登山者情報1,271号

【2009年08月08日/ダイグラ尾根遭難/井上邦彦調査】

≪2009年08月06日≫
 21:00過ぎ、小国警察署からの電話で起こされた。半分寝ぼけながら聞いていると「飯豊山荘から電話があった。内容は{ダイグラ尾根上部で道に迷ったので、ビバークする。できれば警察には連絡しないで欲しい}とのことであった。」本人は飯豊山荘に予約をしている訳ではないらしい。何故わざわざ飯豊山荘に電話をしたのか分からないが、飯豊山荘は21:00に鍵を掛けるし、山は素人が一人で宿直している筈なので不安になり、一応小国警察署に連絡したのだろう。この内容なら、とりあえず騒ぐ必要はないだろうと伝え、そのまま眠りにつく。
≪2009年08月07日≫
 小国警察署に顔を出すと、本人から110番に「道を教えて欲しい」と連絡があったとのことである。新潟県警110番に繋がったとのことであり、緯度・経度を聞くとエリア外である。制度は誤差3km以上というから、到底使い物にならない。
 私の携帯から本人に直接電話を掛けると話ができた。内容からするに、「飯豊山頂(三角点)を11:00に通過し、ダイグラ尾根の御前坂を下る途中、右に曲がる所をそのままガレ場を下った挙句に荷物を落とし、戻ろうとして別の沢に入り込んだ。藪を避けて岩場にルートを取ったが行き詰ってしまった。どちらに行けば良いのか教えて欲しい。救助要請ではない。」とのことである。一つ一つ確認するが、持参している地図は山と渓谷社の物で、沢名(駒形沢・ほんかご沢)が入っていないとのことで説明に苦労する。東西南北も混乱しているので、磁石で確認してもらう。ダイグラ尾根はほぼ真北に下っているが、本人の北東に宝珠山の岩稜らしきものが見えるらしい。また御前坂を下りきって大岩沢(大又沢)に出た瞬間に左折する場所で迷う人がよくいるのだが、今回は尾根の東斜面でないことは確かなようである。
 電池がもったいないのでメールアドレスを聞いて、06:40送信するが着信しないとのことである。本人の携帯はauなので署員のauからも送信してもらったが、送れるのに着信しない。GPS機能が付いているというので、計測を依頼したが計測できないとのことである。
 何度か救助要請の有無を確認したが否定されたので、「磁石で方位を定め南東に登り、登山道に出たら本山小屋に向かい、管理人に事情を話して泊めてもらう」ことを助言した。笹を直登できないので右に巻いて良いかとの連絡があったので、巻いても良いが南東に登ること再度助言した。最後に通話できたのが11:02である。
 その後、12:01、12:27、13:59に携帯が鳴ったが、通話することはできなかった。時刻からして、そのまま左にトラバースをすることも選択肢に入る。状況が知りたいが連絡を取れないことにはしょうがない。
 13:53平野氏に「何とか本山小屋と連絡を取って欲しい」旨を依頼する。本山小屋は風力発電があるにも関わらずバッテリーが稼働せず乾電池しかないので、携帯も無線も下界からは連絡できないのである。
 夕方になって御西小屋管理人のIWUから「今ダイグラ尾根を登って来た登山者が小屋に到着した。彼らによると15:00頃、ダイグラ尾根最上部で登山道の西側10m程下の藪の中に橙色の人間らしき物が見えた。暫く観察していたが動く気配がなかった。視界は良くなかったが他に赤と黒色も見えたとのことである。」と連絡があった。
 本人が05日に宿泊した梅花皮小屋管理人OTJから「カッパは着ていなかったので分からないが、ザックは黒と赤だったと思う。」との確認が取れた。再度、平野氏に懇願する。
 ようやく本山小屋管理人高橋氏から、捜索に向かっているとの連絡があった。彼は「大声を張り上げながら御前坂下の鞍部まで行き、三角点まで戻ってきたが姿を見つけることはできなかった。下る時はある程度視界があったが、登りはガスに包まれた。私はauのため、三角点まで戻らないと携帯は繋がらない。いったん小屋に戻り、協力者を募りライトを持って再度捜索を行う」とのことであった。
 この時点で本人の家族に連絡、救助要請をいただく。すぐに隊員に連絡し、明朝03:00小国警察署に集合とし、私は準備のため帰宅した。20:16本山小屋高橋氏から私の携帯に、「見つからなかった。明朝05:00頃から捜索を再開する」との連絡があった。本人は今晩も雨の中、ビバークを余儀なくされているのだろう。
≪2009年08月08日≫
 02:00起床しコンビニで食料を買い出し、03:00小国警察署集合。メンバーはAXL・WKB・GPN・HZU・LFD・ECBの6名である。天狗平で傘を差したIIVに見送られて出発。温身平十字路から先は伸びた草で車体を擦りながら進む。
 林道終点でカッパを着てヘッドランプを頼りに、04:23歩き始める。04:34取り付きの吊橋を渡るといきなりの急登である。岩場でカッパを脱いでいる間に、WKBとAXLが先行して行った。既に梅花皮小屋のOTJが無線をサポートしてくれている。
 05:26種蒔ノ池を通過し、05:35-45長坂清水で食事を取る。既にWKB・AXLは休場ノ峰まで登ったようである。GPN・ECBは2人で着実に登っている。06:09米栂ノ平を通過する。
 06:25-31休場ノ峰に到着する。稜線は見えないが、振り返ると朝日連峰が雲海から突き出ている。正面は宝珠山が姿を現してきた。ここから携帯電話はOKである。署のPWDにヘリフライトのため気象情報を送る。
 その後も一人で進むと、千本峰直下の花畑でOTJから無線が入った。「本山小屋管理人が遭難者を発見した。状況を確認するまで現在地で待機」とのことである。
 携帯電話を確認すると、06:46高橋氏からの留守電が入っていた。「三角点から下って行った所、自力で登って来た本人と会った。現在、三角点まで戻った。本人と小屋に向かう」とのことであった。これで安心である。無線で確認すると、WKB・AXLは宝珠山の肩、GPN・ECBは休場ノ峰である。各自、食事をして時間を潰す。
 やがてOTJから、全員下山の連絡が来た。急ぐことはない、視界がないので花の写真を撮りながら下っていたら、やがてWKBに追いつかれた。
 登りに休んだ岩場のあたりで雨が降ってきた。既に衣服は濡れているが、ともかく駆け足で降りる。沢沿いになるとメジロアブが襲ってきた。こちらは半袖に半ズボンである。車まで必死の思いで辿りついた。

ソバナ(白花)
ソバナ
オクモミジハグマ
カラマツソウ(種)
ソバナ
お花畑
エゾシオガマ
オトギリソウ
ホツツジ
倒木
マルバキンレイカ
ヤマドリタケ
ホツツジ
まっすぐ左に行きやすいが、正確は右下に下る
長坂清水
種蒔ノ池(御池ノ平)