登山者情報427号

【1999年10月09〜10日/石転ビ沢〜ダイグラ尾根/木内茂雄調査】
(10/9)
 今回の山行は変わった組合せのメンバーであった.高橋氏、関氏は小国山岳会で常連であるが、小山氏は昨夜赤湯駅
まで迎えに行ってきた、30年振りの山友達である。そして、もう二人は吉田の友達である奥野氏と山形大学の美人英語
教師のクリスさんであった。
 温身平に私の車を置き≡々五々に出発したが、時間の記録を忘れた。空は週間天気予報通り雲一つ無い快晴である。
先ずウマイ水清水で全員合流した。私が買ってきた葡萄を皆に渡したが、相変わらず毒舌のT氏“何だ!これは”ときた、
私も食べた。成るほど旨く無い、安かっただけはある。…休憩後、バラバラに出発した。梶川出合で又合流して殆ど休
まず、再び歩きだす。そして、石転ビノ出合で又全員合流して朝飯を食べた。今度は梨を取り出して、30年愛用のナイ
フで皮を剥いて全員に渡した。今度はT氏“旨い!”ときた。(当たり前だ!高いヤツだ。)
 ところが、クリスさんはかなり参っている様で食べなかつた。奥野氏も大汗をかいている様だ。揃って出発したが、
自然と高橋、私、小山、そして、奥野、クリスをサポートする関の順番で歩く様になった。次第に高橋、私が先頭を歩
く様になり後四人とは距離が離れた。
 石転び沢は雪渓でなくガレ場となっていて、上部の方にニカ所雪が見えるだけであった。途中、大きな石と石の間に
挟まっている一抱えもある石の上に乗った時、ゲラツときて一瞬にして50センチ位その石と一緒に落ちてしまった。そ
して、左足の太ももには落下した石の打撃を受け、右足の脛をそばの大石に思いっきりぶっつけてしまった。“痛いの
痛くないの!本当に痛かった”暫くうめいてしまった。直ぐ上を歩いていた高橋氏が“大丈夫か!”と聞いてきたので
“大丈夫だ!”と平静な顔をして答えたが内情は激痛で参っていた。その時、大分大きな音がしたと高橋氏は言ってい
た。何とか我慢して歩き始めた。途中この時のダメージで両足がツリそうになり、胡麻化し、胡麻化し歩いた。
 本石転び沢下辺りに雪渓が残っており、左岸沿いの雪の上を少し歩いたが直ぐに左岸のガレ場に降り、そしてガレ場
を歩くこと暫し、北股沢の下辺りに雪渓が残っており、これも又少し雪の上を歩いただけで左岸のガレ場に降りた。少
ない雪とはいえこれは冬まで残りそうだ。
 黒滝で高橋氏と休憩する。右足の毛糸の長靴下の脛を見ると、何所かでペンキでも付けたのか赤いので、触ってみる
と血であった。先ほどの浮き石と落下した時の傷が出血している様だ。そのまま放っておく。
 休憩後、歩き初めて黒滝の直ぐ上から雪渓の下の方を見たが小山の影が見えない。最後尾に居ると思われる関氏に無
線で問い合わせてみると、両足が痙攣して休んでいるとのことであった。天気は良く気温は25℃で、見通しも良く大丈
夫そうだと言うので、再び中ノ島の草付きを登り始める。この間に高橋氏は100メーターも先に進んでいた。私はツリ
そうな足も何んとなく落ち着いているので、亀の子の如くユツクリと進む。そして、この急な登りも亀の子にはかなわ
ない、ついに新しい梅花皮小屋前に出た。
 早速、麦の泡を飲む。何とも言えない感無量である。新しくなった小屋を始めて見る。一階には水洗トイレ二つと古
典的トイレ一つの計三つ有るので、朝出発時の混雑は大分緩和されそうだ。乾燥室も有る。そして、ニ階にはサルバシ
ゴでなく、ユッタリとした階段で上がっていける。新しく広い、更に屋根裏部屋というか、立っては入れないが三階が
有る。勿論二階には非常口兼冬用の出入ロが有る。以前の小屋と比べ大分広くなり快適で有る。難を言えば一階の玄関
が暗い事で有る。何所かに明かり取りがあればなあと思う。
 一通り見学して、別棟の管理人室に戻る。少し寒いので温度計を見ると12.5℃であり、吐く息が白いのでストーブを
つける。右足が気になったので、靴下を脱いで見ると傷が開いていた、下界に居れば外科医が二針縫うだろうか、キズ
絆を貼って胡麻かしておく。まだ来ない4人の中の関氏に無線連絡をして、全員行動中の確認をする。今回は3連休なの
と、新しい小屋の情報で結構登山客も入って来ている。
 さて、6人全員揃い、夕食のメニューは“山形名物芋煮”ときたもんだ。当然であるがアルコールはつきもの、ビール
