登山者情報651号

【2002年08月03〜04日/ダイグラ尾根〜石転ビ沢、遭難/井上邦彦調査】

【石転ビ沢:登りを前提としたルート解説::石転ビ沢の写真
上ノ砂防ダムの階段を登るとすぐに小沢を渡り、ブナ林の中を進む。ブナ林の中でも小沢を横切るが、この二つの沢は涸れていることも少なくない。坂を登りへつると、本流の真ん中に大きな岩を一個見下ろす。これが下ツブテ石である。下って崩壊地から流れる小沢を過ぎてすぐ、小沢の沢身を約4m登り、途中から左の山道に移るのだが、気付かずにそのまま沢を登ってしまう者もいるので注意を要する。平坦地を進むと涸れた沢に出る。右手に「うまい水」と書かれた標識が下がっており、登山道下1.5mに冷たくて美味しい水が湧いている。絶好の休憩地である。涸れた沢を進むと左手に山道があるので移る。ここも誤って真っ直ぐに沢を詰める者がいるので注意する。河岸段丘を進むと小沢を渡る。ここもよく涸れている。すぐ先に幕営跡のような広場があり、左手に「彦右衛門ノ平(ヒコエムノタイラ)」と書かれた標識が立っている。まもなく急な斜面をへつるようになるが、ここを「婆マクレ」と呼んでいる。足元に注意して進む。小沢に下ると川原に出る。川原を進んで小沢沿いに河岸段丘に上がるが、本流に入ってしまう者がいるので注意する。河岸段丘を進み近畿大学生の慰霊碑の脇を通る。この辺りを「地竹原」と称している。一段下って小沢の流れる窪地を進むと、正面の登山道が本流に削られ崩壊している。よく見ると、ここから右手に登山道が登っている。前回は崩壊地を巻いてすぐに下っていたが、先日そのまま川原には下らないで梶川出合に繋がる新道が作られた。
梶川出合は雪渓がズタズタになっている。本流沿いに梶川まで進み頭上の雪渓を見上げながら恐々梶川左岸を登って飛び石伝いに渡渉して再び雪渓に上がる。増水時は通行できなくなるので留意すること。すぐに雪渓から夏道に入り、大岩の間を抜けて登りへつると、再び雪渓に出る。暫く進むと右手に現われた登山道に入り、足元に注意しながらそのまま赤滝ノヘツリを進み、石転ビノ出合に到着する。
石転ビノ出合は雪渓で覆われており、門内沢に雪渓が続いているので入り込まないこと。石転ビ沢に入って、すぐの右岸(大岩の右岸側)で水場が使用できる。石転ビ沢は合流点から暫くの間、雪渓がなくなっている。水場から踏み跡を辿って右岸沿いに進み雪渓に入る。雪渓を進むが、左岸側がやや薄くなり始めているようだ。また、右岸からの枝沢沿いに雪渓が薄くなっている。今後は一度右岸からの枝沢で川原を歩き雪渓に上がることになる。さらに進むと、大岩が雪渓から頭を出している。ホン石転ビ沢の雪渓はなくなった。ホン石転ビ沢対岸枝沢のすぐ上流の水場は使用できるが、枝沢によっては付近が薄くなっているので注意する。
北股沢はまだ雪が着いているので迷い込まないこと。北股沢出合の清水も使用できる。黒滝で雪渓は終了である。アイゼンを脱いで、黒滝手前から左岸の踏み跡に取り付き、そのまま黒滝上左岸の踏み跡を登り、右から入ってくる枝沢を横切って小尾根の登山道を直登する。本流を登り草付キ(中ノ島)下部に取り付くことも可能であるが、小尾根の踏み跡の方がしっかりしている。小尾根を登りきると左手の小沢にある大きな岩の上部で、小沢を渡って草付キ(中ノ島)に合流する。下山する時はここの分岐点を通り過ぎないように注意すること。後は、草付キ(中ノ島)を詰め、左の小沢を渡り、水の流れる登山道を登ると草付キノ広場となり、最後のひと登りで梅花皮小屋に到着する。

【山行記録】
今回は暑さ対策として半ズボン・ランニングシャツ(長袖・長ズボンはザックの中)を着用し、石転ビ沢下降用にスパイク地下足袋を履いた。ただし、この服装は、日焼けや擦り傷、爪先や足首の保護などリスクが大きいのでお勧めはできない。
