登山者情報630号

【2002年05月10日〜6月8日/救助作業/井上邦彦調査】

事例01(HZU記載)
遭難者は5月9日、梅花皮沢に入渓し行方不明。日没直前に発見したもが当日の救助は無理との連絡があった。救助の段取りをつけ、基督教独立学園で登山の講話。11:00過ぎに帰宅。翌10日、03:30起床し小国警察署に出向く。
温身平で梅花皮沢に橋を渡り、右手の幕営地から右岸沿いに遡る。砂防ダムを2基越えてまもなく、左手の残雪を登る。途中から急になってきたのでピッケルを抜いて登ると、頭頂部が現場であった。慎重に穴からヘッドランプを照らして覗いてみると、真っ暗な中に遭難者の顔が確認できた。それにしても、よくぞ潜り込んだと思われる小さな入口である。昨日夕方迄かかって探し発見してくれた一次隊に感謝する。
周辺の状況を確認し、作業の段取りを行う。穴上の残雪の上、A点の潅木に支点を取り滑車による引き上げをセットし、穴の入口をピッケルで壊し広くした。次に暗く狭い穴の中、途中の岸壁の状況も不明なため懸垂下降は危険と判断、B点の潅木に支点を取り、8環でカッパを着たPWDの吊り下げを行った。
遭難者は雪渓が岸壁に張り付いている地点まで落ちて横たわっていた。PDWはヘッドランプを頼りにテープでもうA点からのロープに固定し、B点からの吊り上げにより外に出る。すぐにA点から遭難者の吊り上げ作業を開始、B点まで引き出してスクープストレッチャー(組立式担架)に乗せる。そのままB点で8環確保を行い雪渓を滑らせる。次々と潅木から支点を取り、連続した確保で梅花皮沢まで下り、先行者が渡渉点を探し、担架を持って沢を渡る。左岸の登山道に登り、砂防ダム下で車に収容した。

事例01概念図 現場を望む(中央下の残雪上部)
事故現場上部に支点をセットする PWDが穴の中に潜り込む
吊り下げで下るPWDが見えなくなった 遭難者の吊り上げ作業
梅花皮沢を渡渉する

事例02(QVH・HZU記載)
遭難者は6月2日、梅花皮沢に入渓し行方不明となっていた。8日11:20石転ビノ出合で休憩中の救助隊員に、山菜採りに来ていた地元の3名から雪渓に転落している遭難者を発見したとの通報があった。救助隊長(AJK)始め、QVH・IIV・BPZ・LFD・AZAの6名が現場へ急行し、11:42現場に到着した。現場は滝沢出合より約200m下流右岸枝沢の下部、雪渓の約15m下に滑落者を確認したが、暗いため周囲状況は不明。谷間のため電波が外に届かないので、無線機により稜線の局長を呼ぶと、遭難者を探しに来ていたJJ0IUKと繋がる。小国警察署への連絡と、梅花皮小屋管理のため登っているAXLへの無線交信を依頼する。JJ0IUK は衛星携帯電話で小国警察署に連絡をしてくれた。AXLに無線で遭難者発見位置と現場状況及び収容に必要な装備について連絡。
現場の枝沢は水量が少ないものの岩盤で滑りやすく足場もないことから、下降は不可能。雪渓もツルンド形状で遭難者に覆い被さる状態、雪渓上からの吊上げは不可能、周囲には堅牢な樹木もないことから岩盤へのボルトによる支点確保が望ましいと判断、登攀用具・ロープ・ボルト・ハーケン・カラビナ・ジャンピングセット・滑車・シュリンゲ・ブルーシート及びヘリ輸送困難を想定し担架の準備を依頼した。 12:12発見者が下山する。
13:43防災ヘリ「もがみ」が到着した。ホバーリングで搭乗隊員2名を降下させ現場状況の確認。ヘリから直接の吊り上げは不可能であり、ヘリに備え付けの装備品(ロープ・スノーバー)では搬出できないと判断、救助班の到着を待つこととした。その間に周囲を踏査し枝沢下流部岸壁と雪渓の隙間から内部に通じる空洞部を発見、遭難者まで約5〜6mの所まで近づくことができた。段差が3m程あるがここからの搬出も検討することとした。
一方HZUは発見の報を聞き米沢市から小国警察署に戻り、救助隊倉庫から要請のあった装備をザックに詰め、GPN他1名と共に現場に向かう。途中うまい水で先発隊を抜き、登山道を地竹原まで登り、14:20雪渓上にいたQVH一行・防災ヘリ隊員と合流する。現場は捜索当初に確認した場所である。1週間経過し、雪渓が下がったことにより、それまで死角になっていた場所が見えるようになっていた。発見したのは枝沢(C点)からであるが、うまい具合にD点から隙間を伝って近づくことが可能である。まもなくODDと先発隊が到着した。
偵察の結果、隊を3班に分け、QVH隊はC点にボルトと潅木を支点として滑車をセットして赤ロープを垂らし、遭難者を垂直に吊り上げることとした。GPN隊はD点の潅木を支点とし、青ロープを遭難者まで伸ばし、赤ロープで岸壁途中まで吊り上げた遭難者を振り子にしてE点に引き寄せ、その後は人力で雪渓上に上げることとした。
14:30搬出作業を開始する。QVH隊は岩盤にボルトで支点をとり、近くの樹木からテープでバックアップを取る。さらに滑車にロープを取り付け、プルージックで吊上げ時のバックアップを取る。ロープ操作の補助として近くの樹木よりシュリンゲとカラビナでランニングビレーを取った。
HZUはカッパを着て航空隊2名と共に青ロープで懸垂下降し現場に降りた。現場は広いドーム状となっており、見上げると滝の上に穴が開いておりQVH隊が確認できた。
3人がかりで航空隊が持参したバックに遭難者を収容し、赤ロープと青ロープを固定した。大声で「赤アップ!」と叫び、吊り上げを開始したが、途中でオーバーハングにひっかかり上がらない。航空隊員が予備のロープをバックにセットし、斜め下から引いてハングを越える。次に「青アップ!」と叫び振り子を始めると、E点にセットしたスノーバーが飛んだが、赤ロープで吊り下げているため問題は生じなかった。E点まで遭難引き寄せ、後は人力で20〜30cmづつ横穴をD点まで移動し、15:05一気に雪渓に引き上げた。15:10ロープを外し担架に固定し、防災ヘリもがみを待つ。やがて、もがみから降りてきたワイヤーに担架と航空隊員を繋ぎ、もがみに収容、残りの隊員も吊り上げ、15:39もがみは飛び去った。
事例02概念図
地上隊による捜索(地竹原) ヘリコプターによる捜索
北股岳を遠望する 衛星携帯電話が活躍する
消防団による悉皆捜索 PWDが捜索要領を説明する
地竹原 遭難現場
 ボルト設置作業 吊上げセット完了
穴の中から上部を仰ぐ  引上げ作業
横穴より搬出中 下流からヘリが侵入
雪渓左端が現場 もがみによる収容作業
今回使用した用具 サンカヨウ