登山者情報572号

【2001年08月17〜19日/石転ビ沢〜大日岳〜ダイグラ尾根/山田亘調査】

08/17(曇一時雨):08:23天狗平発→10:49梶川の出合→11:51石転びの出合→13:52本石転びの出合→14:45北股沢出合の付近→15:26中の島の草付き→16:51草付きの広場→17:08梅花皮小屋着
08/18(雨のち曇):06:51梅花皮小屋発→7:57烏帽子岳→09:10亮平の池→10:02天狗の庭→11:05御西小屋着11:42発→12:12文平の池→13:15大日岳着 13:35発→14:21文平の池→14:54御西小屋着15:34発→16:36玄山道分岐→17:00駒形山→17:25飯豊山頂
08/19(晴):05:42一王子テン場発→06:11飯豊山頂着 06:37?発→08:51宝珠山→09:05宝珠山の肩→10:51~11:21千本峰付近12:40休場の峰→13:33御池の平→14:54痩せ尾根通過→15:05桧山沢の吊り橋→16:00頃 天狗平着

08月17日
夏期休暇がとれたので飯豊を環状縦走することにした。大日岳とダイグラ尾根を余裕を持った日程で通り、できれば好展望を得たいと思った。コースを大幅に短くし、梶川尾根ー大日岳ーダイグラ尾根で2泊3日かけ1日を予備日とするプランを建てた。
karrimorの40LザックにPCを入れ幕営2泊3日の装備をまとめるのに前日23時頃までかかった。04:23新潟市の自宅を出る。3時間半位しか寝ていないので頭が重い。新新バイパスから新発田に入り駅前を左折し、踏切を渡ったところにあるセブンイレブンで朝食と行動食の甘栗とチョコを仕入れる(20分位使う)。稲家の前を通り〆切橋を渡りR290に入る。R113の入口で車の運転時間を見たら57分であった。通常ここまで1時間8〜9分かかるのでかなりハイペースである。スノーシエッドを抜けたところで玉川の県道に入る。天狗平には06:20頃ついた。
ここで、鳥唐揚弁当と生茶を500CC飲んで体を休める。かなり体が重く40分位うとうとする。陽が射してきたので起きると大分すっきりした感じである。虻よけのために新兵器のハッカ油を塗り、荷物をまとめて登山者カードの記入に向かう。大分遅くなってしまった。コースを梶川尾根ー梅花皮小屋ー御西ー大日ピストンー本山小屋ーダイグラ尾根 アイゼン・ピッケルなしと記入し、何気なく前のページをめくると2人パーテイの記述で「石転ビ沢」という文字が書かれていた。瞬間、石転ビ沢を登ろうとおもった。そうすることが遅れた時間の解決には最良の手のように思えた。自分は元のページを開け「梶川尾根」の部分を横線で消し、「石転ビ沢」と書くと08:23ゲートに向かって歩き出した。スプーンカットの雪、草付きは完全に出ているなどということが頭の中にあった。ピッケルとアイゼンは家に置いたままだった。(GPSログは最初の方が採れておらず、08:23の出発時間は後からメモを見てわかった。)
ゲートにかかると一台の白い軽トラックが戻り運転者がゲートを開ける所であった。浅黒い顔、短躯に広い肩幅、厚い胸、がに股の足、長靴に紺ジャージ、白いTシャツという出で立ちで、相当山慣れた人のように見えた。「石ころびは、アイゼン・ピッケルなしでは難しいでしょうか」と尋ねると「う〜ん」と言ったあと「大丈夫かな。スプーンカットの雪だし、草付きの一番急なところが出てるし・・・」と言った。自分の考えていたことと同じであり、勇気づけられる思いで歩き出した。
幕営の装備で15キロは自分にしては重い方だ。梶川の出合は10:49に通過している。指導標に従い左岸の夏道を歩くと11:51に石転びの出合についた。前回より時間がかかっている気がする。雪渓歩きより夏道の方が遅いようだ。腹が減ったのでラーメンを煮て食べる。1泊ならばパンと水で調理具を削るのだが、2泊3日だと腐敗するかもしれないと考え、ラーメン主体の携行食となっている。軽量化と容積圧縮のため外装をとったミニサイズを9個持ってきておりシェラカップで調理できるようにした。
