登山者情報708号

【2003年05月24-25日/山形県山岳連盟訓練(石転ビ沢〜梅花皮小屋)/井上邦彦調査】

09:00天狗平に集合、荷物を配分し09:42歩き出す。温身平のブナ林は一段と緑を濃くしている。上の砂防ダムで一息を入れる。道の傍らには、エンレイソウ・ニリンソウ・オオバキスミレ・スミレサイシン・タムシバ・ムシカリ・エンゴサク等が咲いている。時折山菜採りの方とすれ違う。うまい水でニリンソウ(山菜)とトリカブト(毒草)の見分け方を説明する。登山道を覆っている木々を鋸で処理しながら進み、地竹沢から雪渓に入る。ここから下流の雪渓は穴だらけで通れない。そうこうしているうちに、降ってきたスキーヤーが雪渓の亀裂に転落、幸い怪我はなかったようだ。今後は地竹沢から地竹原にかけての雪渓が薄くなってくるだろう。梶川出合には最近落ちてきたばかりの岩が転がっていた。その先の大岩は幾つも頭を出し、雪渓に穴が開き水音を響かせていた。赤滝を過ぎると岩が露出し、何人かが腰を下ろしていた。
12:15-47石転ビノ出合は雪原となっているが、北股岳から伸びる幸七尾根末端の台地から枝沢が露出しており、ここだけが水場として使用できる。振り返ると左岸には崩壊中の雪塊が引っ掛っていた。右岸の枝沢は雪渓が不安定である。
石転ビ沢入口の大岩が頭を出し、休憩するのにちょうど良い。何パーティもの登山者が雪渓を登っている。私はここでズックからプラスチックブーツに履き替えた。しばらく登っていくと、上部の雪塊がゆっくりと動いている。慌てて皆に注意を促し、落下方向を見極めて大声で左に逃げるように指示する。この雪塊の長辺は2mを越す、トレースを辿ると右岸で残雪が崩壊し、そのうちの1個が延々と下方まで滑ってきたものと分かった。ホン石転ビ沢にはたっぷりと雪が残っており、迷い込まないように留意すると共に、ホン石転ビ沢からの落雪も考えておいた方が良い。ホン石転ビ沢対岸の枝沢を過ぎた左岸で休憩とする。
無線機からNOOの声が聞こえてきた。内川で山菜採りが転落し、救助隊が向かっている。NOOは中継のため樽口峠にいるのだが、電波の状態が悪く交信ができないとのこと。とりあえず私が現場に向かっている隆蔵とNOOの中継を行う。そのうち、ODDが樽口峠に向かい、NOOと共に中継に当たる。
上部にある亀裂のすぐ上でスノーボーダーが動けなくなっていたが、なんとか自力で降っていった。北股沢出合も広い雪原となっており、視界がない場合は大変に迷い易い。緩傾斜を選んで行くと北股岳方面に向かってしまうので注意したい。僅かであるが岩が露出し始め、亀裂も発生している。
防災ヘリもがみの爆音が聞こえる。内川の捜索は難航している模様だ。そのうちに遭難者を雪渓の下約15m滝壷で発見、生存しているが動けないのでレスキューハーネスで雪渓の上に担ぎ上げるとのこと。これで一安心である(帰宅後、遭難者の死亡を知る)。
15:45梅花皮小屋に到着すると、先発の高力氏達が出迎えてくれた。小屋の周辺にはミヤマキンバイやハクサンイチゲが咲き始めていた。
翌日は、雪上技術訓練である。渡部・前田・竹田・津田は皆より一足先に訓練開始。高貝氏は小屋前で容赦なく基礎を叩き込み、今度は北股岳直下の岩場に貼りついた雪の急斜面で実践さながらの訓練を行っている。私は昨夜知り合った道標の会3人に基本的な技術を披露する。そのうちに、メンバーが揃い、菅野氏の講義が始まった。自分ができることは勿論、指導員としてどのように教えるのかまで含んだ内容である。
滑降している2人パーティのスキーヤーを何気なく見ていると、様子がおかしい。姿が見えないので、一人で降ってみることにした。聞くと転んだ時に膝を痛めたらしい。暫く休んで斜滑降、キックターンをして再び滑り出した瞬間に転倒、そのままでかなり下方まで落ちていった。心配して降ってきた仁科氏に任せ、私は訓練現場に戻る。結局、彼は金・高力氏にスキーを担いでもらって自力で天狗平に下山した。
滑落停止、キックステップ、スタンディングアクスビレイを終え、小屋で昼食を取る。特訓を受けた4人は充実感に溢れていた。
これからが、訓練のクライマックスである。カッパを使った搬送訓練の開始である。担がれ役は平田氏、潰したザックにカッパを固定し、平田氏を括り付ける。これを受講生が交代で担ぐ。念のため、二人のハーネスにザイルを結び、スタンディングアクスビレイで確保する。雪が腐ってきたので足を取られて苦労している。担ぎ始めはぎこちなかったが、降るにつれて要領が分かってきたようだ。
時折、登山者が滑落していく。落ちていく様を眺めながら、「万一の時はこのまま本番だな」と思いながら、北股沢出合上で訓練を終了する。後は皆、グリセードを楽しんで下山。
訓練参加者:(指導員B級)菅野享一・井上邦彦・仁科友夫・三浦鉄太郎、(指導員C級)横山利夫・羽田義明・辻村輝幸・平田健治・平田恵子・渡部政信、(指導員外)阿部吉太郎・森野美治・竹田道則・高貝喜久雄・前田功・津田隆志、(同行)金鋼太郎・高力公男

緑が濃くなった温身平を行く トリカブトとニリンソウの見分け方
うまい水で喉を潤す 地竹原から雪渓に上がる
梶川出合の転石 雪渓には既に穴が開いていた
石転ビノ出合下にも岩が露出 石転ビノ出合付近は落雪注意
石転ビノ出合から石転ビ沢と門内沢
石転ビ沢全景(大岩が露出した)
石転ビ沢下部を登る ホン石転ビ沢下から上部を仰ぐ
途中で動けなくなるボーダー 北股沢出合でメンバーを待つ
北股沢出合全景
急傾斜で下部を覗く 梅花皮小屋直前
高貝・高力会員等が出迎える ようやく梅花皮小屋に到着
道標の会の皆さんと 特訓班は一足先に訓練開始
急斜面でロープワークを反復訓練
懸垂下降もいきなり本番 ベテラン班も技術をチェック
指導方法の訓練 小屋の周辺は登山者で賑わう
大日岳 梅花皮岳
ミヤマキンバイ とりあえず看板を掲示しました
残ったメンバーで記念撮影 カッパ搬送に挑戦
確保を取り慎重に下る 空中で担ぎ手を交替する
雪が軟らかく足が取られる 次第に要領が飲み込めてきた
北股沢出合から上部 石転ビ沢を降る