登山者情報885号

【2005年02月11日/出ヶ峰/井上邦彦調査】

メンバー:吉田岳・井上邦彦・横山利夫
当初6名の予定であったが、結局3名になった。さらに連絡ミスでNIYには集合時間やメンバー変更が届かないという波乱を予感させる山行となった。
06:20沼沢のパーキングでHZUとAXLが合流し、下山予定地の白子沢へ向かう。できるだけ除雪の邪魔にならない場所を探し、AXLの軽トラックをデポする。集合予定地である峠の茶屋に行くと、NIYがいない。暫くするとHZUの携帯電話にNIYから連絡があった。予定の06:00に峠の茶屋に着いたが、いくら待っても誰も来ないので飯豊町の道の駅まで戻って電話をしているとのことである。あちこちの公衆電話は雪に埋まって使用できない状態である。
3人が合流してからHZUの車で宇津峠トンネル東口のスペースに移動する。カシミール3Dの地図にある宇津トンネルは旧道であるため、GPSのデータとは異なっている。
07:19スキーを履いて宇津峠北のアンテナを目掛けて登りだす。結構急斜面なので右の杉林に逃げてジグザグに登り、尾根に出る。HZUのシールが前回から付けっぱなしで緩んでおり、効きが悪いので張り直す。傾斜が落ちると落葉松の植林地となり、ウサギとリスの足跡があった。AXLが古い輪カンジキの跡を見つける、兎狩りのものであろう。07:58左に目指すアンテナが見えると、目の前に送電線があった。時折青空も垣間見え快調に登る。
08:20-33アンテナ到着。建物陰に風を避け食事を摂る。建物付近ではコンパスが狂う。地図を丁寧に見て歩き出す。付近の尾根は大きくカーブしている。案の定、557m峰から左の尾根に入りかけるが、すぐに気付き修正する。右手の杉林を進むと視界がないので頭の中が混乱してくる。
09:02旧宇津峠に到着し、記念撮影。ジグザグに登り、小峰から右の尾根に入り込み修正。雑木林を登る。視界がたまに開け、宇津峠北のアンテナが見えた。HZUが先頭を歩いている時にウサギが飛び出した。雪が激しくなる。
09:49標高594mアンテナ群を通過する。この先も尾根が大きく分かれている。コンパスを地形図に合わせ、アンテナ群から暫く進んだ所でルートが間違っていないことを確認する。10:16-29食事を摂る。
11:00GPSを確認すると画面が消えていた。バッテリーを交換する。この結果、先ほど食事を摂った場所から此処までの間のログがなくなっている。うっかりと車道横断箇所の確認を失念したが、AXLが確認しており一安心。
林道と町境尾根が一致し、油断して歩いていると、11:05突然NIYが姿を消した。雪庇の亀裂に落ちたのだ。かなり深い亀裂からなんとか脱出。
平坦な尾根上をひたすら進むと、鉄塔が薄っすらと見えた。11:24朝日幹線の鉄塔を通過する。程なく660m峰で広い尾根は左右に分かれ、右手に折れて最後の登りに取り掛かる。
11:58-13:48出ヶ峰山頂に到着、GPSで山頂であることを確認する。雪庇を確認し、何時ものように横穴を掘り、ツエルトのフライで入口を覆い、昼食会場を作る。穴の中に入ると、外の降雪とは別世界である。テーブルにベニヤを敷き、ストーブにコッフェルを上げる。HZUが学生時代から使っている角型のコッフェル、蓋の取っ手がなくなっているので、逆さに蓋をするのがコツである。ガス本体をコッフェルの上に乗せてみると(本体と燃焼部はホースで連結されている)、蓋の穴から吹き出す水蒸気がガスボンベを直接加熱するので、ガスの火力が増した。この方法は、充分に注意しないと危険性もあるが、有効ではある。
寄せ鍋にうどんを入れて、何時もながらの至福のひと時を満喫する。
今回は3人とも兼用靴を使用、シールはHZUがゴム、NIYがヤギ、AXLがナイロンを使用した。ゴムだけ滑りが悪い。HZUだけシールを外す。兼用靴を滑走モードに替えると、感覚が狂う。後から考えると、今冬始めて履く兼用靴に慣れていない(まだ1回のゲレンデで滑っていない)のに、兼用靴を過信したことが事故の原因だったかも知れない。
雪が激しく降る中、白子沢を目掛けて長大な尾根の下降を開始する。すぐ先でAXL・NIYがシールを外す。滑降を開始してすぐ、登りが出てきたがここは右斜面をトラバースして通過し、尾根に出た所で再び滑降する。ところが右手に大きな尾根が見えて不安になる。コンパスはそれ程違っていないが、GPSと地形図から判断し、右の尾根にトラバースをすることとした。尾根には雪庇が出ていたが、軟らかい雪なのでストックで切り、スキーを履いたまま突破する。スキーを履いても膝まで潜る。雪庇が出ている階段状の斜面を慎重に下る。
