登山者情報1206号

【2008年11月08日/県境:牛股沢〜テンモド岩〜アザミ沢/井上邦彦調査】

 今回の町境歩きは、登山者情報第1056号(2006年11月25日)の継続である。大朝日岳から赤芝峡に至る分水嶺ではなく、女川上流域に直線で県境が描かれている場所である。国土地理院の地形図では無名峰であるが、地元ではテンモド岩(=貂ですら戻る岩場?)と呼んでいる峰が目標である。地名からは険しい地形が予想された。
 前日、山道具を準備していたら熊スプレーが見つからない。目的のエリアは熊の巣である。何となく不安を抱えながらの出発となった。
 先ずは尻無沢集落から林道を登り、途中の駐車場に車を止める。ここから女川(牛股沢)までは地形図に記載されている歩道を歩く。05:49出発。分水嶺までは何箇所か沢を渡るが、途中に幾つかの分岐があり、初めての人は迷いやすいだろう。
07:22分水嶺に出る。07:26自宅にメールを送信し、携帯電話で降雨地がないことをを確認する。ここから一直線に尾根を下り、06:51牛股沢とトチノキ沢の合流点に降り立つ。尾根の末端には釣り人のものであろう幕営跡がある。
今回はスパイク長靴を使用した。牛股沢を左岸・右岸と渡渉をかさねて下る。07:04アザミ沢出合で、GPSの電池を入れ替え、高度計を385mにセットする。さらに下ると沢の中に記憶のある大岩があり、左岸から沢が入っている。GPSでここが県境であることを確認し、磁石を合わせて07:20県境の07:20県境直登を開始する。
 初めはさほどの藪ではなく快調に高度を稼ぐ。途中で私物缶がザックから飛び出した。急な溝だが駆け降りて落下を止める。ザック最上部の締めが甘かったようだ。
 登っている途中、ふと上を見上げると3mほど上の灌木にスズメバチの巣があった。早い時期であれば葉が茂って見つけにくいし、元気な蜂に襲われて大変なことになっていたかも知れない。ナラの幹にはカシノナガキクイムシの穴が無数に開き、ナラ枯れが入り込んでいることを実感させた。左手にすっきりとした岩場が見えた。これからのルートに不安が横切る。07:53正面に岩が出てきた。岩の弱点を探して合間を縫うように登る。振り返れば正面に県境の沢を持った841mの岩ブナ尾根が広がっている。
 08:05高度670m、目の前に窪地が出現し、上部の峰には岩壁が聳えている。地形図で確認すると、アザミ沢源頭、東から大きな尾根が合わさった平坦地である。岸壁を見上げた感じでは、正面左から登れば何とかなりそうである。
 08:09-26風を避けた所で食事を取る。風の音がうるさい。何気なく雨蓋を開けて、チリシと三角布を間違えて持って来たことに気づく。携帯メールの送信ができた。
腹ごしらえをして急斜面に挑む。08:40右手の岸壁を気にしていたら、左も岩壁。それでも身体を藪から露出する岩登りは一個所で済んだ。あとはブナ林となり、08:49に775m峰頂「テンモド岩」に到着。藪の中でセルフタイマー記念撮影となった。
 テンモド岩から県境沿いに北上する。テンモド岩の左下は大きなスラブになっている。地形図では県境尾根の両側が露岩記号になっていたが、ルート的には特にどうということもない。
 09:01古い鋸跡をひとつだけ見つけた。誰かが通ったことだけは間違いない。順調に藪を分けて、09:25に800mピークを通過する。ここから東(右手)に下っている尾根に取りつくのだが、ピークの東に露岩記号がある。若干北上してから南東にルートを取り678m峰に向かう尾根に移るコースを選択し、842m手前の鞍部まで進んだ。
