登山者情報404号

【1999年05月29〜30日/石転ビ沢〜梶川尾根/井上邦彦調査】

梅花皮小屋と今日でお別れである、小国山岳会のメンバーが集まった。温身平上の砂防ダムからウワズミザクラの咲くブナ林に分け入った。階段の上り口に大きな標柱が取り付けられた。うまい水で休憩、ニリンソウ・オオバクスミレ・スミレサイシン・サンカヨウ・キクザキイチリンソウが咲いている。

エンレイソウとスミレサイシン

地竹原の慰霊碑を過ぎて登山道は自然と雪渓に入る(雪が消えると小沢のある湿地)。いったん夏道に入りすぐまた雪渓に上がる。穴と亀裂の間を選んで右岸に移る(来週には左岸の夏道を登ることになるだろう)。滝沢出合は陥没が始まっている。梶川出合から上流部の雪渓は安定している。雪渓のなくなった梶川を登ろうとしている登山者を見かけたが、程なく間違いに気づいて戻ってきた。水場で一息入れる、岩が頭を出した。さらに上流の大岩も1個頭を出している。

滝沢出合(落合)下流と石転ビノ出合

石転ビノ出合でも、上部が平坦な大岩が顔を出したので、ここで休憩を取る。ここで皆はアイゼンを着けるが、私はアイゼンなしの方が歩きやすい。ホン石転ビ沢はまだ雪渓が続いている。以前ホン石転ビ沢に迷い込んで滑落した登山者を担いだことがある。入りこまないよう注意して欲しい。ホン石転ビ沢対岸の小沢の上流に水場がある。何時もの休み場である、ここで喉を潤し、暫時休憩。うっかりビデオカメラを雪に落としてしまうと、水滴がついたというマークが出て、何とも動かなくなってしまった。アイゼンを着けて出発。雪渓の途中で腰を下ろして休憩を取っている2人パーテイに「ここは落石の来る所であり、かつて足を切断した登山者がいるので休まないように」と注意する。

ホン石転ビ沢出合上流を行く

北股沢出合の水場(まだ雪に埋もれている)で休憩を取る。スキーで降りてくる者が数名。登山者が登っている最中に急斜面を降りてくるのだから、操作を誤れば大事故になり兼ねない、このように増えてきている現在、何らかの対策を検討する必要があるかもしれない。

北股沢出合の水場で休憩する関さんと滑降するスキーヤー

いよいよ急斜面に取りかかる。斜度は中程から、雪渓が折り曲がったようにそそり立つ。ジグザグにトレースがしっかりと付いている。私はメンバーの登る様子を横から撮影するため直登する。雪が柔らかくアイゼンの爪が良く効かない。スパイク地下足袋の関さんも文句を言いながら登っている。梶川に迷い込んでいた単独者がストックをつきながらキックステップで降りてくる。あまりのへっぴり腰に思わず「その格好では滑ってしまう、もっと腰を突き出して」と声を掛ける。20代後半位だろうか、軽アイゼンを着けた女性が日帰りザックを担いで登って行く。数パーテイがごっちゃになっていたので、どこかのパーテイだろう、それにしてもこれでは石転ビ沢を下れる訳がない、別な尾根を下るつもりなのだろうと思い、声は特に掛けなかった。

石転ビ沢の核心部を登る

梅花皮小屋では建設工事を請け負っている高橋工務店の方々やヘリコプターで先回りしていた藤田栄一さんが出迎えてくれた。ビールで喉の渇きを癒し、皆で管理人室の中を片付ける。水場に行くと、ミヤマキンバイが咲き始め、ハクサンイチゲが綻び始めていた。

二つの梅花皮小屋

ODDが下ろうとしている先程の女性を指差し、注意して引きとめないと大変なことになるぞと、私を突つく。皆も騒ぎ始める。仕方なくサンダルのまま雪渓に降りて行くと、登ってきた登山者に注意を受けている所であった。それでも下る意志は変わらない様子である。トレース以外は下らないように注意し、現在着ているカッパを脱いでもらい(滑落時の速度調整)、万一転んだ時の体制を教え、駄目な時は下から登ってくるGZKに助けを求めるよう話しをし、最後に一言「この時期にピッケル無しで来ること自体が間違っている」。小屋に戻りODDに対し、GZKに注意してもらうよう無線を依頼した。
私達より遅れて入山したGZKパーテイが小屋に到着したが、本人は着かない。聞くと案の定、無線で連絡を受けた女性を注視していたところ滑落。教えられた格好で落ちてくる彼女の下部に岩が出ていたので、小林さんと二人で降って来るアイゼンをものともせず体当たりで止め、その後北股沢出合迄送って行ったとのことである。ODDに指摘されるまでうっかりしていたが、次々に下っていくスキーヤーがトレースを消しているのである。ともあれ、遅くなって小屋に到着したお二人にご苦労さんと冷たい缶ビールを差し出す。
工事の方は貴重な晴れ間にもくもくと仕事。凄まじい爆音を上げてヘリコプターが何度も往復する。全員が揃った所で、ヘリコプターの合間を見て、LFDを神主代わりに神事を行う。ご配慮とご協力をいただいた佐藤さん始め工事の方々に感謝その夜はQVHとLFDが準備した米沢牛のステーキで、梅花皮小屋とお別れの杯を重ねた。

