登山者情報413号

【1999年06月26日/ダイグラ尾根〜石転ビ沢/JF7HZU調査】
最近は早朝の出発が苦痛になってきている。のんびりと天狗平に着くと、石転ビ沢を登ると言うJG7QKGが出発の準備をしていた。私は1歩遅れて、05:45自転車で出発。玉川最奥の砂防ダムに車を置いて歩き始める。桧山沢の吊橋を渡り何時もの急登に取りかかる。今年始めての半袖半ズボンは調子が良く、団扇を出すまでもない。勿論ザックには長袖長ズボンが入っている。日帰りと言うのにザックは小さくならないのは何時ものとおりである。高度計と地図でペースを確認する。10分間におおよそ100mの高度を稼ぐのが単独時の標準である。本日は早くもなく遅くもないといったところである。標高780m地形図が誤っている所で、道は右手の斜面を巻くように登る所だ。ここで今日最初の休憩を取る。以前はここまで一気に駆け登ったものだが、年齢の性か速度ギヤがトップに入らなくなっている。種蒔の池には先週鳥海山の鶴間池で見たモリアオガエルと同じ卵塊が下がっている。水が少なく嫌らしい臭いが充満している。周辺には春の花が咲いている。そういえば休場の峰まで殆ど花らしい花を見なかった。水場の分岐には私が作った標識が付けられているが色あせてきた。そろそろ付け替えが必要だろ う。JG7QKGから無線が入った。石転ビ沢の情報を聞く。彼は更に上に向かうとの事である。最後の急坂を大股で越えるとヒメサユリが一輪出迎えてくれた。休場の峰である。
休場の峰から宝珠山を望む
梶川尾根核心部
行く手の重なり合った峰を映し、暑くなって来たのね先に進み、景色の良い木陰で休憩とする。ようやく花が目に付き始めた。千本峰から下ると鞍部に残雪が残り、5m雪の上、続いて8m雪の上、ここで融雪水を補給する。1,499峰を東に巻いて宝珠山の登りに取りかかる。
1,500mに雪上70歩、ここでJM7ODDと交信する。1,640mに雪上30歩、この先は次々に雪が出てくる。25千地形図を持っている方は西側にある等高線の僅かなくびれを見て欲しい。そこが残雪のポイントである。1,650m雪上50歩、1,670m雪上70歩、1,680m雪上120歩、1,690m雪上60歩、1,710m雪上50歩と続く。標高1,730m西側に小さな尾根が出ており、ここが宝珠山の肩である。小さな草原状で高山植物が咲いている。「宝珠山」の標柱が倒れていた。地図上の宝珠山頂はこの先である。千本峰も山頂手前の樹林の中に設置されている。千本峰は以前に先輩達が樹林の中に板の標識を置いたので、標柱も同じ場所に立てたのであるが、板なら林の方が良いが標柱はその先のピークの方が適していると思う。宝珠山はいっそのこと岩稜まで移動しても良いと思う。どちらにしても担ぐのは私達だから仲間達と論議してみたい。
宝珠山の肩でピッケルを抜く。ここから宝珠山までの間は雪がべっとりと着いており、滑落すればイリミズキ沢底まで飛んで行く可能性がある。自信のない人はひたすら藪を漕ぐしかないだろう。宝珠山の山頂は東側を巻く。ここも25千地形図が誤っている所だ。宝珠山の岩稜はまことに気分の良い所である。岩稜といっても岩場を歩くわけではない。ただし下山時は宝珠山に向かって下り始める部分が緊張を強いられる。天狗岳からみると、宝珠山付近の鋸状凹凸が良く分かる。すなわち、宝珠山があり、岩稜のピークがあり、1,820m峰があり、1,812mの岩がある。このうち岩稜と1,820m峰の鞍部、1,820m峰と1,812m岩の鞍部に大きな残雪が残っている。さらに御前坂の登りにかかる所でも雪の斜面を登ることになる。
宝珠山の岩稜から飯豊山
宝珠山の岩稜から主稜線

御前坂にはイワウメ等の高山植物が爽やかな微風に揺れていた。急斜面が終わりかける1,940m付近に左側に行きそうになる枝道がある。昨年赤ペンキが問題になった所である。慎重を期されたい。
飯豊山頂着は11:46である。山頂の標柱には「飯豊本山」と書かれている。私が登山を始めた頃、飯豊山神社に「飯豊本山は神社のある場所で、この先の山頂は五ノ王子です」というような意味の看板が出ていた記憶がある。山都町史779頁に「飯豊神社の本体は言うまでもなく飯豊の山そのものであるが、形としては山頂に祀った一王子から五王子の五社権現の総体を言う」とあるので、三角点(五ノ王子)に標識があってもおかしくはないのかもしれない。いつか詳しく調べてみたいと思う。
飯豊山頂
駒形山(背景は大日岳)