 09:37下山開始。鞍部から斜面を横切って目標の尾根に取りつくつもりで、いったん南東にある中間の尾根に下った。10:01さらにそこから沢を横切ろうとしたが、この沢が狭く深い廊下になっており、とても降りることができない。仕方がないので、そのまま尾根を下った。
 尾根末端直前でブナの倒木にナメコを発見!カメラの電池が少なくなっていたので。予備用のカメラを出して撮影し、採取。
 今回は藪をすっきりとしたザックで歩くために、何時もはザックの上に付けているGPSケースを外して、GPSを雨蓋に入れていた。無線機も同様の理由で雨蓋の中である。またウエストポーチを持って来なかったので、予備用カメラを何時でも取り出せるようにと、これも雨蓋の中に入れた。
 そのまま、尾根の末端で中ノ沢源流に降り、そこから606mの尾根を目指し、柴を掴んで登った。
 悲劇は606m直前で発生した。突然ザックから三角布が飛び出し、それを追いかけて走って下る時、アンテナ、次いで無線機が飛び出した。
 全てを拾って一息ついたが、ザックを確認すると雨蓋のチャックが開いている。他に何か入れていたか考えてみると、確か予備用カメラを入れた筈だが、何処にもない!
 ザックを落ちないようにブナの根元に置く。雨蓋の中に残っていたGPSを出して、これまでのコースを確認し、そのままコースを戻ってみる。先ほど予備用カメラで撮影した場所まで戻ったが、何処にもない。
 GPSを胸ポケットに入れ、柴につかまりながらやや下の斜面をトラバースして、先ほど無線機を拾った所に降り立つと、今度は胸のポケットに入れていた筈のGPSがない!  
 その後、必死で何度も付近を往復し捜し回ったが、結局カメラもGPSも見つからない・・・。
 11:27ついに諦めて下山することにした。606mから南斜面を強引に下り11:38アザミ沢の支流に降り立つ。沢は予想以上に平坦だった。
 すぐにアザミ沢本流に合流した。12:02滝が出てきたので右岸から巻く。これ以外は、ほとんど問題なく沢身を下ることができた。産卵期に入ったのだろう、足元には何匹もの岩魚が戯れている。
12:22牛股沢に出た。じゃぶじゃぶと沢を遡り、12:34尾根に取りつく。12:36-42キャンプ跡地で食事をし、踏み跡を登り返し、13:15-22分水嶺で休憩。13:44駐車場に到着した。
【反省】
 ザックの雨蓋のファスナーには二つのスライダーが付いている。このスライダーの合わさり目に内側から大きな力が加わると、スライダーは少しずつ開き始め、最後はフルオープンとなってしまうので、スライダーは必ず端で合わせることが必要なのだ。また古いファスナーは壊れると一気に開いてしまうこともある。今後は何らかの対策が必要だろう。
 さらに今回はあらゆる点で気が緩んでいたようだ。山の中では一つの装備品の喪失が生命を左右しかねないことは、嫌というほど体験しているつもりだったが、それにしても高い授業料にため息をつくことになった。

今回のコース
左端がテンモド岩
右端は白布方面
このスカイラインが町境になる
トチノキ沢出合から牛股沢下流を望む
牛股沢を下る
町境の大岩、左岸から沢が入る
町境を登る
目の前にはスズメバチの巣が!
カシノナガキクイムシの跡
左に岩壁が見える
右手から尾根を合わせると、正面には岩場が・・・
正面が町境の沢
女川下流方面
山頂直下のブナ林
ここからも左の岩場が見える
テンモド岩山頂にて筆者
テンモド岩を振り返る
牛股沢を挟んだ分水嶺
800m峰
さて何処を下ろうか?
白沢を挟んで頭巾山方面
800m峰が近づく
テンモド岩北の岩壁
アザミ沢の支流
沢を下る
階段状の小さな滝
ここでナメコを見つけた
この滝は右岸を巻きました
クリタケ
テンモド岩を振り返る
駐車場から仰いだ岩壁