天狗平ではIIVが臨時登山案内所を開設していた。石転ビ沢日帰りというQKGと分かれ、05:22天狗平を出発する。林道を進むにつれてメジロアブがまとわりつき始める。ブナ林の遊歩道を左右に分け、正面に大きな看板のある温身平の十文字分岐を真っ直ぐに梅花皮沢に架かる橋を渡る。砂防ダム先の林道脇には、この辺りで最も巨大なブナ樹が聳えている。次の砂防ダムの手前で、よく注意しないと見過ごしてしまうほどの右手の山道に入る。山道の雪崩斜面は草の生育が早く、素肌にまとわり着く。足場に気をつけてへつると、「落合」と書かれた標柱がある。ここから飛び石で流れを渡り、桧山沢吊橋のたもと、桧山沢で顔を洗う。橋を渡り終えると、いよいよ急登である。一汗かいて見晴らしの良い岩場で食事を摂る。主稜線は雲を被って見えない。ホシガアラスが何かを咥えて飛んで来た。近くの松の枝にとまり啄ばんでいる。蕨が生えるのでその名がついた「ホダワラ」を過ぎ、石楠花岩(仮称)から、淡々と高度を稼いでいく。NOOが梅花皮小屋のOTJを呼んでいる。登山道は尾根の右手に変わり、これを登りきった所が御池ノ平となる。種蒔ノ池を左に見て、登り始めると山道の左に大きなブナ樹があり、私の手製の「水」と書かれた標識が取り付けてあるが、かなり薄くなってきており、そろそろ取り替える必要がある。ザックを置いて食事を摂り、背負ってきたロープを出して水場まで下る。この水場は、途中で右の小尾根を越えるのだが、誤って左の小沢に下る者も少なくない。降り口から水場まで55mの間、白いロープを張り、湧水口を整備し(カップを持っていった方が良い)、足場をカッティングし、潅木や草を切る。水場整備を終え、再び登り始める。昨日のローペースを引きずっているのか、速度が上がらない。本日は本山小屋か御西小屋と決めているので、のんびりと登る。米栂ノ平(仮称)を過ぎると、オクモミジハグマ等の花も出てくる。ダイグラ尾根名物の急坂を登り、水準点のある展望地が休場ノ峰である。誰が忘れたのか水準点の上にサングラスが置かれていた。ここで本日始めて登山者とすれ違う。
ここからアップダウンの繰り返しとなる。始めのピークを登っているとOTJからの「今朝、梅花皮小屋から御西小屋に向かった5人パーティのうち1人が、烏帽子岳を通過した所で転倒し、捻挫もしくは骨折」との無線を傍受した。この先、無線機を操作しながらの歩行となったため、更にペースがダウンする。休場ノ峰から宝珠山先まで言えることだが、大又沢側にコースが作られている所は、草が生長しているため素肌にこたえる。また、ただでさえ足場が悪いのに草に隠れているので、疲れていたり軽い熱射病で頭に酸素が不足している場合などは転落し易いので注意が必要である。千本峰を過ぎても主稜線の雲は取れない。山形県防災ヘリコプターが飛んで来るが、遭難者の収容作業は難航している様である。宝珠山の登りに差し掛かると、次第に高山植物が目に付く。宝珠山の肩の標柱は倒れている。この上で、下山してくる数パーティとすれ違う。私のザックに括り付けてあるピッケルを見て「鎌で道刈りをしているのですか」という質問を受け、苦笑する。宝珠山の岩稜で食事を摂り、本山小屋のEHJと交信する。御前坂の高山植物は殆ど終わっている。飯豊山々頂で救助本部のGPNやPWD、梅花皮小屋のOTJ等と交信、本日中の収容は絶望的と判断し、明朝、梅花皮小屋から背負って下げ、途中でヘリに収容する作戦とする。
