登山者情報912号 (投稿)

【2005年06月04-05日/化穴山(ばけあなやま)/山田亘調査】

記録 
 化穴山は朝日連峰の北部、以東岳の西方にある道のない山だ。色んな人がいいというし、また村上の臥牛山からも見えるので気になっていた。大鳥の朝日屋さんに5月中旬から何度も電話して、除雪と吊り橋の状況を聞き、吊り橋がかかったので、粟ヶ岳の誘いを断り行った。
06月04日
 ゆっくり寝て06:00起床。鶴岡から内陸に入り、09:53左京渕ダム手前のゲートから歩き出す。道に雪はなく、途中山菜採りのおばさん達から2〜3人入っているので、がんばれと言われる。泡滝ダムの手前では除雪車が作業中で、デブリの上を通らして貰った。10:47泡滝ダム。
この先はデブリが何度もあったが、ゴミと段差を利用して歩いた。何箇所目かのデブリは中途半端に崩れ、ハング気味だった。自分が着いたときは、千葉のカンノさんご夫妻が苦労しながら越えていた。自分もアイゼンを着け、第一歩目に力が入るようにして越えた。後は困る所はなく、山の雪の付き具合を観察しながらのんびり歩いた。冷水沢の手前まで来ると源太沢方面に川の流れが続き、その奥に形の良い山が見えた。以前ここで会った土地の人から「あれはゲンダンソだ」と聞いた。(ゲンダンソは、源太山(ゲンタサン)の訛りかもしれない。カシミールで確認したら、1446ピークの手前の1400ピークだった。)12:12、冷水沢吊橋(650)。ブナ林に残雪の混じる道が続く。明日勝負なので息が乱れない程度にゆっくり歩く。道端の山菜が火焔式土器のように放射状に開いている。12:43七つ滝沢吊り橋(700)で新発田の白滝さんと話す。なおこの橋は、大鳥池の地形図で見るより250m位下流にある。ここから湖岸に上がる九十九折まで直線の平坦な歩きが続く。確かに長い歩きだが、事前に地図読みをして、歩いたとき、少し長過ぎると思う人もいるだろう。これは、先ほどの橋の位置の付け替えに加え、九十九折の始まる場所が100m位地形図より上流に移っているためだと思う。13:24つづらおれ始まる(840)と、すぐに七つ滝を通る道を左に分けるが、入り口にテープが張られており道しるべも消されていた。残雪にところどころ覆われた道を辿るが、上の方で道形がわからなくなり、直登して、14:08湖岸に上がった(970)。夏道よりも三角池寄りに出た。湖面はまだ凍っていたが、東沢と北の方は融けていた。右手にめざす尾根を見ると、雪がたっぷり残り、チャンスとわかりドキンとした。(ちなみに昨年はこの1週後に来たら三角池が出ていた。やる気がなくなり、大鳥小屋でやけ酒を飲んで帰った。)絶対登れる。後は自分次第だ。湖岸をふらふらして14:36大鳥小屋(970)。水道が故障しており、制水門の先の沢で水を採った。小屋に戻り、2階のザック置場の脇に陣取った。夕食は千葉のカンノさんと話しながら食べた。本当に東北の山が好きのようで話振りに見栄がなく好感が持てた。今回も4日かけて葉山に抜ける予定ということで、朝日軍道じゃないですかと驚いた。ダンナさんの作ったチンジャオロースーをつまみにウィスキーを飲んだらいい気持ちになった。白滝さんは雨に煙るブナの写真を撮りに来たみたいで、明日雨にならないかなと言っていた。それでは困るなと思ったが何も言わなかった。白滝さんは魚釣りの人と仲良くなったみたいで、下で一緒に飲んでいた。20:00頃寝た。まさか降るまいと思ったが夜半激しい雨が降った。
06月05日
起きると霧雨が降りガスで真っ白だった。でも今回はチャンスなので塩ラーメンを食べ、05:35頃大鳥小屋を出た。出がけに白滝さんに泡滝から左京淵まで送ろうと言われた。自分も多分1時間位で逃げてくるだろうから、そしたらよろしくと答えた。湖岸を歩くうちにガスが上がってきて行く手にめざす尾根が見えた。どこから登ろうかと思ったが、気づくと、ひとりでに三角池の南の小さな沢の前に来ていた。去年管理人さんは「三角池が出ていたら、化穴山はやめた方がいい」と言っていた。今、三角池は雪に隠れている。沢も雪に覆われ、上を見ると小さな人影がうごめいていた。06:15沢を登り始める(1010)。かなり急だが、先週の訓練のせいかアイゼンをつけずに登っても怖くない。1080m位から小さな藪を交え尾根に近づき06:55ピーク(1180)で1400ピークにコンパスをセットした。この先は、尾根が狭くなり雪堤が後退して藪のなかを歩いた。東から今の尾根の1200m位の所に沢が突き上げてくると、また雪の上を歩いた。1400ピークへの登りは最初広い雪面を歩いたが、ピークの前から連続した藪になった。