登山者情報909号

【2005年05月21-22日/ダイグラ尾根〜石転ビ沢/井上邦彦調査】

前日は相当深酒をしたらしく、大幅に寝坊して自宅を出る。
07:24ズック靴で温身平の十字路を出発、07:37-43小沢で水を汲む。07:50桧山沢の吊橋は橋板だけではなく下のワイヤーを全て外しているので、空中ぶらんこのようにパイプが下がっており渡れない。上流に進むとスノーブリッジが桧山沢を塞いでいるのでこれを渡り、右岸の潅木を伝って07:57吊橋の袂で夏道に出る。
登山道脇にはイワウチワ・ショウジョウバカマ・オオイワカガミ・アヅマシャクナゲが咲いている。08:12岩から桧山沢源頭部の展望を眺める。08:21石楠花岩(仮称)の石楠花が咲いているのを始めて見たが、ぱらぱら程度。0843-52ここから尾根を右に外れる、食欲なく水を飲むだけ。オオバキスミレ・タムシバ・ムラサキヤシオ・マンサクが咲いている。登山道にあるのは熊の糞だろうか?
09:04御池ノ平の池は雪の下に埋もれている。カタクリ・イワウチワが咲いている。09:19長坂清水の標柱を直す。当然ながら清水は雪に埋もれている。1,025m倒木を越え、09:29急な雪を慎重に登る。1,125mにも倒木、以前なら鉈・鋸で最小の整備をするところであるが、無断伐採と非難されるのが嫌なので放置して通過する。09:46米栂台地(仮称)を通過する。登山道脇にシラネアオイが多い。口の中がネバネバし、気持ちが悪い。1,260mでも雪斜面を登る。
10:06-15休場ノ峰で高度計を調整する。ODDと無線が繋がる。何時もながらここからの眺めは絶品である。オオバキスミレ・タムシバ・マンサク・カタクリ・イワウチワが咲いている。10:20鞍部にてピッケル出す。途中の残雪で雪を取り、缶ビールを冷やす。11:02-14千本峰の岩場で缶ビールの栓を抜きお握り2個を流し込む。本日始めての食事である。
鞍部で雪が出てきたのでピッケルを出す。天候と景観は申し分ないが、身体が重く力が入らない。
1,499m峰を巻いて、宝珠山の登りに差し掛かる。1,480m11:35-51夏道がなくなった時点でプラスチックブーツに履き替える。傾斜が一段落した1,590mで登山道が大又沢側に崩壊している。道の下はスラブ状の急峻な岸壁が一直線に落ち込んでおり、極めて危険な状態である。この部分は道を付け替える以外の方法はない。従来であれば問題なく巻き道を付け替えるところであるが、前述のとおり巻き道の付け替えそのものが問題になっている現在、危険な状態のまま放置される可能性が高い。
この後は順調に雪庇の上を歩き、12:43-57宝珠山の肩に到着する。一面雪に覆われている。ようやく腹がすいてきたので食事とするが、胃が荒れている。
ピッケルを抜きキックステップで、13:13宝珠山々頂を左から巻くが、なかなか先が見えないのでルート選定に緊張する。巻き終わると突然御前坂が見えた。(御前坂の地名は御秘所からの登りとダイグラ尾根最上部の2箇所にある)
鞍部から大又沢側を巻く夏道を覆っている雪庇が何とも嫌らしい。思い切って桧山沢側の藪を漕いで通過する。13:29-36宝珠山岩稜でODDと交信をする。展望は申し分ないが、これからの雪庇の状況が気になる。
案の定、岩稜からの降りは微妙に張り付いた雪庇の連続である。夏道が出ている所は良いが、夏道が隠れている所は結構危ない。緊張の連続で降る。
14:01-09下の岩で食事を取る。此処まで来れば何とかなる。張り付いた雪の斜面を登り、
1,875m14:23-28右手の夏道に出る所で雪を取りビールを冷やす。後は単調な夏道をひたすら登って行く。
15:09-31飯豊山々頂で、登山者2人と会う。携帯電話と無線機で自宅とODDに現在地を報告する。大展望を楽しみながら、きりきりに冷えた缶ビールの栓を抜く。とりあえず危険地帯は終了したし、天候は安定している。のんびりと梅花皮小屋を目指すことにしよう。
下り始めて登山者2人とすれ違う。稜線のお花畑はまだ欠片すらない。
15:45駒形山を通過し、玄山道分岐手前から雪原となる。足跡が右と左に分かれているが、藪を嫌い夏道のある左にルートを取り、草月平に至る。ここで僅かに夏道を歩き、今度は右を巻くように歩いてみた。何時もと違う角度から振り返る飯豊山を楽しむが、若干笹があった。御西岳山頂手前で左(実川側)を進むと、大日岳の雄姿が現れる。
山頂を巻いて、16:26-37御西小屋着。登山者が5人ほど宿泊体制に入っていた。小屋の周囲には掘り込まれたように雪がないが、1階入口はまだ除雪されておらず、皆2階入口から出入りしていた。トイレは雪に埋もれ使用できない状態である。屋根が数箇所捲れていた。今年改築の計画があると聞いている。
