登山者情報458号

【2000年05月29〜30日/石転ビ沢〜梶川尾根/飯沢徹・渡部政信調査】
《登山コース》
   飯豊山荘⇒石転び沢⇒梅花皮小屋
   梅花皮小屋⇒梅花皮岳⇒烏帽子岳⇒梅花皮小屋
   梅花皮小屋⇒北股岳⇒門内岳⇒扇ノ地紙⇒梶川尾根⇒飯豊山荘
《日時とコースタイム》
  2000.5.29.(月) 
8:50 飯豊山荘発
10:20 滝沢との出合の先から雪渓に乗る
11:10 石転ビノ出合
13:55 北股沢出合の上、黒滝付近
15:17 梅花皮小屋着
  2000.5.30.(火)
 4:40 梅花皮小屋発
 5:10 梅花皮岳
 5:30 烏帽子岳
 6:00 梅花皮小屋戻り 朝食・梅花皮小屋掃除と管理人小屋の棚卸等
 8:40 梅花皮小屋発
 9:00 北股岳
10:20 扇ノ地紙(雪道を地形と方位をたどりながら降る)
10:30 ケルン
       雪道のため、五郎清水上部の尾根に取り付けず、左側の尾根に降ってしまう。登り返し、雪渓をトラバースし、ようやく登山道に戻る(緊張、緊迫の90分)
12:00 登山道に戻るが、またまた急勾配の雪渓を降る
12:25 五郎清水らしきところを通過(雪渓)
12:35 滝見場らしきところを通過(雪渓)
12:45 ブナ林の木立の下、根開きしたところで昼食と昼寝
〜13:30 夏道を探しながら、再び雪の上を歩き始める
14:00 湯沢峰らしきところを通過(雪道)
15:10 飯豊山荘着
《調査メンバー》
   渡部 政信(JJ7EHJ)、飯澤 徹(JM7IBY)
〔プロローグ〕
 今回の登山計画は、渡部政信氏の発案によるものであった。昨年の小屋じまい(旧梅花皮小屋の解体を前にしてのお別れ会と小屋の荷物の整理やトイレの後始末などを行った)に参加し、来年も同じ時期に梅花皮小屋まで登りたいと話したこと。また、登山者情報456号井上邦彦氏調査梶川尾根・石転び沢ルート(5月23日)をいただいたこと。加えて、3月に計画したスキーでの登山と滑降が、天候の悪天により途中で断念(小国猿鼻山、蔵王地蔵からライザスキー場への縦走)したので、つぎこそは天候のいいとき
に登ろうと話していたことなどから温めてきた計画であった。
 しかし、大雪の情報や12月の大日杉ルートからの遭難の情報を得ているので、天候がよい場合のみ登ろうと話していたし、2日目の天候が悪い場合は、烏帽子岳までのルートをカットするとか、梶川尾根ルートを止めての石転び沢ルートでの下山、さらに、一日目も天候が悪くなれば、すぐさま引き返すなどエスケープも考えたうえで臨んだ。
 しかし、どうせ行くなら梅花皮小屋の掃除くらいと思い、管理棟の鍵を借りに行ったところ荷上げや棚卸のお役目まで引き受けることとなった。
 前日が、強風で土砂降りの雨。29日の予報は、低気圧が午前中抜けて昼頃から晴れ上がり、30日は好天に恵まれるであろうという情報を得て当日を迎えることとなった。
 長井出発4:50。飯豊町に向かうと吾妻連峰に朝日があたりひかり輝いている。しかし、宇津峠の方はどんよりとした曇り空。飯豊連峰は暗い雲の中であった。国道113号に入り、白沼に入ったあたりから、風が出で来るくる。
子子見トンネルを過ぎたところからは雨降りとなってしまった。
 政信君宅6:00。奥さんに見送られ、飯豊山荘に向かう。天気予報と朝に見た吾妻の輝きが印象深く、ゆっくりと車を走らせ7:00に山荘着。あたりは、かなり明るくなってきてはいるものの、風が強く小雨が混じっている。雨具を着て歩くのがいやなので、行動食を車中でとり、晴れるまで車の中で寝ることにした。
 8:30。山菜取りや魚釣りの人が戻ってきた音で目がさめた。車のフロントガラスにブヨが集まりだす。行動計画としては、時間的にぎりぎりとなるので、出発準備をはじめる。一人の写真撮りの年配の方が、私達の隣に車を止め、先にスタート。8:50.我々も、ゆっくりのんびり、天候の回復を願いながら(信じながら)スタートすることとなった。