15:28鞍部から538m峰を見上げると、雪庇が覆いかぶさっている。スキーを脱いで、HZUが雪庇を崩しながらルートを開拓、スキーとストックを手渡しで雪庇の上に運ぶ。山頂は胸までのラッセルである。スキーの有難みを実感する。思い切って体重を後ろに掛けるとスキーの先端が雪面に浮き、快適に滑る。このような滑降は登山靴では考えられない。
小峰を越え、ようやく狭いがやや急な斜面に出た。AXLが先行し、NIYが慎重に階段状の瘤を降りる。硬い粗目雪の上に軟らかい雪が積もっていたが、瘤の部分は粗目雪が露出していた。最後尾のHZUは、2人のトレースで雪面の様子が見えたので、直滑降でも大丈夫だと判断、思い切って突っ込む。瘤を越えた瞬間、右足がスキーから外れ、瘤下の柔らかい雪に太ももまで突き刺さった。スキーに固定された左足は雪面を走ったので、股裂き状態となり、左膝に痛みが走った。このままでは2人と離れると思い故意に大声で悲鳴を上げた。先ずは冷静になることだ。無理に身体を動かさず、呼吸を整える。その後にザックを外す。NIYが異変に気付いたらしく、声が聞こえた。トラブルが発生したことを伝える。ザックはようやく身体から外したが、足が動かない。NIYが戻ってきて、左足のビンディングを外してくれた。ゆっくりと雪の中から這い出して、時計を見ると15:53であった。スキーを履いて力を入れてみる。左膝は捻ると痛みがあるが、正加重には支障がないようである。途中で待っていたAXLと合流し、最後尾を歩かせていただく。
だらだらとした尾根が何処までも続く。杉林となると鞍部に着いた。この先は地形図から草地(蕨園)と想像していたが、一面杉の植林地である。16:20鞍部でシールを張る。GPSのログを見ると、ここで迷走している。これは見通しの全くない杉林のために、どうしても高みを目指したためである。NIYが先頭に立ちコンパスを頼りに進む。なかなか目処が立たない。HZUが先頭に立ち、大きく左に進路を変え、崖上に出る。ここで高松の人家(無人)と森残川に架かる橋を確認する。この先トラバースして左に尾根があったら下降するよう指示し、先頭を変わる。やはり長距離の先頭は膝に負担が大きい。
GPSを出しても暗くて見えない。ライトはザックの奥に入っている。尾根を確認し下降を始める。次第に薄暗くなって行く。登りは持ったが、滑降になると膝の痛みに耐えられない。斜滑降とキックターンでゆっくり下る。ここでミスを犯している。本来なら平気で下ったであろう斜面だが、暗くなって雪面の状況が読めないため、さらに北に向かっている。直感で、HZUが先の見えない斜面を下る。斜度が分からないが、どうも平坦のようだ。河岸段丘まで降りたのかもしれない。上に声を掛け、私のトレースで雪面を確認しながら降りてくるように指示する。
18:02、3人が降りきった所でヘッドライトをつける。雪が光に反射して地形が見えない。私のGPSには等高線は入っているが人工物はない。川の形状を地形図と丁寧に比べることを怠り、正確な場所の把握ができなかった。後からログを確認すると、ちょうど橋に出たのだが、視界がないためそれが分からなかった。今考えれば、下降した尾根の形状からも正確な位置が推定できた筈であるが、疲れ切った状態で先を急ぎすぎた。現在地を100〜200m程度上流部と考え、下流部に向かって歩き出してしまった。電柱を見つけ、道路沿いであると判断したのも誤りだろう。幾ら下っても橋はない。急峻な崖に出て、ルートを失ったと確認し、戻る。ようやく橋を見つけて左岸に渡ったが、ログではスノーブリッジを渡っている。
視界のない中、ひたすら北に向かって進む。少しずつ高度をあげた感じがあり、小屋に出た。ここでコンパスに従い北上した。先頭のAXLが立ち止まり、左手に大きな川が流れていると言い始めた。確かに護岸工事もされた立派な川である。地形図からこのような枝沢は考えられない。知らずに橋を渡ったのだろうかという疑問が出たが、地形図にそのようなものはない。GPSで確認すると、明らかに現在地は右岸である。再び戻る。どうも大きなスノーブリッジを気付かずに渡ったらしい。
後は、ひたすら歩く。やがて行く手が薄明るくなる。AXLが珍しく先頭の交替を申し出る。彼もかなり疲れている。HZUはほぼ限界値である。NIYがラッセルをすると、人家の灯りが見えた。
19:28白子沢到着。直ちにHZUの携帯で3人の自宅に下山を連絡する。AXLの軽トラックにHZUが乗り、宇津峠東口の車を回収に向かう。さらにAXLは白子沢に戻ってNIYを乗せ、峠の茶屋に全員集合し、装備を点検して、解散とした。

今回のコース

画像 GPS詳細図