2017年度 山形県山岳連盟 登山部研修会(兼)冬季指導員会 報告

【2017年02月24〜25日/朝日町Asahi自然館/菅野享一報告】
 平成30年2月24日から25日の二日間、平成29年度山形県山岳連盟登山部研修会(兼)冬季指導員会が朝日町のAsahi自然観を会場に総勢22名の参加により開催されました。
 当研修会は山形県山岳連盟登山部が所管する指導員会・自然保護・遭難対策・海外登山を中心に登山の知識や技術について研鑽、習得すると共に、県岳連加盟団体会員の情報交換の場として、また公認山岳指導員の義務研修を兼ねて開催しているものです。

1日目 午後1時開会式
 開会にあたり高橋県岳連副会長から、「声掛けはしているが高齢化が進んできており参加者が少なくなってきている。研修での成果を持ち帰り、安全登山に役立てて欲しい」との挨拶を頂きました。
 菅野登山部長から日程説明後、一般聴講で参加されたNHK山形放送局の井川氏より、やまがた百名山の紹介番組を企画しているとのことで、取材への協力依頼がありました。
 
《座学研修》
【やまがた百名山グレーディングと安全登山(グレーディング調査委員会委員長、大滝潤一)】
 平成29年に山形県から委託された「やまがた百名山グレーディング設定(案)」作成に携わってきた。
 始めにやまがた百名山について、次にグレーディングについて、最後にやまがた百名山のグレーディングについてと分かり易く報告があった。
 「やまがた百名山」については、広く一般からの公募による選定であり、利用状況や観光的要素、信仰との関わりや歴史的魅力等によるものが多く、実際に登った結果での選定ではない。
 実際に現地調査してみると、山頂まで車道が整備されている所、登山道がない山、藪で見通しがない山もあり苦労した。
 グレーディングについては、長野県等で使用されている共同グレーディング基準等統一した基準に準じて、1〜10までの「体力度」とA〜Eまでの「難易度」で区分するものであるが、やまがた百名山を基準に当てはめると難易度はA・Bが殆どであった。
 地図に無い山や登山愛好家も殆ど知らない山、案内標識がない山もある。「やまがた百名山だから日本百名山より簡単だろう」と安易に判断して登ることも考えられることから、事故防止対策について課題がある。

《報告》
【競技部からの報告】
{本田競技部長}
 平成29年度の事業報告と平成30年度事業計画を説明。
 ドリームキッズ、安全管理者講習会を随時開催しており、選手育成に取り組んでいる。
 オリンピックに絡みルール変更が頻繁にあり、日本山岳・スポーツクライミング協会でも混乱しているので、随時開催される説明会等への出席が必要である。
 全国大会において東北では岩手、青森が常に上位入賞しており、彼らを目標にすることで成果が期待できる。東北大会で好成績を収めることが当面の課題である。
 国体でのグレードは上がってきており、少年男子も成年男子に変わらない難しいルートでの競技となっている。少年男子は実力も上がってきており、上位入賞が期待できそうだ。
 2020年東京オリンピックでのクライミング競技には20カ国しか出場できない。うちアジア枠が3〜4カ国であり、開催国が出られるとは決まっていない状況だ。
 天童総合スポーツ公園に設置されている人工壁の維持管理を県岳連で年1回点検しているが、経年劣化が進んできており安全の確保が難しくなってきている。県からの支援がなく困っている。

