登山者情報743号

【2003年08月17〜18日/湯ノ平〜北股岳/井上邦彦調査】

現在交通止めになっている御幣(オンベ)松尾根とオーインノ逆峰の現状を自分の目で確かめたくなり、鹿瀬町役場に状況を尋ねた。現在工事中で降雪前には終了するらしい、再三「登山は禁止」と言われ、雪降る頃に湯ノ島小屋を訪ねることとした。残るのは湯ノ平コースである。
前回の山行で禁忌を破って左足脹脛を痛めてしまった。その後、雑用や台風のせいで3週間ぶりの山行となった。前夜は中学校の同窓会で二日酔い気味、のんびりと自宅を出発する。例によってコンビニで弁当とお握りを購入する。お握りはともかく、卵と鶏肉の入っていない弁当を探すのは至難の業である。昔、家族で月山に登った時に山仲間の紹介で手向集落の大新坊に宿泊した。お山に登るからと言って出してくれた精進料理の美味しかったことが忘れられない。今回購入した弁当にも卵焼きと鶏肉がひとかけら入っていた。捨てる訳にもいかないので、山に入る前にと鶏肉と卵を途中のパーキングで食べてしまう。
加治川治水ダム公園で遮断機が設置されていた。ダムは水を少なくしており、湖底近くの公園は大勢の家族で賑わっていた。ここは、蒜場山と焼峰の登山口でもある。この先は長い林道歩きとなる、せめて帰りはスムーズに来たいので自転車を準備してきた。山支度を整え自転車に跨りいざ出発しようとした時、自転車のタイヤに空気が入っていないことに気づいた。先ほど食べた鶏肉と卵の祟りであろうか、暫し呆然とする。しかし、ものは考えようである。入山前に食べたので、出発前にトラブルが起きた、これで後は安全である(ことにした)。
12:43駐車場を出発する。真新しい遮断機は鍵が筒の中に入っており、ハンマーでも壊せないようになっている。そう言えば、駐車場には車上荒らしに注意するように注意を促す看板が立っていた。物騒な世の中である。トイレを過ぎた所にも遮断機が設置されていたが、こちらは従前の型式である。
少々右足脹脛が気になる。今回はリハビリ山行と言い聞かせ、のんびり歩く。メジロ虻はさほどではない、若干の風が功を奏しているのだろう。歩きながら梅花皮小屋のMXLと無線で交信し、明日こちらに降りて来ないか交渉する、そうすれば私は石転ビ沢を降りることができる。しかし交渉は成立せず、帰りも歩くことにする。青空の下、林道を歩いていると、軽い熱射病になったような感じがする。血液の流れが頭に行かなくなっているのだろう。
松ノ木沢手前にブナ・ユキツバキ群落保護林の看板があった。さらに加治川ダムまで1kmと書かれた看板に励まされる。自転車で降りてくる釣り人とすれ違う。土砂崩れは何処だろうと探せないままに歩いていると、1箇所道路が陥没している所があった。
14:14加治川ダムの脇を通り、14:17駐車場に到着。やはり車は1台もないが、自転車が数台置かれてあった。ここから登山道に入る。14:30-39山ノ神沢で顔を洗い頭に水をつけて冷やす。2週間休んだハンデは大きく、体が山慣れしていないのだろう。本山小屋のEHJから湯ノ平までの橋は整備されていると聞いていたので安心して歩く。15:00北股沢吊橋、相変わらず一気に沢まで下って登り返す。
水天狗の岩場を下る登山道から女湯が見えた。予想通り屋根と覆いはなく、直接浴槽が見える。湯煙を横切り、15:32湯ノ平山荘に到着する。先客は豊栄と新発田の方3人。水場(対岸からダイナミックに張られたやおきの水)も便所も問題なく、管理人室の鍵が掛かっているだけで昨年と変わらない。缶ビールを冷やして上流の露天風呂に向かう。先客と一緒に赤茶色の薄皮が浮いた風呂に入る。そのまま座ると尻が真っ赤になるので、平坦な石を敷いて湯に浸る。
夕食を終えて下流の女風呂に入る。こちらは先客が掃除してくれていた。対岸はナラやブナのつき方、単子葉草の流れ、ゼンマイの重なり、カエデなどほふく系の潅木、露岩、全てが冬の様子を物語っている。携帯電話も無線も入らない谷間の風呂にぽつんと1人で居ることの幸せ。
2:00起床、ラーメンを食べて02:37ヘッドライトを点けて出発。慰霊碑の脇から登るのだが草が伸びて道が分かりにくい。梯子を登り、02:55短パンに履き替える。道脇を獣が降っていく。急な尾根を詰め、左のブナ林を斜登し、左からの尾根を合わせる、03:17-20最初のピークが鳥居峰であり、標識が置いてある。ここから尾根上を進み、ピークを左に巻くが、急斜面で草が伸び足場が良く分からない上に踏み込まれておらず、慎重に通過する。大きく降って再び登り始める。若干雲があるが、時折半月が姿を現す。星を見ながら山を歩くのも久しぶりである。私は星座のことは分からないが、群れている星や、線上に繋がる星、人工の光が全くないのは楽しい。高度を上げていくと、新発田方面の光が見えた。人間世界に戻ったような気がした。やがて稜線青くなり星が消え始める。04:10-21、1,040mヘッドランプの光が消えた、電池を換えるのにどちらがプラスでどちらがマイナスなのか分からずに四苦八苦、結局携帯電話のスイッチを入れ、更に虫眼鏡で覗いて確認し取替えを終了した。全くの手さぐりでも分かるように凹凸を点けておく必要を感じた。食欲がないのでウイダーinゼリーを飲む。