に酒にと楽しい一夜を過ごしたのは言うまでもない。ところが、小山は可哀想に肝臓を壊し、ドクターストップとのこ
と、お茶でつきあっていた。これも“お茶を濁す”一つか…。
(10/10)            
 昨夜は毛布二枚では少し寒かった。今日も快晴である、何の文句も無し。今日は御西迄なのでラーメン餅の朝食をユ
ックリ済ませ、小山と二人で小屋を出たのは8時少し前であった。普段は何とも無いカイラギ岳が、昨夜のアルコールの
せいか軽やかな足取りとはいかない。その足元を見ると、毛布二枚では寒かったわけだ、霜柱がたっているではないか。
頂上で、
東西南北、所謂360度の大パノラマの景色を見回す。山に来て気分が大きく広々とし、そして最大にスッキリする一時で
ある。小国町が雲海の下になっている辺りをカメラに納める。見慣れた道を先に進むが、もう花は何も咲いて居ない秋
の景色である。御手洗ノ池の畔の木も紅葉していたが、今年のは余り綺麗ではなかった。それでも、二、三回シャッタ
ーを押した。 
御手洗ノ池
 途中、天狗の庭で昨夜顔見知りになった、新潟の“昔のお嬢さん“二人が所謂”野点”というのか本物のお茶を点て
ていた。私たち二人も其処に座りこみ、雄大な大日岳を目の前に眺めながら、作法は知らないけれど一杯頂いた。これ
が誠に旨かった。!“ビールに負けるとも劣らず’’と言ったところか…。天気も最高だし、この趣向もまた格別なり、
もう一杯と言いたかったが何せ高貴な作法の事につきグッと我慢した。隣にいる小山を見ると平気な顔をしていた。成
るほどアルコールはドクターストップで毎日お茶ばかりだからだろう、と、思った。名残惜しいが別れを告げ先に進む。
御西迄は極端な登りも無く、ノンビリ稜線慢歩と洒落込む。
天狗岳
 御西小屋では服部君が管理人をしていた。彼に会うのは2回目であるが、歓待してくれ早速、一杯御馳走になった。一
服後、サブザックに少し物を入れ大日岳に向かった。小屋から少し下っていくと、大きくカールになっている所にチン
ゲルマが群生している。勿論、花などは咲いていなくて今は紅葉である。真夏の異状気象の暑さが長かったせいか、綺
麗に紅葉しているものと、くすんだ色をしたものが混在していて辺り一面紅葉とはいかなかった。途中、右下に有る文
平ノ池に降りて“逆さ大日”をカメラに何枚も納めた。去年もイイ写真が撮れたが、地面に風があったため“逆さ大日
”は写らなかったが今日はイイのが撮れそうだ。
逆さ大日岳
 景色に満足して再び大日岳へと向かう。天気は良く辺りの景色を邪魔するものは何もない。目の前には大日岳がスラ
ツと恰好良く聳えている。北股岳の登りより高そうだ。下を見ながら右足を見ると、又血がにじんでいる様だ。大日岳
のピークに立って見ると、西大日が近く見えるので足を延ばした。道はハッキリしていて迷うことはない。小さな池塘
が二つばかりあった。それから、夏が猛暑だったせいか一ケ所這松が茶色く枯れていた。
 西大日のピークに立って見ると又その向こうにピークが更に一つあった。小山も行こうということなのでまた、それ
に向かった。此処からは踏跡が不鮮明である。草や笹薮を漕ぐようにして進む。露でも付いていれば、たちまちにして
ビショ濡れだろう。そして、そのピークに着いた。これが薬師岳とのこと、振り返って見るとやはり、西大日、更には
大日岳の方が高かった。当たり前のことではあるが、大日岳まで帰りの方が少しづつ時間がかかった。この道中は初め
て来たので、夏、どんな花が咲いているか判らないが、紅葉しているチンゲルマは大分見掛けた。シヤクナゲも見掛け
た。帰り道、又、文平ノ池に寄った1。今度は反対側に回り込んで“逆さ烏帽子”を狙った。来る時とは光が逆なので何
とか画面に入れたが、大日岳程にはいかなかった。
 御西小屋に帰ったら午後4時になっていて、日も大分西の空に低くなっていた。夜は、豚肉のショウガ焼で一杯となっ
た。うらめしそうな小山には申し訳ないがまずは最高な夜であった。
御西小屋から大日岳
(10/11)
昨夜は少し暖かった。明け方の外を見ると上空は雲がかかっていた。しかし、東の空は雲が切れていて、朝日を見るこ
とが出来た。天気予報は崩れるとのことであったが? ラーメン餅の朝食を済ませ、大勢の登山客に続いて出発した。
途中、小山は小屋で済ませられなかった用を足していたので、私は玄山道分岐まで行って待っていた。此処の分岐から
