登山者情報394号

【1999年05月02日/大日杉〜五段山〜地蔵岳〜大日杉/井上邦彦調査】

06:29大日杉小屋手前の駐車場発、標高612m。昨日から来て小屋の清掃をしていたという船山清一さん達と立ち話し、06:50再出発。昨年の籠渡しはなく、新しい吊橋が工事中であった。完成前は下流にある二本ワイヤーを渡るように表示されていた。

工事中の橋

ズック靴で快適に高度を稼ぐ。07:30〜36、910m、食事を採る。素晴らしい眺めだ。本日は帰るまでこの雄大な景観と一日付き合っていただくこととなった。タムシバ・イワウチワか咲いている。このあたりから夏道と雪道が交互になる。
08:01〜05、4,852歩、1,120m峰。ピークは一面が雪で覆われている。雪崩の音がする。マンサクが咲いている。剣ガ峰から飯豊山にかけての展望に圧倒されそうだ。ピークからは再び夏道となる。1,250m、登山道に覆い被さっているブナの根元に「天井ブナ」と書かれた木札が付けられていた。雪が出てくるとほどなく、08:31、1,290m、6,405歩、県境稜線に出る。すぐ右手にピークがある。08:33〜53、1,300mピークでプラスチックブーツに履き替え、食事。山頂から撮影。

五段山から牛ケ岩山

スキーを持ってくれば良かったと悔やむほどに稜線はなだらかに雪原が続く。ガスられた時にはルート選択にかなり苦労することだろう。五段山から川入方面に降ったらしい3人の足跡が地蔵山から続いていた。眼下の大規模林道に車が見える。林道が開通した段階で、このあたりには大勢の山菜採りが入りこみ、様相は一変するだろう。
09:20〜24、靴の調子がおかしい。靴擦れになる前に直そうと脱いで見る。インナーブーツの後ベロが捲れていた。購入してから4年半になる。そろそろ買い替え時期かもしれない。スキー兼用靴が良いぞと山岳会総会でGZKに勧められた事を思い出す。
牛ケ岩山山頂手前で、剣ケ峰と地蔵山が見えた。多少雪が着いている様子であり、今日はアイゼン無しなので、ちょっと不安になるが、いざとなればカッティングするか引き返せば良い。地蔵山直前で僅かだが夏道となる。ブナにダケカンバが混じっている。10:08〜19、地蔵山頂で食事。大勢の人が剣ケ峰に取り付いている。

地蔵山から剣ケ峰

ピッケルをザックから外す。足場がしっかりと作られており恐怖感はない。むしろプラスチックブーツのため、岩場が登りにくい。三角稜に尖った雪道の両側がすっぱりと切れ落ちている。落ちたら終わりである。良く見るとスノーブリッジ状に薄くなっている所も皆平気で歩いている。ピッケルではなく夏用のゴム先ストックだけの人もいる。アイゼンは誰も着けていないようだ。3月に事故のあった護摩段では急斜面の雪壁が恐ろしいのか、そのまま岩を攀じ登っているパーテイもある。登るだけならまだしも、この方々は下山できるのだろうか。かなり心配になってきた。私は雪の様子を確認し、一番安全と思うルートを探して登る。
10:56〜11:08、14,851歩、三国岳山頂。小屋の入口から入ってみる。特に問題はなさそうだ。いくつものパーテイが、穏やかな山頂でおもいおもいに休んでいる。

三国岳から七森

これから向かう七森を眺めると、西側斜面には殆ど雪が着いておらず、頂稜の夏道は、危ない雪庇に隠されている様子だ。トレースは無頓着に雪庇の上に帯びているが、ひとつひとつ雪庇の状態を確認しながら、できるだけ夏道を歩くことにする。一箇所、頂稜から外れ左手をトラバースして直登し夏道に出る。11:38、17,066歩、夏道が大きくトラバースする所に「七森」の標柱があった。
夏道と雪道を交互に進む。急斜面の直登が恐ろしいらしく手間取っているパーティも遠望される。こんなルートを杖言いぽんで通っている登山者が大勢いるのだから、事故が起きないほうが不思議である。

大日岳

10:07、19,040歩、種蒔山通過。地蔵岳に向かうのならここから真っ直ぐ広い雪面を下れば良いが、小屋の様子を知りたいので、切合に向かう。分岐の標柱から切合小屋までは全て夏道が出ていた。黒いパイプが登山道を横切っていたが、水は流れていない。12:18〜31、19,833歩、切合小屋の入口は雪があるため、種蒔山側の梯子から中の様子を伺う。特に問題はなさそうだ。

切合小屋


御沢をグリセードで下るが、途中から軟雪となり転びそうになる。沢筋に新雪が溜まっているらしく、足首まで潜って歩きにくい。12:44御沢分れ。ガスられたらよほど地形が分かる人でないと迷うだろう。ここで鎌倉の方と会い雑談。大日杉から地蔵山の間は誰とも出会わず、地蔵山から切合の間は人の列、切合から大日杉の間はこの方のみであった。

御沢コース

12:51〜13:48、21,810歩、御坪にて大休憩。暖かい陽射しと、時折肌をそよと撫でて行く空気のひそひそ話し。明るい海の中にいるかのような空の中に、真っ白な飯豊の主稜が立ち上がっている。まだ芽吹かないブナが、白と黒との斑模様になって、栂峰から吾妻連峰へと広々と幾重にも連なっている。豪華な料理なぞいらない。コッフェルのインスタントラーメン、僅かの缶ビールがあれば、至福の時である。
御坪から地蔵だけへと向かう。部分的に夏道が出ているが。多くは雪の上。雪庇の心配は少ない。ツツッチェ、ツツッチェとシジュウカラが囀る中、のんびりと歩く。

地蔵岳から振り返る

15:08、26,896歩、地蔵岳は三角点のみ露出していた。遠望するダイグラ尾根上部は、しっかりと雪で覆われている。山頂からキックステップで下る。尾根の様子がなんとなくおかしい。地図を出してみると、磁石で確認するまでもなく、間違いに気がついた。ボケッとして、滝切合から南に伸びる広い尾根を下ってしまったようだ。左にトラバースする。結構堅めの雪面である。
1,110m付近から部分的に夏道が出てくる。カモシカが蹄をV字に開き、雪粒を蹴散らして駆け下りた跡が、登山道伝いに続いている。16:02御田杉通過。とにかく今日は急ぐことはない。時間を潰しながらブラブラ下る。イワウチワが満開である。御田杉直下も迷いやすい所である。今度は早めに地図を開き、確認する。
16:06〜13、長之助清水。水音がするので下ってみると清水が湧き出していた。喉を潤す。清水から下部は、樹木の芽が賑やかになってくる。夏道が全て露出しており、980m付近からブナが色づいてくる。咲き始めた清楚なタムシバが道なりに連なり、足元にはイワウチワの可憐な薄紅色が登山道を敷き詰め、マンサクも咲いている。

イワナシ

16:30、ザンゲ坂。雪面をグリセードの足さばきで下ると、いきなり新緑のブナの森に紛れ込んだ。テツカエデの無愛想な芽が膨らみ、ウワズミザクラは若芽と花穂が出ていた。蟹の鋏のようなムシカリ、飾り羽を立て鈴を下げたオオバクロモジ。ブナは紅い殻をつけた若葉がまだ眠たそうである。
16:44、32,714歩、大日杉小屋に到着。本日の山行は終了した。