登山者情報515号

【2001年03月17日/餓鬼山/井上邦彦調査】

以前、民俗学者の奥村幸雄先生から「餓鬼山というのは、施餓鬼に関係のあるのではないか、何らかの民俗行事との関連が考えられる」とお聞きした時から、私の中には常に気になる山であった。町内から朝日連峰に向かうと、特段に目立つ三角形の山がある。これが餓鬼山である。
何時もの通りに起床すると、午前中は天候が安定しているとのことであり、気温も下がり硬雪のように思えた。急遽、餓鬼山に登ることを決め、山道具を出し、登山計画書をパソコンで関係者に送る。餓鬼山の確信部は瘠せ尾根が予想される。念のため、ピッケルとアイゼンも携行する事にした。
早目の朝食を摂り、出発する。越中里橋から目指す餓鬼山を確認する。長沢で左に折れると長沢橋から飯豊連峰が望めた。自宅から入折戸集落まで16.9km。なお、「入り」とは「奥の」という意味の方言である。三面へ向かう最奥の集落である。除雪は集落の末端にある橋の袂までされており、広い駐車場があった。
高度計を240mに設定し、07:35登り始める。予想通りの硬雪なので、スキーはザックの上に横に括り付けた。ホウノキの混じるナラの薪炭林である。表面はかなり硬い雪であるが、爪先でキックステップを行うと、いきなり深く潜る。ストックでバランスを取りながらプラスチックブーツのサイドを使って登る。時折力かげんを間違ったり、空洞に入り込む。こうなると爪先と両膝と両手を使った6輪駆動になる。
07:51(380m)尾根上に出る。赤布を枝に縛る。昔の車道が埋まっているような感じの平坦部を進み、窪地を快適に進む。07:58(420m)右手から大きな尾根を合わせると、真正面に餓鬼山が聳えていた。付近はブナとナラの二次林である。振り返ると飯豊連峰が広がっていた。08:02雪面に陽が射してきたので、スキーを履き、ピークを右手から巻く。尾根の左手は杉林、右手はブナ林である。平坦な凹凸はシールを付けたスキーに快適だ。伐期程の杉林の中に入る。時折、磁石と地図で方向を確認する。若干ややっこしい地形である。08:21(370m)最低鞍部を通過し、そのまま杉林を登って、08:34(460m3,354歩)県境尾根に出る。ここから左手の山々は三面の山々だ。目印の赤布を枝に結ぶ。
僅かに下ると、頭上には硬く急な斜面がそそり立っていた。08:38スキーをデポして、何時でもピッケルを抜けるようにして、ストックで登る。小国町中心部の上に飯豊連峰が広がっている。キックステップで高度を稼ぐが、530mでストックをデポし、ピッケルを抜く。県境尾根の雪庇は基本的には右の急斜面に出ているが、嫌らしく左右交互に出て、かなり尖っている部分もある。
09:01〜09(610m)岩が露出している平坦地を見つけて休憩。アイゼンを履く。右手の斜面には面発生底雪崩の前兆である亀裂が横に走っており、左手の斜面を点発生ブロック雪崩跡が一面に覆っている。嫌らしく尖った雪庇部分をトラバースで巻いてる跡がある。誰かが登った跡かと思ったが、動物達のルートになっているようだ。テンの爪痕が硬い雪面に必死に食い込んでいる様子が見て取れる。標高を上げるにつれて、朝日連峰の大パノラマが姿を現していく。
09:31(760m6,026歩=地形図の標高は741m)、餓鬼山々頂に到着する。山頂は打って変わった雪の丘である。まさに360度の理想的な展望である。飯豊連峰は惜しげもなく全貌をさらし、栂峰、吾妻連峰まで連なっている。朝日連峰は何時もの視点と角度が異なるのでまごつくが、祝瓶山・大玉山・北大玉山・平岩山(本当に平坦な山頂である)・大朝日岳・中岳・西朝日岳・竜門山・大きな相模尾根と寒江山・以東岳・・・「weider in ENERGY」を飲みながらODD・BCRと交信する。今回口にしたのはこれだけである。携帯電話は3本立っているので使用可能だろう。
09:44下山を開始する。山頂のすぐ下に「日本山岳会越後支部県境縦走」の菱形標識が残っていた。10:01休憩した岩を通過、10:12ストックを回収、10:18スキーを回収してスキーに履き替える。赤布を回収して、シールを貼ったまま杉林を滑る。途中、どうも様子がおかしいので、磁石と地図で方向を確認すると、右手の杉林を意識しすぎて左に寄り過ぎているようだ。方向を訂正し、更に滑る。凹凸があるので足首も踵も固定していないが、快適そのものである。
10:51赤布を回収し、踵だけを固定し、急な斜面をそのまま横滑りで下ったところ、エッジが全く効かず、転倒してそのまま滑落。何とか止まったものの、空洞に入ったらしく、腰まで雪に埋もれ身動きができない。6輪駆動でストックを回収し、シールを剥がして、再び滑る。足首を固定していない分だけ不自由だが、まずまず無難に滑り、11:05(10,340歩)怪我もなく無事に駐車場に到着した。

越中里橋から餓鬼山 永沢橋から飯豊連峰
430m峰から餓鬼山を仰ぐ 獣の足跡が続いていた
餓鬼山々頂への県境尾根 飯豊連峰
奥三面 山頂から飯豊連峰
山頂から大朝日岳 山頂から祝瓶山
日本山岳会越後支部の標識 下山途中にて
餓鬼山々頂を振り返る 急な斜面を下降する