登山者情報524号

【2001年04月30日/石転ビ沢〜西俣尾根/井上邦彦邦彦調査】

自宅発04:45、長者原は雪に覆われていたが、オオヤマザクラ(種蒔き桜)が薄紅色に咲いていた。05:16梅花皮荘の駐車場に車を留めて出発、気温15度。大淵のすぐ先の雪崩が危ないので、梅花皮荘裏の吊橋を渡って右岸の車道に出る。車道に出た途端、雪崩跡、巻き込まれたら沢まで一気に落ちて助からない。更に進むと右手下に今年もミズバショウが迎えてくれた。最近の猛烈な暑さのおかげだろう、車道の路肩が出ており、はかどる。05:35倉手山分岐には標柱も露出していた。砂防ダムのあるトイタは一番緊張する所である。半分は落ちたが、雪の半分はまだ残っており、盛り上がって今にも落ちそうだ。オフタガリ沢の雪橋は情報どおりに極端に小さい。吹き付けの核心部に入ると、路肩が露出しておりスムーズに進むが、途中の沢上にはまだ雪塊が引っ掛かっているので注意が必要だ。天狗橋袂の清水(倉手山ブナシズク)は使用できるし、橋の上は乾いており休憩するのに良い。吊橋から天狗橋までの間の3分の1程度が路肩を歩けた。今回は、危険を回避するために早朝の行動とした。もう暫くは早朝以外の行動は危険であるが、1週間から10日程度で、上級者(雪崩を回避できる能力を持っているパーティ)の通行は可能になるであろう。
天狗橋から最短コースを取り、06:20飯豊山荘前に出る。06:41温身平のブナ林は色づき始めたというところ。積雪は1.5〜2m。ここも最短コースを取り、06:55〜07:07一番上の砂防ダムに到着し、朝食とする。気温は11度、ダム下の川原にテントを張っている人がいる。この時期、雪崩や雪渓の崩壊で作られたダムが崩壊し鉄砲水が出ることがある。上からのブロック雪崩も考慮に入れて、幕営場所は慎重に選んで欲しい。オオバキスミレを見かけた。ウワミズザクラの花穂をつけ始めた。歩き始めて川向こうに登山者を3人見かけた。川を渡ろうとしているらしいが、よく意味がわからない。
07:18クサイグラ尾根のマエサカ沢手前の大きな雪橋を渡って右岸に移る。対岸の夏道は予想通り雪崩の巣になっている。段丘を進み梅花皮沢に下ると、下ツブテ石が雪に覆われており、すぐ上流の右岸に穴が開いていた。左岸から穴を巻くと、雪渓の表面は一面泡状になっている。大変歩きにくく上ツブテ石も埋もれていた。これから石転ビノ出合(門内沢出合)まで雪崩の痕跡が延々と続いていた。遥か上流の門内沢で発生した雪崩がツブテ石の穴まで到達しているのだ。07:43〜50地竹原で泡はなくなる。ふと右上の斜面を見るとカモシカがこちらを見ている。暫く見学をしていると駆け足でブナ林に消えた。下山してくる登山者に会った。朝日町の鈴木君である。昨夜の梅花皮小屋泊は25人だったとのこと。やはり前宣伝が効いているのか、かなり少ない人数である。すぐに数人の登山者とすれ違う。梶川出合すぐ上流左岸の水場は使えそうだが、注意が必要だ。赤滝から石転ビノ出合(門内沢出合)付近までの左岸はブロック雪崩が盛りの状況である。雪渓の中央を進む。石転ビノ出合(門内沢出合)からスキーで数人が下ってきた。
08:14石転ビノ出合(門内沢出合)到着。08:18〜25休憩を取り食事。登り始めてすぐ、草付キ(中ノ島)上部を下降してくる数人のパーティが見える。かなりゆっく下降しているようだ。09:07〜09本石転ビ沢出合中央でザックを降ろし立ったまま食事。さらに登った所でようやく下降しているパーティとすれ違う。1人がばてているとのことである。09:43〜48北股沢出合で食事をし、ロングスパッツをつける。結局アイゼンは全行程を通して一度も使用しなかった。北股沢から新しい(白い)雪崩が発生している。雪庇の崩壊がきっかけのようだ。また北股岳左肩からも雪庇の崩壊による雪崩が出ている。念のためピッケルを何時でも使用できるようにザックから外して腰に差す。