北股岳とお祓いするLFD
翌30日は03:00起床、ラーメンを煮ているとGZKが起きてきた、早速ビールで乾杯。何時の間にか宴会になってしまった。静かに寝ている方にごめんなさい。04:14梅花皮小屋発。朝焼けに雲が滝のように流れ込んで消えて行く。両手が冷たい、歩き出してまもなく軍手を取り出す。登山道は一面霜柱が立っている。北股岳の残雪はカチカチに凍みついておりアイゼンを出そうか迷ったが、昨日のトレースが幾らか残っていたのでピッケルだけで登る。トレースの上にはアラレ積もっていた。そういえば1週間前から小屋にいるOXOに聞いたところ、数日前も雪が降ったということであった。04:38北股岳通過。
亮平の池〜御西小屋

ギルダ原ではミヤマキンバイが咲き始めている。藪の中に数株のミヤマスミレも咲いていた。門内小屋で休憩。1パーテイが朝食の準備中であった。小屋から雪渓に下り、扇ノ地紙まで残雪とおしに小気味良い稜線散歩となる。

北股岳山頂から烏帽子岳と門内岳
扇ノ地紙から地神山

分岐から雪の上を歩いて夏道となる。何時もの残雪を下る、末端は氷が張っていた、昼は融雪水が取れるのだろう。今日の目当てのケルンに着く。ハクサンイチゲが満開となっており、ミヤマキンバイも多少咲いている。ビデオに撮影し、さらに進むとミネザクラ・ミツバオウレンが咲いていた。

ミヤマキンバイとハクサンイチゲ

梶川峰から下りとなり、イワウチワを見つける。1,680〜1,620mは迷いやすい雪の斜面であり、ピッケルを抜く。1,540〜1,480mの雪斜面はグリセードで下る。1,365m五郎清水分岐は雪で覆われている。左の水場に下る夏道が出ているので迷わないよう注意したい。当然ながら水場は雪の下である。清水分岐から1,290mまで断続あるものの残雪が続いている。ピッケルがなければ無謀登山の謗りを免れないだろう。カタクリ・ショウジョウバカマ・キクザキイチリンソウが咲いている。1,260〜1,165mも雪の斜面が続く。タムシバに迎えられて滝見場に着く。ここも雪に覆われている。滝見場に行こうとするとブナが倒れていた。

滝見場から石転ビ沢

このまま湯沢を下るか、登山道を下るか迷うが、下の状況が分からないのと、9:00頃まで自宅に帰る必要があるので、急げば回れと登山道に決めた。ムラサキヤシオ・マンサク・タムシバ・カタクリが咲いてブナ林は賑やかになってきた。この先鞍部まで、登山道を塞ぐブナの倒木がさらに3本あった。最後の残雪を踏んで1,020m峰に登り返し、湯沢峰(廃道との分岐点)を過ぎ、後は一気に下るだけである。下るにしたがい、ヒメシャガやオオイワカガミ・ヤマツツジが咲いてきた。08:08湯沢を渡り駐車場に到着。トチ・ホウノキ・タニウツギの咲く長者原を後にした。

滝見場から梶川峰を仰ぐ、途中で見かけたヒメシャガ

なお、残りの武田会長を始め、メンバーは午前中便槽を全て汲み取りし、埋め戻しを確認してきたとのことである。

29日:温身平砂防ダム07:31〜07:58うまい水(1,985歩)08:14〜08:30地竹原で雪渓に入る〜09:20石転ビノ出合(6,359歩)09:46〜10:28ホン石転ビ出合〜北股沢出合11:30〜12:19梅花皮小屋(10,227歩)
30日:梅花皮小屋(0歩)04:14〜04:38北股岳04:23〜05:15門内小屋(4,734歩)05:23〜05:38扇ノ地紙(6,207歩)〜05:52ケルン05:58〜06:05梶川峰(8,515歩)〜06:34五郎清水(10,563歩)06:43〜06:57滝見場(11,807歩)07:03〜07:23 1,020m峰(13,698歩)〜08:08天狗平駐車場(17,986歩)