石転ビ沢の下部は完全に出ている。正しくは右岸をしばらく歩いてから雪渓に乗るのだろうが、中ほどを飛び石づたいに歩き、薄くなった雪渓の状態の良さそうなところを選んで乗る。確かにスプーンカットだ。硬くなっているがこの位の傾斜なら登山靴で歩けそうだ、などと思うが、やはり危険なことをしているという意識があるので、少しでも安全にと、できるだけ大股で歩く。程なく上から単独行者が2人降りてくる。一人はアイゼンとピッケルを持っているが、途中まで登ったけれど怖くなって降りてきたと言ったので驚く。もう一人は、アイゼンにストックを突いている。自分がアイゼンとピッケルなしで登っているのを見て、それではキツイ所があると教えてくれた。二人は正しい。経験がないのに危ないことをしているとは思うのだが、登りたい気持ちが勝って歩き続ける。道具のない分雪渓の斜度の変化には敏感である。13:52ホン石転びの出合の前で斜度が急になり怖く感じるが、しのいで左岸の水場に降りしばし休憩する。右岸を見ると落石がごろごろしているのだが、2人組のパーテイがひときわ大きな落石に腰を下ろして休んでいる。馬鹿な人達だ。いや、軽アイゼンとストックを突いている分だけ自分よりましかと思う。ここを過ぎると気持ち傾斜が緩くなったようだ。ガスが出てきた中歩き続ける。
14:45北股沢出合の付近で視界が5m程度になり行動を停止する。危ないことに、いつのまにか右岸にぴったりついている。しかし既に中の島の草付きの左岸側を歩いているのかもしれないとも思う。混乱し、危ない場所で10分程だろうか、じっと待機しているとガスが晴れ、やはり右岸にぴったり着いていた。雪渓の終わりが見える。黒滝が全部出ている。あそこまでいけばこの緊張感も終わりだ。小心者の一安心といった感じで雪渓歩きを再開する。すると、もうすぐ雪渓が切れる直前で傾斜が急になり日向でスプーンカットの溶けかかった雪が現れた。じわじわと日向の雪から左岸側へ逃げ(竹を刺しながら四つん這いになって逃げた)比較的よい雪渓を歩き、石転ビ沢と北股沢の間のでっぱりの本流側で夏道に出た。先ほどの2人組も左岸から降りた。初めて来たのだがガスが出ているため不安がっている。あの草付きに上がって、テン場跡に登ると小屋が見えると話すとたいへん喜んでくれる。15:26頃中の島の草付きに上がりのろのろと歩く、雪のあるときより時間がかかるし、ヤマを越えたという思いで休み休み行く部分もある。先ほどの2人組にも抜かれる。16:51草付きの広場にやっと上がる。彼らは小屋が見えたと喜んでいる。
17:08ガスの中、梅花皮小屋に着く。テントの受付をしようと管理人室に行くと高貝さんがいた。7月14日に登山道の整備に上がられていた方の一人だ。自分のことを憶えていた。テントを張っていると高貝さんが出てきて「雷雲が19:00頃来るかも知れない。あまりひどいようなら、小屋に入りなさい。」と言ってくれる。ありがたい言葉に感謝しながら寝る。結局雷雲は来なかった。その夜は風が強かったそうだが、フル装備のテントの快適さと緊張感から開放されたため、ぐっすり、8時間位寝てしまった。

8月18日
雨が降っている。ゆっくりとテントを片づけ治二の清水(太くて美味くて素晴らしい水である)で2L水を採り06:51梅花皮小屋を出発する。天気は午後から晴れるらしいのだが、実感としては1日中ガスのように感じる。鮮やかなトリカブトの紫を見て雨の中歩いていくと07:57烏帽子岳に着いた。展望はない。風も吹いておりGPSのバッテリー切れ警告音が聞こえない。少し歩くと風と雨が弱まったようだ。08:20頃素晴らしいお花畑を通り過ぎる。09:05クサイグラ尾根の分岐で昨日の二人組に会う。廃道の分岐は石の列で遮られているのだが、別の登山者の言うことを信じて入り、道がなくなったので戻ってきたらしい。話してみると悪い人たちではない。ただエアリアを持っていないため色々な情報を人から聞きその正誤に左右されているようであった。ここら辺は展望があれば素晴らしそうな所だ。  
09:10亮平ノ池を通過する。展望がないので無心に歩く。今日は、大日岳をピストンする予定であったが展望が期待できないので止めようと考え始める。10:02天狗ノ庭で先ほどの2人組に会う。この付近のヘツリ道でここが遭難の起きやすいところかと思うところがあった。7月14・15日でやったと思われる補修の後がある。ここまでは正直退屈な歩きであったが、気持ちガスも薄くなってきた。10:10頃御西に泊まり大日をピストンしてきたという夫婦連れとスライドする。旦那さんは本山までの時間を読んでくれた上、時間があるので大日に行った方がいいという。奥さんからも、花畑が素晴らしいので是非行った方が良いと勧められる。自分も大日岳に登らないと飯豊に登ったとは言えないのではないかと思い気持ちを切り替え歩き始めた。
