登山者情報734号

【2003年07月19〜21日/梶川尾根〜ダイグラ尾根/井上邦彦調査】

19日
前日から天気図が気になる。前線の動きからみて極めて微妙な判断を迫られそうである。起床してすぐにインターネットで衛星画像や予想天気図、ピンポイント予報で時間毎の予想雨量を確認し、電話の降水確率も考慮に入れる。道の駅で、今回同行する山口・小野・児玉さんと合流する。天狗平に到着すると、IIVが傘をさしながら小国警察署員・役場町民課職員と一緒にゲート前で登山指導を行っていた。
最終判断として、当初予定していた石転ビ沢から梶川尾根にコースを変更した。雪渓の崩壊や道迷いは技術的な問題であり、リーダーの判断がしっかりしていれば問題はない。滑落については、危険箇所は3人を先に歩かせて、万一滑落したら止めてやれば良い。3人が同時に滑落しないように工夫すれば可能であろう。残る問題は落石である。雨により発生率は増加する。ガスにより視界を奪われ、雨により音を失う結果、飛んでくる落石の発見は通常より遅れる。精一杯の力で登っているメンバーを落石が襲った場合、私の指示通りに3人が動ける保証はない。しかも3人はアイゼンワークをマスターしていない状態でアイゼンを着けるので、急斜面を走った場合はアイゼンを引っ掛けて転倒し滑落する可能性がある。逃げる方向を指示した瞬間に私は移動するので、滑落するメンバーを止めることはできない。決定的なことは、登高速度が遅い、即ち危険地帯にいる時間が長くなり、それに比例して危険度が増加するということである。
06:06天狗平の湯沢ゲートから出発する。橋を渡った途端に急峻な登りとなる。事前の打ち合わせで概ねの登山経歴は聞いているものの始めて同行する3人である。ペース配分が難しい。幸いなことに私のザックの重量がローギヤレベルに設定しておいたので、オオコメツツジを見ながら、ゆっくりゆっくりと足を進める。06:49-55飯豊山荘を眺める楢ノ木曲りで休憩、カッパの上を脱ぎ、お握りを頬張る。ここから先は傾斜がやや緩くなる。ナラやブナの林を登っていると、先行するパーティがいた。急斜面を登り終えた湯沢峰の肩からは残念ながら何も見えない。07:52-08:10湯沢峰で他パーティと一緒に汗を拭う。ダイグラ尾根が微かに見えた。一度下って、ツルアリドウシの咲くブナ林を進む。BPZと梅花皮小屋のOTJの無線が入ってくる。BPZとAJKは数人を案内して石転ビ沢に入っている。石転ビノ出合まで着いたが、雨が強く降るのでこのまま登るべきか引き返すべきか、判断に苦慮しているらしい。
08:57-09:04分岐点に荷物を置いて滝見場に足を伸ばす。ガスの切れ間から梅花皮大滝と石転ビ沢が見えた。数人が登っている。再び急斜面を登る。汗だくになって、09:47-10:16五郎清水に到着する。一番元気な児玉さんが水汲みに行って来る。1,320m深く掘れた登山道脇に新道ができていた。12-13日登山道整備山行で切り開いたものである。これでかなり歩きやすくなった。
10:58-11:07三本樺で休憩。石転ビ沢を見下ろすと、大きく白い破線の側で休憩している登山者が見えた。白い破線は大きな落石が飛び落ちた跡である。背筋が寒くなる。小野さんが足の不調を訴える。膝に自信がないので膝の固定具をつけたままで登ってきたとのことである。登りなので膝の固定は必要性が低い、むしろ血行を阻害している可能性があることから、固定具を外すことにした。以後、足の不調は回復した。
この付近から花が目立ち始める。ヤマトウバナ・シロバナニガナ・ミヤマコウゾリナが咲いている。トットビ沢源頭残雪脇の笹原に立派な登山道ができていた。ここも12-13日登山道整備山行で切り開いたものである。これにより雪の上を歩く必要がなくなり著しく危険性が少なくなった(以前ここから滑落した登山者2名の救助で大変に苦労した記憶がある)。さらに、貴重な高山植物の斜面に深く刻まれた登山道の悪化を防ぎ復元に向けての基礎ができたことになる。
