登山者情報508号

【2000年11月25日/祝瓶山/井上邦彦調査】

前夜、ようやくエアリアマップの原稿を仕上げ、メールで送ったので、久々の山行である。先日、米沢に行った時に見たら、大朝日岳は雪を被っていたが、祝瓶山のすっきりした三角形は全く雪がなかったので、まだ大丈夫と思い、軽登山靴に一応念のため防水スプレーを十分に吹き付ける。天気は回復の方向に向かっている。FAXで小国警察署(0238-62-2006)に登山計画書を送る。出発前に、コーヒーを飲みながら、熊スプレーの使い方の説明書をもう一度再確認する。
霧の中のおぐにを出発。関宅で登山計画書を確認。 針生平で雲の中にぽっかりと一ノ戸が浮かんでいた。登山口で菌類を探しに来たと言う方としばし歓談、菌類の話になるといろいろ話が止らなくなる。6:50歩き始める。
吊橋は足場板が一枚、ワイヤーが露に濡れていた。大石沢にも足場板が置かれていたので、足を濡らさずとんとんと渡り、ソマ小屋の脇を通過する。木柱の指導標を右手に曲がる。真っ直ぐに進むかすかな踏み跡は河原に下りている。潜り橋を作った時の車道の跡である。この辺の雑木林は以前牛を放牧したいたときのものである。虻が多すぎて放牧を止めたと聞いている。それから何年になるのだろうか。森林の更新の良いモデルになると思うので、何時頃放牧を止めたか、聞いておきたいものである。尾根が迫ってくると右脇に四角い柱のような朽ちた木が傾いていた。ここがその牧野の柵の跡である。左手は広い川原になっている。これはすぐ下流
の砂防ダムによって塞き止められたものである。ここを通ると、依然ここで遭難者を担いだことを思い出す。登山道はブナ林の中に入っていく。小沢を渡るが下り気味の橋で、打ち付けられている板が何個か折れているので注意したい。
7:02(1957歩)小沢を渡った所が登り口である。「至 祝瓶山」と書かれた二つの標識柱があり、1本は朽ちている。河岸段丘から登り始めの部分だけがちょっと急だが、すぐに道は緩やかな登りになる。ようやく身体が温まってきた。7:14〜15、暑くなってきたので上着と帽子を脱ぐ。葉は全て落ち、ナナカマドの赤い実だけが残っている。ヒメコママツの松尾根を進む。左眼下の河岸段丘の中に角楢小屋が見えてきた。上部のうっすらとガスがかかり幻想的である。上部、中岳付近であろうか、雪が見える。7:21水場への分岐、右下の沢、急に登り始めるところに、右下の小沢に下る踏み跡がある。標識は特にない。この小沢の流域は良いブナ林になっている。
7:29急な尾根を登りつめると正面に一ノ戸と次の峰が聳え立っている。道は大きく右へ曲がり、軽く下ってまた登る。眼前の山は岩肌が露出している。典型的な雪崩植生である。右から真っ直ぐに登ってくる尾根と合流し、道の傾斜はぐっと落ちる。相変わらず松尾根。西朝日岳と中岳の鞍部のあたりから青空が広がってきた。西朝日岳の白く波うった山肌が魅力的だ。やがて大朝日岳も、正面の登山道の雪道を現し始めた。
7:42ピーク通過、目の前にど〜んと一ノ戸が聳え立つ。右側のピークは白太郎山から続いてくる山頂直前のだましのピークである。ブノグラノタルミに下る。ここは熊がよく尾根を越えるところと聞いている。7:45最低鞍部通過。登山道には松の葉の上に赤いナナカマドの実が点々としている。標高を上げていくと、次第に松にブナが混じってくる。ただブナは全体としてワイ化している。疲れてきたので試しに脈拍を測ってみる。腕で測るまでもなく、自分の感覚で血液の流れが分かる。108回/分である。やがてブナ林の中に入って行く。右側には太いブナも散見される。葉は全て落ち尽くしている。ホウノキの先端に、毛槍のような実がついている。ムシカリも角を出し始めているが、まだ1本角、やがてこれが2本角になって、真中に頭ができてくる。ブナ林に入って、幾分傾斜は落ちているのだが、ちょっと疲れも出始めている。8:08〜18 左側が開けた所で朝食とする。
