登山者情報1,352号

【2010年06月07-08日/遭難事案/齋藤弥輔調査】

【6月7日】
 小国警察署から、日曜日に降ってきた梶川尾根の残雪状況の問い合わせがあった。遭難者が発生したらしい。
 早速、救助隊長であるHZUと警察署に出向き様子を聞く。6日に石転ビ沢を登り門内小屋泊り、本日早朝に下山予定の単独登山者が帰ってこないとのことである。
 既に本人の車確認と登山者カード回収のため、パトカーが天狗平に向かっていた。まもなく本人の車が確認された。まだ山中にいることは間違いない。
 家族から捜索依頼が出されたので、隊員の確保を行う一方、県警ヘリがっさんと防災ヘリもがみが捜索体制に入った。
 天狗平から「降ってきた登山者によれば、本人らしい人が門内小屋に宿泊した」との情報が入ってきた。
 捜索は梶川尾根、特に残雪があり滑落や道迷いを起こしやすい梶川峰と滝見場の間の北側斜面を重点エリアと設定した。
 結局、当日はヘリによる発見までは至らず、明朝に地上班を出動させることとしたが、HZUは明日外せない業務があり、中央班長である私を中心とした編成が行われた。
 18時30分に帰宅し、出動の準備を整えた。
【6月8日】
 4時30分小国警察署集合し、HZU達の見送りを受けて出発。捜索隊の構成は、中央班がLFD・AXL・ODDの3名、飯豊班はNBW以下3名、小国警察署からは4名の合計10名である。
 県警ヘリと防災ヘリが上空から捜索するが、滑落して雪渓の穴に入り込んだ場合は見つけることが不可能である。
 そこで地上隊は梶川尾根から滑落の可能性が高い急峻な雪渓をひとつひとつ潰していく作戦を立てた。
 梶川峰直下まで到達したので、トットバノ沢(湯沢)から捜索範囲を広げるべく、航空隊に文覚沢の捜索をお願いした。
 「遭難者発見、防災ヘリでピックアップ」との無線が入ったのは、それから間もなくであった。時計を見ると11時を指していた。
 発見場所は文覚沢の支流であるフンスイノ沢右岸、標高950mの急斜面である。推測するに本人はトットバノ頭の残雪で、本来は右に行くべき所を左の尾根に迷い込み、そのまま藪を降ってしまったものと思われる。
 ともあれ無事生存で救出ができたことは何よりも嬉しい。その後14時20分下山完了した。
【今回の事案から学ぶべき事項】
 本人は横根スキー場にある道の駅以奥は携帯電話の圏外と思っていたようである。しかし本人の使用していたFOMAは国民宿舎まで圏内であり、局地的な変化があるもののホン石転ビ沢出合から滝見場まで使用できる。
 私は主なポイントで家族に電話やメールをしている。これにより、万一の場合は捜索がスムーズになるし、遅くなる場合も家族が安心できる。
 次に、飯豊連峰の沢は極めて峻険な渓谷となっており、沢に降るのは自殺的行為である。また絡み合った藪は、一度降れば登山靴で登ることは極めて困難だ。よほど自信がなければ、困難であったとしても登り返すしかない。
 道を失ったと気付いたり、なんかおかしいと疑問を持ったら、ただちに地図と磁石を出してルートを確認することが大切である。今回も早めに磁石を使っていれば、容易に間違いに気付くことができたと思われる。