登山者情報899号

【2005年04月16-17日/西俣ノ峰〜石転ビ沢/井上邦彦調査.】

梅花皮荘・飯豊山荘の間は、命がけでした。とてもお勧めできません。

町境巡りもようやく飯豊本体に差し掛かった。なにより連休が近くなってきたので梅花皮小屋の状況を確認しておきたかった。一方、天狗平に至る車道の危険性を考え、これを避けるコースを選んだ。また17日10:00から西川町で山形県山岳連盟の理事会と評議員会があり、欠席はできない。悩んだ末に、16日は西俣尾根から梅花皮小屋に入り、17日早朝に石転ビ沢を下り倉手山を越えて下山する計画を立てた。当然ながら誰も同行を希望するものは居らず、単独となった。
05:30梅花皮荘駐車場に車をおいて歩き出す。民宿奥川入の隆蔵氏は雪の中で苗代用ハウス作りをしていた。天候は良く、雪も程よく締まっているので、本来のコースである枝尾根手前の沢に滝を巻いて入った。沢の最上部では雪が盛り上がり何時落下しても不思議ではない。落雪のルートを考えながらやや右岸寄りにキックステップで登り、490m06:10で枝尾根に上った。このコースも人には勧められない。枝尾根の夏道を忠実に登るべきだろう。
550m06:20主尾根に出る。今年初めてイワウチワを見る。マンサクも咲いている。昨夜は勤務先の歓送迎会で冷酒をコップであおったせいか、二日酔いで脂汗が出てくる。06:22-30小休止を取る。670mに倒木があるが、今年のものではないようで、問題なく通過できた。700mより夏道が雪に覆われる。急登をキックステップで登っていると、背後に人の気配を感じた。単独のようである。
07:01十文字ノ池からは雪庇の上を順調に登る。追いついてきた方は米沢の大串さんとおっしゃり、登山者情報で私を知っているとのこと、話しながら一緒に登る。泊まりのため何時もよりやや重いせいか、アルコールのせいなのか(多分後者)、ペースが遅目である。
07:50-08:00西俣ノ峰に到着し食事を取る。ここで大串さんとお互いに写真を取り合う。すっきりはしないが、飯豊山・頼母木山・杁差岳・枯松山と視界は効く。眼下の倉手山でどのようにルートを取るか、観察をしながら進む。雪庇が崩れかけている所があったので、無理をせず藪の中にある踏み跡を辿る。登山道とまではいかないが、踏み跡はしっかりしている。
08:43枯松峰山頂を巻き気味に通過し下りとなる。ここでも雪庇を避け数箇所藪の中の踏み跡を辿る。歩く分には支障はない。1,200m08:52-09:05オオドミで食事を取る。6m程先の雪の塊が突然走り出した、兎である。早く気付いていれば充分に写真を撮ることができたろうが、残念。
ブナ林を登っていると、AXLから無線が入った。祝瓶山々頂から下る途中で食事を楽しんでいるとのことである。ブナ森林限界で白い動物が目の上を走っていった、兎であろう。10:00三匹穴、広大な雪原をゆっくりと進み、登りになると意識的に左斜上とする。計算どおりに騙シ峰先の平坦地に上がり、最後の登りとなる。
10:52-24頼母木山々頂に到着し、風の当らない場所にて缶ビールで喉を潤す、満足。大串さんはここから下るとのこと。私は一人梅花皮小屋を目指す。
稜線は夏道が出ている。多少疲れてきた。11:50地神北峰を通過し、12:06地神山々頂から雪道を下る。12:21-28喉が渇く、休憩としテルモスに入れた紅茶を飲む。風は殆どないが徐々に視界が閉ざされていく。12:43扇ノ地紙は稜線の標柱こそ出ているが、広場のほうが高くなっている。雪庇を辿る。雲が飛び瞬間的に門内小屋と門内岳が見えた。
13:05-42門内小屋に到着する。1階入口は雪に覆われ押しても動かない。堆雪を足場にして2階窓から入るが、鐘の下がっている鉄骨が建物から剥がれて今にも倒れそうである。慎重に鉄骨に足を乗せ小屋の中に潜り込む。2階風上側(新潟県側)の窓が完全には閉まらず隙間がある。それでも吹き込みは殆どない。雪を溶かしてラーメンを煮るが、風の音が凄まじい。恐らくは隙間があるので、実際の風速より大げさに聞こえるのだろう。1階入口には予想通り吹き溜まりあって、ドアが開かなくなっている。持参のスコップで除雪をし、1階出入口を使用できるようにした。