天狗岳を過ぎるとガスの中小屋が見え11:05御西小屋に着く。500円でテントを張らしてもらい、荷物をデポするとザックは5kg位になった。自分の携行食糧には欠陥があると薄々感じていたので1,000円でレトルトカレーを頼む。小椋さんをはじめ若い人の応対が明るくきびきびしていて気持ちがよい。 やはり小屋は小さい方が良い気がする。御西小屋は健脚者か、遅い人の泊まる小屋というイメージがあったが一度泊まってみたくなった。カレーを待つ間無線の交信が聞こえる。「石転びの出合・・・、遭難・・・、4人向かった・・・、もがみが・・・、ダイグラで・・・」といった単語が断片的に聞こえる。どうやら大丈夫のようだ。カレーは大変うまく確かに自分のチカラになった気がした。
ガスが晴れる気配を感じ11:42元気に御西小屋を出る。時折ガスの薄くなる中、地形を想像しながら12:12文平の池を通過する。大展望の片鱗が見える。やがて比較的急登になり13:15大日岳着。三角点を探したが見つからない。展望を待つがガスは晴れそうにない。ゆっくり休んで13:35山頂発。14:21文平ノ池を通過し14:54御西小屋に着いた。腹が減ったので、ここは大事なところとカレーをもう一回頼んだ。小屋に入ると7月14日に梅花皮小屋で芋煮を自ら盛ってくれたLFDさんがいた。先ほどの無線交信でダイグラ尾根を登って来ると言っていた。この人も素晴らしい体格をしている。挨拶をしてテントを片づけながらカレーと展望を待つ。程なくガスが晴れ大日岳が立派な姿を現した。歩いたところはこうなっていたのかと思い興味深く写真を撮る。
カレーを食べて15:34御西小屋発、本山側の稜線も見え始めた。ガスが残っており大展望とは行かないがこの稜線は本当にいいところだ。次第にガスが薄くなり一瞬御秘所から駒形山位までの美しい稜線が姿を現す。デジカメのメモリーが丁度一杯で削除している間にまたガスに包まれた。ここでPCを起動し画像をハードディスクに移した。登山道でこんなことをやっているなんてなんだか間が抜けている。太陽が射し少しづつガスが薄くなっていく。16:36玄山道分岐で、駒形山がきれいだ。ここから駒形山の間で初めて一叢のイイデリンドウを見る。今年はもう諦めていたのでとても嬉しい。17:00駒形山を通過し17:25誰もいない飯豊山頂につきGPSを切った。ガスに包まれ晴れそうもなかった。やがて歩き出すと本山小屋方面にブロッケン現象を見た。18年振りである。飯豊から贈り物を貰ったように感じ厳粛な気持ちになった。
本山小屋に着きテントの受付をする。二瓶さんという方が管理に入られていて「ダイグラはきつい。7時間はかかる。5時には出るように。水はないので本山でガッチリ汲んでいって下さい.。わからないことがあれば何でも聞くように」といった。簡潔だが暖かい応対である。自分が1997年8月の最終週、湯の平に泊まったとき、梅花皮小屋に太陽電池とビールを上げるという若者とスライドした。その人が「二瓶さん」と会うと言っていたが、この人がそうかもしれないと思った。管理人室にはもう一人若く浅黒い精悍な感じの人がいた。また小屋の玄関で魚の干物を網で焼いている太った男性もデキそうな人であった。大日岳のピストンが出来たことに満足しながら一王子のテン場(アパッチ砦という人もいる)に向かう。7月28日の経験があるので、水場に近い風の弱そうな場所を選んで張る。水を汲みラーメンを煮て食べるが、飽きてきたせいか喉を通らない。先ほどのカレーが思い出される(食べておいてよかった)。山でのラーメンは2食位がよいようだ。携行性があり、実質的な食糧とは何か考える。テントの外に出ると夕闇に薄く磐梯山が見える。明日はいよいよダイグラか、と思いながら寝る。大変怖れている。夜半トイレに立つと星空が美しい。正面には南陽だろうか、R113沿いの街灯りが見える。美しく移動しきらめいている。右手には多分会津坂下から会津若松に入るところだろう。R49沿いの灯りが同じように見えここが飯豊であることを忘れる。こんな生き物のような美しい夜景は見たことがない。街の灯りに磐梯山も黒くはっきりとわかる。少し下界が恋しくなったかと思いながらテントに潜り込む。

