登山者情報1118号

【2007年09月29-30日/朝日山地生態系保護巡視/井上邦彦調査】

【東北・関東森林管理局合同巡視員会議】

 朝日連峰の地主は当然ながら林野庁であるが、下越森林管理署・庄内森林管理署・山形森林管理署・置賜森林管理署という4署が管轄している。このうち下越森林管理署は関東森林管理局(旧前橋営林局)、他の署は東北森林管理局(旧秋田営林局)に属している。森林管理署の旧名は営林署であり、私もつい営林署と言ってしまうことがある。
 朝日山地生態系保護地区の業務は鶴岡市(旧朝日村役場)にある朝日庄内森林環境保全ふれあいセンターが担当している。私(HZU)は小国の自然を守る会に所属する生態系保護地区の巡視員であり、ふれあいセンターには時折お邪魔している。今回、鶴岡市で東北・関東森林管理局合同巡視員会議が行われたので参加してきた。
 参加した巡視員は、出羽三山の自然を守る会・山形県山岳連盟・山形県渓流釣り協議会・山形県西川町大井沢地区・山形県猟友会・山形県内水面漁業共同組合連合会・山形県鶴岡市朝日庁舎・小国の自然を守る会・三面川の原生林を守る会・さけの森林づくり推進協議会であり、林野庁からは各々の担当官が出席した。
 08:00ふれあいセンターに集合(小国グループは若干遅刻)、乗り合わせで泡滝ダムに向かう。相変わらず何処まで続くのだろうと思うほどに長い車道である。
 泡滝ダムは発電用の取水口で、駐車場はそこそこ確保されている。さらに上流部に川の砂利を積み上げて関係者用の駐車場が作られていたが、こちらは洪水になると流されそうである。
 駐車場で挨拶や趣旨、巡視のポイント説明があり、歩き出した。歩道は東大鳥川の右岸を殆ど水平に辿る。歩道の山側には山形県が施工した落石防止の金網があり、金をかけているなと感じた。そう言えば昔は山を越えて冷水沢へ行っていた記憶がある。
 何箇所か乾雪表層雪崩の跡がはっきりと分かった。サワフタギの青い実とマユミの赤い実が印象的であった。
 冷水沢の吊橋は昨冬の大雪で破損し、応急処置をしているとのことである。確かに支柱の基部が潰れて折れかかっている。このまま放置しておけば切断するだろう。朝日支庁の渡辺さんが、10月に原形復旧の工事を山形県が行うこと、工事の間はパイプで仮橋を作るので登山には支障がないことを説明してくれた。
 七ツ滝沢の橋を渡るとブナ林になる。湿った歩道を見ると、もう少し工夫して手を入れればもっと良くなるのにと、つい歩道整備の癖が出そうになる。
 いよいよ登りになる所で、足場の石に目が行った。セメントが袋に入ったまま固まったものを、石の替わりにして階段を作っているのだ。付近には固まって放置されたセメントが幾つかあった。
 大鳥池は2万年前に発生した巨大な地滑りが沢を塞いで出来たものであり、これを稲作用の水瓶ダムとして使うため、堰を整備したと聞いている。その整備のために作られた道が七曲である。渡辺さんは、セメントを運ぶ時の中継基地がここにあったのかも知れない、その時に固まってしまったものを利用したのではないかと説明してくれた。
 今回の巡視は「文字通り幾重にもジグザグに緩傾斜で登っている歩道をショートカットする踏み跡があり、これが植生を傷つけたり落石事故の原因になるという理由で閉鎖することにした。その後の状態を確認すること」が大きな目的のひとつである。
 今回、七曲を自分の足で歩いてみて感じたのは、この歩道の作り方は登山道とは全く異なり、重い荷を大量に搬送するために作られたものであるということだ。鉱山があった疣岩山や十貫平に共通した感覚がある。人力による搬送がなくなった現在、これは登山道として云々するよりも歴史的文化財としての価値を評価すべきだろう。また、登山ではなく、手頃なハイキングコースとして位置づけることも緩傾斜を維持する理由になるかも知れない。
 一方、ショートカットによる落石の危険性を強調することにためらいを感じた。何故なら緩傾斜のジグザグのため、歩道で落とした石がショートカットの有無に関わらず直接下の歩道を直撃するのである。不意に頭上の藪から石が落ちてくるのだから、これは怖い。
 ともあれ決めたことなら素直に従っておこうと決めたが、閉鎖のやり方は稚拙すぎる感じがした。例え強制力がなくても、止めるなら止めるという意志を明確に示すべきである。
 人が木の根を踏むことにより植生が損なわれるとしているが、偽高山帯でない急傾斜地、入り込み人数を考えると神経質過ぎる様な気がした。むしろ、途中の沢から出る水が砂礫を伴って林床を覆っている箇所があり、流水のコントロールが必要ではないかと思えた。
 また、途中から突然歩道の様子が一変する。これは昔の道から外れた比較的新しい道であろうと感じた。文献等を探れば、その辺は分かると思う。
 登り終えた所に、回転する標柱があり、四面にコース概念図が描かれていた。作者の記載はない。面白いのは、標柱がすっぽりと上に抜け、後の穴にする蓋があったことである。これなら降雪前に抜いておけば破損する心配がない。
 ここから歩道は平坦になる。湿った歩道に人口の板が敷かれている。これでは水路を遮断してしまい、何時までも乾かなくなってしまう。残念に感じた。
 ようやく大鳥池の湖畔に建つタキタロウ山荘に到着する。ここで渡部さんから、現在工事中のトイレについて説明を受ける。興味深かったのは、タキタロウ山荘が避難小屋としては珍しく旧朝日村によって建てられた(他は全て山形県)ということであり、トイレも鶴岡市の事業である。
 ベンチからは以東岳と以東小屋が見えた。その下に、登山道が掘削されている様子が肉眼ではっきりと見えた。何時か、あの登山道も整備してみたいという気持ちが湧き上がるのを禁じえなかった。

泡滝ダムにて この橋はこれから補修される
閉鎖された旧道 ショートカットの規制
ショートカットを閉鎖 検討しながら進む
面白い標柱 冬季は取り外します
タキタロウ山荘 トイレ建設中です
山荘前で休憩 左上に以東小屋を仰ぐ
以東小屋下の草原 掘削を受けた登山道
マユミ サワフタギ