草付キ(中ノ島)付近をキックステップで登っていると、北股岳直下をゆっくり横断してくる黒い物を見つけた。クマである。こちらには全く気がついていない様子で悠然と歩いている。崩壊した雪庇の下の急斜面もまるで意に介さず四肢が伸びて進む。写真を撮るが、軽量化のため30万画素の広角しかないので恐らく写らないだろう。こちらの位置はまだ北股岳からの雪崩危険地帯にである。こちらもそのまま直登する。このままだと鉢合わせすることになる。雪崩危険地帯を過ぎた時点で大声を数回張上げる。クマは私のちょうど真上で姿が小さくなった。こちらを向いて凝視しているのである。クマスプレーを持参しなかったことが悔やまれるが、この斜面で上部から襲い掛かられたらクマスプレーも効かないだろう。ピッケルを握り締め、クマと退治したまま緊張の時間が過ぎる。ようやくクマが向きを変えて梅花皮小屋に向かって登り始めた。ODD・GZKとクマ発見の報告を無線で行う。
10:39〜11:41梅花皮小屋到着。早速本棟と管理棟に異常がないか確認し、トイレットペーパーを補充する。管理棟は入口に雪が詰まっていたので取り除く。水場は一切使えない。作業している間にラーメンを似て、雪に埋めておいたビールで乾杯。
最初のワンピッチはアルコールが効く。本当にアルコールには弱くなった、これも年齢の性だろうか。山頂より80m下から雪道となったのでピッケルを抜く。12:09北股岳山頂。山頂には雪はなく、この先も門内小屋まで、ほぼ夏道が出ている。しかしあえて雪庇の上を歩くこととした。12:51門内岳直下のみ夏道はない。雪庇の関係で山頂の祠から夏道を下り、12:54〜59門内小屋到着。入口内部にはまだ雪が残っているが入ることは可能。小屋に支障はない。更に私は歩きやすい雪庇を歩く。13:16胎内山の標柱通過、13:22扇ノ地紙の標柱通過。鞍部から故意に地神山のトラバースを試みる。一部笹原を通ったものの、13:49地神北峰通過。ここからは夏道を歩く。
14:05〜18頼母木山(1,730m)山頂にて食事。山頂から山形県側の雪斜面を下降し、旧道とぶつかる付近で笹薮に入る。踏み跡は跡形もない。小さな池の脇を通り、ダマシ峰に登る前に右手の雪斜面に降りる。眼下には三匹穴のダケカンバ群が確認できた。そのまま斜めに下り、三匹穴に至る。右手にダケカンバ群を見て左手の巨大な尾根に入らないように、右手潅木すれすれに急斜面を下るとブナ林に入る。14:36森林限界を通過する。枯松峰の雪庇がかなり悪い状況にあることを確認しながら下る。最後に若干藪を漕いで、14:51(1,150m)鞍部に到着する。かすかな踏み跡を辿るが、リョウブを始めとする潅木は、ザックの僅かな出っ張りも見逃さずに絡み付いてくる。カタクリが咲いている。途中で雪の上に出ると一瞬ほっとする。更に藪を漕ぎ、最後は雪の上に出て、15:01枯松峰に到着する。ここからは再び快適な雪の上となる。15:15鞍部から小ピークまで藪を漕ぐ。ズタズタになった雪庇の安全を確認し、亀裂を飛び越えながら進む。
15:38〜48西俣ノ峰(1,020m)食事を摂る。ここで右手に下り、ピッケルを抜いて左の急斜面を下る。さらに快適に進み、16:03(720m)十文字ノ池(当然埋まっている)を過ぎると夏道が出てきた。タムシバ・イワウチワ・マルバマンサクが咲き始めた。一度雪の上を下り、再び夏道を下る。標高600m辺りからブナの緑に包まれる。ヤマツツジが蕾に紅をさしている。登山道はイワウチワが満開である。16:20(550m)主尾根から右手の尾根に下る。ユキツバキ・ムラサキヤシオが咲き、アヅマシャクナゲも1株咲いていた。そろそろ膝も疲れてきた、急斜面を慎重に下る。オクチョウジザクラが咲いている。最後は面倒になり左斜面の藪を漕ぎ、雪面をグリセードで下る。16:33(340m)取り付け着。杉林を辿ると、右手の小沢にミズバショウが咲き始めていた。周囲はまだ一面雪に覆われているが、民宿奥川入の鯉幟がはた。めいていた横山さんに下山報告をして、16:50梅花皮荘の駐車場に到着した。

大淵橋〜吊橋右岸 トイタ沢付近の危険場
オフタガリ沢の雪橋 石転ビノ出合(門内沢出合)
クマの足跡 梅花皮小屋
北股岳 北股岳より石転ビ沢
北股岳より南主稜線 北股岳より大日岳
北股岳山頂より二王子岳方面 北股岳山頂より北方主稜線
頼母木山より杁差岳 頼母木山山頂より地神山
枯松峰より頼母木山 枯松峰〜西俣ノ峰

歩数:梅花皮荘→6,890飯豊山荘→10,617一番上の砂防ダム→16,812石転ビノ出合(門内沢出合)→20,683ホン石転ビ沢出合→25,385梅花皮小屋27,385→29,235北股岳→32,753門内小屋→34,579扇ノ地紙→36,952地神北峰→38,424頼母木山→45,252西俣ノ峰→51,012梅花皮荘