8月19日
04:10頃起床、遅くなってしまった。ラーメン1食と豚汁を急いで流し込み、混まないうちにと水場に向かう。意外にも誰もいない。水を汲み便意を催し用を足すと磐梯山、吾妻連峰?といったところが朝焼けの光の中に浮かび上がってきた。水は2Lしか持っていけないのだから今のうちに飲んでおこうと、さらに水場で1L飲みテントに戻る途中04:40頃吾妻連峰の端から御来光が始まる。持っていたデジカメで静止画と動画を撮る。下の方で切合のテン場からフラッシュをたいているのがよく見える。朝日連峰?の陰から特徴のある鳥海山の稜線が覗いている。自分の大好きな山であり、ついに見えたかと大いに喜ぶ。あまり軽くなっていないなぁと思いながら荷物を片づけ05:42一王子テン場を出る。昨日魚を焼いていた人に見送られ本山小屋を過ぎ06:11飯豊山頂着。 本当に素晴らしい偉大な展望だ。今回は予備のバッテリーがあるので、安心して静止画動画を撮りまくる。素晴らしすぎてこれじゃあ真夜中になってしまうよ。と山頂にいた人と言葉を交わす。感激しながら山頂を歩き出したのは06:37頃だった(ログで06:37だが実際はもっと遅かったと思う)。明瞭な標識はないが御西方向へ少し降りるとすぐ踏み跡が分かれる。駒形山から大日岳の構図が素晴らしい。なかなか足が進まず写真を撮ってばっかりだ。少し降りると今度は、北股岳方面の稜線が迫ってくる。素晴らしいのだが、今朝から動画も入れて90枚撮っている。メモリーもなくなり、自分には荷が重いダイグラ尾根に対する礼儀として、以後どんな素晴らしい景色があっても目で楽しみ、写真を撮らないことにした(写真を撮らないことと引き替えにダイグラ尾根を無事に下れるような気がした)。
07:52宝珠山と思ったところでマークがついている。コースタイム通りだと安心したらどんどん登り返しがでてくる。さすがダイグラ尾根とがっかりし、気を引き締める。鳥海山がまだ見える。飯豊連峰北部の主稜線にも励まされる。しかし太陽が熱い。日陰は殆どなく、タオルを海賊結びにするが、消耗した感じがする。08:51に本物の宝珠山を通過している。実はさっき水を飲みすぎて腹具合が悪い。この頃、岩陰に気持ちよい休み場を見つけて潜り込み10分程休むとかなり癒された感じがする。09:05宝珠山の肩の標識を通過し、山頂から抜いたり抜かれたりしてきた人と、あまりの遅さにダイグラ尾根の手強さを再認識する。鳥海山はいつのまにか見えなくなっていた。幸い、腹の調子は落ち着いてきたようだ。悪いなりにゲームを作っていますという感じでゆっくり行く。このころ杁差岳の脇から鉾立峰があらわれる。
10:51〜11:21千本峰付近で休む。千本峰の崖の登りは解りにくいかもしれないが、登りたいと本気で思えば誰でも登れると感じた。宝珠山でも感じたことだがこのコースを通じてあ〜ここで遭難したのかなと思うところが何カ所かあった。危険な所を危険と感じられなくなったとき遭難するのかと思った。長いコースだったので、人はどういうときに遭難するのだろう、自分が遭難するとしたらどんなときだろう、などと考えながら降りた。また鉾立峰が隠れていく。12:40宝珠山を振り返りながら休場ノ峰の三角点を通過する。この前に小さな岩塔を直登するのだがここが一番きつく面白いと思った。確かにへつるわけには行かないのだが、このコースを作った人は本当にセンスがよいと思う。ここから、アップダウンはなくなり急な下りになってほっとする。水場をパスし、13:33御池の平を過ぎる頃、自分の足は限界だった。その足でまた急登を下る。後は惰性で14:54痩せ尾根を通過し15:05待ちかねた桧山沢の吊り橋に出た。
先行者が2人居り、お互い無事下れたことを喜んだ。その一人は仙台から来ていた。長い林道を牛タンの話をしながら歩く。あの山頂とこの林道がつながっていることが不思議に思える。話題がつきた16:00頃 天狗平に到着した。飯豊の湯で汗を流し無事終わって良かったと思いながら新潟へ戻った。
自分は、今回の山行がある程度思うようにできたら他の山域に出ていくつもりでいた。色々と問題の多い山行であったが、飯豊は自分の行動をどう見ただろうか?自分には、「よその山にも少しずつ行け。ここが恋しくなったらいつでも来い」と言われた気がした。