登山者情報744号

【2003年8月16日〜17日/大熊尾根〜杁差岳〜権内尾根/山田亘調査】
コースタイム
8月16日晴れ後曇り
05:49大石ダム(200)→09:12〜09:22十貫平→11:13〜11:45大熊小屋(380)→12:20尾根に乗る(500)→14:12〜14;25一杯清水(890)→16:40一の峰(1470)→17:24分岐(1600)→17:29〜17:40杁差岳(1636.4)→17:45杁差小屋(1610)8月17日曇り後雨
04:49杁差小屋(1610)→04:52〜06:00杁差岳1636.4m→06:13長者平(1590)→06:35前杁差岳(1530)→07:32〜07:44千本峰(1164)→08:16権内の峰(1001)→08:48〜09:00カモスの頭(847)→09:08水場分岐(770)→09:25雨量計NO.2(630)→10:08東俣第二吊り橋(350)→10:25尾根に乗る(490)→10:40三吉の平(350)→10:51東俣第一橋(300)→12:00彫刻公園ゲート→12:48大石ダム駐車場
記録
 杁差(エブリサシ)岳は飯豊連峰の北端に位置する。6月頃から杁差岳を西俣から登りたいと思っていたが、登路に糸を垂らすと12.5kmと長いため逡巡していた。また今年は天気が悪く大熊沢までの道も不安だった。しかし不思議なもので、最近楽な山が続いたら飯豊に行きたくなった。天気も良さそうだし、お盆で本山も梅花皮小屋も混雑が見込まれたので、今回登ることにした。折しも実家の村上は七夕で、かみさんと子供を連れて前夜のうちに移動した。そしてGPSを45秒に一回受信モードに設定した。これは23時間40分でログが一杯になるもので、自分の鈍足と沢での受信感度の悪さを考慮して決めた。そして登山者情報574号を読みながら寝た。
8月16日晴れ後曇り
 05:49大石ダム駐車場発(200)、ダムを渡りトンネルの入り口左のスイッチを押すと10分間照明がつく。トンネルを出ると行く手に杁差岳が遠く見えた。広い道を歩き06:04白い橋(200)を渡った。06:25〜06:29滝倉橋で登山者カード記入する(200)。アブが出てきたのでハッカ油を塗った。滝倉橋を渡ると細い道になった。06:44黒手沢で赤い橋を渡る。ここは地形図でイヅクチ沢と表記されていたので混乱し現在地がわからなくなった(190)。読んでいる人は、GPSを使えばいいではないかと思われるかもしれない。けれど緊急のトラックバック(もと来た道を戻ること)以外はGPSをできるだけ使いたくない。GPSばかり見ていると地形の観察がおろそかになり、山行の緊張感がなくなるからだ。なのでGPSにこの場所を記憶させただけで進んだ。カジガネの岩肌をそれと気づかず通り過ぎ、杉の植林が少し、後はブナの中を歩いた。
 07:40ブナ林を抜けると岩肌につけられた登路の向こうに杁差が見えた。人形の峰から続く尾根が迫っており、地形図を見てここが659mピークから東に伸びる尾根の突端だと見込みをつけた(230)。登路は沢の上流に向かい山腹の岩肌につけられた道を進んでいった。かなり入った所に渡渉点があり、それを過ぎると山腹の道を516mピークから伸びる尾根の突端に戻っていった。08:05 516mピークから来る尾根の突端で再び杁差が見え、現在地がわかった。帰ってからGPSログと地形図と越後の山旅と登山者情報574号を突き合わせてこの沢がイヅクチ沢だとわかった。
 ブナ林に入り、下生えのシダの間に08:21うじ沢の標識(260)。ログを見ると、516mピークと683mピークを結ぶ尾根に東から食い込んでいる沢だが、現地では小さく見えた。その後08:45 683mピークから東に伸びる尾根の延長線上(250)、09:04スノ沢の手前(260)などにきれいなブナ林が見られた(260)。09:12スノ沢を飛び石づたいに渡り(290)、短い鎖で上に上がると、今までとは違った感じのブナ林が広がった。木肌に風格があり、蝉の声が深く浸み込むように響いていた。辺りを見回し、一つ一つの木が高いため深く響くのだろうと思った。ここが十貫平で、その中を09:13〜09:22まで写真を撮りながら歩いた。タキプ沢で十貫平は終わる。その後09:34にもブナ林が見られた。ゼカイ沢が近づくと、道は狭くなり沢に近づいていった。これはゼカイ沢の手前でログが西俣川の右岸に飛んでいることからも読み取れる。山肌が近づき、西側の衛星捕捉が絶対的に妨げられログが狂ったと考えられるからだ。行く手に右手から流入する沢が見え09:59ゼカイ沢。静かで落ち着くところだ。アブが出たがすぐ消えた。子供のアブなのかクリーム色の体に緑のスジが入っていた。この付近に鉱山跡があるはずだが気づかなかった。11:05二本丸太橋を2本ワイヤをつかんで渡る(345)と、ほどなくブナ林の中に青い屋根が見え11:13〜11:45大熊小屋(380)。直ぐ近くにいい水が流れていた。下りの単独行者が一人と沢登りの6人パーテイがいた。その中の一人に「よりによってこんなところに来るなんて、好きだなぁ。俺もそうだけど」 と言われた。皆ここが好きで来ているのだ。それが感じられ嬉しかった。
