登山者情報934号

【2005年07月21日/丸森尾根〜梶川尾根=遭難/井上邦彦調査】

小国駅にて終列車(22:00)で帰る子供を待っていると、携帯電話が鳴り遭難発生の第一報が入る。子供を自宅に送り、そのまま小国警察署に行き状況を確認する。朝日連峰登山口である五味沢の「リフレ」に宿泊予約者(単独)がまだ現れない、予約者は本日06:00に梅花皮小屋を出発(OTJが確認済)し丸森尾根を下山してバスで移動し、リフレに宿泊し翌日朝日連峰に登る予定とのこと。百名山を志し現在98峰という。バスやタクシーで移動した痕跡はない。
この時、私の頭の中では何故か「擬似遭難」という言葉が浮かんだ。登山者が善人であるとは限らない。登山者は天候が悪いからと言ってはその日の夕方になって平気で宿泊をキャンセルする。連絡なしで宿泊をキャンセルする者もいる。酷い登山者になると、数箇所を予約しておいて、その時の気分で選ぶ。そのような登山者に泣かせられている民宿から何度愚痴を聞かせられたことだろう。本人の登山計画書を見せてもらう。平日にもかかわらずバス時刻が休日用になっている。警察では本人が町内の何処かに泊まっていないかチェックしている。それらの作業が終了し、奥さんから救助要請が出された。
さて、それでは探さない訳には行かない。天候からして熱射病の確立は低い、持病はないという。しかし山では何があるか分からない。かといって救助隊員は皆仕事を持っている。平日でもあり大人数は避けたい。少人数で効率的に探すことにより遭難者の経済的負担も軽減される。ターゲットを丸森尾根と梶川尾根と設定した。梅花皮小屋番に入るODDのコースを丸森尾根に変更してもらう。ODDは本人が通る予定の全コースを逆に辿ってもらう。ODDだけでは捜索陣が薄いので私が別行動で丸森尾根を登る。生れて間もない山形県警察山岳救助隊が訓練のため天狗平ロッジにいる。この一部を割いて梶川尾根を登ってもらう。先ずは発見することが先決で、あとは出たとこ勝負と腹を括った。そうと決まれば、自宅に帰って晩酌をして早々に寝るだけである。
翌21日は03:00起床、山道具を適当にザックに放り込み、コンビニで食料を買い込み、小国署に電話で出発の連絡をする。
天狗平の駐車場に着くとODDが登り始める所であった。ザックを担いで天狗平ロッジに行き、PWDや樋口さんと簡単な打ち合わせを行い、水筒に水を満たす。
04:30ズック靴に半ズボンという格好で登山口をスタートする。岩場で先行するODDを追い抜き、無線で連絡を取り合いながら登る。何時ものノートを忘れてきたので、以下の時刻はGPSのデータである。
05:31夫婦水場でお握りを食べる。直感ではここでビバークしている筈だったので期待外れ。県警ヘリ月山が飛んできて遭難者に呼びかけを行う。間違われないようにアマハムで私であることを送信する。06:26丸森峰で2回目の食事を取る。ここから先は高山帯となる。次第にガスが出てくる。07:09地神北峰に出ると風が出て視界はなくなる。メールでEAGに「職場に休暇届提出」を依頼する。ODDと連絡を取り、頼母木小屋を目指すこととした。暫く下った時点で登山者と会う。彼によれば昨日頼母木小屋に泊まった登山者は今朝全員御西小屋に向かった、管理人以外は誰もいないとのことである。
07:28いったん地神北峰に戻り、再びODDと無線で相談する。残っている可能性はルートを誤り、頼母木小屋を通り過ぎ、面倒になってそのまま足ノ松尾根を下ることである。頼母木小屋にはアマチュア無線はなく、業務用無線で黒川村と定時交信をしているのでまだ連絡はついていない。しかたない、一応頼母木小屋まで行って管理人から素通りしなかった聴き取りするか、それでも管理人が気付かないまま通過している可能性は残る。
迷っている時に、無線機から「遭難者発見!」の報が届いた。場所は梶川尾根五郎清水付近、怪我はなく自力歩行可能とのこと。急遽、梶川尾根に向かうこととする。
07:57扇ノ地紙にて携帯電話で本日休暇の確認を行う。08:15梶川峰通過、08:31三本樺通過、08:41五郎清水に到着する。ザックが1個あるが、無線で一般登山者のものであることを確認しさらに下る。
08:51梶川尾根捜索隊と合流する。MESが遭難者の荷物を担ぎ、遭難者は空身で歩いている。遭難者に話しかけ、何気ない会話を延々と交わす。黙々と下っていると時間が長く感じるが、話しながらだといつの間にか下っているものである。
話を聞くと、丸森尾根を下山し、夫婦清水を過ぎさらに下った所で、登山道が余りに急坂(一見スラブ状で両側の潅木を掴んで登降する、標高760m?)なため、「登山道ではない、道を間違えた」と考えたとのことである。使用している地図は山と渓谷社のもので、地名や解説がないため(昭文社のエアリア最新版であれば、夫婦清水の標識で確認できたと思われる)現在位置が把握できなかったとのことである。また地神北峰に戻ってから携帯電話で連絡をしようとしたが全く通じなかったとのことであるが、これはボーダフォンを使用していたことが原因である。NTTドコモのMOVAなら通話できる、ただしFOMAは通じない。私の経験からすると、繋がったので会話をしようと極僅か動かしただけで切れてしまうことが多い。メールを作成し3本線が立った瞬間に送信するのが最も良い方法のようだ。
湯沢峰手前の鞍部で休憩を取り、登りきった所でも一息入れる。ここまでは順調である。10:01楢ノ木曲リで再度休憩、勝負はここからである。急な坂をひたすら下る。彼は腰を地面に着けて下るため、シャツが木の根に引っ掛かり苦労している。できるだけ腰を着けないようにと助言する。本人は何も言わないが、膝が笑い始めているのが分かる。もし自力のみであったら、途中で動けなくなっていた可能性が強い。10:35湯沢ゲートに到着。
私は帰宅し、昼食後出勤。

今回のコース
丸森峰から地神北峰を仰ぐ
ホン石転ビ沢出合の亀裂