登山者情報725号

【2003年06月28日/丸森尾根救助作業/井上邦彦調査】

天狗平下の駐車場に車を止める。飯豊山荘に隆蔵がいた。11:41EHJと二人で登り始める。先頭はODD、途中に蝮がいるから気をつけろと無線が入る。この時点で入手している情報では、2人パーティが昨日梶川尾根を登り門内小屋に一泊、丸森尾根を下山しようとして、上部の雪渓付近で岩に足を取られ捻挫して動けなくなった。一人が下山して飯豊山荘に助けを求めた。事故者の体重は78kg。天候状況からしてヘリコプターの利用は絶望的である。PWDの判断としては、稜線に担ぎ上げて頼母木小屋で天候回復を待つ方針とのことであった。事故者まで到達目標を14:00と計算する。
仁科3人を追い越す。うち1名(横山)がレスキューハーネスを担いでいると言うので、全力で私について来るように話す。空腹のため、12:09-12、700m峰でQKGから貰ってきたお握りを頬張る。追いついてきた横山とEHJに水を飲ませてもらう。本日は梅花皮沢捜索のため、水筒は置いてきたのだ。
新しい情報が入ってきた。事故者から携帯電話で連絡があり、自力でゆっくり下山中であり、現在の高度は1,200mとのことである。とすれば、夫婦清水付近で出会う可能性が出てきた。
この先は一度降って登れば傾斜は緩くなる。ODDが無線交信をしている脇を追い抜く。12:43夫婦清水通過、水場の上にはまだ雪が残っており水量は豊富である。すぐ上で先行していた事故者の同行者に追いつく。状況を聞くと、腕時計型の高度計を持っているが、何処でも標高を合わせていないので、高度の誤差がある筈とのことであった。
12:51足を引きずるようにして、ゆっくりと下山してくる事故者に合流する。腫れているが、足首の痛みから、捻挫もしくは剥離骨折と推測。何処まで頑張れるか不明だが、可能な限り自力下山をしてもらうこととした。途中、三角巾で軽登山靴ごと固定する。下るにつれて隊員が次々と合流する。13:18、夫婦清水を通過する。無線でNHK登山教室一行を案内して倉手山に登っているAXLから連絡が入る。700m峰からの下降は背負い搬送を想定していたので、一行を無事に下山させた後に、こちらに登るように指示する。
事故者は苦しそうだが、着実に下る。背負い搬送をちらつかせても、まだ自分で頑張るという緊張感を保ち続けている。急斜面が出てきた段階で、事故者にロープを付けて確保して下る。
700m峰の登りは必死の形相である。足元を観察していると、それまで丁寧に選んでいた足場が無造作になり、足首が曲がり始めた。700m峰ピークで、限界と判断して、レスキューハーネスによる背負い搬送の準備に取り掛かる。手持ちの材料は、レスキューハーネス1個、カラビナ4枚、シュリンゲ3本、9mm15mロープ1本である。ロープが短いのでこまめに潅木や松で支点を取り、グリップビレイで確保する。岩稜を一歩一歩担ぎ下ろすが、体重に登山靴や衣類などを含めると80kgの重量である。頻繁に担ぎ手を交替する。岩場に差し掛かると、担いでいる隊員の足が小刻みに震えている。津田君は、今回が搬送デビューである。やはり、隆蔵・吉田は動きがスムーズ、EHJの動きも良い。私も2ピッチ担いだが、やはり重いものは重い。
17:08救急車の待つ天狗平に到着。事故車を救急隊に引渡し、人員装備の確認後、私はマタジサミットに出席のため、朝日連峰山麓のりふれに向かった。
背負い搬送を開始する 岩場を慎重に降る
確保を行う 交替を繰り返す
足場の指示を受けて降る 杖は搬出に大切な用具である
重さが腰に食い込む 背負い手を空中で交替する
速やかな連続確保で降る 天狗平には救急車が待機していた