会員の山行 215号

【2011年04月10〜12日/不帰岳V峰東面/吉田岳調査】

 北アルプス後立山連峰不帰岳東面の雪稜バリエーションコースに行ってきた。メンバーは、いつものWKBとAXL、そして仙台に住む新メンバーのあっ君。10日10時に小国を出発し、14時30分白馬村八方尾根スキー場駐車場に到着した。リフトは16時までの営業なので、何とか予定通りスキー場を上がり、八方尾根の途中までは行けそうである。ゆっくりと準備を行い、ゴンドラ、リフトと乗り継いで、ゲレンデトップへ。水を補給し、テン場を探しながら八方尾根を登っていくことにする。天気はいいが、やや風が強い。1時間近く登った所にトイレ施設があった。この風下側にテントを張れるスペースがあったので、ここをテン場にすることにした。
 11日6時、テントはそのままに、八方尾根をさらに登っていく。天気はややどんより。午後からは雪の予報であり、午前中に登攀部分は終わらせておきたい。稜線はまだはっきりと見渡せ、目的地の不帰岳から北に白馬三山、南に五竜岳、鹿島槍ヶ岳と続いている。7時40分、唐松岳頂上小屋の分岐を通過。8時唐松岳直下の所で小休止。ここから東斜面を下り、不帰岳V峰の尾根取付き部まで下りていく。V峰は左からA、B、C尾根とあるのだが、近づいてみるとどれがそうなのか分からなくなった。C尾根らしき尾根の末端から、右側を登っていくことにした(ルートは左側を少し登った所から取り付くようだ)。
 最初はピックが良く刺さる快適なルンゼであったが、斜面が急になってくると岩や草付きに雪がモナカ状に付いているという、非常に登りにくいコンディションになってきた。ピッケルを雪に刺したり、草付きに刺したり、岩に引っ掛けたり、柴をつかんだり、雪を削ったり固めたり、いろいろと駆使しながら登っていった。雪稜に出たところで後続を待つ。WKBはすぐ登ってきたのだが、あっ君が来ない、コナイ、KONAI、こなーーーい・・。そんな中、雪も降ってきた。上部を見渡してみると、今年はやはり雪が多いようだ。ナイフリッジの尾根に、3月に降った雪がキノコ状に付き、または雪庇が大きく張り出し、非常に危ない条件である。どちらにしろ、今日は天気や時間を考えて、撤退する事を考えた方が良さそうである。左側に下りられそうな感じであるが、あっ君が登ってこられなければ右側に下りるしかない。そうなるとかなり大変な下降になる。とりあえずここまで登ってもらうしかない。13時、あっ君が登ってきたため、下降の準備を始めた。
 ちょうどいい所にダケカンバの柴があったため、それを支点に懸垂下降をすることにした。まずWKBが下りていく。続いてあっ君の番だが、もたついていて懸垂の準備ができない。WKBが早くもB尾根を巻いて登り返していくのが見えた。私はあっ君に懸垂の仕方を教える事に集中してしまったため、支点の方を確認しておくことをしばし忘れてしまっていた。「支点を見なければ」と思うのと、ロープが支点から外れていくのを見たのがまさに同時だった。あっ君はまさに「あぁっー」と叫びながら滑り落ちていった。雪渓の方向が変わる所で止まるかと思ったが、止まらずにそのまま滑っていき、見えなくなった。幸い雪渓上に岩や亀裂はない。ぶつかって怪我をすることはないだろうが、アイゼンを履いているため足をくじく可能性は十分考えられた。WKBを呼び、見に行ってくれるよう叫んだ。私の方は、ロープごと落ちていったため、確保はなしである。クライムダウンで慎重に下りて行き、あっ君のところに向かった。行ってみると、幸いにも顔を少し擦っただけで、怪我はなかった。彼も「いやー、時間短縮しちゃった」と、平気な感じだが、大事を取って少し休ませ、荷物を軽くして登ってもらった。この事故は支点としていた柴がしなったためにロープが滑って外れて起きた。加重を下方向にかけていれば問題なかったのであるが、あっ君が横方向で懸垂を設置している間に動いたか、下り初めで高い位置に加重をかけたために起きたと思われる。慣れていれば支点を確認してから下りていくのだが、あっ君にその余裕がなかった。しかし原因はリーダーであり、ロープを設置した本人でもあるAXLの責任である。今後はこのようなことが起こらないように努めたい。
 唐松岳への登り返している間に、ホワイトアウトになってしまった。あっ君はやはり遅れるが、見失わないように5mほどの距離を保ちながら登っていった。稜線に出ると風が一段と強くなり、ミゾレ交じりの雪が吹き付けてくる。夕方5時、テン場にたどり着いた。
 12日。昨夜から続く強風は、朝になっても止む気配がない。今日はWKBとAKLでV峰C尾根を目指し、あっ君はこの辺で遊んでいるという予定になっていた。降水確率は低いので期待していたのだが、風が強すぎる。ネットでは白馬岳山頂で風速20mと出ていた。稜線を見てみると雲が流されているのが分かり、そんな条件下でクライミングはできないだろうと判断。残念ながらこのまま下る事にした。状況が分かったので、次回はきちんとここを踏破したい。
既に凄い高度感
左から不帰岳V峰U峰T峰
出発の朝
あっ君すでに遅れ気味
不帰をバックに
手前は五竜岳、奥に鹿島槍
中央左の3列がV峰ABC尾根
あっ君がんばれ
唐松岳頂上小屋
取付きに下りていくWKB
下手にA尾根登攀中のあっ君
A尾根上部
B尾根(黄色)、C尾根(ピンク)
中間点で3番手をビレーするWKB
どこだったかな?
最後はホワイトアウト