藪慣れしている人にはたいしたことないだろうが、自分は、連続した藪は初めてで厳しかった。さらに1400m付近からガスに入り気が滅入った。08:01頃ピーク(1400)で藪が少し薄くなったがまたすぐ濃くなった。この先は本当に嫌になりもう少しで引き返しかけた。でも11:00までは動こうと思い、とても遅くなったが動き続けた。08:31 1446ピークを登り始め(た。1390)、08:59ピーク(1446)はガスの中だった。以東岳方面は草地になっており、化穴山方面はガスが続いていた。心ではやめようと思ったが化穴山にコンパスをセットすると機械的に歩き始めた。ナナカマドの辺りから藪が濃くなった。前から雨具のズボン下がほころびかけていたが、足を大きく開いたとき、ビリッといって股の付け根から破れてしまった。
それから藪でメガネが弾かれて何度か落としかけた。すでに2回なくしているので、メガネ止めをつけた。1350鞍部に近づくと藪の薄い所が出てきて楽になった。鞍部は、ぽっかりとしたスペースがあり、ピンクのテープが下がりタムシバが咲いていた。そのとき北からスピッツェを雪面に刺すザッザッという音が響いてきた。右手の藪を抜け雪面に降りると宮城からの3人組が戻ってくる所だった。この先は尾根の北側の雪堤を利用できる所が多く。藪もさほど続かないと教えて呉れた。それで張り切って雪面を歩き出したが、ガスで先が見えないので鞍部の先で藪に潜り込んだ。
夢中で登っていたら、ぽっかりとしたスペースに出た。ピンクのテープが下がりタムシバが咲いている。さっきの場所だ。リングワンデリングしているとわかりぞっとした。これは藪が強烈でいつの間にか逃げていたのだと思う。このときも心は引き返せと言ったが足は前に進んだ。この辺りガスで視界は20メートル位だったと思う。雪も使ったが、先がわからないところは確実な藪を進んだ。1420M付近は小さなピークになっており、藪の中に岩があった。それをしおに右手の雪面を歩き始めた。既に11:00を過ぎていたがここで引き返すのも真面目すぎる気がした。そのうち前方にぼんやりしたピークが見え、ツツジのような木が疎らに見えた。武田さんの記録で、山頂にはツツジ科植物が疎らに生えていると読んでいたので、ついに来たと喜んだ。それでその先のピークに上がると11:33傾いた三角点と青いブリキの化穴山と書かれた看板が落ちていた(1505.9)。ガスで周りは見えず、霧雨でつまらない山頂なのだが、万歳三唱してしまった。目をつけた女性に思いを遂げた若者のような気持ちだった。ミネザクラを見てシラス雑炊を食べ、家に電話しようとしたら雨で携帯が壊れた。11:53発。3時大鳥池目標だ。鞍部までは快適に降りたが、登り返すと藪が濃く時間がかかった。13:28ピーク(1446)。藪は腹が空く。ここでカロリーメイトを食べた。ここから1400ピークの下までの藪も厳しかったが、少し慣れてきた。1380m位から、東側に出て雪を使った。広い雪面の下りは気持ちよかった。その下りで一瞬ガスが切れた。そこからの源太沢を挟んで甚六山、ゲンカ森と続く雪をまとった稜線は原始的でぞくぞくした。尾根が狭くなるところで少し藪を歩き、そこから入り口の沢の上までクマの糞を7個見た。行きは一個だけで木の繊維を固めたものだったが、帰りは軟らかいものが至近距離であり、おっかなかった。14:58三角池南の沢に降り(1010)、15:12大鳥小屋に着くと誰もいなかった(970)。デポした荷物に白滝さんのメモが置いてあり、12時まで待ったが帰ると書かれていた。荷物をまとめ15:24小屋を出た。大鳥池付近のログが乱れているのはメモリを節約するため、最初切っていたのが、道がわからなくなり、付けたり消したりを繰り返したからだ。真っ直ぐ下り始めたが東に寄りすぎているとわかり、西に寄っていって880m位で道形に乗った。
16:38七つ滝沢吊り橋(700)、17:06冷水沢吊橋(650)と過ぎ、歩いていくと青空が見え始めてきた。18:01泡滝ダムに着くとダムにライトが着いていた(520)。日は長くこの先は誰にも会わずクマスプレーを片手に歩いた。もっと疲れるかと思ったが藪こぎに比べると随分楽だった。19:00前に左京淵ダムのゲートに着き車に乗り込んだ(400)。大鳥で朝日屋さんに挨拶し、400円で風呂を貸してもらった。夜の闇の中、カエルの声が響く田んぼを走り、新潟に着いたのは23:30だった。得恋のような山行だったが、無理矢理行った気がしなくもない。技術を磨いて毎年行きたい。        

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