〔エピソード1〕
 温身平を過ぎ、砂防堰堤に向かうとブナの大きな枝が落ちており、大雪の影響かと考えさせられた。堰堤のところで、先に進んだ写真撮りの方を追い越す。堰堤を過ぎるとすぐさま雪道になり、障害物競走のような歩行となった。雪の落とし穴に落ちないよう、柴のハードルを越え、はたまた、柴の地雷を踏まないようにと。マタギの方について歩いたことが生かされる場面であった。熊狩りのときのように、スパイク長靴に杖を持ったほうが、歩き易いなあと思っていると、左側の沢から今まで聞いたことのない生き物の声がした。何か鳥のような、山羊のような鳴き方。アヒルよりは高い声。沢にいるから鳥かなと思うが、政信君が振り返り、初めは『何の音だ。』と声をかけたが逃げていかない。二人とも足をとめ立ち止まるが、同じペースで泣き続けている。後ろを歩いていた私が、3メートル左側の沢を柴につかまりながらゆっくりと7〜8メートル下の音がする方を覗き込むが、姿は確認できない。以前として、声は同じペースで聞こえてくる。『何だと思う。』と再度政信君に声をかけて対岸を見たとき、黒く動く物体を確認。熊である。しかし、声の主とは違う。すぐさまカメラを構え撮影を 始める?。(しかし、急いでいたので電源は入れたものの、撮影開始のボタンを押すのを忘れてしまった。まったく間抜けである。)対岸の熊は、体長1メートル弱。沢から対岸を登ろうとするものの流石の熊も簡単に登れるようなところではない。雪に登りかけたり、岩に登りかけたり、木に登りまた降りるなど必死に逃げようとしているというか親熊を追いかけているように見えた。この間約1〜2分。振り返るとさっきの写真撮りの人が近づいてくる。とっさに、私はセコのシャナリを始める。対岸のシシは姿を隠したが、もうひとつの声は、動けないところにいるようで、一向に泣き止まない。姿を確かめたいと思いつつも、変なことに巻き込まれたくないと先を急ぐこととした。ここで、録画なっていなかったことに気づく。(あ〜あ!残念)
 今、思うと親が先に逃げてくれて良かった。思うばかりである。マタギの方と一緒に山に入るときは、シシにセイをとられないように最新の注意をするわけだが、沢づたいに移動するときは、リュックに鈴を2つも付けていてもこんなことになるものなんだと思った。おそらく、昨日は大荒れの天気で穴から出ることができないでいて、今日ようやく天候が回復してきたので行動を開始したのではなかっただろうか。また、激しい沢の流れの音で、自分達に気づくのが遅れたのか、または、この間まで渡っていた雪橋も沢に落ちてしまってあんなことになったのではないかと思う。
 この情報を井上さんに報告したところ、親熊に遭遇するかもしれない非常に危険な状態であったことと、以前にも登山者が熊を目撃したポイントだったということをお聞きした。熊も住んでいるエリアに私達が足を踏み入れるわけなので、事故がないように最新の注意をしたいものである。
 この先、幹の直径が50センチはあるブナとナラの木が、片斜面の登りの登山道ふさいでおり、通過に時間がかかった。その後、雪に覆われているうまい水通過。梶川の出合の手前約200メートル、滝沢との出合の上から雪渓の上に乗ることとなった。熊にあったことなどから、ペースはガタガタになったもののここから強い日差しが照りだし、青空が見え出してきた。10:20。
〔エピソード2〕
 雪渓の状態は、最近降った雪が解けた感じで、靴が3〜4センチ沈むようなやわらかさであった。私は、12本爪のアイゼンで蹴り爪のついているものを使ったが、政信君は8本爪のもの。雪渓の状態では、差が出るものだと思った。(コンディションや技術で違いはでると思うが)。石転ビノ出合には、1メートル50くらいのプロック雪崩の塊が、我が物顔で登ろうとするルートに止まっていた。また、前出の登山者情報にもあった右岸のブナの根元50センチくらいからの幹折れを確認。幹の直径25〜40センチくらいの木ばかりで、細い木は折れていない。雪の重さで折れたのではなく井上さんの分析通り、雪崩の衝撃によるものかと大自然のパワーの凄さを見せ付けられた。