04:25右に折れて沢状地を進むと二つに分かれる。記憶に基づいて右の道を進む、始めて方は迷うかも知れない。04:40滝見場、松に標識が付けられている。04:54-05:04休憩。05:12寅清水、標識が付けられている。05:21池の脇を通る。エゾシオガマ・ホツツジ・ミヤママコナ・ツルアリドウシ・ヨツバヒヨドリが咲いている。
05:33-43中峰で休憩、携帯電話は依然として圏外である。ニッコウキスゲ・ハクサンボウフウ・オニアザミ・ミヤマセンキュウ・ミヤマアキノキリンソウ・オヤマリンドウ・ハクサンコザクラ・イワイチョウ・白いスミレ・ヤマトウバナ・ハクサンチドリ・ミヤマキンポウゲ・タカネアオヤギソウ・コゴメグサ・ヤマハハコが咲いている。イワイチョウを何物かが食い散らかしたような跡があった。
05:59、1,510m北股岳へ続く長い尾根が見えてくる。昨年の刈り払い道に今年の笹が元気良く生えている。朝露でパンツまで濡れる。オクモミジハグマ・ウツボグサ・ヒメアザミ・トリカブト・ハクサンフウロ・ゴマナ・ノリウツギ・エゾイブキトラノオ・ウメバチソウが咲いている。脹脛に不安があるので左足底を全て接地する、当然ペースは上がらない。体調は中峰でお握りを食べてから楽になる。06:40-47、1,750m食事。北股岳から洗濯平さらに下部のうねるような凹凸を見ていると、北股岳山頂から大規模な地滑りが起こり、洗濯平を頂点にして圧迫されて凹凸地形となった様子が良く分かる。これまで誰の足跡もなかった登山道に大きな爪のある足跡が乱れている。熊であろう。登山が禁止されているので、熊の巣になっていることが予想され、熊スプレーを準備するが、うっかり自宅に忘れてしまったことを悔やむ。
06:49二俣、下部から見ると明瞭に洗濯平へ行く右の道が分かる。標識あるが間違いやすい。タカネマツムシソウ・タカネツリガネニンジン・ナデシコ・ミヤマコウゾリナ・マルバダケブキが咲いている。笹が背丈まであるので全身ずぶ濡れである。眼下に洗濯平、まだ雪が残っている。
1,900mハエマツが出てくる。傾斜が落ちてきて、07:17-19、1,970m北股岳山頂に到着する。湯ノ平方面には下山しないようにロープが張られていた。無線交信によるとODDとMXLは北股沢出合を降っているとのことである。ここからはお花畑の中を梅花皮小屋に向けて降る。見下ろすと黒滝まで雪がなくなっている。ホン石転ビ沢付近から下部は雲海で見えない。
オタカラコウ・ヤマハハコ・ヤマトウバナ・ミヤマコウゾリナ・ミヤマキンポウゲ・モミジカラマツ・ミヤマアキノキリンソウ・ウメバチソウ・トリカブト・タカネナデシコ・タカネツリガネニンジン・エゾイブキトラノオ・マルバコゴメグサ・ハクサンフウロ・トモエシオガマ・イワインチン・イイデリンドウ・オンタデが咲いている。特にタカネマツムシソウとコゴメグサが斜面を一面に覆っている。
07:36-08:25梅花皮小屋に到着しOTJの出迎えを受ける。ラーメンを食べよく冷えたビールを飲み、情報交換をする。
08:43-46、1980m北股岳山頂を通過する。朝日連峰の上に鳥海山と月山が確認できた。雨が新潟方面から蒜場山あたりまで来ている。09:12GZKの予報どおりに雨が降ってきたのでカッパを着る。
何気なく右手の斜面を見ると、残雪上部の草原に黒く大きな塊がある。熊のような感じがするがはっきりしない。注意しながら降っていくと、黒い塊が長くなったり角度を変えている。間違いなく熊である。沢を一つ隔てているが、その気になればすぐの距離である。3倍ズームのデジカメで撮影しながら降る。幸い向こうは私に気付いていないようである。時折僅かに移動する、その時は熊の姿がはっきりとする。
09:44、1450mよりブナを含めた潅木となり、09:52-56、1370m中峰、降りは左の水場に行く道、草原に(ここも水場)降る道があり迷いやすいので注意が必要である。ここから下は高木が出てくるのでカッパを脱ぐが、結局これが失敗で乾いていた長ズボンがずぶ濡れとなってしまった。10:05池の脇を通過する。10:10寅清水通過、水場に行くと途中の天場が見える。10:25、1,100m滝見場通過。10:39-45沢状の道下で尾根に戻る箇所で最後のお握りを食べる。以前に茸を採ったブナが倒れていた。時間の経過を感じる。11:26鳥居峰を通過。
11:49-12:42ようやく湯ノ平山荘に到着する。誰もいない、早速小さな缶ビールを八百樹の水に冷やして、パンツ一丁で露天風呂に直行する。雨の中、傘も差さずに湯船を独り占めする。風呂あがりには昨夜の残りで作ったモツ入り餅ラーメンをつまみにビールを飲み干す。
湯ノ平から3.4kmの歩道を歩き、13:40加治川ダム駐車場を通過、14:09保護林看板通過、底の薄いズックなので足裏が痛くなってくる。メジロがまとわりつくので、首筋や耳の後ろにハッカ油を吹き付ける。ツチノコのように腹部が異常に膨らんだヤマカカシが車道に横たわって動かない。うんざりした頃、15:25加治川治水ダム公園に到着。

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