登山者情報801号

【2004年04月17日/イリタイラ尾根〜杁差岳〜西俣尾根/井上邦彦調査】

気になっていたイリタイラ尾根とデトタイラ尾根を目指すこととした。このコースは以前、西俣ノ峰と東俣沢の間にて乾雪表層雪崩で亡くなった登山者を回収したことのあるコースなので、多少の思い入れがあった。また今回から熊スプレーを装備に加えた。
04:10川入荘に車を置き、ズック靴を履きヘッドランプ点けて歩き出す。乱れた風が強い。プラスチックブーツの入ったザックが重く感じられる。04:15民宿奥川入の鯉幟下を通り、暫く夏道を行くと杉林から雪道になる。
04:27尾根に取り付くと再び夏道になる。イワウチワが咲いている。04:35ライトを消し、トラバースして04:45主尾根となる。一定のリズムで「ピー」を啼いているのはヨタカだろうか。580m04:52二本楢(仮称)根元はイワウチワの花で覆われている。680m05:02からの雪斜面を登りきり、平坦な夏道を進むと05:06-25池(雪で覆われている)に到着する。ここで腹ごしらえをし、プラスチックブーツに履き替え、ズック靴をデポする。あとは快適に雪の上を登り、06:02-06西俣ノ峰に至る。
風が強く時折体が動く。高度計を合わせ、磁石の方向を設定する。上着と軍手を着用する。下降を始めてまもなく、左にコースを変えながら雪斜面を下り、急峻になってきたので尾根の藪を漕ぐ。獣道が見られた。
東俣沢が開いている、とても渡れそうにもない。地形を見てスノーブリッジがありそうな所を目指す。小尾根の途中から、今にも崩壊しそうな雪塊が着いている崖下の斜面を小走りに通過して、長者原沢からの雪崩で埋まった東俣沢を渡る。
長者原沢に入り06:35-40食事を摂る。上着を脱いで北から雪伝いに尾根に取り付く。新しいカモシカの足跡が続いている。白と黒の斑ウサギが目の前を駆け抜けた。06:55-59急斜面となってきたのでアイゼンを履く。藪を漕いで雪上に出る。880m峰07:17通過、980m峰07:34通過、1,130m07:58平坦地となりブナがあった。08:00-10食事を摂る。下ノ境越にウサギダナイが見えた。GZKと交信、デトタイラ尾根下部が藪だらけなので、計画を変更し頼母木山から西俣尾根を下山すると伝える。気温が下がってきた。寒冷前線の通過だろう。
1,180m08:20痩せ尾根は藪となっていた。右の雪斜面を慎重にトラバースして通過する。1,260m峰08:46鉾立峰がガスの中から現れた。鉾立峰山頂の標柱が確認できる。1,480m09:13-19食事を摂る。疲れが出始めた。次第に視界が広がり、ダイグラ尾根が見えた。09:28右からデトタイラ尾根が合流する。09:34杁差岳山頂の標柱が見えた。頼母木山や飯豊山が見えている。09:41長者平に出ると、前杁差岳が見えた。09:49-54杁差岳山頂、たちまちガスが湧いて来る。ピッケルにデジカメを固定し記念写真を撮る。
09:56-杁差小屋周辺には雪がなかった。小屋の中に入り雪を溶かしてラーメンを煮て、1人ビールで乾杯する。
再びザックを背負い歩き始める。藤島玄のレリーフはもとより、夏道が多く露出していた。11:37鉾立峰を通過する。標柱のある山頂には全く雪がない。風はさほどではない。11:55カッパを脱ぐ。山形県側の露出している尾根を見下ろすと縞状に砂礫地があり、氷河地形と思われた。途中から夏道を登って、12:12大石山分岐、全て露出している。板標識は風雪で削られ文字が消えていた。土の上に杁差岳を往復したらしい登山者の足跡が残っていた。分岐からすぐ雪となり、プリムスのガスボンベなど塵が散乱していた。正月だったか、大石山付近で動けなくなり雪洞を掘ったパーティがいたと聞いている。その跡かとも思われた。視界なくなる。ここで今回持参した地図が予定ルートに限定し、鉾立峰以南がないことに気づく。幸いにもすぐ夏道となる。GZKと交信する。12:35から雪の上を歩く。右手、ガスの中に薄っすらと小屋が現れた。うっかりすると通り過ぎそうだ。入り口の鍵が閉まっており誰もいないことを示している。鍵を回して開け、12:49-13:01頼母木小屋に入り、食事を摂り、カッパを着る。
