登山者情報499号

【2000年09月16〜17日/石転ビ沢〜梶川尾根/井上邦彦調査】

タイム
天狗平07:22→07:46砂防ダム→08:05うまい水08:15→08:43梶川出合→09:14石転ビノ出合09:25→09:44S小沢で食事09:53→10:29ホン石転ビ沢対岸10:45→11:15北股沢出合の清水→11:35中ノ島(草付き)の水場11:41→12:06梅花皮小屋(泊)
梅花皮小屋07:23→07:41北股岳→門内小屋08:47→09:01扇ノ地紙→09:26梶川峰→09:37三本カンバ(仮称)09:49→09:59五郎清水→10:17滝見場→10:41湯沢峰(1020m峰)→11:24天狗平

記録
腰痛が再発して以来ひさびさの山行である。睡眠不足を抑えるために故意に出発時間を遅らせ、自宅でゆっくりを朝食を摂って出発した。前日にODDから入手した情報によれば、ODD一行3名、既に小屋にいるAQL、水洗便所工事に上がっているAXL一行2名と、賑やかな夜になる筈である。天狗平の駐車場はオフシーズンにも関わらずかなり多く止っている。
砂利道の脇をミゾソバが埋めている。ブナ林の中を快適に進む。葉の形から、これまでてっきりアカソと思っていた草が花をつけ、カメバヒキオコシであった。1週間前には盛りであったというオクトリカブトの花は、僅かになっている。AXLとすれ違う、工事機材と食料調達のためいったん下山し、また登ってくるという。門内沢に入った登山者がおり、声を掛けても振り向いただけで行った、心配だとのことであった。キバナアキギリ・キンミズヒキ・ゴマナ・エゾアジサイ(※)・クロバナヒキオコシが咲いている。婆マクレ(俗称)に降りる地点のブナが冬に倒れ明るくなっている。休憩にちょうど良い日陰だったので、惜しまれる。
梶川出合で始めて雪を見る。オトギリソウ・ジャコウソウ・ハナニガナ(※)・シロバナニガナ(※)・ヨツバヒヨドリを眺めながら歩いていると、赤滝のへつりでODD一行にすれ違う。聞くと、1名が都合で行けなくなり、もう1名の女性も石転ビノ出合で不安になったので、無理せず降りてきたとのことであった。
石転ビノ出合で改めて今年の雪量の多さに驚く。左岸の大岩で撮影し、そのまま踏み跡を門内沢に進み、雪渓を渡る。確かに始めての方や視界のない場合は、そのまま門内沢に入ってしまうかもしれない。門内沢の雪渓はまだしっかりしていた。雪渓を渡り終えると登山者が一人休んでいた。聞くと、石転ビ沢が渡れないという。「渡るのは簡単だが、ピッケルを持っていないのでは、その後が心配だ」と伝える。無線で連絡のあったAQLが落としたという温度計を見つける。石転ビ沢はそのまま転石をとんとんと飛んで渡る。先ほどの登山者もついて来たようだ。石転ビ沢右岸の夏道に上がる。
草に覆われた夏道を進み雪渓に上がる。右岸から入ってくる小沢で食事を摂る。若干の間川原を進み、再び雪渓に上がる。左岸側の雪渓に亀裂と陥没があるが、現時点ではさほど問題はない。下山してきた二人が手を振っている。UWSとPUSであった。暫し雪渓上での立ち話となる。
「ピッ!」とかすかな物音がした。うっかりしてホン石転ビ沢対岸の小沢に近寄りすぎたようだ。左手から大きく巻いて小沢で休憩とし、ミヤマガラシを撮影する。上から下ってくる単独者はAQLであった。梨を半分にして食べ、ザックを動かそうとした時、私のザックからビデオカメラの防水ケースが転がり落ちた。慌てて追いかけたが、ケースは真っ暗な雪渓の穴の中に姿を消した。とても探しに行ける状態ではない。泣く泣く諦める。
ここから先は傾斜がきつくなるので、ストックを背負いピッケルを出す。雪面は表面だけが軟らかになっている。昨日購入したばかりのズック(小国中学校生徒が内履きにしている底の薄いバレー用ズック)の凹凸が雪面に吸い付き、大変に歩きやすい。(この方法は人にはお勧めいたしません)
北股沢出合の清水を過ぎて、黒滝直前から上がり、左岸側の踏み跡を辿って黒滝の上に出る。二段になっている踏み跡の下段を進み、沢を詰め、右(下から見て)の沢に入り、かすかな踏み跡を上って中ノ島(草付き)に上がる。先行する単独者は右の沢を挟んだ夏道を登っている。
