三匹穴(1,455m)到着。ここで山の様相は一変する。ダケカンバ群が点在する森林限界である。ガスられた時の下山はとても難しい場所である。
視界が効くので、地図で確認することを失念していた。このため尾根を直登してしまい、10:57山頂について地蔵尊を探したが見つからない。ふと前を見るともうひとつピークがある。ここは1,690mの小ピークであった。何年か前の5月、ここを頼母木山頂と勘違いして右手の尾根を下り小屋が見つからず寝袋に入ったまま堅くなっていた登山者を思いだし合掌。三匹穴の慰霊碑は彼のものである。そろそろ疲れてきて足取りが重くなっている。この1年間ろくに登っていない報いである。
11:09〜11:13(1,740m)頼母木山頂には雪がなく、石柱と地蔵尊が間違いなく確認できた。無風である。視界は結構よい。近辺の山並みはもとより蔵王・朝日も確認できる。信じられないが、温度計は10度を示している。何も聞こえない、耳鳴りがするほどに静かである。

頼母木山頂
頼母木山頂から頼母木小屋と杁差岳

11:25頼母木小屋着。小屋前の広場には雪がない。入口の戸は簡単に開いた。吹き込みもない。帰る時は戸をきちんと閉めないと吹き込みで開かなくなるので充分な確認が大切である。万一の時は後ろの梯子を上ることになる。窓には鍵がかかっていないことを確認する。

頼母木小屋
頼母木小屋から地神山

早速持参の缶ビールを雪に埋め、ラーメンを作る。至福の瞬間である。備え付けのノートを読む。「トイレに鍵を掛けないで」の声が散乱している。「じゃあ汲み取りして下さいます?byバイトの高校生」山小屋のトイレの問題は難しい。現在建設中の梅花皮小屋は水洗となる。その結果が楽しみである。
12:14頼母木小屋発。以前として無風、1本の缶ビールで眠い。ワカンなしだと足首まで潜るが、雪庇端の旧雪は堅い。行きに確認しているので安心してコースを選ぶ。
1,690m小ピークの手前でトラバース気味の下降に入る。新雪が足元で崩れ滑落するが滑落停止で難なくクリア。ここから三匹穴を過ぎるまでは視界が良くても間違えることがある。平坦地の右側のダケカンバ群を左に巻きこむようにして慰霊碑の下から右手の藪を抜けて下ると、慰霊碑から約50mでブナ林に入る。

三匹穴と1,690mピークを望む

登る時に亀裂が入った場所を慎重に通過するも、右手で「ピシッ!」左手で「ピシッ!」いったいどうルートを取れば良いのだろうとブツブツ。グリセードで降りると新雪に足を取られてジャンプ。13:20〜13:22ワカンを履く。13:25最低鞍部通過。13:41〜13:46枯松峰を通過した幕営適地休憩。暖かくホンワカした気分。13:56新雪に隠された亀裂に腰まで落ちる。這い上がる時にストックは便利だ。14:23再び亀裂に落ちる。新雪のため亀裂のコースがもうひとつ読めない。更にもう一度落ちる。亀裂に落ちるのは何時も下山時である。気が緩んでいいかげんな歩き方になっているのかもしれない。
14:30西俣ノ峰。今日は雪崩の音が全く聞こえない。これだけ暖かいのにどういう訳だろう。785mからマンサクが咲き始める。タムシバの花芽が多い。今年はあのむせぶような花を楽しめそうだ。14:59十文字池通過。555mから夏道となる。できたばかりのカモシカの足跡がある。私の後ろに居る筈である。どことなく獣の匂いがする。下って行くとカモシカが何かに驚いたように駆け下りて行った足跡が続いている。カサとも音を立てずに私を追い越して行ったということか。明らかに彼は私を意識している。近くで私を観察している。姿は見えないがワクワクしてくる。15:25〜15:30土の上で休憩。山を下るのが嫌になる。さらに下ると、登る時は僅か2株であったイワウチワが幾つも咲いていた。

イワウチワ

15:39取りつき。雪崩の圧迫感が殆ど感じられない。私の感覚が鈍ってきたのだろうか。上部を見上げるとブロックが殆どない。雨が池に波紋を作った。面倒なのでそのまま雨具を出さずに、奥川入に挨拶だけして、梅花皮荘に、15:57到着。

感想

全体として雪は例年より少なく感じた。雪崩も出尽くしている場所もあるようだ。連休時は西俣尾根ではなく、天狗平をベースにした登山が中心になると思われる。しかしこれはあくまで例年と比べてであり、初心者が登れるような状況にあるわけではないので注意すること。