登山者情報814号

【2004年05月29-30日/石転ビ沢、遭難救助訓練/井上邦彦調査】

山形県山岳連盟指導員会と遭難対策委員会共催の登山技術および救助技術の講習会を、1泊2日石転ビ沢で実施した。3年目となる今回は、一般参加者も加え、総勢22名となった。
県内各地から集まるため、08:30天狗平上の駐車場に集合し、荷物の配分を始める。案内文に「飯豊山荘駐車場」と書かれていたので、誤って山荘玄関の駐車場で待っていたメンバーもいた。
雨が心配なので早々に出発。砂防ダムで猿の群れの歓迎を受け、山道に入る。新緑の滴るブナ林の道を歩き、うまい水で休憩。婆マクレ(通称)は1箇所悪い所があるので留意。地竹原を過ぎた所でカッパを着る。
梶川出合すぐ上流に雪渓があるが、梶川左岸は流路部のみ雪渓がなく、本流との合流点には今にも崩壊しそうなスノーブリッジが架かっていた。全員を一旦止め、数人に足場のカッティングと初心者のサポートを指示する。渡渉点を探して登降し、皆を呼ぶ。一人一人足を置く岩を指示し、二人がかりで手を貸す。初心者が渡り終えた時点で、男性1名が荷のバランスを崩し横転する。確認すると肩を痛めていた。幸い今回のパーティには対応できるメンバーが揃っていたので、応急処置を行う。その間、彼の荷をばらすと共に、上部雪渓に上がる部分のカッティングを指示した。QVHがサポートして下山することとした。私もザック容量を増やすため、ズック靴をプラブーツに履き替える。
下山するQVH達と分れ、いったん雪渓に上がってすぐ夏道に入る。この辺りから雪渓の構造とルートの取り方についての勉強会が始まる。昨年の事故現場から雪渓を歩くか夏道を歩くか迷ったが、上の夏道に入った。赤滝のトラバース道はまだ浮石が多く、慎重な歩行が要求された。
ようやく石転ビノ出合に到着する。大岩が3個、露出している。石転ビ沢に入ってすぐ左岸の水場で休憩を取る。ここでスプーンカット・雪上の塵・登山靴の凹凸を利用した雪渓の歩き方と、落石対応の方法を指導する。
天候は小雨、合羽の帽子は音が聞こえないので禁止である。私は菅笠を利用したが、ザックが高いので上を見にくい。途中、落石の音がした「落!」と叫び注意を促すが、途中で止まったようだ。ホン石転ビ沢は十分に雪渓が続いている。対岸(左岸)の枝沢は露出し始めている。左岸で休憩し、アイゼンを着用する。
ここで落石のコースについて説明する。歩きながら左岸枝沢を材料に、亀裂と落石の関係を説明する。また視界が少ないので、北股沢からの落石が石転ビ沢右岸を直撃し、カーブして落ちてくるので、常に上部を確認し続け、やや左岸寄りを登って、傾斜が落ちる寸前に右岸に移り、北股沢出合で沢の分岐尾根を探す方法を指示した。
笹の尾根末端で休憩し、食事を取る。ここで、磁石を使って登る方法とGPSについて説明する。清美氏が磁石を使ってルートを探す。私の頭には、幾つかのホームページで中ノ島(草付キ)が出ていたという報告を読んでいたので、中ノ島を探す。清美氏の方向と私の方向が次第にずれてくる。視界がないので私から離れないように指示する。二つほどガスの中に浮かぶ尾根を確認しているうちに、ルートを失っていることに気づく。やむなくGPSで確認すると、梅花皮岳方面に大きくずれていた。下方からLHDが「左に行きすぎだぞ!」と叫んでいる。GPSで確認した時点から梅花皮小屋に私の磁石を合わせ、右にトラバースする。今度は磁石に従って上り詰めると、梅花皮小屋に飛び出た。
無線によると、梶川出合で荷物を増やした阿曽氏が遅れているとのこと。清美氏に阿曽氏の応援に向かうこと、小原氏に私の荷物から管理棟の鍵を出し皆を迎える準備をすることと指示し、私はザックを空にして下山を開始した。