中ノ島(草付き)には、ミヤマセンキュウ・ミヤマキンポウゲ・モミジカラマツ・ゴマナ・ミヤマアカバナ(※)・ナンブタカネアザミ(※)・ミヤマアキノキリンソウが咲いていた。一面のウメバチソウに驚く。水場では長い花柄がユーモラスなチョウジギキクが面白い。
梅花皮小屋には共同設備の峰田君がいた。早速、持参した缶ビールと冷え冷えの缶ビールを交換し、石転ビ沢を見下ろして喉を潤す。やがてAXLが工事の材料を担いで登ってきた。峰田君が一生懸命工事をしている間、小屋の周辺を散歩する。花は季節外れのミヤマキンバイ・ハクサンイチゲとミヤマトリカブト(※)・イワインチン・ウメバチソウが風に揺れている程度であった。
天候の具合によってはダイグラ尾根を下山するつもりであったが、GZKの予報もかんばしくなく、体調も今ひとつなので、梶川尾根を下山することにした。
カッパを着て梅花皮小屋を出発する。風が強いのは小屋周辺だけである。北股岳山頂は小雨で視界はない。昨日より体調は良い。とんとんと下っていくとガスが薄くなり、視界が広がってきた。その時である。向かっている鞍部右手斜面の残雪の端を登ってくる真っ黒な生き物が見えた。四本の足を長く伸ばして、小走りに草地の急斜面を駆け登っている。まぎれもなく熊である。
距離は約200m(後に地図で確認すると70〜100m)。方向からして、ここまで登ってくることはないだろうと判断。雨のため使うことがないだろうと、ザックの一番奥にしまいこんでいたビデオカメラを取り出す。熊は稜線まで駆け上がると、潅木の中に姿を消した。何処にいるのか全く見当がつかない。無線でGZKに連絡し、万一私が下山しなかった時の処置を依頼する。突然熊が登山道を横切り、登山道のすぐ下の潅木に姿を隠した。その後は幾ら待っても潅木も笹原も全く動かない。熊スプレーを腰につけ、安全装置を解除し、いつでも発射できるようにセットする。AXLも梅花皮小屋から石転びを下山する準備中で、私の安全を確認するまで下山を見合わせてくれるとのことである。意を決して下山を開始する。「ホーレ!ホーレ!」と大声を上げ、熊スプレーを何時でも発射できるように身構え、僅かの気配も見逃さないように、素早く鞍部を通過する。
ギルダノ池で各局に無事通過を連絡。そのまま門内小屋に到着する。一時に疲れが出て、床に大の字に寝転がる。小屋で会ったパーティに聞くと、私の後ろから2名パーティが下ってきているとのこと。暫く小屋で待機し、無事姿が見えた時点で小屋を後にした。
花はヒメシャジンが何本か咲いているだけ。扇ノ地紙にはまだ残雪が残っており、末端まで下れば融雪水が取れそうである(あまりお勧めはしませんが)。残雪の周りにはまだ黄色や白い花々が咲いていた。
扇ノ地紙から梶川峰までは、色づき始めた草紅葉の中を快適に下る。三本カンバ(仮称)で軽い食事を摂り、後はひたすら下る。稜線はガスっているので滝見場もそのまま通過する。道の脇にはアキノキリンソウやオオコメツツジ・ミヤマママコナ等が咲いている。無線でMDEから連絡、吹き付けの岩場で遊んでいるから寄って行けとのこと。軽い足取りで、無事天狗平に下山。天狗橋袂の清水で頭から水を被り、吹き付けの岩場に立ち寄る。MDE達がまだ乾ききっていない岩場で遊んでいた。昨日まで黒伏山で岩登りをしてきたという。私もあそばせてもらうことにしたが、首を痛めて以来数年間、岩場から遠ざかっているのと、ズックのフリクション不足で全くお手上げ。たまたまAQLが車で通りかかり無様な格好を撮影されてしまった。

※は吉田悟氏著「やまがた山の花」を参考とした。

以上
石転ビノ出合 ホン石転ビ沢出合対岸でAQLとスライド
稜線から見た石転ビノ出合付近(左上が門内沢)
北股岳と梅花皮小屋
梅花皮岳と梅花皮小屋 熊発見地点から扇ノ地紙方面
草地を登るツキノワグマ 1 草地を登るツキノワグマ 2
梶川峰手前の草紅葉
熊発見地点から扇ノ地紙方面の解説


稜線右手の3つの残雪のうち、真中の小さな

残雪を端を登り、そのまま草地を駆け登り、

稜線の藪にいったん姿を消し、稜線左の裸地

を駆け下りて、登山道を横切り、潅木の中に

姿を消した。






以上