本山小屋に行くと、EHJの他にTEFやNQJがおり、しばし四方山話に花を咲かせた。その後、翌朝の収容作業を考慮し、旧赤谷登拝路を通り御西小屋に向かう。この道は廃道となっており勧められない。玄山道分岐手前の弘法清水は露出しており、水場が比較的遠い御西小屋泊なので、水筒を満たし玄山道分岐で正規の登山道と合流する。その後はコバイケイソウやニッコウキスゲの残る穏やかな稜線を進む。草月平にはタカネマツムシソウが咲き、初秋の佇まい。御西小屋でKDGOBのOTLとZWWにお世話になり、就寝。
翌朝は02:30起床、ラーメンを食べてパッキングし、03:00ヘッドランプを点けて歩き出す。ガスが濃く4〜4m先しか見えない。御手洗ノ池の先に1箇所雪の上を歩く。GZKやGPNと連絡を取りながら進む。亮平ノ池を過ぎて登りにかかると明るくなり始め、ライトを消す。05:10梅花皮小屋に到着する。遭難者の右足首は銀マット等できちんと固定されている。防災ヘリの到着を待ち、ガスのため引き返したことを確認してレスキューハーネスをセットし、私とOTJで交互に担ぎ下ろすことにする。遭難者の分散した荷物で重くなった同行者の案内は、私のザックと自分のザックをダブルで担ぐQKGに任せた。掘れ込んだ登山道なので、怪我をしている右足が岩に触れないよう神経を使う。草付キ(中ノ島)を下っていると、一次隊のLFD・JJ7EHJが下から登ってきて合流する。黒滝から上は雪がなくなっているが、草付キ(中ノ島)をそのまま下るか、途中で左にトラバースして小尾根を下るか判断に迷うが、道形がしっかりしている小尾根を選択した。更に隆蔵やPWD等が次々と合流。黒滝を慎重に巻いて雪渓に出る。ここで防災ヘリを待つ。やがて正面に現われた防災ヘリに対しPWDが誘導を試みるが、気流が安定せず、収容できない旨の無線が入り皆をがっかりさせる。石転ビノ出合付近であれば収容可能とのこと、やむを得ず再度レスキューハーネスを付け直す。OTJは小屋管理のため替わりのレスキューハーネスを持って小屋に戻る。雪渓の上を淡々と下降するが、速度を出すと衝撃が加わり負傷部位が痛いとのことなので、ゆっくりと降る。石転ビノ出合上流の平坦地で、防災ヘリを待つ。何時ものようにホバーリングした防災ヘリから航空隊員が降りてきた。背負っていた遭難者を担架に乗せる。上空で待機していた防災ヘリが再度近づき、遭難者を吊り上げる。私達は石転ビノ出合の水場でODD達が担ぎ上げてくれたお握りを頬張る。あとは全員でのんびりと夏道を下山し、天狗平で解散し、自宅に帰る。
自宅で風呂に入ろうとしたところ、民宿奥川入から電話があったとのこと。瞬間嫌な予感が走った。電話をかけると案の定ダイグラ尾根でトラブルが発生し、まだ残っていたODDとQKGが現場に向かったとのことである。風呂を諦め、まだそのままのザックをもう一度車に放り込み小国警察署に向かう。署に着くと、現場は千本峰から休場ノ峰に下山途中4人パーティの1人が転倒し捻挫か骨折で動けなくなったと携帯電話で通報があったとのことである。既に防災ヘリの手配済みとのことなので、署で結果を待つ。ほどなく防災ヘリから、「遭難者を発見したが地形が悪く収容できない。広場に移動して欲しい」と連絡が入った。KCNと真人にレスキューハーネスを持たせ、現地に向かわせるとともに、朝日班に待機を指示した。直接遭難パーティと話をしてみる。携帯電話はかろうじて通じているらしく、こちらの声は伝わるようであるが、向こうの声は断続的で時折全く聞こえなくなる。現場の苛立ちが伝わってくるが無理もない。ともあれ、千本峰からの下りで転倒し、立てなくなったので、膝ではいずり、展望の効く小峰までかろうじて移動したが、ここからは自力移動はできないとのこと、最悪の場合はビバークも可能であることが分かった。