登山者情報534号

【2001年05月27日/石転ビ沢〜梅花皮小屋/井上邦彦調査】

山形県山岳連盟指導員会と遭難対策委員会の合同訓練が、5月26日から27日にかけて石転ビ沢で実施された。私は私用のため27日だけ参加した。
01:00起床、眠い目をこすりながら、前日に一般開放されたばかりの車道を天狗平に向かう(なお、午前6時頃に落石があり一時交通が出来なくなったとのことである)。01:51駐車場を出発、温身平下の砂防ダムを過ぎると所々に道は雪で覆われている。02:17上の砂防ダムを通過する。星も月も全く出ていないため視界が狭い。雪道と夏道が交互に続く。倒木が多く、ザックから突き出ているピッケルが枝に引っ掛かり歩きにくい。下ツブテでルートを下りすぎ雪渓に出てしまい、先が割れていて進めない。面倒とばかり小沢を登ってうまい水に出るが、この時にズック靴を湿らせてしまった。その後も判然としないルートを進む。地竹沢は水場として使用できる。何時もながらこの付近の雪渓は微妙に薄くかつ割れている。雪渓を進み行き詰まったところから地竹原の台地に出て、再び雪渓に出ると後はひたすら広い雪渓歩きとなる。冬に門内沢からツブテ石まで流れた巨大雪崩の痕跡が雪渓の形状を例年と大きく変えているため、ヘッドランプの届く範囲では現在地が掴めない。何度かヘッドランプを消して、かろうじて見えるスカイラインから現在地を割り出しルートを訂正する。03:08梶川出合を通過する。滝沢・梶川ともに雪が豊富なので、迷い込まないように注意して欲しい。梶川出合すぐ上流左岸の水場は使用できるが、雪渓が薄くなっているので注意を要する。水場の大岩2個が頭を出している。それまで断続的に振っていた雨が本格的になってきたのでカッパを着る。その後も雨は断続的に降りつづけ、結局小屋までカッパを着たままの行動となった。03:29〜34石転ビノ出合(門内沢出合)でお握りを1個頬張る。門内沢の雪渓も続いているので注意すること。スプーンカットを利用して高度を稼いでいく。先ほど濡らしたズック靴が次第に冷たくなっていく。04:13本石転ビ沢出合でヘッドランプをザックに仕舞う。本石転ビ沢も対岸の枝沢も雪が豊富だ。北股沢出合直前の右岸寄りに今にも落ちそうな岩がかろうじて止まっていた。落としてやろうかと思ったが結構な大きさなので構わずに進み、ガスの北股沢出合に到着するが、あるべき筈の尾根が見当たらない。そのまま登って04:44〜54一番先に目に付いた笹薮の尾根を北股沢と本流の境の尾根と判断、お握りを半分頬張り、冷たさで痛くなったズック靴を脱ぎプラスチックブーツに履き替える。この暖かさは快感である。念のためピッケルもザックから外し、何時でも抜けるようにする。北股沢がやけに広く感じる。高度を上げるにつれ、なんとなく雪渓の様子が例年と異なる。どうも梅花皮岳に向かっているような気がしてならない。地図と磁石で確認するが、充てにはならない。先ほどの尾根が梅花皮岳からの尾根のような気がしてならない。ついつい右手にコースを取る。高度が上がるにつれて傾斜が増してくる。本流にはこれほどの傾斜はない、とすれば北股岳か梅花皮岳のどちらかに寄っていることになる。所々に雪渓が大きな口を開き、覗き込むと岸壁が露出している。ついにアイゼンを取り出す。時間からすればそろそろ小屋に近づいている筈だ。一瞬でもガスの切れ間があれば何ということはないのだが、寸分の隙も見せてくれない。手がかりを探してなおも登りつづけると、右手にうっすらとそそり立つ岩がガスの中に微かに見えた。間違いなく北股岳に向かって登っている。思い切って左にトラバースを開始する。雪渓の亀裂や亀裂発生直前の盛り上がりを利用してどんどんと左斜上すると、真上に角のような岩が見えた。これは遭難慰霊碑の岩に違いない。更にトラバースして適当な所で稜線に上がる。予想通り、小屋のすぐ上の登山道に出た。05:48梅花皮小屋管理棟に到着すると、皆が起きたばかりで早速缶ビールを出してくれた。
その後、朝食を摂り、皆で訓練を開始する。初心者グループは仁科友夫指導員と高貝喜久雄さんが担当し、アイゼンワークやピッケルワークを中心に訓練。上級者グループは私と菅野享一指導員が担当し、スタンディングアックスビレイと大阪方式コンテニュニアスを訓練した。最後に仕上げとして、私が受講生の一人を背負い、菅野指導員と高橋実指導員が連続確保して梅花皮小屋からの急斜面を下降した。途中、受講生1名が滑落、自分では止められずに落下してきた。咄嗟に止めようと近づいたものの、ロープで身動きが制限されている事と、人間を背負っていることから思い切った行動が出来ず、左手でピッケルを雪面に突き刺し右手で制動を掛けたが効果はなく、彼はなおも落下を続けた、仕方なく先に下っていた受講生に「止めろ!体当たりをして止めろ!」と叫ぶ。下の彼はピッケルを雪面に突き刺しブロック体制で落下してきた受講生に激突。瞬間ふたりは縺れるようにして滑落、どれくらい落ちたかは分からないが、ようやく止まった。暫くふたりとも動かない。長い時間が過ぎたような気がするが、実際はそれほどでもなかったろうが、ようやくふたりが立ち上がり、両手で丸を作った。ふたりとも大丈夫な様子だ。すぐに足場をカッテングして背負っていた受講生を下ろし、私のピッケルを貸し自分で下るように指示し、高橋・羽田・菅野指導員にショックで動きが鈍くなっている受講生の指導を依頼し、ふたりに近づいた。聞くと、激突して飛ばされた後、ピッケルが相手の背中に回ってしまい、仕方なくアイゼンで制動を掛けて止まったとのこと。ふたりともこれと言った怪我はないが、眼鏡のレンズが何処かに飛んでしまったようだ。まずはこの程度で済んだことを喜ぶべきだろう。
あとはのんびり全員で下山、地竹原より夏道に入る。うまい水で喉を潤す。夏道にはキクザキイチリンソウ・エゾエンゴサク・オオバキスミレ・カタクリ・ニリンソウ・ウスバスミレなどが咲き、温身平にはホウやトチの花が咲いていた。15:09天狗平の駐車場に到着。

スタンディングアックスビレイ 雪で下降支点を作る
筆者が迷った急斜面 梅花皮小屋
北股沢出合に向かい下山する 石転ビ沢を降る
石転ビノ出合から石転ビ雪渓 石転ビノ出合から門内沢
地竹沢から地竹原 下ツブテ石から上ツブテ石付近
登山道を塞ぐ倒木 上の砂防ダムより烏帽子岳