8:20いきなり一ノ戸とだまし峰(仮称)が目に入り、傾斜が緩くなる。小ピークを二つ越え、本格的なブナ林が出て、登りになる。8:31森林限界を出る。周囲は高さ5〜6m位の潅木である。登山道にはブナの落ち葉が一番多い。それにマルバマンサクやカエデ類の葉が僅かに混じっている。タムシバやムシカリなどの葉は殆ど見当たらない。これは葉の腐食に対する強さの問題だろう。登山道の脇にちらほらと雪が出てきた。正面に一ノ戸の大岩を見上げて一歩また一歩と高度を稼ぐ。登山道が花崗岩になり、登山道の雪の上に獣の足跡が出たと思うと、太陽が一瞬、眩しく目に飛び込み、8:37一ノ戸に到着した。
8:41一ノ戸発。針生平からずっとガスが昇って、角楢平あたりまでガスとなってきた。太陽に向かって登る。立ち止まると寒くなる。左側が岸壁に、秋のライオン毛のような草が張り付いている。8:49山頂が見えた。山頂はさすがにまだら模様に雪を被っている。登山道上の雪の上には、テンの足跡が続き、山鳥の足跡も見えた。8:57分岐の標識。登山道上に真っ白なウサギの毛のような塊が直径10cm程度の落ちていた。数ヶ所に分かれていた。僅かながら血のような物もついていた。ノウサギにしては、白くなるのが早すぎる。ともあれ、動物に襲われたものであろう。(その夜、公園管理人の齋藤初男氏から、「数日前に真っ白になったノウサギを見かけた。一瞬で毛が生え変わるわけではないから、雪が降ってから白くなったのでは間に合わない。おそらくテンがノウサギを襲ったものだろう」とお聞きした)。獣の糞が所々にある。木の実を食べているらしい。真っ赤な実が混じっている。これはナナカマドかハイイヌツゲだろうか。いよいよ山頂の登りに差し掛かると、次第に雪が登山道を埋め尽くし、ガスが湧いてきた。
9:07祝瓶山々頂に到着する。太陽が顔を出してくれた。風は殆どない。誰もいない山頂で、さっそく残雪に缶ビールを埋め、ストーブに火を着けてラーメンを煮る。無線でODDと交信する。頭上は青空なのに、晴れないまま、9:40山頂を後にする。
9:48分岐の標識、9:59一ノ戸を通過する。このあたりからガッスが切れてくる。中岳だけが見えている。10:07〜16休憩。10:17小ピーク、展望が良い。10:18下の小ピーク。10:30〜33休憩。10:38最低鞍部通過。ODDに無線でルート変更を告げ、左の藪を下ることにする。ブナ林と沢を下るが軽登山靴なので大変に歩きにくい。深い廊下状の沢を高巻き、河岸段丘のブナ林の散策を楽しみ、12:41駐車場到着。なおこのコースはよほど山慣れした方以外はお勧めできない。

白布平と角楢小屋 西朝日岳が見えてきた
817m峰から一ノ戸 小ピークから一ノ戸
登ってきた尾根を振り返る 大朝日岳と中岳
祝瓶山とダマシ峰(仮称) ナナカマドと祝瓶山々頂
ウサギがテンに襲われた跡? 祝瓶山々頂にて
ナメコ キヒラタケ(不食)
ムキタケ 晩秋のブナ林

【2000年11月24日/ダイグラ尾根/藤田栄一調査】

昨日、ダイグラ尾根取り付きの桧山沢吊橋の踏み板が撤去されました。通行には十分注意してください。