QVHはホン石転ビ沢と北股沢出合の間まで上ってきているとのこと。黄旗を4本ほど持ち、所々に刺しながら下る。北股沢出合の下で、QVHと合流し荷物を分ける。QVHの登る速度がやけに遅い。聞けば、食料を車の中に忘れてきたとのこと。シャリバテ状態である。私も食料は小屋に置いてきてしまった。ここはもう頑張ってもらうしかない。急斜面に差し掛かるとQVHの足が殆んど動かない。とにかくゆっくり体重を移動し、止まることなく登り続けるようアドバイスしコースを探す。ガスはますます濃くなり、暗くなりかけてきた。黄旗が確認できない。気がつくと、再び左により過ぎていた。方向を変えて、ふらふらになったQVHと二人で梅花皮小屋に到着する。宴会の準備ができていた皆が歓迎してくれた。ザックを降ろして、そのままの姿で缶ビールを一気に飲み干す。
翌日は、雨風ともにないが視界もない。朝食を取りながら、全員で新型搬送方法の研究を行う。その後、カッパにハーネスを着用して石転ビ沢に降りる。今回は初心者も多いことから、滑落停止の基礎から始めた。昨日が雨であったので、雪渓は固くない。次はキックステップとお決まりのコース。
ロープを出してスタンディングアクスビレイに取り組む頃には、全員が傾斜に慣れてきた。天候もガスが取れ、雲上の快適な訓練を楽しむ。上級グループは北股岳に向かい、急傾斜で実施。
PDWが一人で訓練参加のために登って来た。昨日も山菜遭難に出動だったとの事、ご苦労様です。午後から天候が崩れるとのことなので、搬送訓練の準備を行う。津田(香)が怪我人役となり、レスキューハーネスを使用した。怪我人・搬送者のザックが残るので、ダブルザック2名。上部で確保(スタンディングアクスビレイ)者1名。先導者兼サポーター2名。合計7名が必要である。ロープの残りが少なくなれば声を出し、直ちに控えの確保者が確保体制に入る。今回は、軟雪のため、アイゼンが効かず、皆苦労している。そこで安全性を高めるため、レスキューハーネスと確保者の間に8の字結びを作り、そこからもロープで確保点を取れるようにし、適時ピッケルを刺して確保できるようにした。
初心者の方も結構こけているが、滑落防止体制に入っているのでズルズルとずり落ち、容易にサポートしている。
慣れていない方は、確保するにしても習ったばかりで即実践なため焦っているようだ。「ロープを踏むな!」「手の向きが逆!」「ピッケルを踏んでいないぞ!」情け容赦のない罵声が谷間に木霊する。
北股沢出合で搬送訓練は終了。分岐尾根末端に流れている融雪水で喉を潤す。最高の天候だ。ここでアイゼンを外し、思い思いにグリセードや尻セードを楽しんで石転ビノ出合まで下る。
石転ビノ出合で大休止、食事を取る。牛タンを焼く者、ラーメンを煮る者、庄内と小国の笹巻きを比較しながら食べるもの、のんびりと過ごす。食事を取りながら、カッパ搬送小国バージョンUを訓練する。
石転ビノ出合からはルートを確認しながら雪渓を下り、赤滝を終えた所で夏道に上がる。梶川を渡ろうとしたら、昨日よりも水量が増えており、昨日の渡渉点が使用できない。PWDがさらに上流のポイントにロープを渡す。PWDとHZUが両岸からロープを確保し、一人一人慎重に渡す。全員を渡し終えてから、全員がピッケルを抜き左岸に残る薄い雪渓を下り、本流左岸から夏道に上がった。
ここまでくれば一安心である。順調に進み、車に着いた途端に雨が降ってきた。参加された皆様お疲れ様でした。
自宅に帰ると、上る途中に怪我をし下山した参加者から、元気なメールが届いていた。さて、後は反省会をどうするかだけである。それはQVHにお任せすることにしよう。

参加者:JF7HZU・JG7QVH(以上講師)、JK7LFD・JL7UWS・JA7DVF・斉藤(金)・横山(利)・阿曽・太田・阿部・津田(隆)・津田(香)・津田(敬)・内野(豊)・内野(京)・伊藤(市)・葛西・JM7ECB・JI7VCK・渡部(清)・鈴木(麻)、JF7PWD(30日のみ)

今回のコース
最上部での迷走

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