 小屋を出ると気持ちよいブナ林の中を歩く。広く緩やかな斜面を歩いていた道形が露骨に斜降していき12:04大熊沢(430)。この吊り橋は2本丸太に一本ワイヤで、おっかなかった。橋を渡り少し登ると道形は緩やかに斜上していき12:20尾根に乗った(500)。ログはつけていないがこの尾根は地形図の登路よりも一本南の尾根だ。登り初めて直ぐ、道刈の人達が降りてきて小屋の状況を聞かれた。行き届いた整備にありがたいと思った。結構急な尾根だが、道形はわずかにジグザグにつけられており斜度を緩めている。古い登路の尾根とは570m位で合わさった。12:42斜度緩み尾根に姫小松とブナが混じり気持ちよい(580)。13:08〜13:26 700m付近で休む。長者平の下に大熊沢上部が見える。762mピークからの登りでは足の松尾根越しに二王子岳が段々見えてきた。きつい登りだなぁと思っていると、行く手からぽたぽたという水音が聞こえ14:12〜14;25登路左手の一杯清水(890)で休んだ。なるほど一杯清水とは良くつけたもので、シェラカップにちょうど一杯位とれる。先程の道刈の人の細工か、落ち口に木の葉が噛ませてあり、汲みやすかった。樹林帯の見通しの効かない尾根を登る。右手の樹間から時折見える二王子が段々姿を現していく。14:43展望開け、カリヤス平方面が見えた(990)。15:32一の峰が見える。杁差はガスの中だ(1220)。15:47〜16:00カリヤス平(1250)は、草地から一段上がったところで、ここら辺が一番きつかった。歩き出し振り返ると櫛形山脈の向こうに町並みと日本海が見え、左手を見ると人形の峰の向こうに、二等辺三角形の光兎山、その向こうに三段の鷲ヶ巣が見えた。つらい登りを故郷の山に慰められた。16:40一の峰(1440→1470)に着くと杁差がどっしり見えやる気が出た。少しニペソツに似ていると思った。16:58二の峰(1510)過ぎ新六の池から一登りで17:24小屋分岐(1600)。杁差小屋は直前まで見えない。
タカネマツムシソウの中を少し登り17:29〜17:40杁差岳(1636.4)。くるっと見回して「こ・・・れはすごい」と思わず口に出た。そして何故もっと早く来なかったのだろうと悔やんだ。南には飯豊の主稜が雲海の中、島のように見え、南西には東港の火力発電所と日本海が残照を受け鈍く光っていた。沖には大佐渡小佐渡が二段になって見え、櫛形山脈、光兎山、粟島、鷲ヶ巣山、朝日連峰 と北に続いていった。何より嬉しかったのは北西の葡萄山塊の手前に、こんもりと小さな二つの固まりが見えたことで、これは実家の裏山の臥牛山であった。17:45杁差小屋(1610)に入り、小屋下の水場に行く。下り5分、標高差30m位、雪渓はまだ残っており使えた。近くには終わりかけのニッコウキスゲが咲いていた。小屋の1階は7人位で、うち3人は今日大熊小屋から登ったパーテイだ。2階は6人で権内尾根からの二人連れ、足の松尾根からの二人連れ、あと単独行者と私だった。今夜は、オークラ山里の餡を使ったおかゆと大鋸の油揚味噌漬だ。隣の人に勧めたら好評だった。新発田の夜景がきれいで、笑いながら罪のない話をして8時過ぎに寝た。
8月17日曇り後雨
 04:49杁差小屋(1610)発、04:52〜06:00杁差岳(1636.4)でパスタを作り展望を楽しむ。本山が思ったより近くだ。ダイグラが短く見える。やがて人が登ってきて寒江山の左に見えた山を鳥海山ではないかと言った。自分は色が薄くないので月山だと思った。早めに家に帰りたいと歩き出す。06:13長者平(1590)の小さな池塘からダイグラに別れを告げる。行く手に前杁差岳が見え、その延長線上に蒲萄山塊と臥牛山が見える。実家に向かって歩いているようで気持ちが良い。06:35前杁差岳(1530)を過ぎ、07:32〜07:44千本峰(1164)で実家に電話が通じた。回線は安定していた。この先はガスに入りあまり印象がないが、全体的に大熊尾根より斜度を感じた。08:16権内の峰(1001)、08:48〜09:00カモスの頭(847)、09:08水場分岐(770)、09:25雨量計NO.2(630)を過ぎると沢音が近づく。最後尾根を少し外れてから10:08東俣第二吊り橋(350)。この先しばらく、ぐちゃぐちゃした不快な歩きが続く。10:25尾根に乗り(490)緩く下っていき10:40気持ちのよいブナ林で休む。越後の山旅の口絵にある三吉の平だと思う(350)。少し降り10:51東俣第一橋(300)でアブが寄ってきた。ハッカ油のせいで刺されないが体にぶつかってくるのが嫌で雨具を着た。そのうち雨も降り出してアブも少なくなった。11:39東俣大橋で左岸へ渡るとアブが復活してきて記録をやめた。12:00彫刻公園ゲートで下山届けを出し、歩き続けた。いつもは大嫌いな林道歩きだが、雨の中、山行を振り返りながら歩くのは苦にならなかった。12:48大石ダム駐車場。古式に則り雲母温泉の元湯に向かった。小さい風呂だが岩から浸み出す本当の温泉だった。実家に帰り子供と一緒に昼寝してから新潟へ帰った。古き良き飯豊を感じた暖かみのある山行だった。

詳細は http://yasumi.web.infoseek.co.jp/