登山者情報 第1164号

【2008年07月01日/携帯電話GPS/井上邦彦調査】

 筆者の住む小国町の東部地区・北部地区ではフォーマ以外の携帯電話は使用できません。また、これまで飯豊連峰ではフォーマよりもムーバの方が繋がる箇所が広いようです。このため筆者はフォーマとムーバを必要によって切り替えて使用してきました。
 フォーマに切り替える時には、GPSが利用できる機種の販売を待って購入しましたが、販売店から「圏外ではGPSが利用できない」との説明を受けて、がっかりしました。さまざまなホームページを検索してもやはり結果は「auなら圏外でもGPSが使える機種があるが、ドコモにはない」とのこと。正直、諦めていました。
 さる6月22日、梶川尾根〜丸森尾根を単独日帰りで入山した登山者が帰宅せず。寝床に置いた私の携帯が鳴りっぱなし、眠い目をこすりながら出動の準備をして小国警察署に出向きました。
 遭難者は梶川尾根最上部でODDとすれ違っています。22日午後に「道に迷った」「丸森尾根の登山道に出た。倉手山が見えている」と2回ほど知人に電話があったとのことでした。既に第一次捜索隊が丸森尾根を登っていますが、発見には至っていません。この状況下でいったい何処を探せば良いのでしょうか。
 まず梶川尾根を登ったのですから、いったん道に迷って梶川尾根に戻ったのであれば、「丸森尾根の登山道に出た」とは連絡しないでしょう。それでは西俣尾根でしょうか。山頂にはしっかりとした石標がありますし、わざわざ藪を漕いで西俣尾根に入るとはどうしても考えられません。また一度沢に降りたとしてもそれを越えて反対側の西俣尾根に登ることも想定できません。
 一番の確立はやはり丸森尾根を下山し、途中で何処かに迷い込み、いったん尾根まで上がり、その後下山中に再度迷ったか転落をした。つまり夜間に登った一次隊とすれ違ったと考えるのが妥当のように思えました。 そこで夜明けと同時に航空機による面の捜索を行うと同時に、再度丸森尾根を丁寧に捜索するのが良いだろうと考えました。
 ところが一次隊から「丸森峰を通過して残雪に出たが、登山者の足跡は風雨のため消失している」との無線が入った。ちょっと待て!午後の下山である。アイゼンなし、つまりキックステップの跡がそう簡単に消えるとは思えない。丸森尾根は下山していない!としか思えない。それでは何処に行ったのか?これまで遭難者から連絡のあった現在地は正確であった方が少ない程だ。我々が想像もしない行動を取るのが遭難者の何時ものパターンだ。どう考えても頼母木山から故意に藪に突っ込むとは思えない。まさか梶川尾根を下ったのか。頭の中が整理できない。
 「ヘリが光を発見!場所は西俣ノ峰の下」との無線が入った。警察署内の空気が一気に動いた。航空隊員が下降し、ヘリの吊り上げ作業、無線で情報が次々に入る。しかし私はただ唖然とするだけであった。
 その後、遭難者の行動が知らされた。彼は地神北峰から夏道を丸森峰に向けて下降した。しかし大量の残雪のために下降をせず、左にトラバースを開始した。幾つかの尾根を越えた。この時点で「道に迷った」と携帯電話で連絡をした。さらに下降しながらトラバースをして行くと踏み跡があった。彼はこの踏み跡を丸森尾根と信じ、「丸森尾根の登山道に出た。倉手山が見えている」と2回目の連絡をした。その後、ひたすら踏み跡を下り、20:00頃西俣ノ峰の過ぎた所で転倒し、骨折をした。そこは携帯電話は圏外であった。
 聞くところによると、彼の携帯電話は筆者が普段使用している物と同じらしい。もし彼が道に迷ったと気づいた時点でGPSを作動させ知人にメールを送っていたらどうなっていただろう。
 筆者はこれまで山でGPSを作動させたことが何度かあるが、空白の地図が表示されるだけであった。昭文社とauで提携して開発を進めているシステムならともあれ、フォーマのGPSは市街地専用で、山では何の役にも立たないと断定していた。それが今回の事案をきっかけに、本当に使い物にならないのかを試してみることにした。
 説明書も読まずに適当に動かしていると、偶然に緯度と経度が表示されることに気づいた。これは使えるかもしれない。ともかく様々なことを試みた。いっちゃんの携帯電話に筆者の位置を送信してみた。いっちゃんからも彼女の位置が返ってきた。これを操作していると、地図だけでなく彼女が現在いる緯度と経度が出てきた。これだ!遭難者が同じことを行ったら、こちらでは地形図と照合して正確な位置を捉える事ができる!
 これは確かに有効な手段である。特に月山や吾妻連峰でこれから本格化するタケノコ採り遭難には絶大な威力を発揮することであろう。しかし、筆者にはまだ物足りないものがあった。それは圏外では利用できないということだ。
 そこで東北総体審判員打ち合わせの帰途、圏外の駐車場に車を止めて実験をしてみた。すると時間は要したものの、緯度・経度を表示することができたのである。
 以下は、これまでの実験結果の速報である。

