登山者情報963号 (投稿)

【2005年10月22〜23日/大井沢〜出合川〜以東岳/山田亘調査】

朝日のエアリアに、大井沢から出合川に下りて以東岳に突き上げるコースがある。以前は非効率なコースと思っていたが、最近は、ズドンと下って真っ直ぐ登る所が魅力的で、是非歩きたいと思うようになった。悪天候の中を歩いたのは、自分の勘違いで、日曜に回復する予報と思いこんで行った。そして、家に戻って、かみさんから肩揉めと言われるのを幸せに感じる位、ひどいめにあった。
10月22日
03:00起床、03:43発、手ノ子の先から県道に入り07:13南俣沢出合(510)。少し奥に10台位止めれそうな駐車場がある。林道はすぐ終わり一登りで尾根に乗る。ここらへんがバカ平だろうか。杉林、糸杉、ミズナラと植生を変えながら、平坦な道が続く。その後は概ね緩やかな登りだったと思う。上の方の風雪の印象が強く、この区間の記憶が飛んでいる。08:37竜ヶ岳のトラバースが始まる(1000)。この辺り、地形図より下を巻いている。08:47最初の沢(1000)、2003年版のエアリアでは水場まで2時間半のコースタイムだ。思ったより早く来れたと喜んだ。けれど、どうも道形が変わっている。他に09:05沢(1060)、09:18沢(1120)でも水があるので、エアリアの水場はこちらの方かも知れない。立派なブナ林の後、09:36〜09:43尾根に乗り休む(1200)。障子が岳へ続く稜線が見えていたが、やがてガスに隠れた。次のピークの南を巻いた後、緩やかなアップダウンを繰り返す。石敷の道の傍らに青と赤のリンドウが供えられている。10:30雨量観測所(1290)。10:46粟畑(1390)。
 10:59天狗小屋分岐(1360)、左手に天狗小屋がガスでぼんやり見える。ほどなく11:02〜11:14天狗角力取山(1370)でクリームチーズブランを食べる。さっさと出合川に下りて、渡れなければ天狗小屋で泊まろうと思っている。歩き出すとすぐに急な下りになる。右手に葉を落としたブナ林が見える。下の方で姫子松が5〜6本固まって生えており、あとは細いブナとリョウブが多かった。そのうち尾根が痩せてきて、左手に白い河原が見えた。水が少なく見え、行けそうだと思う。下りた所は岩屋沢のすぐ南で、12:37から渡渉点を探し、飛び石づたいに渡りかけたが、足を滑らしどぼん。膝までの水で助かった。12:41に渡り終え、靴下を絞り、クリームチーズブランを食べた。そこは丁度踏み跡の前だった。水を1.8L汲み12:55踏み跡に入った(710)。か細い踏み跡と聞いていたが思いの外しっかりしていた。
 ただ、強烈な登りだった。最初は効率が良いと思ったが、止まると後戻りしそうな登りで、最初の急登を終えて、再び斜度が出たとき足が止まってしまった。そして、そこからはゆっくりとしか歩けなくなった。14:31〜14:43明光山(1241.5)で三角点の脇に足を投げ出し休んだ。その先は斜度が緩んだけれど、しばらくは、奴隷のように足下を見て歩いた。そのうち草原になり、顔を上げると、上にオツボ峰が見えた。そして後ろを振り返ると、明光山の後ろに障子が岳があり、その間の谷は見えなかった。美しい登路だと思った。左手の水音の聞こえる方に向くと、出合川上流が箱庭のように見えた。こんな美しい谷を見たのは初めてだった。16:30オツボ峰(1640)に上がると反対側のピークの端に以東小屋が見えた。そして甚六山の方から雷が響き始めた。天気が動き始め、日没が近づいていた。ほの暗くなった頃、大鳥池の湖面にピカリと稲光が映った。一瞬、太古の大鳥池の姿を見たようで鳥肌が立った。17:00前にスパッと暗くなり、強い雨が降り始めた。その雨に叩かれ、雲の間から短く光る稲光を見ているうち、自分もそのエレメントの一つであるかのような、凶暴な気分になった。そして、暗闇を見上げ「ウオオオオー」と叫び、ずぶぬれになりながら進んだ。冷えた雨は足を凍りつかせ、つりそうになった。17:03ピーク(1722)からは、前方に短い稲光を見ながら進んだ。雷雲がさほど発達していないのが幸いだった。3度目か4度目かに稲光が後ろの雲の中で光った。