11:40-52梶川峰まで登れば稜線漫歩が待っている。ヒメサユリ・ゴゼンタチバナ・ニッコウキスゲ・イワイチョウ・ガクウラジロヨウラク・ミヤマアキノキリンソウ・ハクサンシャクナゲ・ヨツバシオガマ・タカネサギソウ・ハクサンフウロ・アカモノが咲いている。
12:09ケルンを通過する。クルマユリ・チシマギキョウ・トキソウ・マルバコゴメグサ・ミヤマリンドウ・キンコウカ・タカネアオヤギソウ・タカネサギソウ・コメツツジ・アオノツガザクラ・イワカガミ・ツマトリソウが咲いている。特に残雪近くのチングルマは見事だ。
13:03-08扇ノ地紙広場の新しい標柱脇休憩。ここから稜線を歩く。ハクサンコザクラ・アオノツガザクラ・チングルマ・イワカガミ・ミヤマコウゾリナ・ヤマハハコ・ゴゼンタチバナ・シロバナニガナ・ハクサンシャクナゲ・ニッコウキスゲ・ハクサンボウフウ・シラネニンジン・マルバシモツケ・ヤマトウバナ・ミヤマアキノキリンソウ・クルマユリ・ヨツバシオガマ・ハクサンフウロ・ミヤマコウゾリナ・ムカゴトラノオ・タカネアオヤギソウ・ニッコウキスゲ・シシウド・ミヤマホツツジ・オンタデ・キバナノコマノツメが咲いている。
13:40-14:04門内小屋で北股岳の登りに備えて腹ごしらえ。小屋下はミヤマキンポウゲが見事だ。エゾイブキトラノオ・シロウマアサツキ・タカネツリガネニンジンと花は増えていく。ギルダ原を過ぎると、ニッコウキスゲの中を歩く。15:05-09北股岳でOTJに「ビールは冷えているか」と無線。15:38チシマギキョウに包まれた梅花皮小屋に到着。小屋ではOTJの他にAJKとBPZが出迎えてくれた。また粕川氏もテントから顔を出した。そのうちに視界が開けてきた。
石転ビ沢をようやく登ってきた1名が激しい衰弱をしているとのこと、小野さんが様子を見に行くと、点滴が必要な程度の衰弱。ちなみに今回の同行者は全員医療関係者である。御西小屋のIWUから、梅花皮小屋に向かった14名ほどのパーティについて問い合わせがあった。19:00過ぎに一行が到着。再び小野さんが様子を見に行くと、お年より達は、彼女が生まれて始めて見る凄まじい目をしていたとのこと。聞けば、本山小屋を出発してすぐ、飯豊山三角点で誤ってダイグラ尾根を下山(ここには方向を示す標識はありません。飯豊連峰には最低限の標識しか設置されていません。視界がない時は地図と磁石で確認してください。まさか地図と磁石を持たずに飯豊連峰に来る方はいないと思いますが)し、ようやく登り返して御西小屋に到着、ここで大休止をして、遅くなってから梅花皮小屋に向かったとのことであった。
20日
ガスの中、AJK達は予定の大日岳往復をどうするかで判断に苦しんでいる。私達は片道なので躊躇なく06:13梅花皮小屋を出発、お花畑の中、梅花皮岳に向かう。マルバダケブキ・オタカラコウ・シシウド・クルマユリ・ニッコウキスゲ・チシマギキョウ・エゾイブキトラノオ・ムカゴトラノオ・ヒナウスユキソウ・クルマユリ・ヨツバシオガマ・タカネサギソウ・オヤマノエンドウ・キバナノコマノツメ・シラネニンジン・タカネアオヤギソウ・ヤマハハコ・ハクサンシャクナゲ・タカネツリガネニンジン(始)・マルバシモツケ・ハクセンナズナ・ハリブキが咲いている。
06:43梅花皮岳を通過する。ゴゼンタチバナ・アカモノ・イワカガミ・アオノツガザクラ・ミヤマキンポウゲ・イワイチョウ・コケモモ・ハクサンフウロ・クルマユリ・ハリブキ・オタカラコウ・ヨツバシオガマ・ハクサンボウフウ・シラネニンジン・ミヤマホツツジが咲いている。雪を一度踏んで、07:05烏帽子岳通過。オタカラコウ・シナノキンバイ・ハクサンイチゲ・ハクサンコザクラ・バイカオウレン・ショウジョウバカマ・キオン・イワオウギが咲いている。