【登山部所管担当からの報告】
{菅野登山部長(指導員会)}
 指導員資格者について年2回の義務研修を行っている。平成29年度は春山合同訓練で一般登山者を含め安全登山についての講習会を実施した。
 A級主任検定員資格者が確保できたことから、山岳指導員養成講習会の開催を予定している。平成30年4月から日本体育協会公認スポーツ指導者制度について新制度改定が実施される。
 日本山岳・スポーツクライミング協会でも資格区分や養成講習会のカリキュラム見直し等を検討している。
 昨年11月の常任理事会で県岳連の活性化対策について登山部が主体となって進めることが確認された。
{渡部副部長(遭難対策)}
 6月に神戸市で開催された遭難対策委員会研修の参加報告。
 遭難者捜索活動におけるドローン活用について、 空からの捜索としては有効であるが、樹木が生い茂っていると確認が難しい。デスプレイ画面が小さいと判別がつきにくい。風雨や低温に弱く、気象条件により範囲が限られてくる。
 那須岳での雪崩による遭難事例についての検証と、未組織登山者の安全対策としてハイキングリーダー養成に取り組んでいる。
 遭難発生時には県警や消防、地域山岳会、民間団体などで情報共有の必要性がある。公益社団法人日本山岳ガイド協会のコンパス等での登山届計画書の提出について、各自治体でも採用する動きがある。
 携帯電話やスマートフォンのGPSを利用した位置情報は、常に携帯は電源が入っている状態での使用となるのでバッテリーの消耗が難点である。
 山形県でも鳥海山について類似した入山管理システムOWLがあるので活用して欲しい。
 11月に大城医師のファーストエイド講演会を行い、聴講者が200名を超え盛況であった。これまでFA講習会を受講しているが、応急処置のやりかたも変わってきている。低体温症への対応等最新の知識や処置方法について習得する必要がある。
{高取副部長(自然保護)}
 昨年9月に石川県で開催された第41回山岳自然保護の集い白山大会へ参加した。
 白根山は明治維新による「神仏判然令」の政策で、白山神社となり奈良時代から続いた神仏習合が禁止され仏像や仏具は廃棄させられたが、信仰者により白山下山仏として白峰地区の林西寺に8体の仏像が安置されている。
 山の名に関した高山植物については、1番が伊吹山22種、2番が富士山19種、3番が白山18種類、4番は箱根、5番は日光(白根山)となっている。
 各県での活動については、トレイルランニングによる植生破壊やトイレ事情、外来植物の駆除、シカ被害や対策の実情等の説明があった。清掃登山については西日本より東日本の方が力を入れている印象を受けた。
 最後に石川県山岳協会石森副会長の基調講演での話が印象に残った。
 「自然保護とは、人間が生存する自然環境の保全を図り、保護することをいう。ところが、自然保護の認識とは裏腹に、自然破壊が進行している現状にある。地球温暖化など自然を破壊する要因の役割を演じているのが人間ではなかろうか。日山協が提起する山の自然保護は、特定の動植物や生態系の景観に目を向けがちに思う。自然界における人間社会の貴重な文化遺産や歴史との調和を図り、視野を広めた自然環境を保全することが肝要と考える。」
{阿曽副会長}
 鳥海山入山管理システムの試験運用が2年経ち3年目を迎え利用者が増えていおり、30年度も継続が決まった。
 気象庁で蔵王だけでなく、鳥海山火山噴火警報レベルについても3月から運用開始することとなった。
{仁科指導員会事務局長}
 山での遭難発生時には110番連絡しても位置情報が出ないので、グーグルマップのGPS機能を利用して緯度・経度での位置連絡が有効である。
 地図への磁北線の引き方について、偏角は毎日変わるので国土地理院地図でカシミールソフトを利用すると簡単である。
{池田県岳連事務局長}
 県岳連フェースブック開設を予定しており、3月の常任理事会で開設(案)を提案する予定。基本的に一般公開となることと掲載事項の消去が出来ないので、今後運用について細部検討していくこととしている。
 那須の遭難事故以来高校登山について、積雪期の登山計画書を教育委員会へ提出し、審査委員会で審査することとなった。県岳連へ審査員の委嘱依頼があり登山部の渡部遭難対策副部長を選任している。
{渡部副部長(遭難対策)}
 1月に依頼があって5名の審査員で今冬から運用を行っているが、今後情報共有の場について確立したい。