小屋内でカッパ(上)を着、冬帽子を被って外に出る。風はあるがさほどではない。まずは門内岳山頂の祠まで登ると、視界が数mもない。コースであるべき方向には雪庇が出ていて近づくのが躊躇われる。コンパスを出そうかと思ったが、神社の向きと夏の地形を頭に描き勘に任せて雪庇の端に寄る。最上部は垂直に近いが降りることができない程ではない。ただ底が見えないので、不安は残る。1歩1歩慎重にピッケルを刺し、プラブーツのエッジを使って下ると、何とか底が見えてきた。底に降り立つと、一面の雪原で方向が分からない。通常なら迷うことなく地図とコンパスを使用するところだが、頭の中の地図を頼りに進む。暫くすると、雪のない所が見え、夏道が確認できた。
夏道を進むと、視界が徐々に開けてきた。こうなると左側の雪庇の上が魅力的に感じられ、ルートを変える。順調に歩いていると、所々靴が潜る。どうも雪庇の亀裂に雪が積もって、ウインドクラストしている部分と、軟雪の部分が混在しているらしい。夏道は掘れた所に雪が積もり空洞になっているので、これも歩きにくい。どちらもどちらである、夏道を選んで歩く。時折、雲が飛び視界が開ける。二ツ峰の姿が良い。
夏道どおりに登って14:50-57北股岳山頂に到着する。セルフタイマーで記念撮影。ここから梅花皮小屋方面に進むが、視界がなく方向が分からない。ここも地図とコンパスを出すべきなのだろうが勘を頼りに下る。先ずは左の雪庇沿いに下るが、石転ビ沢に落ちては堪らないので雪庇の縁がようやく見える距離を保つ。すると右下に緩い傾斜地が見えてきた。洗濯平に下ってはいけないが、途中から雪庇と離れ真っ直ぐに下ると、雲の切れ目に小屋が見えた。これで安心してどんどん下ると次第に晴れ、梅花皮岳・烏帽子岳・天狗岳・大日岳・烏帽子山まで見えてきた。
15:11梅花皮小屋に到着する。さっそく管理棟の入口を除雪するが凍り付いてびくともしない。本棟の入口も雪で埋まっておりびくともしない。2階冬期出入口から本棟に入る。ドアノブが動かないのでしっかりと閉じることができない状態になっている。幸い冬期出入口には吹き込みはなく、スムーズに入る事ができた。ここでお湯を沸かしテルモスに詰め、除雪を終えた管理棟のドアを溶かす。昨年はこれでドアが動いたが、今年はこれでもびくともしない。窓から覗くと若干の吹込みが見えた。身体が痛くなるほど何度も鉄製のドアに体当たりを繰り返す。何とかしてようやく数mm動いたので、ピッケルで隙間を叩くと氷になっている。少しずつ丁寧に氷を砕いて指で掻き出す。さらにドアに衝撃を与え、根気よく氷を除去すし、16:16管理棟のドアが開いた。
次は本棟1回入口の除雪に取り掛かる。こちらは中から入って雪をどかすと、思ったとおり氷の層が出てきた。これをピッケルで砕いて手で取り除きドアを開け、スコップで吹き込んだ雪や氷を外に放り投げた。
トイレを確認すると、便器の内側から雪が吹き込んでいた。使用には耐えることができるが、原因がよく分からない。他には特段の異常は確認できなかった。携帯電話が通じないのでODDと無線交信をして自宅に連絡を入れてもらう。ODDからは除雪作業開始の時期を決めるため車道の状況を調査してきて欲しい旨の伝言があった。除雪を終えて、管理棟で一人、食事をしてそうそうに寝床についた。
翌17日、01:00起床する。朝食を作るも食欲全くなし。装備を整え、アイゼン・ピッケルに身を固め、01:59梅花皮小屋を出発する。
スカイラインは星が示してくれるが、それ以外は真っ暗。唯一ヘッドランプの明かりだけが頼りである。周囲にシャーという水が流れるような音が絶えない。私が壊したクラストの粉が流れているのか、表層雪崩が発生しているのか分からない。ただひたすらに急斜面を下る。北股岳寄りにはデブリがありそうだ。02:15斜度が落ちる、北股沢出合である。左の沢(北股沢)から大量のデブリが流れており、雪渓の殆どが覆い尽くされている。左岸の枝沢からもデブリが流れているようだが、暗くて確認できない。デブリは新しく歩くに容易でない。一面デブリの中をひたすら下る。02:32ホン石転ビ沢出合を通過する。ここで一旦デブリは無くなるが、急斜面を下るとまたデブリが出てきた。02:40傾斜がなくなってきたのでアイゼンを外す。
02:57石転ビノ出合に到着し、石転ビ沢を振り返る。ライトを消すと満天の星である。左岸に光る眼のようなものが見えたが、すぐに見えなくなった。
石転ビノ出合下にも数個のブロックが転がっていた。梶川出合手前の水場に小さな目が光っていた。ストロボをたいて撮影したが映っていなかった。03:13梶川出合を通過し、河岸段丘には上がらずにそのまま雪渓を進み、03:21地竹沢を通過する。