07:41-58亮平ノ池で腹ごしらえ。ここから天狗の庭までの縦走路は時折残雪の上を歩く。縦走路が雪で覆われているため、登山道から斜面に足場が掘り込まれている。残雪は硬くなっているが、特に端は氷となっており、乗るとそのまま滑落する恐れがあるので注意が必要だ。また、残雪は日々縮小していくので、その都度に取り付きが変わっていく。アイゼンが必要というほどではないが、慎重な行動が求められる。どのような状況にも対応できるよう1パーティに1本のピッケルは欲しい。
シラネアオイ・コバイケイソウ・ズダヤクシュ・ショウジョウバカマが咲いている。08:20御手洗ノ池のシラネアオイは印象的。08:54-09:25天狗ノ庭で、昨年の登山道整備の効果を確認する。予想以上の成果に満足。ミヤマダイコンソウ・ガクウラジロヨウラクも加わる。途中5分ほどの休憩を挟んで、10:03天狗岳を通過すると、ハクサンイチゲが咲いていた。
10:27-12:04息を飲むようなミヤマキンポウゲの群落に包まれた御西小屋でIWUに歓待を受ける。視界がないこととから大日岳往復を止める。御西小屋からは草原のお花畑を進む。チングルマ・アオノツガザクラ・イワカガミ・イワイチョウ・ムカゴトラノオ・タカネアオヤギソウ・ニッコウキスゲ・キバナノコマノツメ・シラネニンジン・ハクサンフウロ・オノエラン・イイデリンドウ・ヒナウスユキソウ・オヤマノエンドウ・チシマギキョウ・マイヅルソウ・ミヤマアキノキリンソウ・ミヤマコウゾリナ・ヨツバシオガマ・ハクサンボウフウ・シシウド・ミヤマキンポウゲ・ミヤマリンドウ・アカモノと数えるのにきりがない。特にニッコウキスゲが良い。
13:01玄山道分岐を通過する。13:13-28オヤマノエンドウとヒナウスユキソウの咲く中、休憩。駒形山を経て、14:04-11飯豊山三角点。コケモモやヒメサユリの咲く中、14:27本山小屋に到着。EHJ、小林・佐藤さんの歓待を受ける。
21日
05:38カッパを着て本山小屋を出発し、最低鞍部から旧赤谷登拝路を下る。笹に覆われて足元が見えないので要注意である。残雪の融雪水で水筒を満たし、もと来た道を戻る。06:03飯豊山三角点を通過して、いよいよダイグラ尾根を下る。御前坂にはヒナウスユキソウ・ムシトリスミレ・ミヤマダイコンソウ・シラネニンジン・チシマギキョウ・ハクサンシャクナゲ・タカネサギソウが咲いている。無線でGZKから気象情報を聞く。「下越地方に大雨雷雨注意報、現在、新潟市・新発田市で1時間80mmの雨、この雲が飯豊連峰に移動する可能性が高い」とのこと。道刈りと水場探しを行う予定であったが、それどころではない。
OTJとの交信によると、昨夜19:00頃に雪渓で滑落した登山者が、23:00頃になって大声で助けを求めてきたので、下の雪渓を下り連れて来たとのこと。登山者は軽アイゼン着用で、滑落した時に片方のアイゼンを失い、それ以上は登れなくなっていたとの。ことである何時もの異ながら梅花皮小屋の管理人は楽ではない。
以前からの崩壊地で登山道は右手に折れ暫くトラバースし、左に折れて下り始める所で今春の大きな崩壊が起きている。このため、登山道は潅木の狭いトンネルを下っている。本来なら登山道整備を行う所であるが、膝に不安を持つ同行者、予想される大雨を考えて先を急ぐこととした。下りきると雪が残っている。この上で左に折れてトラバースするのであるが、付近一帯が崩壊地となっているので、左に折れずにそのまま下ってしまいそうである。下山時は注意が必要である。前方を見ると、何パーティもの登山者がダイグラ尾根を下っている。
コキンレイカ・ウツボグサ・ハクサンシャクナゲ・ヤマトウバナ・ギボウシ・ニッコウキスゲ・クルマユリ・ヒメサユリ・ハクサンボウフウ・シロバナニガナ・オオサクラソウ・タカネナデシコ・タカネアオヤギソウ・ホツツジ・ズダヤクシュ・ハクサンコザクラ・カラマツソウが咲いている。一気に岩稜までと考えていたが、空腹のため7分程度休憩。ミヤマキンポウゲ・アカモノ・ミヤマコウゾリナ・ハクサンフウロ・ヒメシャジンを見て、07:39岩稜を通過する
