登山者情報488号

【2000年07月29日/ダイグラ尾根遭難/井上邦彦調査】

08:30自宅でVQOの交信を傍受、事故が起きたらしい。GYKとの交信で状況を入手する。
「JA7AYIから無線連絡。宝珠山の下で滑落事故発生。AYIが下って支援し、自力で尾根上まで上がった模様。詳細不明」
08:40GYK・GCSに再確認する。「夫婦がダイグラ尾根を下山中、夫が滑落事故。本人が自力で尾根上まで上がってきた。頭を切っており足も打っているが、自力下山可能。AYIと一緒に下山するという。救助要請はない。下まで迎え頼むというのは車道の終点までの迎えと思われる。以後、いくら呼んでもAYIと交信できない。なおGCSは樽口峠まで登って、無線で呼びかけている。登山者指導を終了したIIVが現在小国警察署に向かっている。GCS はこのまま応答がなければ一旦自宅に戻る」
本山小屋管理人VQO「それは昨夜本山に泊った方、住所・氏名・生年月日を送る…」
ここまでは自宅で交信し、小国警察署に出向く。
10:00過ぎに、ようやくAYIと小国警察署で交信ができた。 先ほどとは変わって、救助要請である。
AYI「事故の発生は08:30頃。倒れている看板に{→本山、←千本峰}と書かれている(宝珠山の肩)を過ぎている。現在位置は千本峰の手前。途中まで下山中に、右脇腹が痛くなってきた。呼吸もきつい」
HZU「現在地の標高は分かるか」
AYI「腕時計の高度計は標高1,660mをさしている」
HZU「それは何時の時点でセットしたのか」
AYI「飯豊山の山頂でセットした」
HZU「それなら信用できる。気象状況を送れ」
AYI「風はなく視界良好」
HZU「具体的に、地蔵岳方向は見えるか」
AYI「頂上は見えないが、山肌は見える」
HZU「脈拍数を30分毎に計って送れ」
AYI「現在(10:10)1分間69である」
HZU「体重は幾らあるか」
AYI「75kg」
HZU「脇の下に両手を入れ、持ち上げるように力を入れて痛くないか確認すること。脇腹を押してみていたくないか確認すること」
AYI「脇の下は痛くない、脇腹は圧迫すると痛がる」
HZU「標高1,600m付近の東側に大きな尾根がある。その分岐付近の足場の良い所で待機するように。それ以下に下ると樹林帯になりヘリコプターの搬送が難しくなる」
本部ではヘリコプターの手配を行うと同時に、小国町立病院から医師のアドバイスを受けた。その結果「血気胸の疑いもある」とのことであった。そうだとすれば一刻も早い搬送が必要である。
県警本部との連絡の結果、県警ヘリ「月山」の出動が決まった。小国警察署の高山係長が眼鏡をコンタクトレンズに替えて、フライトの準備を始める。搬送先の病院は長井市立病院と決定した。
10:40頃の交信 。
AYI「脈拍は1分間99回、ヘリはまだか」
HZU「ヘリはまもなくフライとする。到着まで1時間くらいは要する気長に待っていること。気象状況を送れ」
AYI「蔵王連峰が見える。天候は回復傾向にある」
HZU「その近くにヘリの障害物はないか」
AYI「5mほど離れた所に、高さ5mの樹木が2〜3本立っている」

11:00月山が神町を飛び立った。 11:26月山がスポーツ公園に着陸。高山係長が乗り込む。
11:47月山から「収容」の連絡が入る。

遭難パーティの行動記録
7/20
東京駅07:56発。郡山で乗り換え、山都経由で川入民宿村杉荘宿泊。
7/21
05:00村杉荘発。06:00奥の駐車場(おさわより登り始める。14:00切合小屋着。
7/22
06:00出発。09:00飯豊山通過。10:30御西小屋着、昼食する。11:15梅花皮小屋に向けて出発。ここまで全員順調。12:00天狗岳下の雪渓にてIさんが足を滑らせ70〜80m滑落。Sさんら4名は御西小屋へ連絡に向かう。15:00Iさんの声がする。15:30Iさんに助けがくるまで体の消耗しないよう声をかけ、いったん御西小屋に引き揚げる。16:30応援の3名とSさんYさんは救出に向かう。17:00Iさんと合流。ただちに一緒に雪渓を登り始める。17:30雪渓の上縁で救援のヘリコプター待つが、ガスで見えず断念する。19:00御西小屋に向かう。19:30御西小屋到着。居合わせた外科看護婦さんに応急手当てを受けて、就寝。
7/23
06:00ヘリが飛ぶも、ガスが多く、いったん燃料補給で断念。09:00ガスのない標高の低い天狗ノ庭をめざして出発。滑落現場で救助隊と合流。10:00天狗ノ庭でヘリにIさん救出され、市立長井病院に向かう。その他の人は梅皮花小屋に向かう。14:30小屋着
7/24
05:30梅花皮小屋出発。10:00五郎清水着。Tさん日射病でダウン。落ち着いた頃、ゆっくり下山に入る。救助隊応援たのむため2名走る。標高820mで下からの救助隊と合流。ヘリコプターで救出。Tさんは点滴のみで入院せず、旅館に泊まる。他の者は飯豊山荘に宿泊。