小屋からの登りは夏道、13:11慰霊碑から雪道となる。視界は15m、左の藪を目印にして進む。13:20夏道となり、1,720m 13:25頼母木山々頂に到着する。
視界10m地図なしで下る。目標物のない雪面は恐怖すら感じる。斜面の急勾配は記憶を頼りに千代吉沢と推測し、右に方向を変えると13:32やっと笹薮が出てきた。恐らくは騙シ峰(仮)との鞍部であろう。ここからは右の雪斜面に降りて、斜め左に下ることになる。右往左往し、13:36片手ピッケル片手ストックで踏み出す。
暫くして右手に尾根が見えてきた千代吉沢に入ったかもしれないという不安がよぎる。登り返して右の尾根を越えて下る。瞬間的に尾根下部は傾斜が緩い広い斜面でダケカンバの疎林が見えた。三匹穴に似ている。この尾根を下って見ることにする。しかし、出てきたダケカンバには見覚えがない。三匹穴ではない。思い切って左の沢斜面をトラバースする。かなり進んだつもりだが、尾根上に出ない。視界はなく傾斜も緩くならない。やはり間違いか。もう一度尾根に戻ると丸森峰が見えた。何故かいつもより随分近く感じる。下の尾根は巨大だ、丸森尾根と西俣尾根の間に大きな尾根があったか記憶にない。ここでGZKと無線が通じる。13:55GZKの助言でGPSの座標を送るを知らせる。眼鏡がないので数字が明確には判別できない。GZKは地図と照らし合わせてくれるとのことである。随分長い時間が経過したような気がする。思い付いてシルバーコンパスに付いているレンズで、GPSが示す正確な緯度経度と高度をノートに転記する。37度55分10.1秒、139度37分48.6秒、1,469mであった。地図と照らし合わせるが、肝心の部分が欠けた地図なので役に立たない。下部の視界が開けた。倉手山下部の車道が見える。旭又沢出合左岸のピークも見えた。千代吉沢でないことだけは確かである。思い切って再度左へトラバースを開始する。平坦な斜面が出てきると、まもなくダケカンバがあり、14:28デフを確認した。周辺の雰囲気は間違いなく三匹穴である。14:32慰霊碑を確認する。GZKに無線で危機を脱した旨の報告を行う。聞けばGZKは日本(TOKYO)測地系を使用しているとのこと。私は世界測地系に設定しているので、GZKは調べることが出来なかったのだろう。
樹林帯に入ると藪が出てきた。視界が嘘のように開けてきた。右手の斜面はまだ雪が十分張り付いている。鞍部まで下り14:55-15:02夏道で食事とする。登りは廃道の藪漕ぎである。15:12枯松峰で雪の上に出る。素晴しい雪の尾根を歩く。杁差岳はガスの中であるが、南の飯豊山から次第に晴れてくる。途中の雪庇はかなり不安定になり、枯松峰ほどではなくとも、藪を漕ぐ場所が数箇所あった。
15:53-16:01西俣ノ峰で食事を摂る。日が翳り始めてきた。16:19池でズックを回収、面倒なのでプラスチックブーツのまま下る。16:31二本楢通過する。登る時には気付かなかったが、イワウチワの他にマンサクやカタクリが咲いていた。16:35分岐から枝尾根に入る。咲き始めたタムシバが1本あった。小沢を挟んで対岸ではブナの新緑が始まっていた。16:56取り付きに降り立つ。一面のカタクリの中を進むと右手道下には小柄なミズバショウが群生して咲いていた。17:07奥川入の鯉幟に迎えられる。顔を出して無事下山を報告する。17:10川入荘に到着すると、マタギである舟山真人君が料理人の格好をして出迎えてくれた。正人君から、今回登ったコース「イリ平」を「イリタイラ」と読むことを教わった。
帰宅して、GPSをPCに入力すると、登りのコースが表示されない。調べてみたら、トラックの容量が99%となっていた。まる1日の行動を記録するには、GPSの容量が不足するらしい。今後は何らかの対策が必要だろう。また、頼母木山で彷徨っている様子が、見事に再現されていた。

PS 後日、大石山の残地物については当該パーティが回収したと人づてに聞きました。本番の時は余裕がなかったのでしょう。きちんと後始末をされたことは素晴らしい事だと思います。お疲れ様でした。

画像1  画像2  大渕-天狗平

今回の行程
頼母木山から三匹穴への彷徨