それが最も死に近づいた瞬間だった。17:30以東岳(1771)で風雪の中、写真を撮った。その先はガスが濃く、メガネが曇りうまく歩けなかった。ヘッドランプを手に持ち替え、振りながら歩いたら歩きやすくなった。もうルートミスは出来ないので、GPSを出した。ガスが濃く半径30mに入っても小屋は見えなかった。10mを切った頃、黄色い光がぼんやり見え、さらに近づくと二階の窓の明かりとわかった。17:40以東小屋(1720)、人恋しかったので二階に上がった。二階にはモトハラさん夫妻が居た。そして明日の予報も悪いと教えてくれた。乾いた物に着替えローソクの明かりを見ていると心が和んだ。次はエネルギー補給だ。チャーシュー味噌ラーメンをつまみに酒を飲んでリンゴを食べたら眠くなった。寝る前に一階の箱に6月18日の分と合わせ3000円入れた。前回万札しかなく、「後日精算」と書いた分だ。あとはシュラフに入り7時間寝た。何故か学生時代の楽しい夢を見た。
10月23日
04:30起床。風が強く、大鳥に下りるか、予定通り狐穴から大井沢に出るか考える。大鳥からの連絡が厳しいので、主稜を外れれば風も弱まるだろうと大井沢にする。この先厳しいのでチャーシュー醤油ラーメンでカロリーを取る。06:09以東小屋(1720)から出ると、冬手袋に雪が着き緊張する。足と手袋が濡れたままなのがつらい。06:14以東岳(1771)も風が強く、写真も撮らず狐穴への道に入る。風が強く濡れた手先がかじかむ。かなり西風が強い。平らなところはさほどでないが、斜度が出ると強くなる。志田義秀が、朝日軍道経由で庄内に帰還したのが11月初旬。こんな天気だったとしたら。その気持ちは如何ばかりだったろうと推し量る。景気づけに飯豊の山男を歌うが、うろ覚えですぐ終わる。時折、妻と子の名前を呼びながら、できるだけ早く歩き続けた。07:06中先峰(1523)を過ぎた頃から雨が温くなった。手指も暖かくなりこれなら行けるかもと思う。07:42〜08:21狐穴小屋(1500)。この小屋はドアを閉めると真っ暗なのが淋しい。トイレの入口を磨りガラスにして透過光を入れると、入口で支度がしやすいだろう。二階には7人の男女が居た。自分は水を補給して靴下と手袋を絞り、一階でサケ雑炊を作る。雑炊は早く作れ、一番食べやすい。二階に「お先に」と声を掛け、木道を歩き出す。08:27尾根に乗る(1530)が、期待に反して依然強風だ。今度は北からの風で、しばらく体を左に傾けて歩いた。08:42高松峰(1439.5)を過ぎハイマツ、笹、低灌木と植生が変わると次第に風が収まっていった。左手に昨日の美しい沢が見える。呂滝がどうどうと音を立てて落ちている。09:33オバラメキ(1290)から東に山を見る。二つ石山とすぐわかる美しい山容だ。振り向いた山も紅葉が進んで美しかった。カメラのレンズが濡れて、うまく撮れなかったのが残念だ。09:44コバラメキ(1260)、この先二つ石山との鞍部付近は植木屋が羨ましがるような木が一杯ある。10:26二ツ石山(1312)。その少し先で腹が鳴る。意識してないが疲れてるのだろう。腰を下ろしクリームチーズブランを食べる。そこから先は苦しい時間帯で、地図も見ず歩き続けた。何度目かのピークで天狗角力取山の標柱を見たとき「この山行は終わった」と思った。12:37天狗小屋分岐(1360)から石の階段を降りて12:46〜13:25頃天狗小屋(1320)。かみさんのオキアミの佃煮にネギを混ぜて薄切り餅で雑煮を食べたら、ものすごくうまかった。この小屋は以東小屋に似ていて好きだ。一度泊まりたい。
 竜ヶ岳のトラバースからは普通の晩秋の山になり、上を見ると一部青空が出ていた。やがて平らな歩きになり、リョウブから、糸杉、杉林と変化していき、尾根から外れる所で、ダムが見えた。バックウォーターに美しい木々が点々としていた。16:15南俣沢出合(510)。大井沢で300円の温泉に入り、新潟に戻った。自分の不注意で危ない山行になった。あの稲妻が光る大鳥池の光景が、今も忘れられない。

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