JL7GZKと無線が繋がったので、これからの気象予報を尋ねると、今日中に雨が降ることはないとのことである。ダイグラ尾根を下るのが暑苦しそうなので石転ビ沢に変更する旨をGZKに伝える。飯豊山から玄山道分岐までは、ミヤマキンバイを始めとする乾性のお花畑が砂礫地を覆う。この世のものとは思えない雰囲気である。玄山道分岐からは湿性の植物群落となる。シラネアオイが目立つ。登山道にモグラの仲間の遺体があった。この手のものは生きている間は中々お目にかかれない。スコップ状の指先、小さく毛の生えた尻尾が印象的であった。草月平にかかると予想どおりハクサンイチゲが草原を埋め尽くしていた。ザックをいちいち降ろしている暇がない。ビデオカメラ(最近は全てDIGICAMによる撮影)を持ったまま歩く。この先は登山道が御鏡雪の上端となっており、道は殆ど隠れている。雪を取り缶ビールの保冷袋に詰める。
御西小屋

12:47御西小屋にて本日始めて人間と会う。女性二人で御西小屋泊だという。小屋は特に壊れた様子もない。登山者カードに通過の旨を記載して先を急ぐ。天狗岳に向かい3分ほど下った所で、登山道に融雪水が流れていた。小屋泊の場合は利用できるだろう。鞍部のみ夏道で雪上を上り天狗岳山頂で休憩。ラーメンを煮て、がんがんに冷えたビールを飲む。至福の一瞬。ここでピッケルを抜く。この先は殆どが雪上となる。
始めから急斜面のトラバースとなる。時間的に軽登山靴でもサイドエッジなら、キックステップが効く。基本的には全て東北側の雪庇上を歩くが、25千地形図を見ていただいて、桧山沢に突き出ている尾根の部分だけは夏道となる。雪庇から夏道に下る部分に注意を要する。天狗の庭は頂稜の巻き道を行く。かなり歩きやすくなってきた。御手洗ノ池は池・標柱ともに露出していた。単独の登山者にすれ違う、幕営をしたいというので、小屋周辺以外はテントを張らないで欲しい、どうしてもと言うなら雪の上にと答えた。4〜5人パーテイは今朝天狗平で会った方達で御西泊まりとのこと。小屋手前の鞍部で水を汲んで行った方が良いと助言して分かれた。亮平の池からは夏道となる。烏帽子岳の登りはハクサンイチゲが若干終わりかけと言った様子。稜線を越えて雪上を歩きクサイグラ尾根分岐となる。クサイグラ尾根の廃道はようやく跡形もなくなったようだ。分岐から再び夏道、ここで唯一シナノキンバイを見る。
烏帽子岳山頂は何時もながら素晴らしい展望台。
烏帽子岳山頂から御西岳への主稜線
北股岳
北股岳への登りは全て登山道が露出しているようだ。ついついオーインノ尾根に目が行く。20日に日帰りで登ったT.S氏が、新発田遭対の必死の捜索にもかかわらず、まだ見つかっていない。聞く所に寄れば、昨日で捜索打ち切りとの事、やるせない。僅かに雪の上を登って梅花皮岳山頂。あとはお花畑の中を下って、15:41梅花皮小屋着。
内装工事をしていた加藤さんに新小屋を見せていただく。素晴らしい小屋である。隣接する管理棟も骨組みが出来上がっていた。
建設中の梅花皮小屋

ピッケルを抜いて石転ビ沢を下り始める。草付きの広場にいったん上がる。ここから真っ直ぐの小沢が夏道のように感じるので注意すること。左端の小沢を下り、目がくらむような急傾斜の雪渓に出る。草付き(中ノ島)は、上端と下端で標高差100m、ようやく露出したばかりだ。北股岳寄りの斜面は落石の巨大な滑り台となり、草付きの表面を落石が走るだろう。梅花皮岳寄りの斜面をグリセードで下るが、所々亀裂が入り始めており油断ができない。特に草付き真中の水場付近は要注意だ。
北股沢出合には大小の岩が転がっている。上部から降ってきたものである。雪塊でなく岩が落ちてくる季節となった。ホン石転ビ沢下流の右岸から、春の雪崩跡の土砂が堆積している。日が陰ったせいか雪は結構堅く、ホン石転ビ沢の下まで軽登山靴で滑ることができた。
草付きの広場から草付き(中ノ島)
石転ビノ出合から石転ビ沢