私の記憶によれば、小峰は千本峰と休場ノ峰の間で唯一、高木のない所で岩があり展望に優れている筈だ。この前後は樹林帯であり近くにヘリが作業できるような広場はない。千本峰先には高木がないが、現在地と同じ条件で、共に大又沢側が深く切れ込んでいる。休場ノ峰はやや条件がよいが大差はない。それに僅かでも移動すれば携帯電話は通じなくなるだろう。また彼等はありあわせの道具で人間を背負って搬送する技術と体力はないらしい。最悪の場合、現在登高中の隊員を合流させ、アマチュア無線で交信を確保してビバーク体制に入り、明朝を待って朝日班を主力とする10数名の出動を行う腹を決める。やがて、いったん燃料を補給した防災ヘリがフライト、負傷者の収容に成功したとの連絡が入り、署内はどっと歓声に包まれた。直ちに朝日班に待機耐性の解除を連絡する。携帯電話で現場に確認したところ、負傷者のザックは回収されておらず、分散してメンバーで下ろすとのことである。現場に向かっている隊員をそのまま登らせるので、合流して下山するように伝える。負傷者が収容された後、残されたメンバーは精神的に疲れきっており、時間的余裕もないのが普通である。これを如何に安全に下山させるかも配慮しなければならない。梅花皮小屋のOTJ経由でODD達に、負傷者は収容されたが、そのまま登りつづけ残されたメンバーの下山をサポートするよう伝える。ここで私の役目は終了と判断、帰宅し風呂に直行する。一方、ODD達は休場ノ峰を過ぎてからメンバーと合流し、残された荷物を担いで、16:00頃天狗平に下山したと、自宅の無線機が伝えてきた。
【通過時刻】
天狗平05:22-温身平05:40-山道05:50-06:01桧山沢吊橋06:06-06:22岩場06:33-横道始め07:04-横道終り07:13-種蒔ノ池07:18-07:31水場08:50-米栂ノ平09:13-09:34休場ノ峰09:44-遭難傍受10:00-千本峰10:32-11:00休憩11:09-宝珠山ノ肩11:49-12:10宝珠山の岩場12:19-鞍部12:44-飯豊山13:32・・・本山小屋15:17-玄山道分岐15:45-御西小屋16:18
御西小屋03:00-天狗ノ庭06:36-御手洗ノ池03:55-亮平ノ池04:11-クサイグラ尾根分岐04:30-烏帽子岳04:39-梅花皮岳04:54-梅花皮小屋05:10・・・以下不明
【咲いていた花】
水場〜:オクモミジハグマ・ホツツジ・ミヤマママコナ(盛)・リョウブ(盛)・アキノキリンソウ・ノリウツギ・ソバナ・マルバキンレイカ
休場ノ峰〜:ミヤマママコナ・ソバナ・オクミオミジハグマ・ウメバチソウ・ホツツジ・ハクサンオミナエシ・ノリウツギ・ツルアリドウシ・エゾシオガマ
千本峰〜:オオサクラソウ・タテヤマウツボグサ・ハクサンボウフウ・ミヤマキンポウゲ・白スミレ?・カラマツソウ・ヤマトウバナ・ヒメサユリ・コバイケイソウ・モミジカラマツ・白ニガナ?・ニッコウキスゲ・ミヤマコウゾリナ・
宝珠山ノ肩〜:アオノツガザクラ・ハクサンコザクラ・チングルマ・ミヤマキンポウゲ・ヨツバシオガマ・
宝珠山の岩稜〜:タカネマツムシソウ・ハクサンオミナエシ・コゴメグサ・シラネニンジン・ホソバヒナウスユキソウ・オノエラン
本山小屋〜:チングルマ・ニッコウキスゲコバイケイソウ
玄山道分岐〜:ニッコウキスゲ・コバイケイソウ・ハクサンフウロ・ハクサンボウフウ・ヨツバシオガマ・白ニガナ?・ミヤマコウゾリナ・ミヤマアキノキリンソウ・イイデリンドウ・ミヤマリンドウ・タカネマツムシソウ・コゴメグサ・ミヤマホツツジ・ムカゴトラノオ

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