右に本山をまいて行くと直ぐに旨い涌き水が三カ所ばかりある。そして、真っ直ぐ飯豊神社に行くのが旧道というか、
昔の参拝道で、左駒形山経由本山頂上を通過する道が玄山道とのこと。我々は、新しくなった本山小屋を見学するため
道を右にとった。この道は現在あまり利用されないため途中踏み跡を見失うことがあるので、霧等見通しの悪い時は注
意が必要である。尚、このコースの夏は結構良いお花畑で楽しませてくれる。今は名残として、チングルマの紅葉が見
られた。
 稜線に合流した所にザックを直いて数分で本山小屋に行った。前と同じ場所に同じ大きさで建っていた。冬用の出入
ロは御西小屋方面の向きに、サルバシゴが付いていた。そして玄関は以前と同じ位置からであった。中に入って見ると、
直ぐ右に管理人室が有り更に内ドアを開けると、たたきの両側が板の間になっていた。直ぐ左を見ると男女の更衣室が
各々一つづつ有った。これは良いアイデアだと思う。唯、スペースを有効利用するならば一つでも良いのではないだろ
うか…?。それから板の間に10m位の穴が何カ所か開いていた。これは何だろう、水抜きか、床下の湿気抜きだろうか?。
それから板の
間1ケ所に家庭の台所に有る床ビットみたいな蓋が有ったので、持ち上げて見ると床下にコンクリートのビットが有つた。
そのビットに床下奥の方から細い溝が切ってあり、このピットに落としこんでいる。床下の水溜めだろうか?。
 二階に登ってみる、上がるには以前の様なサルバシゴで無く立派な階段で行ける。上まで土足で上がる様になってい
るが、小屋を何時までも綺麗にしとくのには、一階から素足の方が良いのではないだろうか…?。二階の寝る板の間ま
で土足で上がった跡がある、世の中には本当に自分勝手な者がいるものだと怒りが込み上がってきた。さて、全体に見
回して新しい小屋はいいなあと思った。尚、トイレは以前から外に有るものを利用する。
 一通り見学して、ザックを置いた所に戻った。そして、本山まで一歩き、頂上で休まずそのままダイグラ尾根を下り
始めた。この頃、天気は良くなり快晴となっていた。これから下る尾根を見下ろすと宝珠山迄10数人下っているのが良
く見える。こんなに多くの登山客が降りるのは珍しい。きっと、目的は紅葉だろう。            
 途中で咲き遅れたタテヤマウツボグサ、ハクサンシャジン、オヤマリンドウを見掛けた。紅葉も満足できるものでは
無い
が時々鮮やかなものが見られた。今年はこんな感じで終わるのではないだろうか…?。我々“オジン”メンバーでも20名
位は抜いたろうか、下に着く頃は先頭になっていた様だ。
 今回も蔵王のGZKと何度も無線交信したが、この尾根を下る時にヌケオチなる茸をオミセゲにと頼まれたので、所定の
場所を楢の大木を見ては根本に舞茸は無いか、ブナを見ては目の高さ辺りにヌケオチは無いか、と首を回しながら探した
が下に降りるまでついに収穫はゼロであった。翌日、知人のY氏に話たところ、実は前の日に大きめのヌケオチを採って
きたとのこと、残念ながら一日の差であった。
 最後にこの尾根は西向きのため、何時も湿気が多く石には苔が付いて滑り易いが今回は三日間快晴であったのと、慎
重に降りたせいか何も無かった。(恥かしながら、私は過去に三回、油断して苔に足をとられ頭から落ちた。)そして、
落合の吊檎に小山と二人で無事到着した。
温身平に置いた車に着いて、或る場所に置いたキーを探したが無く、誰かにイタズラされ隠されてしまった。そのため
非常に難儀をした。三日間も天気が余りにも良かったので神がヤキモチでも焼いたのだろうか?
                                                                 
追伸
 翌週の10月17日飯豊連蜂の七合目辺りまで初雪が降った。

メンバー 高橋、関、奥野、クリス、/小山、木内(記) 
タイム (10/9)石転び出合9:35〜11:55黒滝〜12:45梅花皮小屋(10/10)梅花皮小屋7:55〜8:20梅花皮岳〜
8:40烏帽子岳〜11:20御西小屋〜文平ノ池〜大日岳〜20分〜西大日岳〜 10分〜薬師岳14:05〜14:17西大日岳〜
14:42大日岳〜16:00御西小屋(10/11)御西小屋5:50〜玄山道分岐〜7:10本山小屋への稜線と合流〜7:15
本山小屋〜7:35飯豊本山〜千本峰〜11: 07休場の峰〜12:55落合吊檎