ダイモンジソウ・コメツツジ・ヤマブキショウマ・モミジカラマツ・カラマツソウ・コバイケイソウが咲いている。何時もと変わらず足場は悪い。ダイグラ尾根上部の足場の悪さは飯豊連峰で一番かもしれない。同行者に三点支持など岩登りの基礎を教えながら進む。宝珠山最後の登りに残雪がある。トレースがあったのでそのまま通過したが、逆コースの場合は危険である。宝珠山を巻いて下る途中2箇所に残雪がある。安全を考えてピッケルを抜き、同行者の滑落に備える。
幸いトラブルもなく08:04-09宝珠山の肩に到着、休憩を取る。ここで今山行始めてハクサンチドリを見かける。イワカガミ・ノウゴウイチゴも咲いている。さらに残雪を2箇所ほど踏んで下る。シラネアオイ・オオバキスミレ・ガクウラジロヨウラク・イワカガミ・ママコナが咲いている。
今回の山行の目的のひとつは、私が小国に戻る前にダイグラ尾根で発生した遭難事故において、救助隊が作業中に水場を見つけたという話を確認することである。藤田栄一氏から聞いた転落現場の特定を試みる。標高1,605mには松があり条件に符合する。また1,585mから下を除くとスラブ状が発達しており、一枚岩に符合する。さらに降り、1,545m僅かに雪の残る小沢の源頭部の登山道が丸い岩の上を通る。昔の記憶を辿ると、この岩が救助作業に関係したと聞いたように思える。恐らくは、この付近から一枚岩にトラバースする途中と思われる。ともあれ、今回はここから強引にトラバースを行い捜索するより、写真を撮って藤田氏に再確認してもらうこととした。
09:00-07小さな雪窪地形で休憩を取る。千本峰南東壁を見て同行者は「あそこを登るの!」ルートは左の尾根なのだが、岩場である事は間違いない。ストック(今回は全員が2本ストックを使用した)をザックに横に差し、四苦八苦して岩場を登りきる。09:47千本峰南峰1,460m、北峰の林の中で標柱脇を通る。マルバキンレイカも咲いていた。幾つかのパーティと抜きつ抜かれつ下る。ODDからの気象情報によれば、下越地方(飯豊連峰の西半分)は大雨だが、小国は1ないし4mm程度の降水量とのこと。雨は降ったり止んだりを繰り返す。
姿を現した主稜線を眺めながら、10:47-11:11休場ノ峰1,320mに到着する。ここで靴紐を締めなおし、小野さんは膝バンドを巻き直す。いよいよ急坂の下山開始である。2本ストックの使い方に慣れてきた3人は転ぶこともなく上手に膝に衝撃を加えないように下る。私の経験からすると、体の重心を後ろに置くと足が滑って転びやすい、ストックを使用することによってやや前傾姿勢になることができると、垂直に重心を保ち転ばなくなる。ただしストックの置く場所を間違えたり、体重を掛ける方向を誤るとストックが滑って大きく転びやすいようである。
11:55-12:04長坂清水で休憩。12:39-48休憩、沢の音が聞こえ、砂防ダムも見えてきた。13:36-14:10とうとう桧山沢に到着。珈琲を沸かして満足感にひたる。温身平でOTJにお礼の無線を飛ばし、14:59天狗平に到着。

滝見場にて 整備された新道を登る
三本樺直下 三本樺にて
北股沢出合から上部の石転ビ沢 トットビ沢源頭の新道
梶川峰にて 稜線漫歩が始まる
チングルマを背景に イワカガミ
門内小屋 ギルダ原のお花畑
北股岳山頂 北股岳の下り
梅花皮小屋にて関係者と 与四太郎ノ池付近
谷底を恐々覗き込む 御西小屋のお花畑
御西小屋にて歓待を受ける 御西小屋IWUと一緒に
草月平
ミヤマリンドウ 駒形山から飯豊山
飯豊山々頂 最低鞍部から左に下ると仮の水場
本山小屋にてEHJ・小林・佐藤さんと 本山の融雪水を汲む
御前坂の下り 御前坂を振り返る
岩稜にて 宝珠山から岩稜を振り返る
シラネアオイ カッパは泥だらけ
千本峰の岩場を登る
千本峰にて 樹林帯に入る
歩いてきた稜線が見えた
亮平ノ池〜天狗岳
岩場を下る 休場ノ峰にて
急坂を慎重に下る
桧山沢吊橋を渡る 落合で珈琲を沸かす
正面がダイグラ尾根 ブナの巨樹