登山者情報843号

【2004年08月08日/弥平四郎〜新長坂〜三国岳〜八ツ小屋尾根/井上邦彦調査】

07日は山形市で花笠祭。各団体とも様々な趣向を凝らし、振り付けを工夫するなど面白く見学できた。
翌08日は05:00自宅発。今回は新しくなった三国小屋と弥平四郎口の車道破損状況確認が目的である。弥平四郎のゲートは開放されていたが、道路欠損箇所の張り紙が下げられていた。07:35ゲートから車の距離計で3.0km、左岸から右岸に渡る橋の袂に5台程度の駐車スペースがある。ここで車を降りることにする。車に虻が大きな雨粒のような音を立ててぶつかる。車の中で長袖・長ズボン・軽登山靴・帽子に身を固める。自転車で出発しようとしてパンクしていることに気付く。
07:47改めて歩き出すと虻はさほどでない。07:53車が数台路側に止められている。車道にロープが張られ、左手に切り開き道が作られていた。切り開き道は崩壊地を巻いて車道に出る。僅か戻って崩壊箇所を確認すると、10m程車道がそっくりと抉り取られていた。西会津町によると「現在の所、復旧の見込みはない」とのことである。崩壊地先の車道には亀裂のように流水が走った跡があり、とても自転車を使用する状態ではなかった。
08:02大きな看板から右手の登山道に入る。「三国岳避難小屋トイレは簡易水洗ですので「水」が必要です。「ペットボトル1本分の水」の補給をご協力ください」と書かれた小さな看板があった。2本の大木を横たえ細木で足場を作った橋を渡る。河岸段丘までひと登りし、08:13-20ブナ林の中に建つ祓川山荘に着く。学生が泊まっていた、メンバーの1人が体調を崩して出発を控えているとのこと。ここで長ズボン・長袖から半ズボン・下着に着替える。小屋内の水道は止まっていたが、屋外の蛇口から水が出ていた。
下の水槽には水がないようだ、08:25上の水槽には水が溢れていた。トビタケを取りに来たという2名を追い越し、08:54崩れた登山道を標識とロープに導かれて高巻く。09:07-10十森の水場は岩を流れる水が登山道を横切っている。
何名かを追い抜き、霧の中を登っていくと、下からヘリコプターの爆音が追いかけてくる。かなり近い、遭難者を探しているらしいが、この霧では見つからないだろう。
09:18開けた斜面に赤い寝袋に包まるような形で上半身だけを起こしている登山者がいた。名乗って様子を見ることにした。程なく霧の合間から福島県警ヘリ「あづま」が現れた。隊員(レンジャー)が1名ワイヤーに吊り下げられて降りてきた。副木をあて応急処置をし、吊り上げの準備をしている間に、霧が濃くなりヘリの姿が見えなくなった。通りかかったパーティに看護師がおり、シップ薬を頂く。何時までも霧が晴れない、ヘリの燃料が気になる。標高200m下は晴れているので、そこまで担いで下ろせないかとの連絡がヘリから入る。遭難者は体重80kg、かなり重い。負傷部位は右足首付近。ヘリは燃料補給のため一旦帰ることも検討しているようだ。覚悟を決め、私のザックを潰してカッパ搬送の準備に取り掛かる。私の計算では斜面に作られた登山道で右足は谷川になるから何とかなる。しかし、右太腿をタオルで巻いてザックに固定しようとすると、苦痛で顔を歪める。これは、捻挫ではなく足首上付近を骨折している可能性もありそうだ。太腿を固定できないとすれば、長身の遭難者を担ぎ下ろすのは、かなり苦労しそうだ。
ザック搬送の準備が終えた時、霧が薄くなり瞬間的に「あづま」が見えた。チャンス!急いでザック搬送用具を遭難者から外す。みるみるうちに霧が薄くなっていく。私は安全な所まで逃げてカメラを構える。風圧で空一面に木の葉などが舞い、眼が開けていられない。下ろされたワイヤーが急峻な地形のため思うように下の隊員に届かない。周囲の草や潅木が波を打つ。ふわりと遭難者とレンジャーが空中に浮いた。遭難者の重いザックも吊り上げられている。ヘリの中に遭難者を無事収容、頑張ってくれたレンジャーが親指を立ててくれた。成功である。
10:18までレスキュー終了し、ザックに荷物を入れ直し、再び歩き始める。10:21松平峠を通過。天候は嘘のように晴れてきた。剥げた尾根を登って女子学生?パーティを再度追い越す。キオンとヨツバヒヨドリが一息つけてくれる。10:46ダケカンバ2本の広場に「水場」の標識がある。猪鼻の水場である。トラロープが右手の小沢に下っているが踏み跡は藪に覆われていた。