16:53-59天狗岳々頂で食事とする。携帯電話と無線機で自宅とODDに現在地を報告する。ここから稜頂の夏道を下る。17:16天狗ノ庭を通過する。この先は雪道となる。17:44御手洗ノ池は雪に埋もれている。18:03亮平ノ池を通過し、18:05-10鞍部で食事をし、夏道を登って東側の雪原に入る。
18:30異変に気付いたのは、登山者の足跡が石膏で固めた足型のように、雪面からそのまま剥がれ落ちた時であった。それまでは水分を豊富に含んだ粗目雪がズボンの裾を濡らしていた(スパッツなし)。それが雪面の表面に薄く半透明の膜を張った。冬期に比べれば比べ物にならない程に薄い。さらに表面膜の発生している時間は短い。キックステップが次第に硬くなっていく雪を感じ取る。ストックの小さな輪が表面膜に引っ掛かる。それまで容易に刺さっていたピッケルに、雪が抵抗を示す。抵抗のポイントがどんどん変化していく。
この広い飯豊連峰で、この時間に行動をしている人間は私だけかも知れない。そう思うと疲れ切っている筈なのに、全身の感覚が研ぎ澄まされてくる。
空には薄く雲がかかり、所々青空が残っている。太陽はまだ宙空を彷徨っている。山の色が刻々と深みを増して行き、パソコンで画像のコントラストを強調しているかのようだ。
雲の切れた海面が朱色に輝いており、船も見える。北方に連なる朝日連峰の背後には月山が浮かんでいたが、何時しか鳥海山も姿を現した。朝日連峰の頭上に赤い線が真横に伸びている。暫く足元を見つめ歩いて、顔を上げると梅花皮岳を水平に突き刺したかのごとく、赤い線が移動しており、朝日連峰は静かな落ち着きを取り戻していた。
下着1枚で歩いていると、僅かな風が寒さを感じさせた。既に持つピッケルのブレードが冷たい。
デジカメのシャッタースピードが8分の1を示し、三脚なしでは撮影不能となった。山の色調は濃紺となり残雪と山肌の境界すら粒子が粗く判別ができなくなっていく。雲も空も風も雪も山も全てが夜になっていく。
18:46烏帽子岳山頂を通過する。ここから鞍部までは夏道になる。鞍部から雪道を登り、19:05梅花皮岳山頂を通過する。あとは梅花皮小屋まで夏道を下るだけである。
山頂から緩く降り左斜面に移る部分で、事件は突然に起こった。登山道の周囲は一見背の低いハイマツ、しかし藪を漕いだ経験からすれば、膝下から腰ぐらいだろう。何の前触れもなく、私の約5m右手前方から息つく間もなく右手後方に猛烈な勢いで藪の擦れる音が駆けた。周辺は暗くなり露出している登山道ならヘッドランプなしで何とか歩ける程度、藪が動いたかどうかは分からない。一瞬の出来事に腰の熊スプレーを引き抜く暇もない。幸いにも、向こうが私に気付いて避けてくれた。声を出し、ストックを叩いて、音がしなくなった後方を振り向いた。感じからして、相当の大きさがあり、かつ藪から出ないで移動をする動物となると、恐らくは熊であろう。
街には光が広がっているが、梅花皮小屋に明かりがない。今夜は一人かなと思いつつ、19:23梅花皮小屋に到着する。本棟で声を掛けると、2階から返事が返ってきた。水を汲み、白滝さんと話をしながら夕食。
翌朝、食事を終え出発の準備をしていると、白滝さんが北股岳寄りの岩の上で三脚を立てていた。念のためアイゼンを履いて04:45梅花皮小屋を出発する。雪は思ったよりも軟らかい。スキーのシュプールが雪面を走っている。05:00北股沢出合を通過し、05:11アイゼンとカッパを脱ぐ。北股沢出合すぐ上には亀裂と藪が成長しつつある。雪渓を快調に下る、雪崩跡は殆どないが、ホン石転ビ沢から岩が1個落下していた。
05:28石転ビノ出合には天幕があり、顔を出した方と言葉を交わす。05:40梶川出合を過ぎる。滝沢入口は大きく窪んでいるがまだ穴は開いていない。途中の雪渓にテントが1張。
地竹原の雪渓は穴が大きくなっており、端を慎重に通過し、05:50-53地竹沢で休憩する。地竹沢から下流部は夏道が露出している。調査のため左岸を下ってみるが、状態が悪いので戻って05:58夏道に上がる。婆マクレは足場が悪い、ハイカーレベルの方は危険だろう。ムシカリ・ムラサキヤシオ・タムシバ・イワウチワ・カタクリ・オオバキスミレが咲いている。
彦右衛門ノ平は雪の上を歩く。うまい水から夏道となり、沢は雪崩跡を下るが、穴のすぐ脇に足跡が残っており、怖さを知らない人もいるものだと呆れる。夏道を下り、ブナ林を抜けて、06:30砂防ダムに到着。林道は所々に雪が残っている。06:42温身平の十字路に到着。ここから下は除雪が完了している。湯沢の袂で、自転車できた峡彩山岳会の方々と出会う。大渕でゲートが閉じられているので、自転車を利用してきたとのことであった。

今回のルート

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