ここから暫くの間は雪渓の状況が不安定な筈である。慎重に左岸の斜面を進むと、雪渓の中央部に今にも崩壊しそうな大きな窪みがあり、地鳴りのような沢音が聞こえてきた。上ツブテを過ぎると、真っ暗で見えないが、明らかに雪渓が崩壊している。そのまま左岸を進むと、左から枝沢が入ってくる。枝沢付近は薄くなっているので緊張する。下ツブテ石付近は穴が開いているように見える。03:31穴と穴の間の雪渓を素早く横切り右岸に移る。この場所は1週間後には渡れなくなるだろう。とにかく、暗闇の中では頭の中にある地形とほんの僅かの手掛かりを照らし合わせて判断するので、神経をすり減らす。
右岸の段丘を進むと、何者かの気配がした。今年始めて持参した熊スプレーの安全装置を外して静かに進む。スノーブリッジがあったが、貧弱でとても渡る気はしない。確か急斜面をへつった所に頑丈なスノーブリッジがある筈と、下流に進み、03:42目的のスノーブリッジを渡る。
03:42-52空腹であるが食欲がない。お握り半分をテルモスのお湯で流し込む。このあたりまで来るとブナの樹が分かるまで明るくなったが、足元が不安なのでライトを点けたままで進む。ブナ林とデブリを抜け、砂防ダムの手前まで来ると、雪崩跡を本流が削り変なトラバースとなっている。04:06砂防ダムを通過する。
温身平の十文字あたりに明るいテントか建物が見えた。気になって近づいてみたが、玉川の対岸のようだ。そうすると、長者原発電所の取水施設だろう。さらにブナ林を歩き、04:43飯豊山荘を通過する。湯沢橋から見上げる峰々は明るくなっているが、試しにピッケルを支えにしてシャッターを切ったが、手ブレが激しく使い物にならなかった。
予定ではここから倉手山を越えることになるが、車道を偵察してみたい。幸い今日は快晴で放射冷却となっているようだ。とすれば今の時間帯なら雪崩の確立は小さい。現にここまで1度も雪崩の音を聞いていない。意を決して車道を下ることにし、04:52-58お握りの残り半分を流し込む。このあたりからようやくカメラが使用できる状態となった。
いよいよ雪崩地帯に足を踏み込む。デブリは大きく新しい。上部を見上げると、アバランチシュートに雪がびっしりと着いており、部分的に膨らんで何時落下しても不思議ではない。歩きにくい雪塊の間をすり抜けていくが、スパッツの金具が引っかかり転倒する。気ばかりあせり、上部に神経を尖らせているので、足元がおろそかになっているのだろうし、少々疲れ始めているのかも知れない。
05:22吹き付けに取り掛かったところでアイゼンを装着する。部分的に露出している路肩を歩くこともできたが、大部分は急な雪の斜面である。車道の下はまさに千尋の谷、滑ったら終わりである。断面図的に言えば、L字型に掘り込んだ車道を埋めるように直角三角形の硬い雪が覆っている。その頂点部分を進むこととした。一部は壁との隙間にできた稜を馬乗りに進み、また急斜面にピックを突き刺しトラバースしていく。最大の難関は、スラブ(急峻な小沢)の通過で、雪の稜に2m四方の雪塊が引っかかっている。さらに頭上には宙ぶらりの大きな雪塊が下方を狙っている。さらにこの部分が吹き付けにおける最大傾斜地となっているのだ。雪塊の上は危険と判断し、すぐ下を通過することとした。あまり手入れのされていないピッケルのピックは、氷のような雪面に刺さらない。力を入れすぎると、いきなり薄い稜に穴が開いた。雪塊が動いたら最後、慎重に慎重に下降する。
吹き付けの訓練岩場を過ぎると、一安心である。対岸のオフタガリ沢から出た巨大な大フタガリ(スノーブリッジ)を眺めながら、05:44アイゼンを外す。砂防ダムの右岸も何時もは雪崩の巣であるが、デブリはあるもののまだ本格的にはなっておらず、無事通過した。官民境まで来れば、あとは楽である。06:04倉手山登山口の標柱は埋もれていたが、見上げると夏道の一部が露出していた。ここから登山者の物らしいトレースがあった。昨日、誰かが倉手山を登ったのかも知れない。
対岸に輝く西俣尾根を見ながら進み、最後の急斜面もトレースを利用して、橋を渡り、06:31梅花皮荘駐車場に到着した。私の車の脇にNIYの車が止まっていた。確か一人で西俣尾根を登ると言っていた筈、無線で呼びかけたが反応がないので、そのまま帰宅した。

今回のコース
上ツブテ石〜下ツブテ石周辺

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