10:52疣岩分岐の標柱を通過すると、矮化したブナとダケカンバの林に入る。獅子沼分岐を右に折れ、11:00-16疣岩山々頂。先程の看護師一行が休憩していた。
大日岳方面はガスの中、かろうじて七森が見える程度である。ここから浅草に下り、三国岳に向かうと偽高山帯の雰囲気になる。ミヤマキリンソウ・ノリウツギ・エゾシオガマ・ミヤマコウゾリナ・オヤマリンドウ・ウメバチソウ・コゴメグサ・モミジカラマツ・トリアシショウマが咲いている。
11:42-12:43三国小屋に到着する。早速新しい小屋を拝見する。疣岩山から登ってきた所が正面で、下に2箇所、梯子を登ったところに箇所出入口がある。左手の入口から入るとトイレがある。右手の入口から入ると風除室となり、正面が宿泊スペース、右手に管理人室、左手トイレになっている。
トイレは3穴あるが、奥の1穴は冬季専用で鍵が掛かっていた。手前2穴は水洗式で、ホースが入ったポリタンクが置かれている。使用方法は列車のトイレに似ている。用を足す前に軽く右前方のボタンを踏んで便器を湿らす。用を終えたら、同じボタンを踏むと水が勢い良く便器に吹き出て大便を下に落とす。この水はポリタンクから補給されるので、歩タンクが空になった時点で使用できなくなる。ポリタンクに水が入っていることを確認してから使用することが肝心である。また小屋の外には蒸散装置があるところから、ポケットティッシュなどを使用すると、分解できずに詰まってしまうので、必ずロールペーパーを使用することが大切であろう。
管理人室の前にポリタンクが並べられていたが、これがトイレ用のポリタンクである。トイレのポリタンクが空になったらこれと取り替えておく必要がある。また、登山口の看板や山都町のホームページによれば、登山者は500mlの水を持参するようにとある。小屋内には方法の掲示がなされていないが、トイレを利用する登山者は500mlの水を管理人室のポリタンクに補給するという意味である。
気になったのは、3箇所の扉のロック全てが内側からしか操作できない点である。冬季は使用できない可能性が高い。しかし、10日山都町役場に連絡し「現在は暫定的な小屋の開放であり、扉については外からも空けることができるように手直しする予定である」との話を聞いて安心した。表示関係も今後充実していくことであろう。せっかくの山小屋である、私達利用者が気を配って清潔で快適な小屋にしていきたいものである。
小屋を後にして、13:12疣岩山、13:21疣岩分岐を通過する。ホツツジが咲いていた。登山道の刈り払いもなされている。14:02-13上ノ越で一息入れて八ツ小屋尾根を下る。トラバースを終えてブナ林に入ると、大きな糞が1個登山道に転がっていた。大きさからみて熊である。まだ新しい、今回は熊スプレーを持参していなかったので、ストックを叩いて金属音を立てながら下る。先ほどより細めの糞が数個、猿にしては大き過ぎる、これも熊かもしれない。
急坂の降りになり、ふと登山道脇の大きなナラの根本に目をやると、なんとトビタケが生えているではないか。色は既に飛んでおり(薄茶色になること)食用には無理、しかしトビタケはブナの樹にしか生えない筈である。形も花びらのように重なっている。帰宅後幾つかの図鑑を調べてみたら、清水大典「原色きのこ全科」にミズナラの樹にも生えると記載されていた。
15:00-15:03祓川駐車場に到着、1分で分岐となり、すぐ先の水場で顔を洗う。比較的虻の少ない車道を下り13:14崩壊地を通過し、15:19橋袂の駐車場に到着した。車に入ると、いきなり虻が集中して来る。虻に入られると手足に噛み付かれ事故の元である。1匹づつ
潰してから運転となる。
弥平四郎を過ぎると、電気三輪車に乗ったお婆さんと休耕田がめだつ。山間集落の高齢化の深刻さを痛感する。6月末に自然保護を標榜する方と話しあった時、「自然保護のためには山間集落の人々が犠牲になるのはやむを得ない」と平然と言い放われたことを思い出し、悲しくなった。(自然保護活動をなされている方で、このように考えている方は少ないと信じています。)

今回のコース全景 山荘の位置、登山道の位置が地図と違う
松平峠直下の塊が事故現場
八ツ小屋尾根のトレース

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