筆者の携帯電話 今回は、私の携帯であるNTTドコモのフォーマ「ラクラクホンW」を使用して実験しました。
なお実験場所は小国警察署前です。
圏外での実験は6月29日に行っています。
パソコンにデータを送ってみましたが、指定のアドレスは開けませんでした。
auとドコモには融通性がない可能性があると思います。
まだ実験の途中ですので、助言など歓迎します。
送信者⇒通信が可能な場合 最初に「メニュー」を押します
Dを選択します 次にBを選択します GPSで測位を始めます 測位が終了しました 宛先を選択し、「送信す
る」を選択して終了です
受信者⇒「受信したメール」から「受信箱」を選択し当該メールを開いてください
この画面が出ます 下部にあるアドレス
を選択します
@を選択します 住所と地図が出ますが、
山では地図は白紙です
「決定」を押してください
@を選択します
ここでBを選択します 緯度・経度が
表示されます
「圏外」で自分の位置を見ます。通信可能地でも同じ方法で自分の位置が確認できます。
先ほどと同様です ここで@を選択します GPSで測位を始めます 測位が終わったら全てを
無視して、終了します。
⇒どうも、ここがポイント
のようです。
再びDを選択します
Cを選択します 自分が測定した時刻と
合っていればOK
緯度・経度が
表示されました。
位置履歴は「決定」の上下をクリックすることで
過去に遡れました。
圏外と表示された場所での測位は、送受信可能
地と異なり、結構な時間を要しました。
これまでフォーマは圏外でGPSは使用できない
と思っていました。もう少し実験を重ねたいと
思います。

FOMAのGPSは圏外で利用できないとされているのに?

 「FOMA位置情報機能の開発-現在地確認機能-」によると、「GPS衛星からの電波のみを受信して測位する自律測位方式では(中略)測位時間が長く(中略)移動末端の消費電力が大きくなるといった問題が存在する。そこで(中略)GPS衛星の航法メッセージを、FOMAネットワークからアシストデータとして移動末端へ配信して測位演算を行うA-GPS測位方式を採用する。これにより高速かつ低消費電力での測位が実現可能となる。ただし自律測位方式はA-GPS測位方式が実施できない場合であっても測位することができるという特徴を持つため、移動末端ではA-GPS測位方式が実施できない場合に補完するための機能として実装する」と記載されている。
 さらに「移動末端の測位部は、GPS受信部、測位演算部から構成される。GPSの測位方式としては(中略)A-GPS測位方式と自律測位方式を実装している。アプリケーション部より測位が起動された際には、FOMAネットワークに対してアシストデータの要求を行い、取得したアシストデータを用いて測位する。また室内のようにGPSの電波が弱く、GPSによる測位が困難な場所においては、FOMAネットワークから得られる移動末端の在圏位置情報を測位結果として利用することを可能としている。圏外などで、FOMAネットワークよりGPSのアシストデータを受信できない場合には、A-GPS測位方式による測位が行えないため、A-GPS測位方式から自律測位方式に切り替わる実装としている。これにより、FOMAネットワークから電波が届かない場合においても測位を可能としている」とも記載されている。
 これで圏外でも緯度・経度だけは測位できる原理は理解できた。しかし問題は幾つかある。
 @全てのFOMAが対応できるのか、ラクラクホンWは測位をしてからネットワークに繋がるが、これが逆だと動かないかもしれない。
 A対応できていても機種によって情報の表示方法がことなる可能性がある。
 B圏外の自律方式は時間と電力を消耗する。従って私のように常にフル充電された予備バッテリーを持参しないと、肝心の時に電池切れもあり得る。
※ 昭文社とauで開発中の携帯電話GPS山地図
※ kennrokuさんはauである。試しに送信してみたら、やはり開けないとの返信がきました。・・・07月01日
圏外である「健康の森」で実験をしてみました
明らかに圏外です 「メニュー」→D ここで@を選択しました 測位が始まりました 決定でも繋がりません
終了させました 元に戻ります 再度Dを選択 今度はCを選択 「詳細」をクリック
情報が表示されました 国土地理院の「ウォッちず」で実験地のデータを確認しましたら次のとおりでした。
北緯=38度2分60秒
東経=139度43分43秒
明らかに実験地を測位していました。
測位に要した時間は、画面のとおりですが、デジカメで撮影する時間が加わっています。
前回(6月29日)圏外で実験した場所は雨天の谷中(車中)、今回は上部が比較的開けた野外です。
普通のGPSと同じで、衛星捕捉環境によって必要な時間が変わると思われます。