2日目
《負傷者の搬送技術》
 負傷者搬送におけるラッピングと搬送の検証について、渡部副部長を中心にブルーシートを使用したラッピング方法の研修を行った。
 通常は携行品での代用となるので、ラッピング要領と留意点について検証した。
 ラッピングには十分な大きさが必要なので、ツエルトであれば2張りラップさせて使用。
シート+保温シート+エアマットを敷き負傷者をシュラフに包む。負傷者の胸部にお湯を入れたビニール製水筒等を入れ加温する。首筋の寒さ対策をする。膝下にクッション材を入れる。靴を靴紐で固定、通気口を作りながらラッピングすること等がポイント。
(注意:ビニール製水筒はプラティパス(商品名)が耐熱90度と高く、モンベル社製は80度となっている。キャップ変形による熱湯漏れの危険があるので各々使用する際は耐熱温度を把握すること)
 負傷者を体験した阿部指導員からは、「中は温かく非常に快適、搬送時も安定した乗り心地で特に首筋の保温や膝のクッションも有効」との意見が聞かれた。

《確保技術の確認》
 SAB(スタンディングアックスビレィ)における自己脱出について、高取副部長を中心に研修を行った。
 SABでの確保技術について、滑落者が停止した後にフリクションヒッチの方法としてブリッジプルージックで取った場合加重がかかると取れにくかったり、絡みが発生する場合がある。確実性を考慮してマッシャートレを推奨してきている。
<一連の流れを確認> 確保⇒ディバイス仮固定⇒沈み込み⇒フリクションヒッチでロープ固定⇒メインロープ解除⇒スリップノットによる安全対策⇒メインロープをムンター・仮固定

《雪崩対策研修》
雪崩遭難者の捜索と掘り出し方法等について阿曽副会長から伝達研修を行った。
○雪崩トランシーバーの使用方法・プロービング方法・U字掘り出しについて
 雪崩トランシーバーの装着は雪崩による紛失や衝撃による破損を考慮して上着の内側に装着し液晶面を身体側にする。これが出来ない場合はパンツのポケット(ジッパー付き)等でも良い。使用前に必ず動作チェック(バッテリー・発信・受信)を行う。
 トランシーバーはアンテナ3本が主流となっており、マーキング機能等も充実している。埋没者の発信電波はそれぞれ違うので、アナログ音による聞き分けで人数が分かる。使用後は電池をはずし接点部は乾燥させておく。
 使用前の動作チェック(グループチェック)の際は、メンバー全員が発信モードにし3m以上離れて一列に並び、一人が受信モードにしてレンジ1mでチェックする。その後発信モードに切り替え、順次交代して動作確認する。
 プローブの長さは2.4m以上でないと実用的でない。太さも細いと硬雪の場合曲がる恐れがある、また、掘削時に遭難者への接触防止からプローブ先から30cm程度上部に目印を付けておくと分かり易い。プロービングは25cm間隔で桝目状に行う。プローブがヒットした場合は直接掘り下げ、U字状の掘削方法とする。(従来は深さの1.5倍離れた所から掘り進むとされていたがロスタイムが出る)。スコップは角型で足掛りのあるものが硬雪でのブロックカットに有効である。
 スノーシェルターの構築については、ザックとツエルトを使用した雪洞の構築方法について実技研修を行った。
 雪質や場所等の条件にもよるが、短時間で構築出来ることと風に強いというメリットがある。風下に入口を設け、風よけを設置する。ザックを取出し易いように入口は下方を少し掘り下げると良い。
 ドローンを使った捜索についての検証では、準備したものの気温が低くバッテリーの消耗が激しいため始動出来ず断念した。冬季高度では風等で更に気温が低下することから今後の課題となった。

 最後に船越顧問から総括をいただき二日間の研修を修了しました。
高橋副会長 菅野登山部長
大滝委員長(県岳連顧問) 本田競技部長
研修状況
渡部副部長 高取副部長
池田事務局長(右仁科) 2日目の研修

おわり