会員の山行 232号

【2012年01月5日〜7日/南ア・奥駒津沢(長野県)/吉田岳調査】

 クリスマス山行が中止になったため、正月明けに南アルプスへ氷登りに向かってみることにした。4日午後から小国町を出発。新潟ICIに寄ってから信州へと向かう。新潟県内は吹雪状態。長野市を越えれば雪は止むだろうと思っていたが、松本や岡谷を越えても雪は止まず、伊那付近まで来てやっと雪はチラホラ状態になった。辰野PAで車中泊を予定していたが、意外に賑やかなために素通りをし、わが母校のキャンパス内で車中泊を行なった。
 5時起床。伊那市から高遠市内を経て長谷村に入り、南アルプス林道の起点がある戸台口、そして登山口となる戸台に到着した。駐車場には車が2台。北沢峠への登山口となる場所にしては意外に寂しい感じである。用意を行い、7時15分出発。まずは川原歩き。所々にあるピンクテープを目印に、新雪の上を歩いていく。気温は−8度ほど。30kg先の荷物を背負いながらの歩きでさすがに体が暖まってきて、上着、帽子、手袋と、どんどん脱ぎながら歩いていった。
 10時、ベースとなる赤川原に到着。10年ほど前まで使われていたという丹渓山荘は廃墟となってまだ残っていた。ここにテントを張り、出発準備を行う。10時40分、戸台川本谷を遡上していく。20分ほどで今日の登攀場所、舞姫の滝が見えてきた。ここは戸台川流域では最も遅くに初登された氷瀑であり、腕試しにもってこいの相手である。取付きでサブザックを下ろし、準備を行って、登攀開始。50度の滝、70度の滝をクリアしてビレー。その上はナメ滝とガレ場。そしてメインの舞姫の滝へ。ここは日当たりがいい所なのでやや氷の着きが悪いが、十分登攀可能な感じ。表面が柔らかい分アックスの効きは良く、また空身のせいもあり、意外と落ち着いて登る事ができた。40mほどで上部の潅木にビレー。WKBに登ってきてもらう。ゆっくりではあるが確実に登ってくる。しかし、風が強く、ビレーヤーにはやや辛い。1回の滑落(もちろんすぐに止まる)で、WKBもクリア。握手をして下降に入る。今日は風が強く、稜線はかなり荒れていそうである。自分達は今日上にはいかないが、明日までに風が止む事を望む。
 取付きまで下りてきて一服。微妙に時間が少しあるので、ここから本谷を少し登った所にある舞鶴ルンゼに向かってみる事にした。しかしその入り口が分かりづらく、一度通り越してから戻ってきて見つけたのだが、時計を見ると15時。明日は長丁場になるので、今日はここで引き返すことにした。赤川原に戻り、ゆっくりと炊飯準備を行い、熱燗で暖まり、就寝。外気温はかなり低いのだが、テント内は快適である。
 6日、5時起床。今日はとりあえず予定通り駒津沢を目指すが、稜線まで抜けるか氷瀑をハシゴして純粋にアイスクライミングを楽しむかは取付きまで行ってから決めることにする。6時50分出発。ちょっと予定より遅れてしまったが、これが後で効いてくる事になる。本谷を詰めていくと1時間半ほどで五丈ノ滝に着いた。氷結状態は良く、この上もきちんと凍っていることを確信させてくれる。さらに登り詰めていくと駒津沢そして奥駒津沢が現れてきた。気が付くとここまでに4時間近くかかってしまった。予定の倍である。しかし天気は快晴、風もほとんど無風状態。「これは稜線まで行かなければいけないでしょう〜」ということになり、駒津沢の氷登りをあきらめ、奥駒津沢を遡上していく事にする。それにしても美しい氷が繋がっている。今まで登ってきた氷とはスケールが違う。
 10時50分、登攀開始。最初のカーテン状氷壁を越えると、緩やかなスラブ歩きとなるが、これが意外にも登り辛かった。40mで右岸の潅木でビレー。その上のナメ滝はWKBがリード。さらに15mのF2滝を登った所で、とりあえずビレー解除。F3は横幅のある大滝。F4は縦長の大滝。このF4は氷結が甘く表面に水が滴り、手袋やロープがびしょ濡れ、そしてすぐにカチカチになってしまった。ここを登った所でとりあえずロープをしまう。時間は14時。まだまだ先は長い。
 ここからは体力勝負となった。二股を一旦右股に入ってから左股に渡った。ここまで来ると氷のナメ滝も終わり、ラッセルと草付きと岩場歩きが主体となってきた。地形を見ながら楽そうなコースを選ぶが、傾斜がきつくなかなかレベルが高い。ただ、アックスが草付きに効いてくれるのがありがたい。アックスを1本ザックにしまってしまったWKBはシングルアックスでけっこう怖い思いをしたようである。そんな中、夕暮れが迫ってきて、さらにガスも立ち込めてきた。「またビバークかよ?」と何度も思ったが、快適な赤川原のテン場への思いでそれを断ち切った。稜線に繋がっている尾根まで登ってきたが、何度もだましピークに騙された。WKBはGPSを時々見ながら、けっこう冷静だったようだ。「そんなおもちゃ」とバカにしていたが、やはり大人のおもちゃ(?)も役立つようである。最後のだましピークに来た所でトップをWKBに変わってもらった。この時WKBがヘッデンを点けようとしたが、「稜線までガマンしよう」と伝えた。これは登攀中の残業(ヘッデン登山)は無かったという事にしたかった為ではなく、眼が暗い所に慣れた状態でぎりぎりまで登った方が早いからである。幸運にも天気は持ち直し、ガスが上がり始めて月も見え出してきた。やっと安心する事ができた。
 17時45分、稜線の登山道にたどり着き、平らな所で休憩とした。登攀具を外し、行動食を摂ってホット紅茶を飲み、ヘッデンを点けた。これで登攀中の残業はなかったよと自慢できる(?)。やはり登山道は歩きやすい。下りは楽だ。と最初は思ったが、1時間も経つと腹は減り、ザックの荷も重く感じるようになってしまった。19時15分、北沢峠に到着。山小屋には赤々と明かりがともり、ラーメンやら豚汁やらコーヒーなどのメニューが張り出されていた。幸運にも持ち金はなく、諦めは付いた。渋々また歩き出し、八丁坂の登山道を下っていった。トレースが付いていた事が精神的にありがたく、それを辿っていき、20時45分赤川原に到着した。テントにもぐりこみ、ストーブを点け、コーヒーを飲んで一息つけてから、夕食作りと熱燗タイムに入っていった。
 7日、6時起床。「よし、もう1本登りにいくか?」と冗談で誘ったが、「勘弁して下さい」とのことだったので、帰る準備を行う。という私も筋肉痛に加え、落氷や氷にぶつけた痛みと、手足のひび割れが痛み、登山口までの帰りも結構きつそうである。しかし歩き出すと意外と足は進み、周りを見る余裕があった。今日から三連休ということで、さすがに多くの登山者が入ってきた。ただ、我々のような登攀目的のパーティーは居なさそうであったのは意外であった。3時間弱で駐車場に到着。高遠温泉に入ってから、小国に向かった。この期間中、小国ではずっと大雪だった事を知らずに。

まずは川原歩き
甲斐駒(左)駒津峰(中央)
赤川原
丹渓山荘
再び戸台川
舞姫の滝が見えた
う〜ん、どうしよう
核心部です
戸台川を更に遡る
五丈ノ滝
まだまだOK
駒津沢F1
奥駒津沢F1
足がきついっす
F3登攀中
ナメ滝で高度を稼ぐ
びちょびちょのF4