石転ビノ出合右岸の水場で喉を潤し食事を取る。振り向くと稜線付近にガスがかかり始めた。赤滝の上、右岸側滝の水音が大きくなった。すぐ下流の右岸の水場は既に使えない。赤滝下流の二つの大岩手前から夏道に入る。雪渓は右岸に細く走り大岩の下流に雪橋が見えたが、通る気はしない。梶川出合の上で雪渓に上がりすぐ梶川へ降りて、20mほど梶川右岸の踏み跡を辿り飛び石伝いに渡る。まもなく梶川の合流点で渡ることができるようになるだろう。
梶川出合
本流左岸の残雪を踏んで夏道となる。昔「落合」の看板があったへつりは、崩壊のため大変に足場が狭い、要注意である。さらにもう一度残雪を踏んで地竹原に着く。
温身平にザックを置いて、桧山沢に自転車と取りに行き、17:58天狗平着。

経過時刻:05:45天狗平駐車場〜自転車〜05:58砂防ダム〜06:06吊橋〜06:18岩場〜06:25石楠花岩〜06:45休憩06:59〜07:11お池の平07:13〜07:23水場分岐〜07:44コメツガノ台地〜08:03休場の峰〜08:06休憩08:17〜08:50千本峰〜08:58融雪水09:04〜09:16巻き道後の鞍部〜09:49休憩10:00〜10:08宝珠山の肩10:18〜10:34宝珠山の岩稜10:41〜11:46飯豊山11:50〜12:03駒形山〜12:10玄山道分岐〜12:47御西小屋12:52〜13:03天狗岳13:39〜14:14御手洗ノ池〜14:32亮平の池〜15:05烏帽子岳15:12〜15:26梅花皮岳〜15:41梅花皮小屋15:56〜16:07北股沢出合〜16:28石転ビノ出合16:35〜17:30砂防ダム〜17:38十文字〜17:47砂防ダム〜自転車〜17:58天狗平駐車場
休憩を除く経過分(エアリアマップ):桧山沢吊橋〜103分(170)〜休場の峰〜113分(140)〜宝珠山の岩稜〜65分(85)〜飯豊山〜20分(30)〜玄山道分岐〜37分(40)〜御西小屋〜46分(60)〜御手洗ノ池〜51分(60)〜烏帽子岳〜29分(40)〜梅花皮小屋〜32分(120)〜石転ビノ出合〜63分(110)〜温身平

咲いていた花(写真はここをクリックしてください):全体としてシラネアオイが盛り、駒形山周辺のミヤマキンバイ等、草月平のハクサンイチゲは特筆に価する。ミヤマキンバイ・ハクサンイチゲは北部で一部終わりかけの所あり。
お池の平(タムシバ・オオイワカガミ・ムシカリ・オオバクロモジ・チグユリ)〜シロバナニガナ・ニガナ・ツクバネソウ〜休場の峰〜ヒメサユリ・カラマツソウ・マイヅルソウ・シロバナニガナ・タニウツギ〜ガクウラジロヨウラク・アカモノ・ヤマツツジ・ヒメサユリ・アカモノ・ハクサンチドリ・タニウツギ・コケモモ・オオバキスミレ・ミヤマキンポウゲ・エチゴキジムシロ・オオイワカガミ・ベニサラサドウダン・オオサクラソウ・シラネアオイ・ムラサキヤシオ・カタクリ・ゴゼンタチバナ・ショウジョウバカマ・ムシカリ・ミツバオウレン・ノウゴウイチゴ・チングルマ・ハクサンコザクラ・イワカガミ・ツガザクラ・ミヤマクワガタ〜御前坂〜ミヤマキンバイ・ミヤマダイコンソウ・イワカガミ・ツマトリソウ・ホソバヒナウスユキソウ・ハクサンイチゲ・オヤマノエンドウ・キバナノコマノツメ・イワウメ〜飯豊山〜ミヤマキンバイ・オヤマノエンドウ・ホソバヒナウスユキソウ・キバナノコマノツメ〜玄山道分岐〜ハクサンコザクラ・シラネアオイ・サンカヨウ・バイカオウレン・イワカガミ・チングルマ・ショウジョウバカマ・イワイチョウ〜御西小屋〜ハクサンコザクラ・シラネアオイ ・キヌガサソウ・バイカオウレン・ショウジョウバカマ〜亮平の池〜ハクサンイチゲ・ミヤマキンポウグ・イワカガミ・ホソバヒナウスユキソウ・キバナノコマノツメ・ミヤマキンバイ・ハクサンコザクラ・イワカガミ〜烏帽子岳〜キバナノコマノツメ・ホソバヒナウスユキソウ・ミツバオウレン・ハクサンイチゲ・ミヤマキンバイ・イワカガミ・ハクサンチドリ・ミヤマダイコンソウ〜梅花皮小屋〜石転ビノ出合〜サンカヨウ・ズダヤクシュ・キクザキイチリンソウ・ツボスミレ

万歩計:0天狗平〜7,294休場の峰〜15,175宝珠山の岩稜〜19,454飯豊山〜20,603駒形山〜24,198御西小屋〜25,490天狗岳〜31,937烏帽子岳〜34,512梅花皮小屋〜44,517温身平〜45,690砂防ダム〜46,375天狗平