ババマクレ付近から滝沢出合 石転ビノ出合にて
 落石等の心配が少ないところで、早めではあるがアイゼンをつけ、おにぎりを1個ずつ食べる。出合の石はまだ顔を見せておらず、一年前は石の上で休憩したことを考えると積雪量の多さを測り知ることができる。前方北股岳と梅花皮岳は、次々と新潟県側から雲が湧いてきて、稜線が隠れたり見えそうになったりを繰り返す。しかし、夏場なら見える梅花皮の小屋は見えない。昨年は、荷物降ろすヘリコプターをここから見ることができたことを思い出す。すると、左手後方から、バリバリバリという音とともにプロック雪崩が発生。はじめは、大した大きさでないと思っていたが、氷の塊が割れながら数を増し、跳ね上がる高さをグングン増しながら、広がっていく。跳ねる氷の高さは、10センチくらいの大きさのものは、斜面を下っていることから50メートル以上も跳ね上がっているようにみえる。私達の登って来たルートまではかからなかったことを安心するものの、もっと大きいものが運悪く自分達を襲ったら走って逃げても無駄のように思われたし、走れないような雪渓の斜度のところでは、どうすることもできないのだと感じた。
 北股沢との出合の100〜300メートル下の付近には、右岸からの雪崩の後で、根こそぎ削りとられた10メートル四方くらいの柴山と、その下に雪渓の幅の8割を距離にして200メートルの区間、大きさ50センチから2〜3センチまでの砕石が散りばめられている区間があった。また、雪渓を登ってみるとわかるが、たくさんの横に口を広げたクレパスができている。縦走して、石転び沢をスキーで降りたいと考えていたが、この時期にこんなところをスキーでは降るものではないんだと思った。なぜなら、あれだけの砕石を敷き詰めた斜面を滑ることのできる強靭なスキーや壊れないブーツはないと思う。また、縦走では斜面のインスペクションができず、立っているポールや木のようなものは避けられても、直前で見えるクレパスはそこに突っ込むしかないだと思った。
 北股沢との出合を越すところあたりから、幸運にも雲もなくなり、すばらしい展望が広がる。それだけで、エネルギーが沸いてきて、最後のシビアな登りにかかる。慎重にキックしながら進む。小屋手前の雪庇は、予想以上に大きく小屋の手前80メートルくらいにならないと小屋は見えない。視界が悪いときは、どうするものかと思った。15:17着。
北股沢出合から石転ビ沢上部を仰ぐ ようやく梅花皮小屋に到着
〔エピソード3〕
 小屋と水場の情報。小屋は、ほんとに立派で快適である。到着した時刻で、小屋の中は、8℃。夜はかなりの風が吹いたが、安心して過ごせた。従来の水場は、まだ、チョロチョロの状態。小屋の裏に引いてきている水は、十分過ぎる量であった。お役目として、トイレ掃除や棚卸をさせていただいた。
 ノートをみると、秋から冬にかけて利用した人達が、快適に過ごすことができた感謝のメッセージがたくさんあった。
〔エピソード4〕
 『ミレ二アム2000年に、2000メートル(?)の梅花皮岳に立つ。』弥輔さんが言われた言葉が、とても気にいっている私は、何としても梅花皮岳に立ちたかった。「政信君に天候がいいので、出かけて来る。」と断り出かける。(行動食やアイゼン・ピッケル等最低限の荷物を持ち出かけるが、途中で無線を入れることを約束して出かける。4:40)ゆっくりと足を進めようと思いつつも、あまりにもすばらしい天候、身震いするほどの大展望や小鳥達のさえずりに徐々にペースが上がっていく。梅花皮岳に立つとしばし同じところまわりながら何度も周りを臨み見た。ちょっと足を伸ばし烏帽子岳までいくことにした。雪道を降り、稜線を進む。烏帽子岳に到着。ますます空は青さを増す。風も弱くなってくる。「また、ここにくるぞ。」と誓いつつ360度の大パノラマを記憶に焼き付ける。小屋に無線を入れると(5:30)、小屋からの波が弱い。蔵王連峰を縦走に出かけたの鈴木さんから応答していただく。いつもサポートしていただいている。蔵王朝日はもちろん、月山も見える。反対側、新潟方面の山々もはっきりと確認できる。なんとも贅沢な気分である。しかし、北股岳への登りが上部半 分雪道であり、雪庇の大きさを予想すると気を引き締められながら小屋へ戻る。6:00
烏帽子岳山頂から御西岳 烏帽子岳山頂から大日岳

〔エピソード5〕
 8:35。朝食に朝寝、小屋の清掃や整理整頓を確かめて梶川尾根に向けて北股岳に登り始める。アイゼンはつけず、キックステップで進む。雪庇の風上側(左側)を慎重に進む。逆ルートで視界が悪い場合は、小屋に向けて降るのはかなり難しいと思われる。風と斜度から、左側に流されていけば石転び沢に滑るとというよりは、真逆さまで飛び落ちていくこととなる。右側の洗濯平の笹薮に入ってしまえば、迷ってしまうことになるだろう。風がつよいところなので注意されたい。9:00。北股岳に立つ。新潟の街並み、さらには佐渡ヶ島も見える。こんなによい天候はそうないだろうと、今回一緒登れなかった人に申し訳ないなあと二人で話し合い先に進む。稜線は花が咲き始め、ミネザクラも真っ赤に蕾を膨らませて後少しで開花しそうであった。
梅花皮岳途中から北股岳 北股岳山頂
北股岳山頂から石転ビ沢 扇ノ地紙から地神山
〔エピソード6〕
 10:20。扇ノ地紙。山形側には、沢山の雪が残っている。降りに入ったわけだが、すばらしい天候と展望とは裏腹に、雪道のためルートを確認するのがたいへんであった。扇ノ地紙(1889m)から湯沢峰(1020m)まで、ほとんど夏道がでていない。確認できたのは、ケルンと梶川峰、湯沢峰手前の登り返しと湯沢峰くらいであった。特に、梶川峰から五郎清水の下らしきところまでは、降り勾配がきつく、どの尾根に取り付けばいいのか迷ってしまった。井上さんからの情報を得てはいたものの、言われたとおり左側の尾根に間違って取り付いてしまい、登り返しと雪渓のトラバースに90分もかかってしまった。斜度は、石転び沢の黒滝付近と同じくらいであるのに加えて、下に降るほど斜度がきつくなっているのがいやらしい。二人とも、言葉には出さなかったが、ここが死亡事故のあった場所だとわかりながらのトラバースであった。天候がよく、山荘が見えたり、進むべき尾根や丸森尾根が確認できたにもかかわらず、斜面の斜度のきつさから無意識のうちに左側に取り付いてしまった。事前に地形図を研修してから降るべきであったことを後悔した.キクザキイチリンソウ、イワウリ ワが咲いていた。
ギルダ原で見かけたミヤマキンバイ ケルンで見かけたハクサンイチゲ
五郎清水方面を仰ぐ 滝見場から石転ビ沢
12:25 五郎清水らしきところを通過(雪渓)
12:35 梅花皮大滝がきれいに見える雪渓の上を通過。ここがたぶん滝見場だったのだと思う。
12:45 ブナ林の木立の下、根開きしたところで昼食と昼寝
〜13:30 夏道を探しながら、再び雪の上を歩き始める
14:00 湯沢峰らしきところを通過(雪道)
15:10 飯豊山荘着
〔エピローグ〕
 今回の山行を振り返ると、まだまだ慎重に地形を読む技術等の力量がないことを痛感した。天候が急変した場合は、厳しい2日目になっただろうと思われる。道標があり、道が整備なっているルートでの登山とは、まったくの別物であった。井上さんのように、山を知り尽くし、技術がある方の日帰りレポートを2日かければ自分達もできるだろうと感じていたことは、少し無謀であったと思う。
 しかしながら、また来年、入梅前の天候のよいときに、飯豊のでっかい懐に飛び込みたいと強く思ったところです。今回の登山ルートは、梅花皮小屋を利用したコースとしては、人気の高いものです。安全登山の参考にしていただければ幸いです。
以上